リザルト:束の間の猶予 7883字
漆黒と鮮紅の稲妻。不死鳥を象った火炎の矢。神聖なる光が生成した数十もの槍。怒涛の勢いで突撃する大蛇の大群。皆がこの時を待ち望み、そして自身らの役割を遂行するため放たれた仲間達による、第二の全力全開が邪悪へと炸裂する。この背に伝った衝撃。それは、滞空する邪悪へと一斉に繰り出され、その集中砲火によって引き起こされた大爆発によるものであった。
おどろおどろしい音の漆黒の大爆発が、フィールド:風国の上空で巻き起こった。この全世界を覆うように広がった漆黒の衝撃。これを背で受けて、それが"彼"の悲鳴に聞こえたような気がしなくもなかったものだ…………。
漆黒と鮮紅の稲妻に交じる、紅の一閃。それらを貫き空を切る複数もの光の槍と、更にそれを打ち消すよう蠢き回る大蛇の群れ。爆発に交わる強力な攻撃が交錯する怒涛の空間にて、滅ぶ運命へと投げ出された"彼"は先の大爆発に混じりながら、その上空で力無く落下を始めた。
僅かとなった力を振り絞り、その右腕を天へと伸ばしていた。これから昇るその先へと手を伸ばし、邪悪の爆煙越しから見据えたその光景を真っ直ぐと見つめて、"彼"は直にもその意識を失う。
"それ"を迎えるべく、自然と瞼が閉じる。
邪悪の化身とは言い難い程の真白な肌と、一方として邪に染まりしなびく黒髪。……"彼"はわざわざその形を成してから、"同胞"へと自身の想いを全て託し、その時を迎えたのだ。
――しかし、次の時にも"彼"は姿を消していた。"彼"は何処かへと飛び立ったのだ。それは、高速を以ってして何処からともなくと現れた漆黒の彗星によるもの。音も無く軌跡を残すことも無く上空で巻き起こる爆煙へと突入したそれは、邪悪の爆煙を突き抜け、瀕死の"彼"を抱えながら、地平線の彼方へと飛んでいったのだ。
黒き彗星に気付く者はいなかった。巡ってきた勝利に、その場の皆が安堵で胸を撫で下ろしていたから。疎かとなった意識は誰一人と彗星を目撃することが無かったものだが、皆は自然とそれに警戒することはなかった。
なぜなら、この場においては自身らの勝利を確信していたから。それでいて、力を交えた双方の勢力が、この戦争の勝敗を共に認めていたものだったから――
フィールド:風国の高台エリアで、一つの拍手が響き渡った。
NPC:トーポ・ディ・ビブリオテーカによるものだった。この空間に響き渡ったそれに皆が注目を向けて、暫しと佇む。
……そよ風を受けながら、彼はそれを続けていた。彼の表情は、至って穏やかだった。いつ見てもその目は横線のように細くて。窮地に追い込まれようとも、彼はまるで何事も無いかのように穏やかな調子で話をするものだったから。どんな場面でも穏やかだった彼の姿が、今思えばなんだかちょっと面白可笑しくも思えてきて。同時に、彼はどんな窮地に立たされようとも決して動揺を見せず、むしろ冷静な判断と魔法によるバックアップで皆を陰で支え続けてくれていたものだったから。
そんなトーポが、今は拍手をしている。暴風では無くなった風国のそよ風を受けて、彼は皆へと拍手をしていた。……彼が、皆を支える必要が無くなった。終わったのだ。戦争が終息したのだ……。
「…………終わった」
主人公アレウスは、どかっと尻もちをついた。急に抜けてしまった力で思い切りと地面に打ち付けられる。勿論痛かったが、それよりもこの胸に過ぎってきた安堵の念が先行し、その一言が現実のものとなったことに、ただ呆然と空を見上げていく。
この言葉をキッカケとして、ユノ、ラ・テュリプ、ダークスネイクもまた安堵の声音を上げた。それぞれ、疲労の表情を見せながら。様々な感情で、この辛勝を喜び合ったものだ。
