表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
329/368

巡り巡る運命との駆け引き 2787字

 決着の時が来た。

 駆け出して、思い切り跳ね上がる主人公アレウス。同時にしてこちらへと両腕を突き付けてきたダークスネイクは、腕に纏う魔法陣から一匹の大蛇を召喚してこの足元へと飛ばしてくる。


 跳ね上がったこの身体と地面すれすれを通る大蛇。それへと意識を集中させ、着地のタイミングを見計らい。そして、大蛇の背に足がつくなり体勢のキープへと集中し、大蛇へのライドを完璧にこなして上空へと飛び立つ。


 ――そう。一人でもあの大蛇に乗ることができたのだ。これまで、気の合わない噛み合わないのシステムに散々と痛い目を見せられてきた大蛇との連係が、この際にもいとも容易くと行えてしまえたのだ。

 これも、少なからずの友好を結んだからこその結果。フラグが立ち上がったのだ。ダークスネイクというNPCとの連係が解禁されたことを体感し、だからこそと託された彼の意思を届けるために、主人公アレウスは眼前のエリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼を真っ直ぐと見つめて接近を図っていく。


 目指すは、漆黒の暴風を操る邪悪の化身。ドラゴン・ストームを取り込んで生成した暴風の防壁を張り巡らせて、こちらの攻撃その全てを跳ね返して一切ものダメージを与えることも許さぬ強固の強敵。

 あの熟練の仲間達でさえ破れぬあの困難を突破する方法は、ただ一つ。それは……主人公アレウスという特異的な存在の胸に宿るブレイブ・ソウルから繰り出す理不尽な一撃。あらゆる事象や効果を無効化にして打ち消してしまうブレイブ・ソウル:ブレイクによる防壁の破壊のみ。


 託されし仲間達の想いを背負い、暴風の中を突き進む大蛇の上でクリスタルブレードを構える。先のダークスネイクとの和解によって、このブレイブ・ソウルにはカンストした感情のゲージが蓄積されていた。

 勇気に胸が満たされ、準備は万全だった。あとは、この水縹(みはなだ)の輝きを以ってして繰り出す渾身のブレイブ・ソウル:ブレイクを、あのエリアボスへとぶちかますだけだ。


 ……ようやくと、ここまで来た。それは、たった一つの戦闘でありながらも、長き時間に渡る末の激闘であったような気がしてしまえて。長い時間をかけて積み重ねてきたこれまでの道のりを思い返しながら、主人公アレウスは暴風吹き荒れるフィールド:風国の上空を一直線に突き進んでいく。


 ――エリアボスの姿を見据え続ける。"それ"は、苦し紛れの唸り声を上げて接近するこちらを威嚇して。同時にして、既に限界を迎えているだろうそのズタボロの図体を引き摺るように滞空する"ヤツ"の、その邪悪ながらも強い輝きを放つ漆黒の魂が強力な意思そのものであることを理解する。

 ……"ヤツ"。いや、"彼"もまた戦っているのだ。それも、"彼"は孤独と共に死闘と向き合っている。"ヤツ"は強い。限り無く強かった。"彼"も、失った仲間達の意思を抱き、この戦いへと身を投じているのだ。


 エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼と相対する。その防壁を唯一と破る危険な存在。迫る水縹の輝きを真正面から捉えて、この眩しき光に眩むことなく"ヤツ"は迎撃へと移った。

 その漆黒の図体から、おどろおどろしい闇の揺らめきのような音が響いてくる。それは言葉のようにも聞き取れて。その音をテキスト越しから一音と聞き逃すことなく、しっかりと"彼"のセリフを聞き取っていく。


「ギ、ギッ……ギ、っぐゥ!! ッはァ……!! ァ、ァァアァッッ!!! オレは、ァ……! オレはァ……!! オレぁ、"てめェら"に負けていられっほどの、軽々しい柔な運命を背負っちゃァねェんだぞ……ォ!!! ……何が人類だ。何が仲間だ。ッ何が!! この世にのさばり正義を豪語していやがるんだ"てめェら"はよォッ!!! ……じゃァ、"てめェら"が正義なら……"オレら"は悪だってのか……!? そいつァつまりよ……自分達の気に入らねェヤツらは全員悪者って解釈でいいんだよなァ……!!? っざけんじゃねェぞ!!! このゴミカス共がァッッ!!! んなのなァ!! だったらよォ……!! "てめェら"の理論がまかり通るんならよォ……!! "こちら"からしたら、"てめェら"は悪が正義を偽り通している偽善にしか見えねェってもんだ……ッ!!! ……"オレら"の敗北は、決して許されない! ……この戦いには、負けてなんかいられねェんだよ……! じゃねェと…………"オレら"が否定されちまったその瞬間にも、"ヤツら"は永劫とこの世を統治しかねない……!! だったら、"オレら"が正義となり。目の前の強大な"邪悪"をその玉座から引き摺り下ろしてやらァ……ッッ!!!!」


 "彼"の意思が、その図体に妖しい輝きを宿す。

 次の時にも、その漆黒からは大量の光線が周囲へと解き放たれた。放つ度にこの暴風の中にも伝う衝撃と共に、それは誘導式なのであろう一斉と主人公アレウスのもとへと降り注ぐ。


 ――あれに触れてはならない。それを直感で悟った。

 今、この流れで"ヤツ"のもとへと辿り着かなければ、この戦いは敗北を迎える運命を辿る。


 雰囲気でそれを悟ったのだ。それを言うなれば、一度の失敗も許されぬクイックタイムイベントとでも言えただろうか。特殊演出と共に、設けられた制限時間以内にこの画面に現れたアクションの指示を選択しなければならないハイスピードアクション。その目に映った最適解をミスすることなく選び、目の前の困難を乗り越える。その様は正に……"巡り巡る運命"との駆け引き。


 クイックタイムイベントと直面し、クリスタルブレードの構えを解いて眼前のアクションへと意識を向けていく。共にして、この主人公アレウスを運ぶ大蛇の頭に左手を乗せながら、彼への言葉を呟いた。


「……信じているぞ。ダークスネイク」


 運命の分かれ目だ。その行方は全て、この身に託された。

 これまでの道のり。膝をついて味わった挫折や屈辱。絶望と敗北。そして、勝利。あらゆる試練を乗り越えてきた。様々な過去を介してきた。それらから分かる苦難の内容は決まって、そこから得た経験と自信に匹敵或いはそれ以上となる困難が控えていたものだった。


 今この時もそうだ。このクイックタイムイベントもまた、これまでと学び、経験し、この心に、この胸に刻んできた数多の修練の成果を発揮する大舞台。

 銀灰のスパイラルとの共鳴に唆され、深呼吸を行う。落ち着け。大丈夫だ。この今までにも、あれほどの邪悪を乗り越えてきた自分なら、きっと上手くいく。いや、絶対に上手くやってみせる。


 覚悟が決まった。あとは、目の前のアクションに臨むのみ――


「……任せてくれ、皆。あとは、俺が皆をその運命へと導いてみせる……!!」


 迫る光線の数々。それらに挟み撃ちとされ、完全に追い詰められたことで揺らぎ出した大蛇の異変をキッカケとして。それらを回避し、目指すべきエリアボスのもとへと駆け抜けるクイックタイムイベントが開始された――――



【~次回に続く~】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