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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
324/368

宿る水縹の輝きに照らされて―― 4262字

 次の時にも、魔族ノ翼が全生命エネルギーの悲鳴を轟かせて。漆黒の暴風を揺るがす波動を放つと同時に、身に纏う暴風の防壁越しから発射された邪悪なる光線。

 一発がこちらへと放たれると、それをきっかけとして魔族ノ翼から発出され始めるいくつもの光線の数々。その図体のあらゆる箇所から、爆発するように放たれて。それらは、この決戦ステージに留まらず、風国という地へと。そして、周辺の地域までにも降り注ぐ。


 風国全土に渡る、広範囲且つ超威力の攻撃。黒く妖しく、煌くエネルギーの束が。そのエネルギーが集束した、おどろおどろしく分厚い効果音を響かせて。

 同時にして、またしても味わうハメとなったあの浮遊感。落ちてしまった。いや、落とされてしまった。……先にまでこの身を運んでいた大蛇が、突如とその姿を消してしまったのだ。


 宙に投げ出されたこの身体。ふわりと浮いて、漆黒の暴風に流される。

 流されるその先に降り掛かって来た、生命エネルギーが集束する邪悪なる光線。……それを避けることは不可能だった。ブレイブ・ソウルのゲージも十分に溜まっておらず、ブレイブ・ソウル:ブレイクを放つこともできない。


 ――勝利を目前として迎えた、唐突な危機。それは、これまでの旅路で何度も何度も迎えてきた、数ある絶体絶命な状況の一つとして数えられる場面だった。

 それを前にして、膨大な恐怖を抱いた。……だが、同時として、主人公アレウスは恐ろしく冷静でいられたものだ…………。



 この場面にて巡ってきた、眼前と不釣合いな安心感を言い表すならば。レールの上を辿る運命によって既に定められし、巡り巡る展開を信じた上で抱いた一つの確信、とでも言えるだろうか。

 破滅の煌きをこの目で見据えながらも抱きしその確信は、これまでに感じ取ったことの無かった新たな感覚。だが、その感覚自体は、ずっと前から知っていたような気もしてしまえる。……と言うのも、その感覚は、云わば主人公補正とでも言えるか。幾度となく迎えた絶体絶命の場面においても、この身はNPC達に助けられてきた。そして、今回もそれを予期してしまえて。いや、期待してしまえて、だろうか。


 ……慣れ過ぎたか。

 これも飽くまで演出の一つだろうと、主人公に付き纏う運命を必然なものと勘違いしてしまっていた。勿論、主人公が死んでしまえば、この世界はそれまでであることは承知の上ではあるが。しかし、慣れというものは実に恐ろしいものだった。

 そして、今回も救いの手が差し伸ばされた。この主人公アレウスを導く手は、現在の主人公では至れないその先の巡り巡る運命へと(いざな)う、既に定められし展開の一つに過ぎないからだ。


 ……だが、その展開というものは時に、救いとして差し伸ばした手を傷付けることを、この時点では想像することさえもできなかった。

 主人公アレウスは、まだまだ未熟だった。思考も、実力も、あらゆる要素における未熟が招いたその展開によって。それ故に、目の前でNPCを傷付けてしまうのだと。その先の考えに至ることができなかったために…………。





 眼前の、滅亡を招きし邪悪を前にして姿を消してしまったダークスネイクの大蛇。……無理もなかった。その漆黒の煌きを、僅かながらの希望さえも掻き消してしまう圧倒的なプレッシャーを前にして。むしろ、よくぞこの時まで我々を運んでくれたものだ。

 だが、状況は最悪だ。成す術も無いまま主人公アレウスは漆黒の暴風に流されて。しかも、その流される軌道を予測して放たれた生命エネルギーの光線は、ものの見事にこちらを捉えて真っ直ぐと向かってくる。


 直撃は免れない。被弾を覚悟して、この目は瞑りかける。

 ――しかし、次の瞬間にもこちらへと突き出された一つの手。それは暴風の中であろうとも的確と主人公アレウスの防具を掴み、そして引っ張る。

 ぐいっと、暴風に抗うよう身体が引き寄せられると、目前からは温もりが降り掛かる。……この全身に伝った温もり。暑苦しいほどの熱情を帯びた身体に包み込まれた。


 ラ・テュリプが、この身を保護した。

 共に大蛇から落とされ、漆黒の暴風の中を漂うことしか許されない状況下で。彼女は自然の強大な力に屈することなく、抗い、主人公アレウスのもとへと辿り着いてみせた。

 彼女に強く強く抱き締められる。決死の想いとも受け取れる抱擁に驚かされたものだが、その次の時にも、彼女の行動の、真の意味を知ることとなる……。



 この視界を埋め尽くす、膨大なエネルギー。

 ……あの、滅亡の煌きが迫り来る。確実にこちらを捉えたエネルギーは、真っ直ぐと、真っ直ぐとこちらへと降り掛かり。そして、この身を飲み込む。


 全身は飲み込まれた。膨大な生命エネルギーによる破格の威力が襲い掛かる。

 ……だが、この身は無傷だった。それを防ぐ盾が存在していたのだ。その破格となるダメージを主人公アレウスの代わりとなって吸収する、決死の覚悟が形を成した勇敢なる盾が――


