水縹と銀灰のスパイラル 2561字
"巡り巡る運命"が訪れた。残すは、目の前にて立ち塞がる困難の壁を破るのみ。
漆黒の暴風が吹き荒れるこのステージで、ダークスネイクと共に並び立つ。それぞれを確かめ合い、少なからずの友好を結んだことによって多少の変化が生まれたこの関係。味方以上、敵未満という絶妙なポジションに位置する互いの存在に、これまでに抱いたことの無い勇気がブレイブ・ソウルに満ち溢れ出した。
――これは、支えられているとは言い難い、対立を含めた緊張感から来るもの。それは、例えるならば……好敵手。ダークスネイクは少なくとも、主人公アレウスという水縹の存在自体を快く思っていない。こちらとしても、ダークスネイクは一度とこの身をゲームオーバーへと追い込んできた因縁の敵。
そこからなる互いの存在を認め合い、共に並び立ったこの状況。それを言うなれば、これまで敵対してきたライバルとの共闘。とでも言えるだろうか。
……燃えてきた。魂が水縹の炎で燃え滾ってくる。そんなシチュエーションを迎えて、そんな熱い展開に張り切らないワケがないじゃないか!
直にも、ワクワクしてきた。気持ちが昂ってくるのだ、共闘という展開を迎えた現状に。早く戦いたかった、この展開を共にする仲間と力を合わせて。
そして、見据えたその先にて待ち受ける運命を望んだ。この場面における全てのフラグが出揃ったのだ。攻略に必要な要因を一通り揃えて、それらのスタンバイを終えている。
で、あれば。成すべきことは残り一つ。……NPC:アイアム・ア・ダークスネイクというキャラクターと力を合わせ、エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼の撃破へと踏み出すのみ――
「スネイク。俺を、あの打倒すべき邪悪の根源へと連れていってくれ!! ……これは、俺とあんたの共闘戦線だ。これは、俺の水縹のスパイラルと。あんたの破壊のスパイラルが共鳴して生じた、勇気と力の二重螺旋。俺とスネイクの力を合わせて、あの邪悪なる存在との戦闘に決着をつけるんだッ!!」
主人公アレウスはダークスネイクへと呼び掛けを行い、隣の存在へと向いて了承を待つ。
……が、一方としてダークスネイクはと言うと。こちらの言葉を耳にするなり、ふんっと鼻を鳴らして笑みを浮かべながらそう返してきたのだ。
「ほう?? 勇気と力の二重螺旋、とな?? ……先にも我は、そう言ったな。深遠なる意味深を宿せし言霊を引き連れ、深遠からこの魂を揺さぶるスパイラルの可能性を貴様が示した時、我は貴様の青臭いセリフに頷いてやると。やるじゃないか。その深遠からなる言霊を早速と呼び起こしたな。それでこそ、我が蛇神帝王ダークスネイクの好敵手に相応しき水縹の化身!! ――よし、乗った」
両腕に魔法陣を纏い、ダークスネイクは大蛇を召喚するべく腕を振るい出す。
しかし、次の時にも、彼はその行動をピタリと止めてしまったのだ。
……その行動には、迷いが生じているように見えた。それは、この行動を実行するにあたって、何かしらのパーツが欠けた要素をうかがわせる。
すぐにも、ダークスネイクはこちらへと視線を向けて、そう尋ね掛けてきたのだ。
「だが、最後にもう一度だけ、貴様に問わせてもらおう。……かの災いを絶つ大役を、貴様だけに任せろとでも言うのか? 我が蛇竜の鱗を貫けぬ程度である分際の貴様が。空を泳ぐことも舞うことも飛ぶこともかなわぬ地上の人間である貴様が。かの『魔族』を振りかざす刃で断つどころか、振り被った刃を振り抜けぬ非力な貴様が。……邪悪に平伏しもがき足掻くことしかできない貴様如きが、あの邪悪なるタイフーンに身を纏いし災厄の根源を絶ってみせると、そう言い切るのか? ――つまり。自分には、おいらが主役を譲る程の価値がある、と。貴様はそう言い切ることができるのか?」
それは、これまでの意思が噛み合わないやり取りとは異なる会話だった。
……これは、確認だった。互いに確かめ合い、その存在を多少でも認めたことによる、信頼からなる感情の言葉。彼がこちらに問い掛けてきたのは、主人公アレウスの覚悟を知るためのセリフ。この、目の前の好敵手は果たして、その言葉を実行するに値する人物であるかの最終確認……。
セリフの意味を汲み取り、主人公アレウスは彼へと返答する。
「あんたが俺を好敵手だと口にするその理由こそが、俺の答えだ」
「我も認めし水縹のスパイラル。それが巻き起こす唯一無二の奇跡に、全てを託せ。……とな」
瞬間と見せた憂いの声音。……だが、それとは裏腹にして次にも放ったダークスネイクのセリフは、威勢に満ち溢れたとても高らかな声音によるものだった。
「っふ。言ってくれるな!! ……不思議だな。不思議だよ。あぁ、何故だろうな!! これは、未だ我の歴史にその名を刻むことのなかった、言葉にし得ない新たなる一ページの幕開け!! それがたとえ、命を投げ遣る無謀なる愚行であろうとも。貴様に掛かれば、それはたちまち水縹の魂が織り成す勇敢なる猛進へと変貌してしまう!! ……皆は、その水縹の輝きを僅かながらの希望の光として頼りにし、道標にし、それに照らされるために極限なる現実と相対している。それは無論……我も例外ではない。悔しいがな」
魔法陣を纏う両腕を構え出したダークスネイク。それらのセリフを喋り終え、魔法陣を光らせて次なる行動の準備を整える。
それを目にして、こちらもまたクリスタルブレードを構え、ブレイブ・ソウルを滾らせて。互いを確かめ合い、共に万端となった覚悟を再確認するなり。NPC:アイアム・ア・ダークスネイクはそのセリフを合図にして、主人公アレウス・ブレイヴァリーをエリアボスのもとへと運ぶ使命へと臨んだのであった――――
「既に、我と貴様に言霊は不要。お喋りはここまでだ。"ヤツ"の招きし災いも、この時を以ってして終幕を迎える。……これは、破滅の根源を破滅へと導く、勇気と力の二重螺旋!! 我と貴様が織り成す水縹と銀灰のスパイラルによって! 絶望が支配する邪悪の侵略は、その野望が叶わぬ幻想であることを認識するだろう!! 潰えた儚き野望に絶望せよ、邪悪の化身!! ――さぁ、我々のスパイラルによる侵略の幕引きを開始する時だ。構えろ。覚悟をしろ。その水縹に、我の、皆の希望を託したぞ。"アレウス・ブレイヴァリー"」
【~次回に続く~】




