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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
348/368

集いしNPC達 3413字

 道中、孤高の蛇と少女はとある敷地に到達した。

 少女は依然として、"ご主人"のもとへと帰る使命のままにその歩を進めていく。流れでそれに付き従う彼もまた、先にも抱きし憤怒を改心し、この心を介して見出した小さき同胞を見守るかのように傍を付き添っていた。


 到達した広大な敷地。見渡す限りに広がるこの地には、強風を遮る障害物が一切と存在しなかった。

 相も変わらずと、風が吹き抜けてくる。眼前の光景、邪悪の爪痕が残る瓦礫だらけの一帯に、その形を残すことも許されなかった風の都の変貌を目撃した彼は、全くと代わり映えしないおぞましき光景に思わずと生唾を呑む。

 ……それと相対して、少女は全くと微動だにしない心のままに、ただ前へ前へと突き進み続けた。自身の双腕を纏い、それらを愛でながらただ黙々と目的へと突き進んでいく小さくも勇敢な姿に、それを見た彼は度肝を抜かれたような表情を見せて、次にも少女の内側に宿る強靭な心と自身のそれを照らし合わせ、彼も意を決したかのように前へと進み始めた。


 ――と、ふと少女は軌道を変えた。くるりと踵を返し、追い掛ける彼を通り抜け、少女は己が使命の遂行という本来の目的から逸れ始めたのだ。

 彼との関わりが、少女の何かを変えたのか。定かにならない少女の想定外な行動の数々に、彼もまたふわふわとした少女の意向に振り回される形で後をついていく。


 しばらくと歩き進めていくと、少女はエリアとエリアの区切りでもある絶崖を前にしてその足を止めた。身を乗り出してその下を覗き込んだそれだけで、目撃した直下の途方もない光景に身体中の神経が悲鳴を上げるだろう。強風が背中を後押しする絶崖の付近にて、この場所で足を止め、ただぼうっと佇み始めた少女に彼はとても不思議そうな視線を送っていた。

 次の時にも、少女は歩き始めた。急に立ち止まっては、ふと思い立ったように歩き出す。どこか掴み所の無い少女の行動に、彼はただ目の前の小さき存在を追い続けた。


 結論とすれば、彼は案内人(ナビゲーター)に導かれたのだ。その章も終わりへと近付くにつれて、この電脳世界のそこら中へと張り巡らされた運命が、それに身を委ねし"主人公"を導くために無限大の力を伴う。彼はそのキッカケを与える存在に過ぎず。それでいて、彼を導いた少女もまた、そのキッカケを起こすそのキッカケに過ぎなかった。




 少女は、孤高の蛇を伴って"彼ら"のもとへと訪れた。何故、己が使命を後回しにしてまでこの場所に訪れたのか、その真意は本人も分からずじまいのままだった。ただ、こうした方が良い。自然と巡ってきたもう一つの使命感のままに、少女は孤高の蛇と共に、"彼ら"との合流を優先したのだ。

 ここにも、瓦礫が積もっていた。惨たらしくと破壊された建物の亡骸。邪悪に引き裂かれ、原型を留めることも許されなかったそれを、所有者であった"彼"は宝物のようにとても大事にしていた。


 そんな瓦礫のすぐ傍にて、吹く強風に打たれながら、地面に敷いた地図と周囲の分厚い資料の数々、テーブルの上には山積みとなった本や用途が不明な器具の数々。それらすべてを把握し、今もぶち当たる世界規模の深刻な問題の解決へと取り組んでいく"彼"はその眼鏡の位置を直す仕草を挟んでセリフを言う。


「とはいえ、この山脈に〈魔族〉を追い込んだところで、至る箇所で開通する隠し通路を発見されてしまえば、我々は確実に拠点の裏手を取られるね。であれば、むしろ我々がこの山脈を背負うべきかどうか。いや、断じてよろしくない。地形としてはこの上なく有利を取れる。だが、あの山脈の気候はすこぶる不安定だ。そもそもとして、この気候を利用して〈魔族〉の戦力に乱れを生じさせようという作戦だった。そんな劣悪な地点を我々の拠点とするだなんて、本末転倒を極めている。わざわざと我々が劣勢を背負う必要なんて無いのだからね」


 そう言い、手に持つ赤ペンを地図へ近付ける"彼"であったが、その手をすぐさまにも掴んで静止させたもう一つの色白な手。すらりと伸びる腕のその先にて、白色の大きなポニーテールを風になびかせる"彼女"がセリフを口にする。


