表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
313/368

エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼 ② 3568字

 皆に、成す術が無かった。それぞれが、それぞれの対応で精一杯で。"ヤツ"の暴風の防壁を打ち破るまでの状況にも持ち込めやしない。

 悲惨だった。ユノも、ラ・テュリプも、ダークスネイクも、トーポも、主人公アレウスも。上空の邪悪にほぼ一方的な戦闘を展開されて、ただ不利を押し付けられ、迫る邪悪の支配を迎えるしかなかったのだ。



 エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼は、こちらへのあらゆる対策を兼ねた上空からの攻撃でほぼ一方的な戦いを展開していた。


 降り注ぐ闇の弾は、発出されるごとに勢いを増していくばかり。どんどんと勢いが強くなる弾は、次第にも落下速度が速まり、数も更に増やし始める。"ヤツ"の調子が乗ってきたのだろうか。直にも、このステージの足場全てを、それら漆黒で埋め尽くされてしまいそうだ。


 飛散する黒の飛沫が、爆発を引き起こすようになった。新たなる要素であり、これまで人の形を保っていた際の攻撃であった飛沫の飛散が発生し、猛攻を防ぐ皆のHPを徐々に削り始めていく。

 非常に厄介だった。その飛散の爆発はあらゆる箇所で起こっているというのに、それを食らうと小さなやられモーションで仰け反ってしまい、ステージに留まらず、身体の自由までもが奪われてしまったのだ。


 ……幸いにも、HPの自動回復という運命からの賜物を授かっていたことで、皆の全滅を防げていた。ウェーブ四から急に発生したこの自動回復で、飛沫や闇の弾によるダメージも、大した問題ではなくなっていたものだ。

 しかし、依然として滞空する魔族ノ翼。上空という独壇場から一方的な攻撃を展開するその邪悪に、皆がもどかしく思っていたことだろう。


 ――この思いは、良くも悪くも、形となって舞い降りる。

 弾幕ではキリがないと判断したのか。その両翼を広げ出したエリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼は、自らが出んと言わんばかりに、突然と降下してきたのだ。

 黒のオーラを纏う魔族ノ翼。引き続いて周囲に生成される闇の弾は、モーションの変化に伴ってその形を変形させる。


 ……その形は、シカの頭か、トリの頭か。変形した闇の弾は、取り込んだのだろう環境生物の頭部と思われる形を模し。おぞましき要素を見せ付け、怯んだこちら側へと、生成した頭部の口から弾の発射を始め。皆の行動に制限を設けるその間にも、魔族ノ翼は地上すれすれの地点まで降りてきたのだ。


 この位置であれば、クリスタルブレードが届く……!!


「ブレードスキル:エネルギーブレード!!」


 またとないチャンスと見て、スキルを宣言して駆け出していく。――が、生成された頭部が、闇の弾を吐き出し、頭突きを行い、こちらの行動を邪魔してくる。

 そのために生み出したのだろう。より被弾のリスクが高まる地上戦に備え、自身を守る防御手段として生成された邪悪なる頭部に阻害されて思うように動けなかった。


 主人公アレウスが一人苦戦するその間、仲間達もまた"ヤツ"に苦戦を強いられる。ユノのジャンドゥーヤは、もどかしいあまりに悪魔的な咆哮を上げて怒り狂っていた。成せる限りの全力を以ってした漆黒と鮮紅の稲妻が、纏う暴風の防壁に遮断させられて一向にダメージを与えられないからだ。

 ラ・テュリプは、自身にこなせる攻めの手が尽きたのだろう。魔法使い系統であるトーポの護衛へと移り、彼が魔法を唱える支えとなっていた。ダークスネイクも、闇への耐性を持つという彼の大蛇が群れを形成して魔族ノ翼へと突撃するものの、"それ"の纏う黒のオーラが魔の手を象り、大蛇を端から鷲掴みにして悉くとあしらってしまう。それも、あろうことか召喚獣であるその大蛇さえも取り込まんと引っ張るのだ。


 召喚獣を想って群れを引き下げるダークスネイク。しかし、攻撃の手が止んだ魔族ノ翼はここぞとばかりにクチバシを広げ、口の中に蓄え始めたその闇を、間髪入れずに一気に解き放つ。

 それは、"ヤツ"の抱きし勝利への想いが込められたのだろう、真っ直ぐな闇の、妖しく鮮やかな漆黒の光線だった。僅かなチャージで放たれたそれは、ステージの端から端まで届く超広範囲の攻撃。ラ・テュリプやトーポ、ダークスネイクらがそれを回避する中で、光線がぐつぐつと泡立つと、その泡は環境生物の頭部となって回避後の皆へと襲い掛かる。


