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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
318/368

定められし運命に委ねて―― 5465字

 ――魔族ノ翼に隙を晒してしまった。

 こちらへと解き放たれた、生命エネルギーを集束させた分厚い光線。今もよろけるモーションで身動きの取れない主人公アレウスへと、邪悪なる力が降り掛かる。


 咄嗟に動けない状態に、全身の危険信号が訴え掛けてくる。だが、それとは裏腹に、一向として次の動作へと移せないこのやられモーション。

 直撃する。直撃したらタダでは済まされないだろう、巡ってきた死の予感に。脳天へと集まった神経の感覚で引き起こされた、脈打つ心臓の鼓動が体内で鳴り響く。


 ……が、次の時にも。この鼓動が、またしても考慮しなかった異なる展開によって、より一段と動悸が激しくなるとは思いもしていなかったものだ。




 と、言うのも。迎えた危機的な状況にて、この視界の脇から突然と爬虫類の頭部が飛び出してきたのだ。


「ッづォ!!!」


 衝撃が加えられて、主人公アレウスは吹き飛ばされた。

 それは、ある意味でこの場の空気を読まない第三者の介入。邪悪なる力とはまた異なるそれは、側から勢いの余った頭突きを食らわせてきて。事故とも言えるだろう大蛇との衝突で、この身は平行に吹き飛んだものだ。


 そのまま暴風に流されて、地面に落ちて転がって。一方、向こうもまた驚きで鳴き声を上げながら、ふらふらとどこかへと飛んでいってしまった。

 次の時にも、目の前で強大な光線がステージを貫く。その地点は、先にも主人公アレウスがいた箇所であり、あのやられモーションで動けないままだったらと想像しただけで鳥肌がぞわぞわと立ち始める。


 それにしても、なぜこのタイミングで衝突してきた……。

 ぶつかってきた個体は、その背に乗るはずだった大蛇。そんな大蛇達との、そんな大蛇達を操るダークスネイクとの連係がまるで噛み合わないシステムに、彼との最悪な相性を痛感しながら。だが、それが良くも悪くもと言った結果を生む運命をつくり出すことから、一長一短という言葉を実感させられる。


 間一髪と、邪悪なる脅威から逃れることができた。

 とは言え、これは濃密な内容の一ターンに過ぎない。すぐさまに体勢を整えて、再びと大蛇を待ち続ける。

 降り注ぐ邪悪なる力は、エネルギーの束となってステージのあらゆる地点へと落ちる。その禍々しき力で、地面を貫き蝕むよう放たれる鋭い漆黒は、当たってしまえばまずひとたまりでは済まされないだろう。……これが絶えずと頭上から降り注ぐ。それは、見上げればゲームオーバーへと誘う凶悪な威力のオンパレードを目の当たりにする、残虐が蔓延る死の天井。


 絶えない邪悪の雨が、こちらの接近を、死力を尽くして拒んでくる。この状況を目の当たりにして、たとえそれがダークスネイクの大蛇であろうと、ユノのジャンドゥーヤであろうと。乗せてもらい接近を図ろうにも、むしろ"ヤツ"へと近付くという行為そのものに更なる危機を招くであろう重大な危険を伴うことが一目瞭然であった。


 その時にも、この考えに至った。

 それは……まず、あの降り注ぐ邪悪の猛攻を、なんとかしなければならない。というもの――


 ヘイトを集めていることはあり、主人公アレウスへと降り掛かる邪悪の量は凄まじきものだった。それらを仲間達が相殺してくれているから、今はまだ地上で生き延びる程度の猶予を与えられているものだったが。これがもし、回避コマンドを容易に選択することができない空中であったらと考えると……"ヤツ"への接近というものは、至極困難を極める手段だったことだろう。

 それに、ブレイブ・ソウル:ブレイクの発動のために、感情のゲージを温存しておかなければならなかった。水縹(みはなだ)による加速も行えない以上、生身という無力に等しきステータスであのエリアボスへと接近しなければならない。


 ……難易度が高すぎる。こうも思考をめぐらせている間にも、降り注ぐ邪悪の猛攻は、更なる勢いを増していくばかり。


 新たなる行動として、環境生物の頭部へと変形した黒の飛沫が、その頭部から翼を生やして主人公アレウスへと襲い掛かってきた。群れを成すその光景は、生命という生命が融合し合う、生理的な嫌悪を伴うキメラの大群となってこちらへと突撃してきたのだ。

 それらはシカやリス、ウサギやトリといった生物の頭部を象り。哀れにも漆黒へと変貌を遂げた邪悪ががぱりと口を広げると、吸い込まれそうな渦を巻く口から、闇の弾が発出され始めた。


