表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
316/368

勝利の兆し 5509字

 ブレイブ・ソウル:ブレイク。主人公という特異的な存在のみが宿す、この世界の、あらゆる事象や効果を無効化にして断ち切ってしまう、唯一無二となるその能力。発動と同時に纏った水縹(みはなだ)の輝きに背を押されるまま、主人公という存在が成し得る、全力全開の一撃を、エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼の纏う暴風の防壁へとぶちかました。


 同時に、暴風の防壁に走る亀裂。風がピキピキと音を立て、この一撃を振り抜いたその瞬間。……渦巻いていた、困難という目の前の障壁が。これまでの仲間達の奮闘が嘘であるかのように、いとも容易くと弾け飛び、一気に飛散したのだ。



 戦況が変化した。この行動を境にして、"ヤツ"の纏っていた、絶対的な暴風の防壁と。ドラゴン・ストームが巻き起こす漆黒の暴風が、途端にピタリと止んだのだ。

 この空間に残ったのは、主人公アレウスと、エリアボスと、水縹の光源が描く縦の軌道のみ。晴れたこの視界に、丸腰となった"ヤツ"の、環境生物を象った四肢の図体が晒される。



 ……その場には、絶句とも言える沈黙が広がった。エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼は、驚愕で動くことも、セリフを発することもできなかったのだろう。又、眼前の光景は、風国の陣営にも相当なショックを与えたらしく。仲間達は目の前の出来事に、呆然とした、ただ口が開くばかりといった様相でそれを見遣り続け。これを成した当の本人でもある主人公アレウスもまた、まさかこれほど上手くいくとは思いもしておらず、上出来を通り越した結果に、息を呑んで言葉を失ってしまっていた。



 ……漆黒の図体には、魚類の鱗がぎっしりと詰められていた。それの間からは、微かにギョロギョロと動く膨大な目玉が垣間見えて。また、エリアボスの弱点としてナビゲートされた巨大な両翼には、未だにもがくドラゴン・ストームの姿がうかがえたものだ。

 この地特有の疾風が吹き始める。暴風が晴れたことにより、それが穏やかであると勘違いさえしてしまえる、とても優しくて心地の良い風だった。この風に撫で掛けられたのは、皆の髪の毛、皆の肌……その漆黒の図体、鱗、両翼、クチバシの目立つ頭部…………。



 これは、あまりにも唐突な展開だった。同時にして、これはまたとない好機であった。

 真っ先に、トーポが動き出す。唐突な出来事に誰もが理解に至らない中、その状況を整頓させて即座と行動を起こし始めたトーポ。若干と戸惑いを交えた即座の動作で、右腕を伸ばして周囲の仲間達へと命令を下したのだ。


「叩き込め!! 今こそ、君達の力を"ヤツ"へ注ぐんだ!!」


 全員は、息を吹き返したかのように動き出した。

 ユノの命令で、ジャンドゥーヤは漆黒と鮮紅の稲妻を放ち。ラ・テュリプは咄嗟に弓へと持ち替えて、矢先に紅の光を集束させて一気に射る。彼女らに続く形で、ダークスネイクは群れを成した大蛇を操り突撃を命じ。主人公アレウスは、急ぎでこの場からの退避を始めた。


 エリアボスに、思考の暇も与えさせない。まず最初と邪悪の化身に届いたのは、穏やかとなった疾風を貫く、真っ直ぐと、真っ直ぐと放たれた一本の矢。炎属性で紅く煌くそれは、共に放たれて迸る漆黒と鮮紅の稲妻を纏い出し。それらの迸るエフェクトを発生させながら、紅く、黒く、そして紅く燃え盛る雷撃となって晒されたエリアボスの図体を貫いた。


 息もつかせぬ高速の一撃が、"ヤツ"の真正面から炸裂。邪悪が気付いたその時には、既に自身の身体を貫く激烈な一撃が叩き込まれていた。

 ヒットと共に引き起こされた、恋情の如き熱く燃え滾る火炎の爆発。それによって主人公アレウスが吹き飛ばされる中、魔族ノ翼があげたダメージボイスを導として、ダークスネイクの操る大蛇が一斉となって邪悪へと食らい付いたのだ。


 数で圧倒し、標的を食らうヒュドラの捕食。頭突きでその邪悪を貫き、毒牙で噛み付き、その数で邪悪の図体を捻じ伏せる。

 だが、生命を蝕む翼は素直に餌とはならなかった。大蛇が集る地点から引き起こされた闇の波動。空間に伝った黒き煌きが周囲の大蛇を弾き飛ばし、そこから現れた邪悪なる身体を起こしていく。

 解放されると同時に浮き上がり、翼をはためかせ、再びと邪悪の渦を巻き始めて。すぐに立て直さなければ。そんな焦燥を思わせるぎこちない仕草で暴風を生成し、この場に漆黒の暴風を。そして、自身に暴風の防壁を付与した。


