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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
315/368

エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼 ④ 4516字

 敗北が迫る。エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼の猛襲に、あの仲間達が苦戦を強いられる。それは、着実と敗北へ向かう、圧倒的な劣勢を背負ったことを意味していた。



 迫る運命に、それでも尚一層と抗い続ける仲間達。皆と共に並び立ち、再びこのクリスタルブレードを振るうべく、右手に持つそれを握り締める主人公アレウスであったが。

 ……相対する、大ボスとの歴然となる経験値の差。不足というには生温い、段違いな実力の領域。まだ、このゲーム世界に入門したてである故の未熟なレベルが、あのエリアボスに敵うことをまるで許さない。


 それどころか、仲間達の力になることも許されず。己の至らないステータスに、ただ……自身の無力さに嘆くことしかできずにいた――



 ダメージを受けて、この地を転がる。

 吹き飛ばされて、膝をつき。再び立ち上がろうにも、喪失した戦意で立ち上がることもままならない。

 ……目の前では、仲間達が戦っているというのに。トーポを護るべく奮闘するラ・テュリプも、ダークスネイクも、邪悪なる力によって傷付き、それでも立ち上がる。ジャンドゥーヤの回復を終えたユノも戦線に復帰するものの、彼女の魔獣が繰り出す強力な稲妻は、やはり"ヤツ"を取り巻く暴風の防壁に阻まれて。一向に本体へダメージを与えることができなかった。


 だいぶと優位を確保することができたエリアボス。余裕が出てきたのだろう、高度を下げた滞空のまま。取り込んだ生命エネルギーを一つ一つ試していくかのように、その邪悪の化身は、また新たなる技の数々を繰り出してきたのだ。


 環境生物の頭部を象っていた黒は、そこから四肢を生やしたり、頭部から拳の形をつくり上げたり。四肢から魚類の頭部や尾を生やしてみたり。その黒は、直にも一種のエネミーとして、その存在を成り立たせて戦闘に加えていく。

 ――この戦闘を土台に、天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)は更なる感覚を掴もうとしている。それは、『魔族』という種族が経験を得ている過程の目撃であり。これらによる様々な実験や実践を介して学ぶことにより、"ヤツら"は、『魔族』という種族は、一つの生態として今以上もの脅威を孕むこととなるだろう。


 ……それは、断じて食い止めなければならなかった。これ以上と"ヤツ"に悠長な行動を許してしまえば、この先にて相対する『魔族』の脅威に更なる拍車がかかりかねない。

 とはいえ、それではどういった手段であの脅威を食い止めるか。纏う暴風の防壁は、ユノ、ラ・テュリプ、ダークスネイク、トーポという熟練の猛者達が繰り出す攻撃を全て受け切ってしまう。そんな遥かな格差の格上を相手に、この主人公アレウスに成せる事など在りもしなかったのだ。



 …………いや、違う。

 たとえ、オレがどれほどと彼女ら、彼らに劣っていようとも。そんな主人公アレウス・ブレイヴァリーという存在には、強力な仲間達にも劣らぬ"勇気"がこの胸に宿っている――――




「ブレイブ・ソウル……ッ!!」


 あの仲間達に、あらゆる全てにおいて劣る自分などには何もできやしない?

 それは違う。たとえ、自身が、これまでと出会ってきた仲間達に、全てにおいて劣っていようとも。そんな仲間達にも成し得ることのできない、"とある能力"がこの身に存在している。


 ……何のために、その世界へ飛び込んだ?