「ジャンドゥーヤ!! ジャンドゥーヤ!! 勝ったよ!! 私達、勝ったのよッ!! やったやった!! やったわ!! ありがとうジャンドゥーヤ本当にありがとうお疲れ様ッ!! あぁーよしよし偉い偉い偉い偉い!! ぅーよく頑張った頑張った!! 痛かったよね。苦しかったよね。久しぶりだったよね、こんなにも大変だった戦いは。ホントにありがとうジャンドゥーヤ!! 今日はおやつ食べ放題よッ!! ホントにありがとぉー!! ――みんなも、お疲れ様!! ……終わりよね? これで終わりよね?? 私達の勝ちでいいのよね?? 勝ったのよね!? やったー!! ……はぁ、疲れちゃった…………」
「地上、異常は無し。上空も、『魔族』の姿無し。交戦する箇所も無し。そして……我々の存在のみを確認。敵勢力の懺滅を確認しました。これにて、本作戦、対『魔族』迎撃作戦を終了します。――ふーっ。トーポさん……あたし達、なんとかやり遂げましたね。悔やむべきは、風国に甚大な被害をもたらしてしまったことではありますが……で、でも。まだ、こ、このくらいでありましたら、ま、まだ復興の余地があります! 隅から隅までとその邪悪が蔓延してしまいましたが。これからでも風国の復興のために尽くして参りましょうっ! このテュリプ・ルージュ、僅かながらでありながらも風国の復興に支援金を寄付したいと思います。こう見えてですね、あたし、何故だかお金はいっぱいあるんです! なので、まずはあたしの支援金で今成せる限りの復興を進めましょう!」
「まぁ、テュリプ・ルージュ。そう慌てる必要はないさ。……そう、慌てる必要が無いんだ。気遣いは不要なんだ。そう言い切れてしまえるくらい、今回の甚大な被害は風国を破滅へと追いやった。――見ての通り、風国はもはや焼け野原と同然。荒野と呼ぶに相応しいかな。ここから、あの元通りの色鮮やかで自然に満たされた皆の風の都を再建するには……軽く見積もっても非常に厳しいだろうね。勿論、復興には賛成をしたいものだが。この僕も含めて、この地に住まう者達は皆、潔い。復興には尽力で臨むが、しかし、だったらその支援金を今後の『魔族』との戦争に備えた戦費として運用したいとも思えてしまうね。……あぁ、いやね、この話の流れで君のお金をさり気無く持ち出そうとは決して考えてなどいないさ。だから、そのちょっとしかめた顔をやめてくれ。冗談だよ、冗談。ハハッ。…………え? トーポさんは冗談も本気に聞こえる? ハハッ、日頃の行いというものを改めて思い知らされたね」
「っふっふふふ。っふふふ。フッハハハハハハハハハッ!!! 我、邪悪の化身を討ち取ったりッ!!! 今こそ、後世に語り継がれし歴史の一ページに、我が蛇竜の洗練されし豪勇無双が刻まれんッ!!! それすなわち、我こそが、邪悪なる魂をも喰らい糧としてしまう、邪悪殺しのデーモンイーターなりッ!!! 今後の傭兵稼業が捗ることは間違いないだろう!! 何せ、数多の猛者がその目を光らせ、この蛇竜を従えし銀灰のスレイヤーとの契約を求めて争うのだからなッ!!! …………なんてな。おいらに成せたことと言えば、この魂を打ち震わせ皆に希望という光を届けた水縹の輝きに与ったことのみ。今のおいらでは、ヤツとその従者の存在感を越えることなど決して敵わないだろう。――完敗だ、好敵手よ。これは、貴様らの勝ちだ。実力としても、存在感としても。……人望としても。必要性、人間性、抱きし魂の力強さ。その全てにおいて、おいらは負けを認めざるを得ない。……だからこそ! 好敵手である貴様を討ち破りしその暁こそが! このおいらの、我が蛇神帝王という誇りとプライドの回生と呼べるだろう!! 貴様と巡り合い、死闘を繰り広げるどころか共に力を合わせて邪悪を討ち取ったこの運命を。我は、この魂に永久と刻み込むことだろう」
――皆が、戦争の終わりに安堵していた。
