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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
317/368

それらは、忘れた頃に訪れる 4847字

 主人公アレウスの脇を通り抜ける、漆黒と鮮紅の稲妻、恋情の如き熱く燃え滾る火炎、大蛇が織り成す猛毒と破壊のスパイラル。後方から仲間達を包み込む、光をもたらす魔力の領域。それらが横から、後方から一斉に飛び交い出し、走り出したこの身へと降り掛かる邪悪とぶつかり合い、打ち消しあっていく。


 風国の総力と邪悪の力による、人類と『魔族』のぶつかり合い。フィールド:風国を舞台にしたその戦争の締め括りとも言える、今回のメインシナリオの最終決戦というステージの中を、全力で駆け抜けていく主人公アレウス・ブレイヴァリー。

 ……水縹がもたらす奇跡を現実のものとするために。勇敢なる魂が織り成す主人公の勝利を実現するために。双方、それぞれの想いがぶつかり合う、メインシナリオ:対『魔族』迎撃作戦という最終戦へと、その身を投じていく――




 それは、焦燥の念。今まで恐れなどしなかった存在が、ここにきて唯一と自身を討ち破る能力の持ち主であったことに戦慄したのだ。

 エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼は、上空という独壇場に居座る。怖かったのだ。『魔族』の勢力が、もはや自身のみであるという孤独と。工夫を凝らしても尚予想を上回る人類の悪足掻きが、自身という単独の存在へと一斉に襲い掛かる眼前の光景に。"彼"は、今すぐにでもこの場から逃げ出したい思いを抱え込んでいた。


 絶対に討たなければならない、ちっぽけなその戦士。それが、唯一と相手に勝利を許してしまう危険人物であったから。……だが、彼へと差し向けた攻撃の数々は、その背後の仲間が繰り出す援護によって相殺されていく。

 この翼から発出させた、闇のかまいたちも。身に纏う禍々しきオーラから伸びた、魔の手も。攻撃や相殺によって飛散し、更なる追撃をかます黒の飛沫も。生命エネルギーを振り絞って繰り出す邪悪の光線も。これまでと戦闘で扱ってきた技の数々が、この場面にて全て対応されてしまっていく。


 ――迫り来る水縹(みはなだ)。先までは、その影すらも気にならなかった。しかし、今となっては……その輝きが、眩しくて仕方が無かった。


 それは、確かに無力である。それに、この邪悪なる化身を討ち滅ぼす実力などは備わってなどいない。それは、単体であれば何の脅威でもないのだ。

 ……だが、そんな水縹の彼のことが、この場に、この世界に存在するあらゆる生命の中でも、断トツであると言い切れるほどに恐ろしく見えた。彼の放つ水縹は、集団の中でこそ輝く。その輝きを見出した仲間達が、そして、そんな仲間達に支えられたその時こそ、そのちっぽけな戦士はここぞとばかりに本領を発揮してくるのだ。


 迫る彼が恐ろしい。仲間に支えられ、こちらへと前進を続ける姿に震えが止まらない。


「……ッぢきしょォォォォォオッ!!! ……ふざけんじゃねェぞッ!! オレだってなァ! オレにだって、なぁァァアッ!!! ……っくそ。くそ!! 今この時にもあの雑魚を排除しなければ、オレは負ける……!! あの『魔族』が、たかが人類の……あんな、オレを殺すこともできやしねェクソ雑魚に……敗北を期して、また滅ぼされる――」


 ――有り得るハズの無かった展開が、まるで手に取るように読めてしまえた。

 予感とも言えただろうか。それは、これまでと起こされてきた全ての事象は、実は既に敷かれた運命が辿るレールの上であり。今この時も、用意されたレールの上をこの運命が走り抜けているかのような。目の前には、"彼"を主軸にした一つの物語が展開されているような錯覚を覚えてしまえる。


 ――これは、"滅亡を辿るストーリー"。滅びへのカウントダウン。敗北という二文字が確約されてしまっている、既に定められたレールを沿う悲劇の物語。

 ……それを予言と断言するには、被害妄想による戯言に過ぎず。だが、それを否定しようにも、決して首を横に振ることなどができやしない。……レールの上を走り続けているのだ。自身の知らぬ場所にて、"この運命を操作する、自身らが理解に至ることも許されぬ底知れない外部からの力"を感じ取ることができてしまえるから。


