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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
327/368

巡り巡る運命の一部分 5598字

 奮闘。もとい、惨敗。

 ボロ雑巾のサンドバッグへと化した青年は、引き裂かれ傷付き刻一刻と死へ追い込まれゆく。しかし、その足は一歩、また一歩と前へ前へ歩みを進めていくのだ。


 降り注ぐ邪悪の中、青年の背を真っ直ぐと見据えるNPC:アイアム・ア・ダークスネイク。顔を上げたその先で、ズタボロとされたその姿を目にする。

 巡ってきた感情に歯を食い縛り、首を傾げて。その時にも、内部で起こる葛藤を燃料にして、直にも彼は地面に手をついて上体を持ち上げ出す。


 そして、憤りの表情を浮かべ。彼は、目の前の勇敢なる姿、水縹(みはなだ)の奇跡へとそのセリフを投げ掛けたのだ。




 主人公アレウスも、既に限界を迎えていた。

 HPの消耗にしたがって視界の周囲に現れた赤いエフェクト。ピンチを知らせるシステムに余計と焦らされて、だからこそこの場を何とかしなければと手に持つクリスタルブレードを握り締めて眼前の邪悪へと立ち向かい続ける。


 ……だが、もう無理だ。実力が至らないどころか、両足にガタがきてろくに立ち続けることもままならない。手の力も抜けていく。意識も朦朧として、視界が暗黒を交えて霞み出す。……BGMもSEも音がこもってよく聞こえてこない。痛みも、自身と一体化するような感覚と共に消え去っていく。

 ――限界だ。僅かな力を振り絞って、降り掛かってきた闇の弾を二つ弾き飛ばした。それを最後に、ブレードを地面に突き刺して倒れ掛けてしまう。


 俺は仲間どころか、自分さえも護れないと言うのか。こもった意識の中で、自身を苛む感情にただただ虚しさが巡り出す。

 ……所詮、この程度か。諦観とは異なる壁にぶち当たった。目の前の困難を前にして、望みが全て打ち消されたような気がして。なんだかもう、真正面からあたっていく自身の行動が馬鹿馬鹿しく思えてさえしまえたものだった。


 自身の心に囚われた。閉鎖に身籠り、受け入れ難い現実にまた深い傷を負う。

 と、その時にも、主人公アレウスの背後からセリフが投げ掛けられたのだ。……憤りの声音を含めた、ダークスネイクのセリフが……。


「……こんなところで、貴様は一体なにをしている」


 瞬間、彼の両手が突き出されると同時にして、ダークスネイクの両腕に現れた魔法陣。それが光ると二匹の大蛇が飛び出して、主人公アレウスの脇を通り抜けていったのだ。

 暴風とは異なる風圧を受けて、現実へ引き戻される。閉鎖の心から引き剥がされた衝撃のままに前方へ視線を向けると、その大蛇達が降り掛かる邪悪を打ち消していた。


 束の間の休息。すぐさまにポーションを取り出して、それを口に含んでHPを回復する。

 ふと気が付いて、手にしたポーションを背後のダークスネイクへと差し出すのだが。しかし、そのポーション越しからこちらを見つめるその眼は、鋭く、不満に満ちていたものだ。


 彼の様子に疑念を抱いたその時にも、ダークスネイクは続けてそれを尋ね掛けてくる――。


「……貴様、こんなところでなにをしている」


 一向にポーションを受け取らないダークスネイク。その言葉にぽかんとしてしまったこちらへと、彼は続けてくる。


「貴様に課されし己の使命。その水縹の煌きにて、蔓延する邪悪を打ち消さんとする己の使命を忘却したとでもぬかすわけではないだろうな」


「スネイク? その……分からない。俺はただ、あんたを助けるために――」


 行動源としていた想いを彼に伝えるその最中。最後の言葉を耳にした途端に、ダークスネイクは強く怒鳴ってきたのだ。


「貴様は正真の阿呆かッ!!? なにを、こんなッ。おいらというイレギュラーになりふり構っているのだと訊いているんだッ!!! 貴様は、背負っているのだ!! その水縹に、風の都の想いが託されし希望の輝きが宿っているのだぞ!! 貴様は、皆から唯一無二となる期待を寄せられし。替え玉の利かぬ、勇敢なる希望の化身という使命を託された特異的な存在ッ!! この場に来るべくして訪れた、我々の奇跡なのだ……!! それはッ……あの、ッ守護女神とする貴様の従者と同じく、奇と才に恵まれた類稀な力の持ち主。つまり、世間はそれを天才と呼ぶ……生まれながらにして持った、溢れ出んばかりの才能、を示す賞賛の極み……! …………貴様はなぜ、こんなおいらの元へとわざわざ駆け付けてその水縹を振るうと言うのだ。所詮、奇も才も微塵として存在などしないおいらにとって、それはどれほどと手を伸ばそうとも決して届かないし掴めないというのに……。――見せびらかすな。我に……おいらに、おいらの前で"それ"を披露するな……っ!! ッおいらは……おいらは……貴様とは決して相容れないイレギュラーな存在。……おいらは、貴様の、その……宿りし勇敢なる水縹の輝きに照らされた貴様の姿が……ただ……煩わしいんだ……ッッ!!!」


