表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
335/368

拠点エリア:風国 ②【陰の功労者】 3784字

 物事は成るようにしか成らない。

 主人公という立場に焦るまま苦悩に苛まれ続けてきたものであったが、前回にもナビゲーターであるミントに諭されたことで、冷静さを取り戻して一旦と落ち着くことができた主人公アレウス。この感情には未だモンモンと湧き上がる悔しき靄が立ち込めていたものだが、それを理性で抑えるにまで至った自身の余裕にどこか成長を感じられた気がしなくもない。


 俺は皆に支えられている。その実感がより心に余裕を生み、少女の言葉を素直に受け入れることができた。そして、だからこそ今できることをできる限りにこなしていくと改めて。主人公アレウスは再びと前を向き、次の目的であるキャンプ地へと、この荒れ果てた大通りを真っ直ぐと歩んでいった。



 目的地へと続く道を辿るこの道中、周囲の光景が何気無くと流れ往く。散らばる瓦礫で不安定な足場。青空を流れる雲の群は変わらぬ日常を想起させるが、しかし、背を押してくれるこの地特有の風は、まるで変わり果てたこの地を慰めるかのように虚しくと音を立てて吹き抜けていく。荒れた地を歩む人々もまた、励まし合う声を掛け合い互いを支え合い。駆け付けてくれた騎士達や活力に満ち溢れた住民が、この風国の復興に力を注いでくれている。


 ……皆、死と隣り合わせである現状への不安を隠しながら生きていた。風の都という聖域を短時間で荒野へと大化けさせた『魔族』という脅威に怯えながら、皆は決死の思いのみで生き長らえていた。常に極限の生活を強いられていた。そのために、長期のストレスによっていざこざや喧嘩といった争いが勃発していたものだったが、皆の目的は一貫してただ一つ。共に生き延びることと風国の再建の両立、ただそれのみ。皆は食料を分け合い、力を分け合い、手を取り合いながら今この時も生き延びていた。


 生きているのだ。ここは、たかがゲームの世界。されど、ここは生命に恵まれしれっきとした一つの現実世界。この電脳世界で必死に生きる人々の姿に胸を打たれた主人公アレウスは、同時にして一人静かに心を痛めた。



 大通りを抜けて、主人公アレウスは坂道を上り始めた。

 風国のシンボルとも言えるだろう、急斜面の崖で構成された巨大な山。斜面は一定の感覚で、形成された平坦な地と直面している。その繰り返しによって、それの外見は段差が何重と重なり合う構造を成している。云わば、坂道が交じる巨大なピラミッド、のような姿を形成していた。

 段差の一段一段には、広大な敷地が広がっていた。大勢もの住民が住まうに適する程度の余裕を持つ段差が、一段、一段と積み重なるように点在していた。そして今正に、その一段一段を繋ぎ留めるよう伸びる坂道を辿っている最中であった。


 到達した敷地を通り抜け、その先で伸びる坂道をまた上って上の層を目指していく。拠点としているキャンプ地は、この上に存在していた。

 その層を通る際にも、広大な敷地に散らばった山のような瓦礫を目にした。この一帯に建てられていた建物その全てが壊滅させられた跡だった。この場所も、魔の翼の餌食となった。散らばる瓦礫に交じって転がっていた砂塗れのクマのぬいぐるみが、この地で起きた惨状を物語っているような気がした。


 数日に渡って眺めてきた変わり果てた姿に一向と慣れない。今もその光景に胸を痛ませながらも、重くなった足取りで坂道を上る主人公アレウス。開けてきた視界に目的地の到達を認識し、また広がった広大な敷地と対面するなり迷うことなく向かうべき場所へとこの歩みを進めた。

 先の敷地とは異なり、この段には辺り一帯を埋め尽くすように張り巡らされた白色のテントがびっしりと建てられていた。それも、一定の間隔で律儀と張られている辺りに、洗練されし騎士の意識が垣間見えたような気がしなくもない。


 この段には、援軍として駆け付けてくれた二連王国の騎士達が停泊していた。簡易的なキャンプ地として利用されたこの一帯には、主に騎士団の兵達とその関係者が行き交いを繰り返している。騎士達は任務を言い渡されていた。この地を拠点にして、被災し辛うじて生き残った住民や、災害を聞き付けて駆け付けてくれた救援の助けとなるようにと。そうして彼らは言い渡されたその任務に従い、立派に遂行していたものだ。

 騎士達もまたこの風国に力を尽くす中で、その関係者に何気無くと加えられていた主人公アレウス。自身もまた、このキャンプ地に停泊することを許されて今に至る。そのため、騎士達との交流も少なからずと行っていたものだった。……近い距離で会話を交わしていくその過程で、騎士という程遠く感じていた存在が何だか身近なものであると思えて、このゲーム世界のことをより深くと知ることができた気がした。