 

 次第にも、とある結論に至った。

 それは……自身という存在は、運命が巡るレール上の、障壁の一つに過ぎないのではないか。ふと過ぎってきた自身の存在意義に、この世の全てを裏切られたような喪失感を抱き。認めたくも無い、自身はその程度のような薄っぺらい障壁では無いと断固とした否定を行おうにも、しかし、同時として障壁であることを認めてしまえる確信に納得がいってしまうものだったから。


 ……現実に失望した。

 エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼……もとい、NPC:天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)は、言い知れぬ運命の歯車に戦慄し。"その時"の訪れに、気を狂わせるほどの渦巻く狂気に侵されて。邪悪なる風貌とは裏腹となる恐怖心を抱き、"その時"をただ恐れ続けたのだ――――




 エリアボスからのヘイトを掻き集め、邪悪なる力を自身へと引き付けていた。

 今もダッシュで滞空する"ヤツ"への接近を図っていく。その間にも、目前にした恐怖で心臓が縮み込みそうになるが。だが、それを凌駕する感情が勇敢なる魂へと蓄積され続けていくのだ。


 これは、この背を支えてくれる仲間達が居てくれるからこそ抱ける嘘偽りの無い絶対的な勇気。これまでの戦いの中でも感じたことのない膨大な勇気が、ブレイブ・ソウルへのゲージに大幅な増加を促す作用を働かせる。

 空っぽとなっていた水縹の魂が、着実と満たされていく。恐怖という感情を、勇気という感情を取り込むブレイブ・ソウルは、邪悪を前にした光景と、仲間達に支えられている状況で、より熱情的に燃え上がっていた。


 降り掛かってくる邪悪は、仲間達の援護によって相殺されていく。それでも邪悪の猛攻は激しいものであり、仲間達の攻撃を通り抜けてきた黒の飛沫、四散し爆発する漆黒、魔の手、光線は絶え間無くとこちらへ襲い掛かってきたものだ。

 それでも、だいぶと数を減らし勢いが弱まった邪悪。その交わる双方の衝突を潜り抜けて、魔の手や黒の飛沫を回避コマンドで避けながら。ひたすら、ただひたすらと前へ、前へと突き進む。


 ……だが、その余裕も直に無くなってきた。次第にも猛攻が禍々しく、荒々しく。それは、自然という摂理をも身に纏い我が物とした邪悪の膨大な力が繰り出す、自然と破壊のスパイラル。その全てを防ぎ切ることは、主人公アレウスの実力では到底敵わず。段々とそれらの勢いを増してきた邪悪なる力は束となって、塊となって、あの仲間達の援護を押し遣り始め、こちらの接近をより拒んできたことが、目に見えて判ったものだ。

 きっとこれは、エリアボスに近付くにつれてギミックが増えていくシステムだ。"ヤツ"が決死の思いを振り絞って、己の敗北を拒んでいることが手に取るように判った。


 ステージの半分の距離を走ってきたところで、あとはこの頭上で滞空する"ヤツ"の暴風の防壁を、ブレイブ・ソウル:ブレイクで強引に打ち消すという課されたミッションをこなすだけ。

 ……で、このミッションを遂行するには、上空に存在する"ヤツ"への接近という、自力では成す術も無い残された課題を達成する必要があったものだ。


 いくらブレイブ・ソウルであっても、空を飛ぶという芸当を可能にするほどの能力は秘めていなかった。少なくとも、現在は……とこの先に期待を込めてそう付け加えておく。

 上空という圧倒的なアドバンテージを取れるポジションで、それもあの強固な暴風の防壁を身に纏い、強力な邪悪の攻撃で猛攻を仕掛けてくる。攻守共に優れ、水縹に恐れることもない安全圏からの攻撃という知能あるNPCの行動に、頭を悩ませられるばかり。

 

 で、このクリスタルブレードの届かない状態から何とか接近を可能にして、"ヤツ"の防壁を剥がなければならない。しかし、そんな手段などはまるで皆無であって。……と諦めるには、まだ早くて。それが決して皆無ではないと言わんばかりに、主人公アレウスは仲間達へと助けを求めた。