「ルージュ、シェフッ――――」


 生命エネルギーの光線に押され、この身は地上に叩き付けられた。


 その先で爆発し、発生した邪悪の煙に押されるようにバウンドして地上を転がる。

 無傷で済んだ身体で咄嗟に立ち上がり、周辺を見渡して彼女の姿を探す。


 ……そして、見つける。地に伏して、力無くと横たわった彼女の姿を。



 ――今までに見たことのない倒れ方だった。NPCが、あんな倒れ方をするのかと初見の状態に血の気が引く感覚を覚える。

 本格的にまずいかもしれない。すぐに駆け付けて、その身体を起こしてラ・テュリプの名を何度も何度も口にする。


 ……その時にも、気付かされた。主人公という、この世界にもたらす強大な影響力を持つ特異的な存在は、常に周囲のNPC達にも強力な影響をもたらすのだと。

 それは、主人公の水縹を目撃することで促される、勇敢なる魂を滾らせる効果が発動すると同時にして。主人公の行動によっては、その影響力に突き動かされたNPCは傷付き、力尽き、死んでしまうこともあるのだと。


 …………彼女の、身を挺して行われた行動に罪悪感を覚えた。自身の、主人公アレウスという存在が未熟であったがために、彼女を傷付け、取り返しのつかない事態を引き起こしてしまったのだ。と……。


 後悔が巡ってきた。

 次第に抜けていく肩の力。口元を震わせて、彼女の横顔を眺めることしかできない。……ぴくりとも動かない彼女に、主人公アレウスは歯を食いしばって目元に雫を溜め込む。

 言葉が出てこなかった。叫んでこの世へと呼び戻そうと考えるものの、受けたショックによってアクションを起こせなかった。無気力となってしまっていた。こうなってしまったのも、全ては自分のせいだと自身を咎めて。ただ変わり果てた彼女の姿を抱えて、心の中で謝ることしかできない。


 ――が、次の時にも、ぴくりと動じた彼女。すぐさまにもダメージボイスを響かせて、痛みで反射的に全身を跳ね上げる。

 急に動き出したラ・テュリプに驚いて、我に返った主人公アレウス。驚きのままに向けたその視線へと向き直り、彼女は力無く微笑を零し、そうセリフを口にしたのだ。


「う、うぅ……。ッハハハ、みっともない姿を晒しちゃったな……ァ」


 弱々しく口にして、光線を受けてボロボロとなった身に彼女はそう呟いたものだ。

 それを耳にしてというもの、主人公アレウスは無意識に首を横に振っていた。彼女の言葉を、心の底から否定する意を表明して。この胸に巡る感情のままに、その思いを言葉にして伝えていく。


「そんな。みっともなくなんか無いです!! だって!! 俺のために……俺のために、ここまでのことをしてくださるだなんて。そんなの、みっともないワケがないじゃないですかッ!! ルージュシェフは、俺の命の恩人です!! みっともないどころか、すごくカッコいいくらいですから!! ……この戦いで、俺が今この時までこうして生き残れているのも。全ては、俺を支えてくれた仲間達と……その身を挺してまで護ってくれたルージュシェフのおかげですからッ!! その、熱く燃え滾る、熱風の如き力強い温もりを宿したルージュシェフの存在感から、俺は勇気を分け与えてもらっているんです!! そんな、燃え滾る勇気の化身のようなルージュシェフのことを、みっともないだなんて思うわけが――」


 爆発した感情に任せて口走る。それらを耳にしたラ・テュリプは、人差し指をこの口元へと近づけてくると共にして、セリフを口にしながら上体を起き上がらせた。


「ん……もういいよ~。そこまで言われると、照れちゃうよ」


 起き上がる最中にも、がくりと体勢を崩すラ・テュリプ。彼女を両手で支え、すぐにポーションを取り出して彼女の喉へと流し込んでいく。

 瞬間的にも巡ってきたHPの回復を受けて、起き上がったラ・テュリプ。周囲には状態異常:暗黒を発症したエフェクトを醸し出しながらこちらへと手を伸ばし、それを掴んだ主人公アレウスも彼女に立ち上がらせてもらっては、暗黒の靄越しから彼女と向き合う。


 暗黒という、発症した者の精神を弱化させる状態異常の性質上、その表情からは憂いが垣間見えた。だが、それとは一方として。手を開き、手元から弓をポップさせてしっかりと握り出して。傷が癒えると共にして、ラ・テュリプは再び戦線に復帰したのだ。

 ……本当に、強い方だ。その姿にそんな感想を抱く中で、ふと彼女はそう言葉を口にした。


「こんなあたしに、貴方を護るという大役をこなせるかどうかはわからないけど。でもね、唯一の希望である水縹(みはなだ)の貴方をこの場で喪うくらいなら。このあたしが、この命に代えてでも貴方という希望の光を護ってみせる。だから……アレウス・ブレイヴァリー君。この街のことを。この場の、みんなのことを。……この世界のことを、頼んだよ」



 取り出した武器を構え、暗黒によって霞が掛かる視界越しから矢を放ち始めた彼女。その攻撃で目の前から飛んできた邪悪の棘を破壊すると同時にして、主人公アレウスへと降り掛かる邪悪への攻撃を再開したのだ。


 ……先の、身を挺しての防衛から、彼女の言葉が嘘偽りの無い内容を含んでいることが明らかであった。

 この、主人公に宿るブレイブ・ソウルを遥かに凌ぐ勇敢なる魂……いや、ラ・テュリプというNPCに宿る、それぞれのブレイブ・ソウルを目撃して、この胸の水縹が滾り出す。


「っ……任せてください」


 胸に左手をあてがい、滾る勇敢なる魂のままにそう言葉を発して。主人公アレウスは再び、上空にて滞空する邪悪との決戦へと臨んでいくのであった――――



【~次回に続く~】

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