「それなら、尚更その劣悪な気候を活かすべきよ! すこぶる不安定な気候ではあるけれども、そんな天候も地中や山の内部であれば影響が及ばないわ。隠し通路を拠点にしましょう。敵の目を欺くに十分な要素は揃っている。あとは、この山脈に〈魔族〉を誘き寄せて、その時点で劣悪な気候で敵の勢力を消耗させて、私達は隠し通路からの奇襲で一気に叩く!!」


「じゃあ、この際だから言わせてもらおう。この山脈を舞台にした作戦は、背負いし多大なリスクによって失敗を迎えることが明白だ。奇襲を仕掛ける。それは良い案だ。だが、それも既にこの僕も想定をしていた。それに、そもそもとしてこの地形は奇襲にはとても向かない。そして、知能に優れ、何よりも我々人間のあらゆる情報を熟知する"ヤツら"の様子から見るに、"ヤツら"も既に全世界の雄大なる自然を熟知していると想定することもできる。たとえ現在の問題を解消できたところで、それらを賢く活用する我々の策が既に見破られて想定されてしまっている可能性が大いに高いんだ。とても苦しい状況なんだ。何せ、劣悪な環境を背負い、そんなリスクを冒せる程度の余裕など、我々には残されてなどいないのだからね」


「だからいいんじゃないの」


 "彼女"の悠々と活き活きとした表情と声音に"彼"は口を噤む。そして視線を送った。詳しく聞かせてくれ。喋らずとも伝わる沈黙のセリフを受けて、"少女"は続けた。


「戦力に限らず、情報でも負けてしまっているのであれば、私達に残された手段はただ一つ。それは、如何に上手く裏をかけるか、というところ。そして、こういうところで意外な手段がより際立つのよトーポおじさま! 情報も、あの〈魔族〉ならばきっと各地の地形や気候の良し悪しそれらも把握しているとは思うわ。家を建てる際、そこがどれだけ住みやすいか、も。その地で美味しく育てられる作物が何なのか、だって把握しているかもしれない。――だからこそいいんじゃないの!! 熟知っていうのは、脳に固定されちゃうの。つまり、思い込み。それは、それである、って。それで一つの括りになって、それが基本となって、それが常識となる。だからこそ、その分野や情報そのあらゆるものを熟知している相手であればあるほど、その固定概念に囚われてしまっている。そこに、奇想天外な行動がとてもイタイイタイなところに刺さるの!! 今回の場合は、この山脈は、気候が最悪。相手もそれを熟知している。隠し通路がある。それも相手は熟知をしている。……じゃあ、気候が最悪なその時にこそ、〈魔族〉をここに誘き寄せて一気に叩いてしまいましょう! 気候が最悪な時、私達が隠し通路で待ち伏せているということを敢えて敵に思い込ませる。そうして、隠し通路で息を潜める私達へと逆に奇襲を仕掛けてきた〈魔族〉を、実は外で待ち伏せていた私達が囲んでいく。この作戦は気候や地形に左右されるし、それでいて、それらが私達の最大の武器にも防具にもなるから、スキルはそんな熾烈な環境の対策を重視として、自然の力を利用して頃合いを見計らって〈魔族〉をこの地に閉じ込めて一気に叩く!! というのは、どう!?」


「ハッハハハ、実に愉快な作戦だね。長くと過酷な旅をしてきたユノちゃんであるからこそ発想することができる、全体を捉えた上で思考されたとても柔軟な作戦だ。まぁ、それが可能な状況に置かれた際には、そんな夢物語のような作戦も候補として考慮してもいいかもしれないね」


「やった!! トーポおじさまに認められたわ!! 候補だけどッ!!!」


 地図を囲み、〈魔族〉への対策に思考をめぐらせていたNPC:ユノ・エクレールとNPC:トーポ・ディ・ビブリオテーカ。しばらくと音沙汰の無かった未知への探求者ユノが姿を見せて、相も変わらずと活き活きとしたオーラを醸し出していた。

 そして、少女と孤高の蛇が合流した。ふと現れた二つの存在へと注目した"彼"と"彼女"は、こうして訪れた意外な組み合わせを含めた特殊なやり取りを展開していく――――



【~次回、NPC達が織り成す会話と対談~】

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