 ダークスネイクは、理性で憤怒を抑えていた。

 声を震わせながらと口にされる言葉の数々。次第に彼は震え始め、その理性で抑える感情を煮え滾らせながら心の内を明かしていく。


 ……直にも、滾る感情が落ち着いたのだろう。

 次の時にも彼に巡ってきたのは、虚無とも呼べるだろう無心に近き穏やかな雰囲気。何かに納得がいったのか。何かに気付いてふと落ち着いたのか。ふぅっと息をついたダークスネイクは、先程の憤怒とはまた異なる勢い、威勢を含めてセリフを続けた。


「ッやはり! 貴様は、我にこそ相応しき絶好なる好敵手よ!! この蛇神帝王・ダークスネイク! この世に産み落とされた生涯の内、生命を育む大地に足を着け、呼吸や生命活動を行ってきた! それは、歴史のページにその名を刻む怒涛の連続! 度重なる死闘や決闘を渡り歩いてきたものだ! が!! しかし!!! 貴様とその従者! 記憶されし歴史のページに未だと記されてなどいない未知数の事象が、こぞって手足を生やして我が蛇神帝王への接近を図ってきた!! ッフッハハハッ!!! その未知数の具現化達は、なんとも恐れ知らずなものだ!! 我としても、この魂が心底打ち震えたぞ!! それは、"異なる次元の差を思わせる存在"との邂逅でもあったのだからなッ!! ――我が睨んだ通りだった。それらは皆に期待を寄せられ。皆から応援され。その声に応えるべく光を帯びた水縹の輝きは、周囲を感化させ多大な影響を及ぼした。そんな貴様にいたっては、特異的な魂の宿り主とでも言えよう。…………なんなんだ、貴様は? 一体、貴様はなんなのだ? 我は、貴様に侮辱されている。我は、貴様という特異に息の根を止められた。……苦しいのだ。苦しいのだ! 貴様という存在をこの視界に入れた、ただそれだけで! 貴様という存在がチラつくだけで、我は……息苦しいのだ……ッ!!!」


 威勢を纏ったそのセリフを、最後には枯らしたような声音で言い終えたダークスネイク。

 ……それは、彼に巡った感情がそれらの言葉を抑えているように聞き取れたものだ。彼は決して、この未知なる遭遇に歓喜などしていない。むしろ……それらとの出会いによって、消極的な想いを抱いていたようだった。


 空元気から始まったダークスネイクのセリフ。それらから感じ取れたものは、劣等感だった。

 彼もまた、先にも主人公アレウスが抱いた虚無を抱えている。その内容自体は知る由もなかったが、内容は違えども性質はどこか似通っていたように思えなくもない。


 彼もまた、劣等感に苛まれていたのだ。心が締め付けられるような、肩身が狭いとも言えるだろう、閉鎖の中で振り絞ったかのような弱々しい声音から、彼の感情を感じ取ることができたものだったが……。


 ……彼の気持ちを理解することができなかった。俺が、彼に何かしてしまったのだろうか、と。俺はただ、あんたを助けたかっただけなのに、と。過ぎる想いとは相反する彼の返答に、言葉にし得ない複雑な感情が交錯する。

 その中で、唯一と理解することができたのは……彼こと、NPC:アイアム・ア・ダークスネイクは、主人公アレウスという存在そのものに苦しめられている。というものだった…………。




 吹き荒れる漆黒の暴風を掻き分けて、二匹の大蛇は降り掛かる邪悪を相殺していく。

 強力な召喚獣によってつくり出されたこの空間。互いに沈黙し、巡る複雑な感情に口を噤んでしまう。


 ……ダークスネイクは、目を合わそうとしなかった。先のセリフから、彼は避けるようにこちらと目を合わそうとしない。


 ――彼に背を向けて、クリスタルブレードを構え直した。

 この水縹に託された自身の使命を遂行するべく、再び邪悪へと立ち向かう。こちらもまた彼から背けた視線を、眼前にて降り掛かる闇の猛襲へと向けて。降り掛かった闇の弾を、襲い掛かって来た環境生物の頭部をブレードで対処していく。


 その動作の中、暴風という環境で続いていた沈黙を破るように。主人公アレウスは背にした彼へと、それを話し始めたのだ。


「……確かに、俺は自分の役割を放棄した。"ヤツ"へと接近する手段なんて、ユノのジャンドゥーヤのように他にもあったものだからな。本来ならば、俺はダークスネイクに構わないで、ただこの目で見据えていた邪悪の化身を破るための行動を起こすべきだったんだ。俺は、優先するものを誤った。この勝手な行動のせいで、戦闘に遅延を生じさせてしまった。……皆から想いを託されていたのに。俺は、この自分勝手な判断によって、皆の期待を裏切ってしまったかもしれない」