 それは、その世界であれば、自分は輝けると。そんな、曖昧で、理想という空想に囚われた根拠の無い妄想のことを。予知にも近き、絶対的な確信として、揺ぎ無い想いとして捉えたからこそ。その世界へ入門し、経験を詰み、苦労に嘆き、悩み続けてを繰り返す。日々、己との戦いへと身を投じることを意味していた。


 その世界で悩むことができて、向上のための努力を積むことができる。その時点で、その世界に入門し、活躍することができるだけの能力が自身に備わっているのだ。それがたとえ、自身が周りよりも圧倒的に劣っていようとも。自身の無能さにうんざりし、周囲と比べて虚しさに苛まれる日々を送ろうとも。だが、その世界に入門し、努力を積むことができる。そこでやれる。自分は、そこで輝くことができる。精神的に疲労する毎日を過ごすその中で、だが、そんな根拠の無い確信に背を押されながら、前へ、前へ、真っ直ぐと前へ進むことができる。


 その世界であれば頑張れる。輝ける。そう思ったからこそ、その世界に……この、ゲームという世界に俺は入門し、恐れることもなく飛び込んだのだ――


「……行こう。俺の勇敢なる魂(ブレイブ・ソウル)。この世界で、俺は生きていくんだ。……このゲーム世界に、主人公として降り立った特異的な存在として。この、主人公という世界の総てを託されし、その世界の命運を定める影響力を引っ提げて。……この世界で、俺は主人公として生きていくんだ……! 俺は、この世界で生きるんだ……ッ!!」


 ここは、ありふれたゲームの世界の、ほんの一つにあたる。壮大且つ無限の可能性を秘めた、生命豊かな機械仕掛けの、生きる電脳空間。

 ここには、膨大な仲間達や敵が生きている。自分よりもずっと、ずっと先を往く生命達が、その世界の知識を、技術を、経験を、能力を秘めて生きている。


 今更、そんなずっと先を往く先人達に追い付くことなど、常人にはまず不可能に等しいのだ。その世界に降り立つべく降り立った天才を除き、今更とその世界へ降り立ち、生き抜くのは、どれほどの工夫を凝らそうとも、至難を極める。

 だが、そんな今更と、自身が生き抜くのも不可能であるその世界へ、恐れを知らずに、自らの意思で飛び込んだこの運命。それは、傍から見れば無謀と捉えられることだろう。だが……なぜか、そんな世界で上手くやっていける気がするのだ。上手くいくという理屈も無く、成功するという約束も無いその世界ではあるが。でも、なんだか上手くいくだろうと、直感としてそう思えてしまえて仕方が無いのだ。


 ……そして、今こそ、先を往く仲間達の背を追うように、自分というちっぽけな存在が水縹(みはなだ)の輝きを放つ時。

 自分にできることなんて、たかが知れていた。その知れている物事も、目の前の困難に敵いやしない。手詰まりだった。八方塞がりだった。無意味だった。無謀を極めていた。――だが、自分がこの世界に存在している以上は、自分にしか成せない、何か特異的なモノや事があるのだ。


 ……今、目の前の困難に、自分も、仲間達も躓いている。長年の、熟練の能力を持つ仲間達も、目の前の困難を突破することができずにいた。

 現存の能力では、目の前の困難は打ち破れなかった。で、あれば、次は現存に囚われない、このちっぽけな水縹が織り成す輝きを以ってして。自身の、未知なる可能性を示し、試す時だ――ッ!!




「ブレイブ・ソウル:ブレイクッッ!!!」


 水縹の輝きが全身に宿る。このために溜め込んできたゲージのほぼ全てを使い果たし、勇敢なる魂から能力を引き出す。

 宣言と共に、手に持つクリスタルブレードは水縹の淡い光源を宿した。エネルギーブレードの青白いそれとは異なり、水縹のそれを目にするだけで、勇気が滾り出す。


 見出した僅かな可能性に全てを懸けて。主人公アレウスは、エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼へと駆け出した。


 この前進を妨げる障害。邪悪なる力が生み出す黒の飛沫や魔の手、それに加えての漆黒の暴風が、この身を削り、この足を奪い、減少するHPに気力が削がれ、奪われた足がフラついて転びかける。……目の前の困難は、前を進む自身を拒んでくる。