戦争自体は、短いようで、とても長く感じられる時間を過ごしたと思える苦痛の一時だった。……しかし、これは飽くまでも極僅かな時間にて引き起こされた瞬間的な災厄。長時間の末の死闘という勘違いを思わせる"ヤツら"との戦いは、短時間で決着をつけたとは思えぬほどの密なもので、至極苦しい激闘だったものだ。
そして、主人公アレウスはこれからもその存在と相対し、打ち勝たなければならない。むしろ、"その存在"を打倒するべくして、この身はこのゲーム世界に降り立ったのだから。
……とは言え、先にも待ち受けているだろう更なる苦境に思いを馳せたところで、今は仕方が無い。そう割り切ることで、不安が過ぎるこの気持ちを何とかなだめようとした。
せめて今は、勝利の余韻に浸るべきだ。そう言い聞かせ、主人公アレウスは静かに巡らせた未来への恐怖に身震いをしながらも深呼吸を行っていく。
……これで何度目の深呼吸だろうか。未だと収まらない感情に苛まれて、喜びに満ちた空間の中で一人だけ憂いを浮かべる。
そんな主人公アレウスへと寄り添った、少女姿のミント。律儀に佇むその少女の姿へと向いて、こうして傍で支えてくれる仲間の存在を思い出し。巡ってきた僅かな勇気の感情がブレイブ・ソウルに蓄積されるその感覚によって、少しだけ平常心を取り戻せたような気がしたものだった。
ありがとう、ミント。ありがとう、みんな。この戦争においても、まだまだ未熟だった主人公を支えてくれた仲間達への感謝を胸の内で伝える。
直後にも、この胸に何かが迸る感覚を覚えた。それは、幾多と無意識に経験してきた、一本の糸。発した言葉や起こした行動によってそれは胸の内から伸び、この世界に張り巡らされるシステムと絡まり一つの事象を引き起こす。
巡ってきた感情の変化が、フラグとなった。構築された新たなイベントを進行するように、次の時にもトーポがその話を切り出してきたのだ。
「まずは、こうして迎えることができた我々の勝利に、心からの歓喜を。そして、こうして迎えることができた我々の勝利は、君達という勇敢なる戦士達が奮闘してくれたからこその結果であると、僕はそう思っている。――僕の……いや、皆の。いや……この世界の風国という神聖なる地を護ってくれて、本当にありがとう。この感謝の意は、この先を生きていく上で毎秒と返し続けてもし尽くせないくらいの、溢れんばかりの謝礼を以ってしても尚この気持ちの全てを表すこともできやしないことだろう。これはね、膨大を通り越した、無限の感謝。今も、風国という地の呼吸をこの足の裏で感じ取れる。そう、皆の奮闘によって、風国は今も生き長らえることができたんだ。……呼吸が、この胸に響いてくる。あぁ、風国はまだ生きているんだ。……本当に良かった。ありがとう。本当に、ありがとうね……」
トーポにしては珍しい、穏やかな声音に込められた感極まるセリフ。
彼が感情をむき出しにした姿を初めて目撃した。常に穏やかだった彼の少し乱れた調子と共にして、その意外性と共に伝えられた感謝の言葉にちょっと気恥ずかしくも思えてしまう。
仲間達も、微笑んだり頷いたり。特にラ・テュリプはこちらと同様にとても意外そうな表情を見せていた。トーポの意への返事として皆がそれらを示し。この空間には、一難を去ったとても穏やかな風が流れ出したものだった。
が、次の時にも突然反応を示したユノ。何かを思い出したのだろうか、手を口元にあてながらその思い出した勢いのままに、彼女はそのセリフを喋り始めたのだ。
「ッ!! ――そうッ!! もう、一時はどうなっちゃうのかホントにドキドキしちゃった!! けれども、これも皆が力を振り絞ったからこその結果だものね!! これは未知だったわ!! 未だに出会ったことの無い新たな未知との邂逅だった!! ……未知と言えば、そう! ルージュ姉さまのお力にも、私すっごく驚いちゃって!! ルージュ姉さま、すごくカッコよかったわ!!」
死闘の直後とは思えないすごく活き活きとしたユノの姿。言葉にはしなかったが、『魔族』という未知との出会いに内心ではとても充実感を得ていたのだろう。