 こちらへと真っ直ぐ飛んでくるエネルギー弾。上空から迫る弾幕を回避コマンドで避けるその間にも、環境生物は距離を縮めて頭突きをかましてくる。

 それらの対応にも努めていくのだが、一連の行動を集団で行ってくる数の力によって、瞬く間にもこの身は邪悪の頭部に覆われてしまった。


 闇の弾が降る黒の雨。それに交じって、頭突き、噛み付きといった攻撃から、頭部に生やした人間の腕による殴り掛かり、両手による叩き潰し、投げ属性である掴みなどといった様々な戦法を繰り出してくる。

 更には、魔法陣までも生成してきた。浮かび上がったその中央からは透明の塊が現れて、それが現れて暴風の中をしばらくと漂うと、その風に流されたその先で弾け出し。その場で、広範囲に渡る邪悪の渦を生み出した。


 この渦が、付近にも設置された。吹き荒れる漆黒の暴風をコンパクトにしたそれに近付くと、ぴりぴりと鋭い感覚を覚える。……設置されている分には、風圧によるやられモーションだけで済まされるものの。この中に放り込まれでもしたら、秒単位のスリップダメージが襲い掛かる可能性が十分に有り得る、凶悪な性能を誇る攻撃手段だった。

 そして、黒の飛沫が織り成す場の展開に、戦々恐々と恐怖の感情を抱くこととなった。頭突きといった接近戦に意識を取られている間にも、その渦による主人公アレウスを囲う包囲網が完成していたのだ。


 ――ここから抜け出すことは不可能だった。少しでもこの場から動けば、風圧によるやられモーションで行動を縛られて、その隙にでも一斉攻撃を仕掛けてくるだろう。


「……っ!! 迂闊に行動することができない……!!」


 行動範囲を狭められた。まず、最も危険な存在をその場に留める。狡猾な手段を講じてきた魔族ノ翼に、いっぱい食わされたものだ。

 次の時にも、その動物の頭部を模した闇の力で一斉攻撃を仕掛けてきた。囲いに閉じ込め、主人公アレウスの行動を封じたことにより、これで終わらせるという"ヤツ"の意思を感じ取れるほどの猛攻が襲い掛かってきたのだ。


 頭部を模した黒の飛沫による攻撃が開始されると同時にして、上空からは魔の手がこちらへと伸び始め、更には膨大なエネルギーを注いだ漆黒の分厚い光線をこちらへと解き放ってくるエリアボス。近距離攻撃、遠距離攻撃に加えて、掴みによる投げというあらゆる攻撃の手段が一気に迫ってくる。


 ……地獄だった。単独という状態で、このような窮地へと追い込まれて。せめてもの抵抗で回避コマンドを連打し、辺りへの前転や側転を繰り返すものだったが。この行動も虚しく、窮地から脱する切り札になりもしない。

 で、あれば、この場面でブレイブ・ソウル:ブレイクを使用するべきか。水縹の力を解放し、囲う渦を強引と無効化にして、この箇所からの脱出を図るべきか。一時はその手段も考えたものだが、しかし、ゲージ消費量の大きいブレイブ・ソウル:ブレイクを今この場で使用してしまえば、それが溜まるまでの更なる持久戦を仲間達に強いてしまうこととなってしまう。


 使用するべきか、使用しないで残しておくべきか。これは、プレイヤーの判断に委ねられた、究極の選択だった。

 この場面だったら、どうするべきか。このゲーム世界においては、正解、不正解となる選択肢は存在しない。と言うのも、この世界に存在する、その選択肢の行方は。フラグという、既に定められし巡り巡る絶対的な運命によって、その内容を常に変えていくのだから――




 ――アレウス・ブレイヴァリーが選んだ、使用しないという選択肢。これを選び、フラグにこの身を委ねたその瞬間にも……既に定められし、巡り巡る絶対的な運命が訪れた。


「ツインダガースキル:(アン・)(ジュー)(ル・ド)(ゥ・)(リュ)(ミエ)(ール)ッ!!!」


 紅の残像。颯爽と姿を現した一つの存在は、まるで燃え滾る恋情の如く熱く感じられた。


 周囲の渦を焼き払い、火炎を纏って主人公アレウスの目の前に着地するラ・テュリプ。燃え滾る炎を宿した二本のダガーを構え、熱き熱情が込められた彼女のスキルによって、次の瞬間にも周囲は炎の海へと化していく。

 彼女のスキルは、窮地をも燃やし尽くし。上から放たれたエネルギーの光線にも、すぐさまと弓へと持ち替え、全身で踏ん張る大きな構えをとって強烈な矢を射る。


「弓スキル:(ジュテーム・ド)(ゥ・プリュプロ)(・フォン・ド)(ゥ・モン・クール)ッッ!!!」


 光線へと一直線に射られた一本の矢は、矢先に集束した光が描く真っ直ぐな紅を宿して。彼女の熟練の腕から放たれたその一撃は、眼前の漆黒を貫き、打ち消してしまったのだ。


 どんな境地に立たされようとも、彼女は最善の手を尽くす。行うべき最善を瞬間に下せる冷静な判断力と、その下した判断を実行し実現してしまえるその実力。彼女の勇姿は、冒険の熟練者であるユノとは異なる雰囲気を醸し出していた。それを言葉にするならば、戦闘のプロフェッショナルとも例えられるだろう、迅速且つ的確な対応。と言うべきか。


