表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
35/368

窮地はいつも突発的に

「――っ!? このフラグは……!!」


 つい先程まで、お互いに拾った赤鼻を装着して会話をしていたその空間に。

 まるで現実が、この瀕死で窮地でもあるこの状況を思い出させるかのように。慈悲の無いそれは瞬間にして突如とその姿を現した。


「ご主人様っ……!! ただいまこちらのエリアであります、忘れ形見のピンゼ・アッルッジニートのエリアにて、エリアボスの出現を発生させるフラグが立ち上がりましたっ!! 至急に一刻の退去を行わなければ、エリアボスとの遭遇によって戦闘が開始されてしまいますっ!!」


 よりにもよって、この場面で来てしまったか。


 休憩としてミントとコミュニケーションを取っていたその間にも、このゲーム世界では刻一刻とその時を刻み続けている。

 どうやら、このエリアでゆっくりとし過ぎていたみたいだ。

 結局このエリアの中を流れる漂流物から回復アイテムを見つけることができず、結果的には未だに瀕死というこの危機的状況下での探索を強いられる展開となってしまった。


「……まずはこのエリアからの退去だ! ミント。今すぐにでもここから出よう!」


「了解ですっ……!」


 そう言い、俺は乗っかっていた漂流物から湖へ飛び込んで出口へ急ぎ。ミントは球形の妖精へと変形して先回りをすることで、俺を出口へと導く。

 ずぶ濡れになりながらもその足を止めずに。水を吸った衣類の重みを意ともせず。

 背後から響き出す禍々しい鳴き声を耳にしながら。俺はミントと共に、この最深部のエリアから早急に脱出した――――



 それからと言うもの、俺は苦難の数々と直面することとなる。


「ミント! このダンジョンの出口はわからないのか!?」


「すみませんっ! ワタシの実力が及ばない限りで……っダンジョン内部の詳しい情報までは、把握することができず……っ!」


「なら、このまま逃げまくるしか他にないのか……ッ!」


 もちろん、このダンジョン内には大勢のモンスターが巣食っている。

 そして、こうしてダンジョン内部を放浪している以上、そのモンスター達が襲ってくることはシステム的に確定事項であって。俺はこの瀕死という状況下の中で、ダンジョン:忘れられたピンゼ・アッルッジニートの峡谷の内部で度々なエンカウントを繰り返していた。


『ワオーンッ!!』


 右にも左にも振り向けば、急斜面からの奥底に広がる暗闇という落下地点だらけのダンジョン内。

 現在のHPどころか、その高度からは一度でも落ちたら即死を免れない。ただでさえそんな危険性が常に伴っているというのに――


「目の前から……ッ。に、逃げろ――ッ!」


 群れで行動を成すオオカミ人間の大群が、あちこちから俺に襲い掛かってくるこの惨状。

 一匹だけならまだしも、さすがに大群であると一度のターンで袋叩きにされる。それは、ここに来てから気付くことになった、現在にも渡る身に染みた経験談。

 こうして回復アイテムを使い切ってしまったのも、俺は端からエンカウントしたオオカミ人間の群れと律儀に戦闘を行っていたことによる失態の結果。


 ……こうして単独の行動となった以上は、タイマン以外での戦闘は逃げるコマンドを選択するに限るというが、今回のイベントで得た教訓――


「エネルギーソード!!」


 単独で襲い掛かってきたオオカミ人間は薙ぎ倒し。その目の前に道を開くことで、俺は背後からの追っ手から逃れるために峡谷の洞窟内を駆け巡る。

 事あるごとに追い付かれ、その度にこちらの圧倒的レベル差による先手からのエスケープ。幸いにも、逃げるコマンドが確定で決まることが、この危機的状況の中を生き残る唯一の命綱と言ったところか。


「っ!! ご主人様! この先の左側に見えてきます上り坂へ向かってください!」


 この先の左側――!!