彼女の底知れない探究心が雰囲気として醸し出される。トーポとしては彼女の反応はちょっと複雑な思いを抱くものではあったかもしれないが、まぁそれもユノという人物の個性、彼は眉をひそめて彼女を穏やかに眺めていた。
で、ユノからお褒めに与ったラ・テュリプはというと。またしても意外といった具合に大袈裟に驚いて、そしてなんだかとても嬉しそうに照れ出す。
「へっ?? あ、あたし!? なんでっ!? ……え、えぇ~。ま、まぁ? アッハハハ。もぅ、そんな、あたしがカッコよかっただなんて、アレウス・ブレイヴァリー君に続いてユノちゃんもカッコよかったって。んもぅ~。二人共、あんまり大人をからかっちゃァダメよー?? じゃなきゃ、あたしその言葉を本気で受け取っちゃうからぁ~ぁ」
デレデレだった。手を招くような仕草を何度も何度も繰り返して、ラ・テュリプは完全にデレデレとなってユノやこちらへと返していた。
……の、だが。その直後にもユノから飛び出した言葉によって、その場の皆は一瞬と固まることとなったのだ。
「そんな、ホントにカッコよかったのにッ!! だって! あのおっきな隕石ッ!! あれもルージュ姉さまの技でしょう!? だって、炎を纏っているように見えたから!! あれは弓スキル!? ツインダガーのスキル!? それともエネミースキル!!? あんなの、私初めて見たわッ!! あれは未知よ!! あんな大技を繰り出して形勢逆転してしまったのだものッ!! あの隕石にはホントに助けられちゃった! ありがとう、ルージュ姉さまッ!! そして、あの未知の実態を私に伝授してッ!!」
「ま、まぁねっ!! あれくらい、あたしの力で――…………えっ?」
ピタリと停止した時間。沈黙の空気が、この空間に流れ出す。
キョトンとした表情で、ラ・テュリプはユノと向き合っていた。意表を突かれたような顔で、内心ではとても驚いていることがよくうかがえる。
彼女の言っていた場面を、皆が思い返していた。もうダメだと、『魔族』の侵攻に皆が制圧されそうとなった絶対的な窮地で、突如と降り注いだあの隕石の数々。あれを自然災害と呼ぶにはあまりにも都合が良すぎて。であれば、あれは誰かの手によって意図的に召された災害であることが明確であったから。
しかし、それを引き起こしたのはラ・テュリプではなかったらしい。彼女はユノへと向けていた視線を、トーポへと移した。
「え、っと……? ユノちゃん。それは誤解よ。冗談抜きで、それは誤解。違うわ。それあたしじゃない。というか、あたしもアレには驚いたもの。――え? だって、あれは自然の現象を故意で操ることもできるトーポさんによるものだと思っていて……」
「え? 僕かい?」
間髪入れずに口早と挟んできたトーポの声。話を振られたことによって生じた動揺を、その眼鏡の位置を直す仕草でよくうかがえたものだ。
あまりにも意外そうに声を高くして、彼は穏やかに首を横に振っていた。
「テュリプ・ルージュ。自然を操る云々はあまり人に言うなと――いや、それどころではないね。うーん、と。それは違う。違うね。僕は仮説として、あれは自然現象による偶発的な事態として捉えていたものだったけれども。いやね、それにしてもあんなタイミングで、それもあんな大規模な災害が起こるとでも言うかい? やっぱり、あれは起こるべくして起きた現象。れっきとした、引き起こされた召喚だった。として考えていたものだけども……まさか、それが僕の仕業であると指摘されるとは、思いもしていなかった。それで、僕としては、あれは手の内を詳しくと明かしていなかった傭兵ダークスネイクの能力によるものであるという仮説が最有力だったのだが……」
「わ、我か!? 我に回ってくるのかァ!!?」