 ラ・テュリプに救われた。

 彼女にお礼を伝えようと言葉を掛けようとしたが、ヘイトを浴びて猛襲が降り掛かるこの状況下、こちらへと振り向いてきた彼女の、覚悟に満ちた表情を目撃して。共に戦場を駆け抜ける戦友として、言葉はいらないのだと察し。頷くジェスチャーで、自身の無事とお礼の意を伝える。

 すると、頼れるお姉さんといった柔らかい笑みを見せて、爽快な調子で、ラ・テュリプはセリフを口にしたのだ。


「あたし達は、命を懸けて貴方を守る!! 少なくとも、こうしてあたしが存在している限りは、貴方を絶対に死なせたりなんかはしないから。――これが、今のあたしが成すべき使命。シェフだからって、あたしのことを見くびってくれちゃあダメだぞっ?」


 悠々とウインクまできめていく。

 同時に、再び二本のダガーに持ち替えたラ・テュリプ。纏った熱情的な炎で、迫り来る漆黒の弾や邪悪の頭部へと、怒涛の火炎を振るう攻撃を仕掛け出す。


 ――ただただ、すごく頼りになる。別に、シェフだからと言って見くびってなんかは決していないものだが。初対面の際のイベントでは、料理やその他の物事では失敗ばかりだと本人が口にしていて。あの日も、肉の焼き加減を間違えて、ほぼ半泣きの必死な様相でひたすらと謝ってきていた彼女の面影が、まるで嘘のようだ。

 ……その時にも、彼女は、戦争の中で輝く存在なのだなと察した。言葉の響きは、脅威の象徴とも言えるだろう、とても残酷な響きを有するものだったが。しかし、ラ・テュリプという人物は、この血みどろの場所でこそ輝くのだろうと、彼女の勇姿にそんな感想を抱けたものだ。


 邪悪の猛攻へと、単独で臨んでいくラ・テュリプ。ダガーによる火炎で周囲の漆黒を燃やし尽くし、猶予を設けたところで、彼女はダークスネイクへと腕を上げて合図を送り出した。それを目にした彼は、渋々といった表情で迅速に大蛇を寄越していく。

 先にも、彼と噛み合わずに失敗してしまった、大蛇へのライド。それは魔法陣から現れて真っ直ぐと飛び。空間を伝い無辺際と泳ぐ一匹の召喚獣は、とうとうこちらのもとへと合流を果たした。


 ……とは言え、果たして無事に乗れるのだろうか。

 不安が過ぎる。息の合わなさに、また失敗した場合の展開を恐れて足が竦み出した主人公アレウスではあったが。その雰囲気を感じ取ったのか、こちらの肩へと手を乗せてきたラ・テュリプ。

 彼女の存在は、とても熱かった。暑苦しいとも言えた。そんな彼女が、頷いてきた。――彼女から受けた激励に、ブレイブ・ソウルに勇気が満ちる感覚を覚える。


 ラ・テュリプと同時にジャンプを行った。

 浮いた身体が暴風に流されかけるが、それによって姿勢を崩しながらも、足裏の鱗の触感で思わずと滑ってしりもちをつきながら。向けた目の前の視界から、地上がどんどんと離れ始めていく。


 ……先までの最悪なコンビネーションがまるで嘘のよう。その時にも、主人公アレウスはあっさりと大蛇の背に乗れてしまっていた。

 大蛇の頭部にはラ・テュリプがダガーを構えて存在しており。その後ろに主人公アレウスという配置で、吹き荒れる漆黒の暴風の中を突き抜けていく。


 大蛇の背に乗ったことによって、エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼へ接近する手段を講じることができた。

 ……この先からは、眼前の邪悪がより激しくと降り掛かってくることだろう。同時に、主人公アレウスは仲間達に支えられていた。それは、この暴風の中を悠々と泳ぎまわる、暴風にも負けぬパワーで運んでくれる大蛇と。抱きし使命に命を懸ける、ラ・テュリプという心強い仲間が同行してくれていて。


 ようやくと巡ってきた、エリアボスへの反撃の機会。この機を逃さぬためにも覚悟を決めるラ・テュリプと、気張っていくぞと勇気で己を鼓舞する主人公アレウスは、手に持つ武器を、勇気を掲げ。眼前にて滞空する邪悪の化身への接近を果たすべく、暴風吹き荒れる上空にて、自身の成すべき役割のための、次なるステージへと身を投じていく――――



【~次回に続く~】

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