 ……そんな中で、拠点に戻ってきた主人公アレウスはとあるNPC達と出くわした。それは、この地で強く生きる人々のその一部であり、死という恐怖を前にしながらも勇敢なる魂(ブレイブ・ソウル)で命辛々と戦争を生き延びた二人の少女の姿だった。



 とあるテントの前。そこには、簡易的なイスやテーブル。医療器具や作業道具といった必要な物資が一式となってシートの上に広げられていたものだ。

 そんなシートの上に腰を下ろしていたのは、二人の少女。それは、常に被っていた白のキャスケットを珍しいことに一切身に付けず、その煉瓦色の長髪を隠すことなく晒していたNPC:水飛沫(ミズシブキ)泡沫(ウタカタ)と。そちらもまた深緑の超ロングヘアーを余すように流していた、NPC:バーダユシチャヤ=ズヴェズダー・ウパーリチ・スリェッタの二人。少年と少女……もとい少女二人は、互いに向き合う形でそこに座っていた。


 水飛沫(ミズシブキ)ことミズキは、とても男らしく座り込み、その愛想の欠片もないクールな雰囲気を醸し出しながら目の前のバーダユシチャヤを見つめる。一方として、少年……もとい少女に見つめられ続けるバーダユシチャヤは縮こまるように正座で座り、その薄浅葱(うすあさぎ)の釜を大事そうに抱えながら、顔を赤らめて少し俯いていたものだった。


 ……無言が続く。向き合う二人から漂う複雑な雰囲気に、第三者であるこちらまでもが何だか緊張してしまうものだった。


 ――そもそもとして、避難していた二人が何故、騎士団の関係者という立ち位置にいるのか。その理由としては、戦争中に起こってしまった凄惨な出来事によるものであったことが語られている。

 ……避難した大勢の住民が犠牲となった。その身を隠していた地下シェルターが『魔族』に発見されてしまったのだ。力を持たぬ住民の多くが成す術も無く命を落とした。魔の翼の餌食となり、大勢もの姿がその場から消してしまった。


 しかし、その勢いに反して全滅は免れた。それは、共にしてシェルターに身を隠していた群衆の一人によるもの。まだまだ未成熟でありながらも勇敢なる魂を宿した、一人の少年によってもたらされた奇跡だった。

 住民を護るため、水飛沫(ミズシブキ)泡沫(ウタカタ)は単独というこの上ない状況で勇猛果敢に戦った。あの『魔族』の大群を、一人で相手取ったのだ。想像しただけで、背筋に走ったこの悪寒で卒倒してしまいそうになる。そんな状況下で、ミズキは死を覚悟して『魔族』達を捌いた。気を引くよう敢えて目立つように立ち回ることによって、住民が避難する猶予を設け、多くの『魔族』の気を逸らし、その降り掛かる邪悪の猛攻を凌ぎ、絶望的な状況における住民達の生存という奇跡を実現した。その偉大なる活躍は勿論皆から讃えられ、ミズキは、本作戦において最も風国に貢献した功労者として特別な賞褒を受けたのだ。


 避難という唯一の救いにすがりつかなければならない立場において、その陰で誰よりも死と直面し、誰よりも孤独と喪失と向き合い脅威に立ち向かった陰の勇者。その活躍を見過ごすだなんて以ての外であり、最初は賞褒を謙遜するよう振る舞っていたミズキも、次第に実感が湧いてきたらしくどこか気恥ずかしそうにしていたものだった。そして、連絡網を活用し、真っ先と自身が慕うブラートにその喜びを伝えていたものだ。


 以前、ミズキは堪え難き過去を明かしてくれた。そこには、誰かに認められたいという心理が根付いていたことをうかがわせていた。……少女が幼き頃からこの現在に渡ってまでずっと、ずっと抱いてきたその思い。それがまさか、このような形となって叶う日がやってくるとは。尤も、荒れ果てた風国を背景に、それはミズキとしては素直に喜べるものではなかったらしいのだが。しかし、初めて成し得たのだろう功労は、イコール自身の価値の証明に直結するとして、過去からの思いをようやくと実現することができた自身の実力に少なからずもの自信をつけたようにもうかがえたものだった。



 功労者として、この関係者のエリアに滞在するミズキ。そして、ミズキ達ての希望として滞在が認められたバーダユシチャヤの二人は、今もこのキャンプ地にて互いに向き合う形でこの場に存在していた。少女らの様子から、これから二人によるイベントが起こるのだろうなと予測することができた。

 直にも、動きが見られた。自然と開始された特殊なイベント。その予測通りとなった掛け合いとの遭遇に、主人公アレウスは遠くから眺める形でそのイベントを観覧する――――



【~次回に続く~】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