 隙の無いモーションの数々。あらゆる攻撃を遮断する暴風の防壁。破壊力が約束されし攻撃の威力。これまでもかと揃った要素を併せ持つエリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼。戦況を読み、優劣を考え。次なる行動として、その邪悪に唯一と対等に渡り合える条件が揃ったジャンドゥーヤに集中砲火を始め出した。

 渦巻く邪悪の螺旋を駆けるジャンドゥーヤ。魔獣はその巨体で、眼前から降り掛かる闇の弾、魔の手、光線。尽くせる技の全てが降り掛かる地獄を、悪魔の如き形相で、勇猛に突き進んでいく。……しかし、それがジャンドゥーヤであろうとも、いずれにせよ魔獣に限界が訪れるのも時間の問題だったことが見て取れた。



 ――目の前から襲い掛かる闇を斬り、刹那の自由を手にした主人公アレウス。ジャンドゥーヤに続いて、エネルギーブレードを再び宣言して駆け出して、こちらへとまるで目もくれない魔族ノ翼へと攻撃を仕掛けた。

 こちらの動きは悟られていなかった。一人、陰となって行動していたこちらの行動は、"ヤツ"の不意を突くに十分な状況が作られていて。今までまるで届きなどしなかったこの剣が、今は嘘のようにいとも容易く届けることができたのだ。


 "ヤツ"を守る暴風の防壁に、エネルギーブレードの一撃が直撃する。

 ……だが、この一撃も、敢え無くと弾かれてしまった。その上に、攻撃を行っても尚、"ヤツ"の視線はジャンドゥーヤへと向けられたまま。主人公アレウスは敵ではないと断言するその様子に、己の無力さを改めて思い知らされる。


 巡る感情に悲愴を抱き。次の時にも、目の前で起きた黒の飛沫の爆発によって吹き飛ばされるこの身体。暴風に流されて地面を転がり、主人公が立ち上がれずにいるモーションを行うその中で。邪悪に染まる、おどろおどろしい音を響かせて。エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼が喋り始めた。


「ッハ!! 所詮は単調。決まった行動しか行えないお堅い頭の人類共。っつぅところかァッ!!? "てめェら"には柔軟性が足りないんだよォ!! 周囲の環境を利用したこのオレのようなァ!? 発想のォ!! 頭のォ!! 柔軟性。が、なァッ!!! "てめェら"が勝利の余韻に浸るその間にもよォ。オレら『魔族』は必死こいて頭を働かせて生きる術を編み出してきたもんだ!! これらも全てェ、"てめェら"が撒いた災厄の種なんだぜェ!!? ったく、ざまァねェな人類~!! 単なる自業自得に業を煮やすかッ!? ――ふざけんじゃねェ!! 腸が煮えくり返ってんのは、"こちら"の方ってんだよォッ!!! 復讐を掲げた怒涛の快進撃。この『魔族』に喧嘩を吹っ掛けてきたのも、元は"てめェら"なんだよ!! 無様だなァ人類!! 『魔族』という悪者を仕立て上げて満足か!? だったら、"自身ら"が正義だと言わんばかりに独裁を振るってきたこれまでのツケを、そろそろ払ってもらおうじゃァねェかァ!!? あァ!!?」


 『魔族』という存在の歴史は、人間の手元には僅かとしか残されていなかった。しかし、これまでと"ヤツら"が口にしてきたそれらの言葉から鑑みて。どうやら、人間側の知らぬ実態が、"ヤツら"の常識となって存在しているようだ。


 ……未だ解明されない真実。『魔族』の中に存在するそれは、このゲーム世界の攻略にあたって重要ともなるだろう、壮絶な過去が隠されているのか。

 『魔族』という種族の。人間や動物、モンスターと同じくしてその生命を宿す"彼ら"の口ぶりは。単なるエネミーとして片付けられるほどの、ただ立ち塞がって倒されるだけの存在ではないということだろうか。


 互いに退けぬ理由を掲げたこの戦い。それは、その種族がこの先の未来を決定付けるとも言える。この先にも繰り広げられるだろう戦争の流れを作り出す、互いにとって負けられない初戦であるということ。


 だからこそ、ただ一人となってしまった天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)は、『魔族』としての誇りを掲げて、たった独りで戦っているのだ。

 彼も、負けるわけにはいかない大切な理由を秘めていることだろう。……そう。これは、目の前の敵を、ただの、出現したボスとして片付けられるほどの、至って単純明快な物事ではなかったのだ。



 これは、互いの誇りを賭けた戦い。これは、互いの存在証明を賭けた、命懸けの戦い。


 ……これは、このゲーム世界に仇なす『魔族』もまた。そのゲームに登場する、敵というNPCもまた、主人公やその仲間達と同様に生きているのだというゲーム世界からのメッセージだったのかもしれない――――



【~次回に続く~】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