トーポから向けられた視線。回ってきたその話に、ダークスネイクもまた驚きのばかりに咄嗟と決め出した禍々しいポージング。
……皆の視線が、彼に注がれる。この状況は満更でもないといった彼の心境をその見開いた目から容易にうかがえたものだったが。しかし、彼もまた首を横に振ってそれを否定したものだった。
「ふっふふふ。その実は、我が……ッ!! ……と、朧となった真なる実を打ち明ける展開もまた、我としてはただ所望するばかりではあるが……まぁいい。で、だ。我から言わせてもらうとだな、天変地異は些かと野蛮だ。それは、我が蛇竜のスパイラルに似ても似付かぬ、破壊をも超越せし滅亡の象徴!! まぁ、その響きには憧れるものだが~……遥か天海の彼方から召喚されし流星のメテオというものは、我が蛇神帝王は名ばかりかと己のプライドを裏切るため、ここは全力で否定をさせてもらおう!! …………と、して考えると。こうしてあと残る、真なる実を知る奇跡となると……」
ダークスネイクの、恐る恐るな声音と共に。その視線は、こちらへとゆっくり、ゆっくりと向けられる……。
……全員の視線が、主人公アレウスへと集まってきた……。
その、もしかして……? な旨を脳裏に過ぎらせた皆からの神妙な目つきがとても本気であり。それを集中的に注がれてしまっては、謎の焦燥に駆られながら即座に首を横に振り出してしまう。
「い、いや。ち、違う!! 俺も、あれは自然の災害だと思っていたんだ!! まず、俺ではないよ!」
青年の否定を最後にして、その場の皆は互いを見合わせていく。
……結局、あれは一体なんだったのだ。残る疑念に皆が真相を求め合うものの、しかしそれは一向に明かされることは決して無かった。
……沈黙。そして、次の時にも、皆には笑いが起こった。
緊張が一気に解れたのだ。それは、激闘の末である疲弊した体力を振り絞った、心からの高らかな笑いだった。
ま、いっか。終わり良ければ全て良し。隕石の真相が分からずとも、我々はこの戦争に勝利したことには何ら変わりは無い。残った謎が巡ってきた達成感に拍車を掛けたところで、ひと段落した空間にトーポがセリフを投げ掛けた。
「"ヤツら"に苦戦する我々に見かねた自然が、その力を分け与えてくれたのだろう。それこそ、降って落ちてきた賜物、として考えるべきかな。いやいや、まぁ、これの真相はひとまず置いておこう。だが、願わくばこれが人間の手によって引き起こされたものか自然からの賜物という、邪悪の力が引き起こした事象ではないことを祈るばかりだ。何にせよ、我々は勝利した。大どんでん返しを巻き起こしてやったのだ。これで、風国はひとまず安泰だろう」
眼鏡の位置を直す仕草を挟み、それらを口にしたトーポ。喋りながらと歩き出した彼を皆が見つめ、その続きを耳にしていく。
「……だが、勘違いをしてはならない。決してね。これは、飽くまでも猶予を設けただけに過ぎないのだ。それも、自然の力を借りなければならないほどの苦戦を強いられたという事実を受け止めてね。『魔族』という脅威は依然としてこの世界の何処かを蔓延り。そして、また、我々の住むこの世の侵略を企み、絶好の機会をうかがっていることだろう。その邪悪にお似合いな闇に紛れながらね」
高台エリアの出口へと向かう彼の背を追うように、皆は歩き出した。
先までの和気藹々といった空気は、既に流れ去っていた。束の間の猶予を挟み、死闘を制した仲間達と主人公アレウス・ブレイヴァリーは、最後に残された役割を遂行するために高台エリアを後にしたのであった――――
「さぁ、あともうひと踏ん張りだ。やることはまだまだあるよ。まずは、寄越してくれた二連王国の救援隊との合流。街の民の無事を確認すること。そして……風国のために尽くしてくれた戦士達に最大限もの敬意を表し……眠る彼らの安息を願い、この手で弔うんだ…………」
【~次回に続く~】