 身体中の汗なんて何のその。歯を食いしばりながらの全力疾走の中、左側に意識を傾けていた俺の視界に一筋の明かりが差し込みだす。

 ……日の光! 見上げた上に差し込む自然の明かりを目にして。俺は急な傾斜をもただ無心にひたすらと走り抜けていく。


 すると、この峡谷というダンジョンの外エリアに進入することができたのだ。


 今までの薄暗がりな洞窟内部のエリアとは異なる、天から日の光が差し込む新鮮な空気のエリア。

 目の前の光景には相変わらずの急傾斜と高低差による深々とした暗がりの谷が広がっていたが。それでも先へと続く極細で不安定な足場の道が高らかに伸びており、その道の奥には、このダンジョンの出入り口であろう平坦で安定な足場の道が続いている。


「ご主人様っ! 現在のエリアは『忘れられたピンゼ・アッルッジニートの峡谷』。こちらのダンジョンを出入りする際に必ずと通るとされる、ダンジョン内における最初の一歩を踏み出すエリアでございますっ! そして、あの不安定な足場が伸びるその先には、こちらのダンジョンと繋がる別フィールド、ピンゼ・アッルッジニートの渓谷への進入を可能とするフェンスがございますっ!!」


 ここは、このダンジョンを出入りする際に通る、最初のエリア。

 あの先には、このダンジョンの前に来ていた渓谷が。


 ……これが意味することは。つまり――


「……そうか、俺はやっとここまで来たんだな……! ミント! 一気に駆け抜けて、さっさとこのダンジョンから出ようッ!」


 背後からの追っ手に対して選択した、最後のエスケープ。

 逃げるコマンドを選択するなり、俺は極細の不安定な足場を恐怖心に侵されることなく走り抜けて。

 最後の苦難であったその地形を突破したことによって、俺は渓谷と峡谷を繋ぐフェンスの前にまで辿り着いたのだ。


「やった……っ! これで助かるッ!」


 瀕死というこの状況下で見出した希望。

 ユノ。アイ・コッヘン。心配を掛けてごめん。だが、俺はもう大丈夫だ! 今すぐにでもそっちへ姿を見せに行く!

 妖精の姿のミントが行方を見守る中、俺は生存を確信してそのフェンスに手を掛け――


「……ッ? あれ? お、おかしいぞ……? なんで? な、なんでこのフェンスは開かないんだよッ!?」


 フェンスの扉と思われる網を握り締めて押して引っ張ってを続ける。だが、ガチャンガチャンと揺さぶられる金属音がこの周辺に虚しく響くばかりで、目の前の扉は一向に開く気配が無し。


 何故。どうして、この場面にまで来て、このエリア移動が可能とならないんだ――


「――そんなっ……!! ご主人様。こちらのフェンスには……ロックが掛かっております……っ!!」


「ロック? 鍵?? なんでッ!?」


 妖精姿のミントがフェンスの上へと移動する。

 それを目で追っていくと、そこにはロックの掛かった灰色の鍵のよくあるマークが浮かんでいた。


「――スキャン、完了! ……こちらのフェンス。いえ……そもそもの条件が……! こちらのダンジョン、忘れられたアッルッジニートの峡谷の解放というものについての説明をいたします……っ! ご主人様。どうか冷静をお保ちください……っ! どうやらこちらのダンジョンには、今現在にも続く待機状態のフラグが張り巡らされております……っ!! こちらのフラグにはどうやら、ある特定のクエストを受注した際にそのNPCの手によってアンロックされるという手順を踏まえて進入可能となる、このダンジョンの見張りとしての役割が設定されておりまして――っ!!」


「それって! それってどういうことなんだよ!? つまり、つまり……」


 このダンジョンって、そのクエストの条件を満たした際に解放される、隠し要素の一つということなのか?

 ……そして、その条件を満たさずに、俺はこのダンジョンに侵入してしまった。


 それが意味する真実。それは……。


「……俺、もしかして、このダンジョンから閉め出しを食らっちまったってことなのか――」



『ワオーンッ!!』


『ワオーンッ!!』


 俺の元に追い付いた、オオカミ人間の群れ。あの極細な地形も何のそのと、一斉にこちらへと群がるなり、有無も言わさず群れは束となって一気に俺へと襲い掛かってくる。


「……逃げ場が無い……。このHPでやるしかないのか……ッ!?」


 あからさまに見え透いた絶望な展開と直面して。

 三分の一は切っている、この瀕死という絶命寸前の状態で。


 袋小路となったこの状況下で。救いの無い絶望と今にも訪れる絶命を予感せざるを得ない突発的な窮地の中で、俺は目の前から次々と群がってくるモンスターの群れを単独で相手取ることとなってしまった――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