 ――でも、そんな障害に妨害されようとも、この水縹の輝きは決して失せることがなかった。飛沫の爆発で吹き飛ばされて。暴風に流されて地面を転がろうとも。何度も何度も立ち上がり、再び駆け出して。転んでも、転んでも、再びと立ち上がってこの歩みを決して止めたりなどはしなかった。


 それどころか、水縹の輝きはより一層の光を帯び出した。自身が求めているのだ、この輝きのその先にもたらされる可能性を。それがたとえ、視界が霞み、真っ暗となる漆黒の暴風に遮られようとも。この輝きが示す道の先を、絶対に諦めたりなどはしなかった。


 困難という、黒き渦の中を進み続ける。弱まった水縹の輝きに、また強い光を宿す。

 ……直にも見えてきた、暴風の防壁。これを纏う"それ"は禍々しき漆黒の煌きを放ち、大切な仲間達を苦しめるのだ。


 "それ"を、この手で断ってみせる。悟られることもなく接近を果たし、この手に持つ水縹のクリスタルブレードを振り上げて。この輝きの如く強い想いを込めたそれに、全力を注ぎ。宣言した、ブレイブ・ソウル:ブレイクの一撃を、エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼へと全力で叩き込んだのだ――



 瞬間、"ヤツ"はこちらに気付いた。その際には咄嗟に警戒したようだが、こちらの姿を確認しては、捨て置くように視線を仲間達へと戻していく。

 ……油断をしたな。生憎だが、俺はこれでも、このゲーム世界の主人公なのだ。そんな、主人公という唯一無二の、運命を背負いし特異的な存在を無視した代償は、高くつくぞ。


 自ら晒してきた隙へと叩き込んだクリスタルブレード。水縹の加護を受けし一撃は、勇敢なる魂が織り成す唯一の効果を発揮する。



 暴風の防壁に、クリスタルブレードの剣先が食い込んだ。水縹の軌跡を描いて振り下ろされたそれは、双方共に抱きし確信に揺らぎを生じさせた。

 手に伝う振動。渦を巻く邪悪へと入れた手は、この両腕をミンチにするだろう衝撃を伝わせる。"ヤツ"からの拒絶に、言葉にもできない壮絶な苦痛を体験することとなったが。この水縹の輝きが照らす可能性を信じ、刃を入れたブレードをしっかりと握り締めて。光源を宿すブレードを、ゆっくり、ゆっくりと下ろしていく……。


 ――自身の異変に、エリアボスは思わずと振り向いてきた。咄嗟と振り返る行動を、気配の流れで察知する。

 だが、それが何だ。構わずに防壁をゆっくりと裂いていくその過程で、エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼は、驚愕交じりにそう叫び上げてきたのだ。


「ッッ??! ッな!! て、めェッ?!! こ、この荒ぶる暴風に、そんな、ちっぽけな剣を刺し込んでいる、だと……ォっ!!?」


 "ヤツ"もまた、それに絶対的な信頼を託していたらしい。

 防壁に剣を刺し込まれた。それは、信頼し切っていた、安心し切っていた側からの予期せぬ痛手であり。それは"ヤツ"としても、思わずと動揺を隠せなかったようだ。

 緊急の処置として、焦りのままに両翼をはためく。それと同時にして生成された闇の弾や魔の手がこちらへと襲い掛かってくるが、ここまで来た可能性に全てを委ね、主人公アレウスは気合いの叫びをあげながら。このブレードを……この世界の、あらゆる事象や効果を無効化にして断ち切ってしまうブレイブ・ソウル:ブレイクをぶちかましたのだ――



「ウ、オオオォォォォォォオオオオオオォォッッ!!!!」


 暴風の防壁に走る亀裂。風がピキピキと音を立て、この一撃を振り抜いたその瞬間。……渦巻いていた、困難という目の前の障壁が。これまでの仲間達の奮闘が嘘であるかのように、いとも容易くと弾け飛び、一気に飛散した――――



【~次回に続く~】

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