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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
33/368

エリア:忘れ形見のピンゼ・アッルッジニート

「――様。――主人様! ――ご主人様ッ!!」


 途方も無い暗闇に包まれた視界。

 視覚は無限の彼方にまで伸びるその光景を映し出しているが、聴覚からは少女の声と思わしき、幼くもハキハキと聞き取りやすい透き通った声が響いてくる。

 

 一体、これはどういった状況なのか?

 浮かび上がる疑問に突き動かされるがまま。俺は神経を全身に巡らせて意識を回復させる。

 次に復活した感覚を伴いながら、次第に俺は閉ざしていた瞼をゆっくりと持ち上げて前方に広がる光景の確認へと移った――


「ご主人様っ! ご主人様ッ!! っ!! ご主人様……あぁ、良かった……目を覚ましてくれました……。あぁ、うぅ……ぅ……ご主人様、ご無事でなによりです……っ!!」


 俺の顔面には、温もりを帯びた冷たい液体が。

 そんな俺の目の前には、大粒の涙をボロボロと零して泣きじゃくっていたミントの姿があった。


「すみません……っ!! ワタシのサポートが完全に至らなかったがために……役割の対象であるご主人様をこんな身に合わせてしまうだなんて……っ!! もう、なんてお詫びをしたら良いのか……あぅ、ふぅっ……ひぅ。ワタシはなんて無能なナビゲーターなのでしょう……本当に、申し訳ございませんでした……っ!!」


 ミントが無能だなんて、俺はこれっぽっちも思いなんかしていない。むしろ、彼女に精神面で支えられてきたからこその、これまでの道のりだったから。

 それと共に、俺はその警告のタイミングを振り返る。だが、まぁ。確かに。欲を言えば、あの時もう少し投げ掛けてくれる警告が早ければ、俺は無傷であの場を乗り切っていたのかもしれないか。


「あぁ、大丈夫。ミント。これは仕方の無いことだったんだ。俺が不注意だったのも悪かったが、あれはもう、ただ単に運が悪かった……。だがまぁ、確かに。警告はもう少し早かった方が良かったのかもしれないかもと。俺もそう思う……」


 ミントを説得させながら、それでも正直な部分は素直にミントへ伝えて。

 全ての責任は自身にあると自傷するミントを一旦脇にして、俺はその場から取り敢えずと立ち上がった。

 

 三分の一にまで減少したHPを労わりながら。それでも即死は免れたという事実を噛み締めながら。

 俺はなんとか生き長らえたこの奇跡に感謝をして、今いる現在地の把握へと踏み込んでいった。


 地面に張られた、奥へと続く道から流れ出してくる水溜り程度の水流。前後に続く、狭い一本道。暗闇を照らす、洞窟の側にできた青色の光源を放つ鉱石の数々。

 現在地の景色を一言で説明するとなれば、真っ先に思い付く言葉は幻想的の一言。

 だが、そんなことを言ってられないのが俺の置かれた現状であり、こんな見知らぬエリアへ落とされたという内心には不安ばかりが過ぎってくる始末であった。


 それでも冷静に状況を判断していかなければ。俺は回復アイテム未所持という中で迎えたHPの残量に焦りを募らせながらも、次に起こすべく行動を判断してミントへと振り向く。


「ミント。このエリアの詳細を教えてほしい」


「あぅ、ひぅ……ぇ、はい、こちらのエリアに……関する情報ですね――スキャン、完了……はい、それで、こちらのエリアの情報でありましたね……ひぅ」


 悲しみによる号泣が未だに止まらないミント。

 そんな彼女の頭を撫でて気分を落ち着かせる。すると、次第に収まっていく嗚咽は感謝の言葉を漏らし続け、大粒の涙を手で拭いながらこくりと頷いてミントは深呼吸を挟んだ。


 改めてお礼の言葉を俺へ伝えてから、ミントは一息をつく。

 号泣で腫らした真っ赤な顔で。ゆっくりと息を整えて。いつもの控えめで真面目な様相を浮かべながら。

 もう大丈夫です。若干ながら震える声で言葉にして、ミントは気持ちを振り切った清々しい表情で俺へのナビゲートを始動していった。


「ご主人様の現在地は、エリアとエリアを結ぶ名も無き道中でございます。現在、ご主人様は名を定められていない道中に存在しておられておりますが、どうやら、こちらのダンジョンであります忘れられたピンゼ・アッルッジニートの峡谷の最深部であるエリアへと繋がる特殊な道中であることがわかりました。その最深部へと続く道中として設定されたこの道には、幸いにも雑魚モンスターは出現いたしません」