 横殴りで流れてくる暴風の圧に堪えながら、迫り来る邪悪をブレードで打ち消していく。その間にも口だけが達者に動き、この想いを彼へと伝え続ける。


「……ッハハハ。ほんと、俺って何やってんだって話だよな。自己満足のために、この戦闘を無駄に長引かせる遅延を、何の躊躇いもなく行って、何の責任を感じることもなく発生させて。これじゃあ、皆の希望になるどころか、失望を与えてしまうだけだよな。……この世界に降り立ってから、すぐ感情に流されてばかりだ。そして、上手くいかないことにいつも悩んで、くよくよして。かと思えば、綺麗事だと指摘されるセリフばかりを口にして、後先考えない無謀な行動ばかり起こしてな。ほんと、これは俺の悪い所だと思うよ。俺は、皆の期待に沿えばいいだけのことだったんだ。――でもな」


 青白い光源を帯びたクリスタルブレードによる回転斬り。周囲に走った剣の軌跡が、その場に幻想的な空間をつくり出す。

 同時にして、晴れた視界。状態異常:暗黒が自然治癒して完全に開けたこの視界で振り向き、背後で膝をつく彼の姿をしっかりと、真っ直ぐと見据えた。


「でも、しょうがねェんだよ。護りたいと思えてしまった仲間が、そこにいたから。……今の俺なら護れるって確信することができるほどの。ようやくと、誰かを護れる程度の実力を身に付けられたからこそ。俺は、仲間のピンチに馳せ参じたかった。……俺は今まで、周りから与えられてばかりだった。その甲斐もあって、俺はやっとここまで強くなることができた。ブレイブ・ソウルという能力も宿すことができた。俺は、皆に感謝をしている。だからこそ……次は、俺が皆に何かを与える番だと思えたんだ。それこそが、これまでの俺に様々なものを与えてくれた周囲の皆への、恩返しだと思えたから……!!」


 この空間は、暴風が嘘であるかのように静かだった。

 唯一と耳に入ってきたその効果音は、この胸で輝きを放つ水縹の溢れる効果音。それらを口にしていく中で、胸から溢れ出す効果音はより一層と強まっていく。


「……ダークスネイク。あんたを護れて良かった。全ては、ただの結果論に過ぎないけれども。それでも俺は、自身の成すべき使命を果たせたと思うよ。きっと、これも"巡り巡る運命"の一部分だったんだ。そして、この巡る運命は、これまで引き起こされた様々なキッカケを引っ提げて、また新たな未来を創り出す。――俺、皆よりも弱いくせに、なにを偉そうなことを諭しているんだって思うよな。ミズキからも言われたよ。おまえの、そういうところが嫌いなんだ、って」


 つい、呆れ気味に微笑してしまう。そんなこちらのセリフとその様子に、ダークスネイクはフンッと鼻を鳴らす仕草で応えたものだった。


 そのアクションに、どんな意図が込められていたのかはわからない。だが、その表情は、イマイチといった渋いもの。どこか気に食わないな……と言っているように見受けられるし、何を言っているんだコイツと、若干の呆れをただ貼り付けているようにも見受けられた。

 少しして、逸らした視線はそのままに。ダークスネイクは乾いた笑いで切り出して、そのセリフを口にした。


「……貴様の言葉は、"異なる次元の差"という我の認識により深くの意味合いを含ませた。つまり、貴様の思惑を理解し得ない部分がある。……だが、その未知なる思考をめぐらせる要素こそが、どうやら我と貴様の差に繋がるのだろうな。思い知らされたぞ。我……いや。おいらと貴様の違いを、な。――それにしても、だ。その決めゼリフは~……イマイチと冴えないな。我から言わせてもらうとだな、ありきたりだ。我を見習い、より深遠なる意味深を宿せし言霊を習得してから、もう一度と我の鼓膜へそれらのセリフを響かせてみろ。……言霊を引き連れ、深遠からこの魂を揺さぶるスパイラルの可能性を示したその暁には。我は貴様の青臭いセリフに、素直に頷いてやるとしよう」


 一通りと喋り終えた後にも、ダークスネイクは冗談めかした笑みを浮かべた。



 彼は、動き出した。両手で地面を押すようにその場で立ち上がり、こちらが差し出したポーションを受け取って一気に飲み干す。

 そして、彼と並び立った。"その時"がやってきたのだ。再び戦線に復帰したダークスネイクと共に構えて、二人は眼前にて滞空する邪悪へと向き合っていく。


 ……確実だった。互いに確かめ合いを行ったそれをキッカケとして、その運命が巡ってきたことが――――



【~次回に続く~】

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