 ――振り出しとも言えるだろう、繰り返される展開。だが、訪れた唯一の変化に、エリアボスは未だと理解が追い付かないとばかりにこちらとの距離を離し始めて。遥か上空へと飛び立ち、その独壇場にて、冷静な思考を取り戻すべく情報の整理を始め出した。

 ……向けた視線の、その先。そこで捉えたのは、これまでとまるで問題視などしなかった、ちっぽけな存在。敵でも何でもなかった、こちらへの有効打をも持ち合わせないか弱い一人の戦士……。


「っこの雑魚が……ァッ!!! よくも、よくもやりやがったな、ァッッ!!! ――んだよ。何なんだよッ一体全体……。あんな雑魚に、一体、あれほどの力がッ、いったい、どこに……ッ??!  っそう言えば、ゾーキンの旦那がそう口にしていた。……人類っつぅ生態は、窮地へと追い込んでも尚気が抜けない種族であるということを。追い詰められたその時こそ、"ヤツら"は本領を発揮する、ということ、を……ッ!! これが、人類っつぅ生き物の、土壇場で発現した悪足掻きってことなのか……ッ!? 人類っつぅ生き物は……あんな雑魚でもこれほどまでの力を繰り出すことができる、凄まじき潜在能力を秘めた生物ってことなのかよ……ッ?!!」


 邪悪は戦慄した。それは、今まで恐れを抱くに値しなかった存在が、この場にて唯一と自身を討ち破る可能性を秘めし、自身の大敵であったことに危惧したセリフだった。


 巡る敗北の可能性。圧倒的だった優位が危うくなり、そこに孤独という現状が圧し掛かることによって、魔族ノ翼は動揺で息を震わせる。

 巡った危機感に、漆黒の暴風に乗ることで一気に上昇したエリアボス。距離を置いて、大敵の様子をうかがい出した邪悪の、その視線の先。そこに存在していたちっぽけな戦士は、仲間の攻撃に吹き飛ばされ、地面を転がっていた。


 慌てて体勢を立て直して駆け出して、仲間達との合流を果たした主人公アレウス。皆の感情は、希望か困惑か。それらの混ざる念でこちらを迎え入れ、すぐさまにもトーポがそう言葉を投げ掛けてきたのだ。


「この問いに答えてほしい。アレウス・ブレイヴァリー。君は今、何をしたのかな? 僕が記憶する限りでは、剣士にも、エネミースキルにも、そのような結果を成し得る効果を持つスキルは存在しない。……もし、僕の記憶に誤りが無ければ。君は今、常軌を逸したのだ。この世の常識を突破したとも言えるだろうね。――君は、強いのか、弱いのか、まるで分からないな。ただ、今の段階で判り得ることを言葉として言い表すとしたら……君という人物が、この現状の打破に繋がるということ。君という存在が、この戦に勝利をもたらす奇跡の兆しであるということ。と言ったところか」


 穏やかな表情で、そうセリフを口にしていくトーポ。だが、その声音からはむしろ警戒が込められているようにも感じられた。

 ……彼は、未知と遭遇したのだ。ブレイブ・ソウルというNPC達が未だ知り得ぬ不可解なシステムを宿す主人公アレウスが、その力で、理不尽に近き効果で強引にも困難を突破した。知識に自信があるのだろうトーポは、このゲーム世界の、知る限りのどれにも当て嵌まらない事象を前に、どうやらブレイブ・ソウルの未知なる実態を恐れているようにも感じ取れたものだ。


 ……一息を置き、眼鏡の位置を直す仕草を交えて。背に腹はかえられないと割り切ったのだろうか、トーポは恐れを抱く眼前の事象に未だ警戒を見せながらも、こちらへとそう尋ねかけてきた。


「……もう一度、君にあの暴風を打ち破る業をこなせる余力はあるのかい?」


「あの一撃を繰り出すには、多少もの時間を必要とします。ですが、時間さえ確保することができれば……気力が持つ限り、何度でも撃つことが可能です」


「極端に強力な力には、それ相応となる見返りがつくものだ。――代償は?」


「……一撃で、半分以上ものHPの減少と…………この魂が磨り減ります」


「では、削がれる君の余命を、僕は魔法で修復することにしよう」


 瞬間、魔法を唱え出したトーポ。

 彼の行動の直後、主人公アレウスの身には、淡い黄色のオーラが現れて。それに包み込まれると、先の強引な突破の際に受け続けたダメージで磨り減ったHPが回復を始めたのだ。……それと、心なしか、この内側にて輝く水縹(みはなだ)の勇気が、ひしひしと湧き上がってくるような感覚を覚える。