 このダンジョンの最深部へと続く、特殊な道。

 ……ということは、俺はより一層とこのダンジョンの出口から遠ざかったというわけか。

 気が遠くなる感覚と共に、この道には雑魚モンスターが出現しないという情報に胸を撫で下ろす俺。HPがHPであるために、これが唯一の救いといったところか。


 あとは、このHPを癒すことができるアイテムを現地調達するしかない。

 だが、こんな緑の無い場所には薬草なんて生えているはずがなく。先程のスキャンによって、このダンジョンには回復ポイントとなるシステムも存在していない。


 ……俺の危機的状況は、未だに続くばかりか。なんて苦しい展開を強いられた状況下なんだ。


「……取り敢えず、その最深部とやらに向かってみようか」


「でありますと、こちらを道なりへ進むことで自然と進入することが可能です」


 そう言い、ミントは奥行きのある道へと指を差す。

 なるほど。この水溜りが流れ出てくる元へと向かえば辿り着くというらしいのだが。

 ……しかし、これは絶対に何かありそうだ。そんな好奇心と不安を抱えた心境と共に、俺はミントを連れながら道なりに歩を進めていった。



 水溜りを踏み付けていく音が洞窟内に響き渡る中で。俺はミントの言っていた、ダンジョンの最深部と思われる場所へと辿り着くこととなる。

 

 水溜りは次第に池へとその姿を変えていき、ついにはアクアマリンの輝きを放つ湖となったその空間。側には、青や緑や白の光源を帯びた鉱石の数々が煌びやかに並んでおり。四方八方から反射する様々な輝きが幻想という二文字を飾っていく。


 また、穴の空いた天井から僅かに差し込む日の光。その穴からは飛沫を上げながら轟々と音を立てる滝が流れ出しており、その滝が運んできたのであろうあらゆる残骸が、湖のあちらこちらに漂流している。


 幻想を思わせる数々の光景とは裏腹に、激流に揉まれた無残な漂流物の姿達。

 その幻想と暴力を織り交ぜた不可思議な景色に、俺は自然と冒険心に突き動かされるユノの活発的な姿を思い描いていた。


 ユノ。きっとこういう景色を眺めるために冒険をしているのだろうな、と。

 それほどまでの、本能的な好奇心を駆り立てられる未知の領域に直面した俺。その眼前の光景を前に、俺は瞬間的にも瀕死という自身の危機的現状を忘却してしまうほどまで、つい見惚れてしまっていた。


 ……あとは、このエリアに回復アイテムが漂流していれば完璧なのだが。

 というか、この滝。よく見たらこれって、俺が流されてきたやつそのものじゃないか。


「ダンジョン:忘れられたピンゼ・アッルッジニートの峡谷における最深部のエリア、『忘れ形見のピンゼ・アッルッジニート』に到着いたしました。――スキャン、完了。どうやら、こちらのエリアには雑魚モンスターのポップはありません。が……一つ、このエリアならではの特徴であり、気掛かりでもありますフラグが張り巡らされております。ご主人様。お気を付けください。この最深部のエリアには、条件が整い次第にエリアボスがポップいたします……っ」


 エリアボス。

 そのダンジョンの最深部であれば、まぁ妥当か。そんな、一種の納得さえも感じてしまう、ミントから発せられた衝撃的の言葉。

 この様子から、このエリアには長居をすることができないようだ。であれば、やるべきことはすぐさまにも取り掛かった方がいい。と、駆り立てられる焦りと共に、俺はすぐさまに迅速と行動へ移していく。


「もしかしたら、回復アイテムや何かに使えそうな物がこのエリアに漂流しているかもしれない。俺はこれから、ここのエリアボスが姿を現すその前に、ある限りの漂流物を調べていくつもりだ。ミント。悪いが、少しだけでも手伝ってくれないか? これはもう、時間との戦いでもあるから、人手が一人でも多い方がいい。その服がずぶ濡れになってしまうかもしれないが、それでもよければ俺のサポートを頼む!」


 自身の意図をミントに伝えながらも。この言葉よりも先に。

 現状の危機を脱するために。このエリアの漂流物に全ての想いを託しながら。俺は焦りと共に駆け出した足で、目の前の湖へとダイブする。

 


「……っこのミント・ティー、ご主人様のお役に立てる事柄でありましたら、例えどんな汚れ仕事であろうとも、ご主人様への徹底なサポートと共にこの手での尽力をただ尽くしてまいりたいと思っております……っ!! 服についても、ご心配なく。こちらのタンクトップとホットパンツにはいくつかのストックがありますので……っ!!」


 そうだったのか。この場面で、意外な真実を知ることになるとは思ってもいなかった。

 そんな、複数の同じ衣服の所持というミントならではの拘りを初耳としながら。俺に続いて華麗なフォームで湖に飛び込んだミントは、俺と同様にこのエリアの漂流物を端から調べていく。


 そんな彼女に精神的な安心感を寄せて。俺はミントと共にこの状況下からの脱却を試みるべく、希望を託した漂流物を端から調べ渡りながら。

 俺とミントはただひたすらと、この湖を必死に泳ぎ回っていくのであった――――

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