 そこでは、皆それぞれがそれぞれの職業と属性、戦法やスキルといった熟練の腕を振るい、この主人公アレウスを邪悪から護ってくれていた。

 奮闘する仲間達への感謝を胸に抱きながら。その中でも注目をしたのが、ユノとダークスネイクだった。そんな彼女らへと助けの声を掛けて、手を貸してくれと呼び掛けていく。


「ユノ!! スネイク!! 召喚獣で、俺を"ヤツ"のもとへと運んでくれ!!」


 渦巻く漆黒の暴風が吹き荒れるこのステージ。強風がこの鼓膜へ直接と流れ込む耳障りな感覚に囚われる中、激しい風の中でも即座に反応を示してくれたのは、ユノだった。

 こちらへと、右手をあげて合図を送る彼女。しかし、ジャンドゥーヤはこのパーティーの中でも唯一となる、あの邪悪に抗う主力の中の主力。今も、降り掛かる闇をジャンドゥーヤは一掃しており、とてもその場から離れられそうになかったものだ。


 そこで、ユノは隣で大蛇を操るダークスネイクへと働き掛けた。……尤も、彼としてはその展開に渋い表情を見せていくものだったが。


「スネイ君!! 貴方の蛇さんで、アレウスを『魔族』のもとへ連れていってあげてッ!!」


「ッんな、よりにもよってこの我が……!! ……好敵手を運ぶ係りとは。それはまるで、この蛇神帝王が好敵手に屈したようで、何とも屈辱的だ……ッ!! ――だが、今の状況でそう悠長なセリフも言ってはいられん!! 致し方ナシ!! 貴様に、この、我が蛇竜を寄越す!! 仕方無くと力を貸す蛇竜の苦き想いを汲み取り、最大限もの感謝の念を我に捧げよッ!!」


 禍々しいポージングを決めると、ダークスネイクは魔法陣を生成し、そこから一匹の大蛇を召喚してこちらへと向かわせた。

 魔法陣から飛び出してくるように姿を現した彼の大蛇。巨体で宙を泳ぐように飛来し、エリアボスのもとへと運ぶ役を渋々とこなすために主人公アレウスへの突撃を行う。


 真っ直ぐと飛来してくる大蛇に合わせてジャンプの準備を行う。

 ……そして、大蛇がちょうどこちらとすれ違うそのタイミングに合わせて。……ここで、ジャンプ――!!



 ……が、その瞬間にも発生したのは、眼前へと降り掛かってきた邪悪のエネルギー光線による頭上からの攻撃だった。

 攻撃のモーションとして、周辺へと振り撒かれた高速の光線。運悪くもその位置の真下を通る大蛇は、攻撃を察して避けるよう軌道を変えていく。


 ……の、だが。その避ける動作で完全にタイミングがずれてしまったこの身は、ただ一人でその場のジャンプを行うだけという、なんとも虚しき光景をつくり出す結果を招いてしまったものだった。

 忘れていた。あのダークスネイクとは、まるで息が合わないのだ。思い出した彼との相性に、これを予期することができなかった自分に悔いるばかりで。しかも、吹き荒れる暴風が相まって、ジャンプの着地に失敗してしまい。グキッと、足首を挫くようによろけて。フワッと、頭のてっぺんに気が集中した感覚に、思わずと視界が暗転した。


 ――魔族ノ翼に隙を晒してしまった。

 それを絶好の機会と見なしたエリアボス。この隙を逃さずと、こちらへと生命エネルギーを集束させた分厚い光線を解き放ち。今もよろけるモーションで身動きの取れない主人公アレウスへと、邪悪なる力が降り掛かる。



 ……マズい!! 咄嗟に動けない状態に、全身の危険信号が訴え掛けてくる。だが、それとは裏腹に、一向として次の動作へと移せないこのやられモーション。

 直撃する。直撃したらタダでは済まされないだろう、頭上のエネルギーによるダメージに鳥肌が立ち。巡ってきた死の予感に、ダークスネイクとの息の合わなさを考慮しなかった自身の甘さに、フワッと脳天に集まった神経の感覚で引き起こされた、脈打つ心臓の鼓動が体内で鳴り響く。


 が、次の時にも。この鼓動が、またしても考慮しなかった異なる展開によって、より一段と動悸が激しくなるとは思いもしていなかったものだ――――



【~次回に続く~】

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