 それは気のせいではなかった。確認すると、ブレイブ・ソウルのゲージが多少と増加していた。

 HPとブレイブ・ソウルのゲージが回復した。黄色のオーラが効果の時間を終えて自然と消えていく中で、トーポは思考をめぐらせる様子を見せていく。

 ……暫しと考え込み。そして、彼はそれを仲間達へと告げた。



「たった今、我々は勝利の兆しを目にした。それは、この現状の打破へと導くために、降るべくして、"降り立ってくれた"勝利だ。――ここに、新たな作戦を指示する!!」


 ――このステージに、再び漆黒の暴風が流れ出した。

 視界が黒き風で遮られる。それは、一連の流れを終えて、振り出しへと戻ったエリアボスとの戦闘が、また一から再開された合図でもあったことだろう。

 エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼は、その漆黒の図体に再び暴風の防壁を張り巡らせる。その光景、その行動、目の前で展開される戦闘の流れは、つい先までと全く同じものであり。……だが、唯一と変化した、劣勢と優勢の逆転が、この先にも展開される戦闘に、また新たなる変化をもたらす。


 エリアボスのヘイトは、主人公アレウスへと向けられていた。上空で飛行する"それ"が、暴風の防壁を挟んだその向こう側から、邪悪に塗れし眼光を向けていることを容易にうかがえる。……この先の戦闘は、あの凶悪な闇属性と風属性が束となって襲い掛かってくる。それを考えると、今回のメインシナリオの最大の山場は、正に今なのかもしれない。



 双方の準備が完了した。"ヤツ"が暴風を発生させると同時にして、トーポもまた振り払うように腕を伸ばし、仲間達へとそう言い放つ。


「作戦の内容を説明する。一言たりとも聞き逃すことの無いように。……この作戦において、最も重要視するべくその要素は。唯一、"ヤツ"への対抗手段を持ち合わせたアレウス・ブレイヴァリーを、我々は決して失うわけにはいかないということだろう。それに伴い、これから先の戦闘を見越し、今、ここに発令する。――総員を以ってして! ここに、新たな『魔族』の迎撃隊を結成する!! この迎撃隊の作戦内容は、こうだ。この作戦の要であるアレウス・ブレイヴァリーが、"ヤツ"の纏う風を払い除ける。そして、彼の働きかけによって姿を晒し、防壁を失った"ヤツ"の本体へと、残りの我々が集中砲火を仕掛けて一気に仕留める。というもの。その内容にあたり、本作戦のキーパーソンとも呼べるだろうアレウス・ブレイヴァリーを、我々は決して失ってはならない。絶対にだ!!」


 主人公アレウスを囲うように、この左右へと並び始めた仲間達。

 ジャンドゥーヤを従えて並ぶユノ。弓から、二本のダガーへと持ち替えて構えていくラ・テュリプ。数多もの大蛇を潜ませた魔法陣を両腕に付与するダークスネイク。書物を取り出し、援護に備え始めたトーポ。

 ――そして、仲間達に囲われながらも、その先頭に立ち。胸に宿る水縹を、この熱く燃え滾る勇敢なる魂を燃やし、クリスタルブレードを構えてその時を待ち始める主人公アレウス。


 場は整った。邪悪なる力を纏い、次は、唯一と自身を討ち破る可能性を秘めた人類を徹底に排除するべく両翼を広げ出したエリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼。

 このステージを覆う、黒き渦。強大な力と、『魔族』という種族の脅威を以ってして立ち塞がったエリアボスが動き出すと同時にして。両翼のはためきと共に振り撒かれた黒の飛沫が、容赦の無い漆黒の豪雨となってこちらへと襲い掛かってくる。


 "ヤツ"の行動に続いて、駆け出した主人公アレウス。水縹の彼を合図にして、彼を護衛する、左右の横へと広がった陣を成して、ユノのジャンドゥーヤ、ダークスネイクの大蛇、ラ・テュリプが突撃を開始する。

 続いて、後方から魔法の召喚を開始したトーポ。腕を突き出すように伸ばし、本作戦を指示した。


「総員! 我々の勝利のために。唯一の希望であるアレウス・ブレイヴァリーを、全力で援護せよッ!!」


 主人公アレウスの脇を通り抜ける、漆黒と鮮紅の稲妻、恋情の如き熱く燃え滾る火炎、大蛇が織り成す猛毒と破壊のスパイラル。後方から仲間達を包み込む、光をもたらす魔力の領域。それらが横から、後方から一斉に飛び交い出し、走り出したこの身へと降り掛かる邪悪とぶつかり合い、打ち消しあっていく。


 風国の総力と邪悪の力による、人類と『魔族』のぶつかり合い。フィールド:風国を舞台にしたその戦争の締め括りとも言える、今回のメインシナリオの最終決戦というステージの中を、全力で駆け抜けていく主人公アレウス・ブレイヴァリー。

 ……水縹がもたらす奇跡を現実のものとするために。勇敢なる魂が織り成す主人公の勝利を実現するために。双方、それぞれの想いがぶつかり合う、メインシナリオ:対『魔族』迎撃作戦という最終戦へと、その身を投じた――――



【~次回に続く~】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