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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
312/368

エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼 ① 3956字

 取り込んだ生命によって巨大化した漆黒の繭。それを食い破るように邪悪なる両翼が出現し、その侵蝕を再開した。



 翼を模したそれは繭を粉砕。崩れ散る漆黒から現れたのは、一匹の、邪悪に塗れし巨大な生命体。その身体は、キツネやシカを思わせる、四肢動物の形を。前足には、クマの如き鋭い鉤爪が。後ろ足は、ウサギのよう機動力に優れた形に。伸びる首の、その先の。頭は、生命を啄ばむクチバシがトレードマークである鳥の形を成しており。そして、尻尾には、数十もの魚が融合したのだろう、泳ぐよううねる部位が形成されていた。


 はためく両翼からは、呻くよう響く人間の声が、取り込まれた生命達の嘆きとして奏でられる。だが、それらは取り込んだドラゴン・ストームの暴風によって、虚しくと掻き消されてしまい。その命の儚さを思い知らされる。


 ドラゴン・ストームが引き起こす暴風が、この地に吹き荒れた。視界が遮られ、視界不良となったステージのギミックに怯むその中。ドラゴン・ストームの暴風を我が物とした禍々しき生物は、その猛る風を纏い出し、飛翔を始める。

 翼が羽ばたく。あらゆる生命によって形成された漆黒の体を持ち上げて、更なるおぞましき能力を見せ付けてきた天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)は、滞空する状態で、身に暴風を纏う状態で、次なる戦闘態勢へと移行したのだ――



 吹き荒れる暴風は風国の陣営に多大な不利をもたらした。弓を主力とするラ・テュリプは、訪れた暴風に二本のダガーへと持ち替えて。強風で遮られた視界に、トーポは魔法を展開しようにも魔法陣が掻き消されてしまい、魔法の召喚もままならないようだ。

 更に、先の天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)の情報がそのまま引き継がれているのであれば。恐らく、"ヤツ"にはあらゆる状態異常に耐性がついている。ダークスネイクもまた、猛毒という状態異常をメインウェポンとしているため、毒が意味を成さないという自身の能力の完封に、不安げな表情を見せながら魔法陣を宿す両腕を構えていく。


 主人公アレウスに関しては、もはや言わずもがな。吹き荒れる暴風以前に、飛翔する"ヤツ"にこのクリスタルブレードは届きもしない。成す術が皆無だった。

 皆が"ヤツ"に不利である中、唯一と対抗する力を持つユノ。彼女は先制して走り出し、彼女は呼び掛けると共に、右手の甲に宿る魔法陣からジャンドゥーヤを召喚する。


 召喚され、その悪魔的な風貌で宙を駆けるジャンドゥーヤ。彼女の指示を受けて、その魔獣は漆黒と鮮紅の光を迸らせ、攻撃を仕掛け始めた。



召喚(モン・パルト)(ネール)黒き獣(『ジャンドゥーヤ』)ッ!! 召喚士スキル:黒き(エクレール・ド)稲妻(ゥ・パルトネール)ッ!!」


 ユノの行動が、皆の行動の引き金となった。

 ジャンドゥーヤに合わせて、ラ・テュリプも二刀流のダガーを携えて駆け出す。ダークスネイクもやけくそ気味に両腕の魔法陣から大蛇を召喚し操り出す。


 それらに合わせて、こちらもまた走り出すのだが。如何せん、やはり上空を滞空する"ヤツ"にこの攻撃などは届かないわけで、走り出したところでと言った具合に、ただ上を見上げることしかできずにいた。

 ……俺にできることは一体なんなのか。それに頭を悩ませる中で、この懐から、球形の妖精姿であるミントが現れる。


 少女の報告。まずは情報を得ることを先決するべきか。それを思い、少女の報告へと耳を傾けた。



「スキャンを完了いたしました。ご主人様! 眼前にて新たに立ち塞がりし敵勢力の分析が完了いたしました。ただいま、こちらの分析結果をご報告いたします! ――今現在とその闇を解き放ち、漆黒の暴風を引き起こす新たな敵勢力。その名は、『エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼』。それは、潜在能力を解放した、『魔族』であり、NPCでもある天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)の、真なる力を以ってして覚醒した第二の姿であると言えるでしょう! そのエネミーは、その外見に匹敵する邪悪なる力を有しており。その例として、暴風による行動の妨害、邪悪なる能力が生み出す広範囲且つ強力な攻撃からなる猛撃の数々。多人数を想定した新たなエネミーのステータスは、ご主人様の手に負えない、遥か格上となるレベル差を誇る重度の危険度を孕んだ存在であることは、既にお気付きになされていることと思われます。……エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼の攻撃パターンを解説します。まず、こちらのエリアボスは、その地域の周辺に展開された環境によって能力が変化いたします。それと相対したフィールドによって、用いる攻撃パターンや属性が変化いたします。今回のフィールド:風国におけるこちらのエリアボスは、拠点エリア:風国、フィールド:デスティーノ・スコッレと風走る渓流に生息する生態系から取り込んだ生命エネルギーを主力とするため。まず一段と際立つそれの特徴として、かのドラゴン・ストームを取り込みし暴風であることが一目瞭然でございますね。その両翼に取り込みしドラゴン・ストームの発生させる暴風から、生命エネルギーが成す環境生物を模した図体。元の属性である闇属性に、風国の環境から取り込んだ風属性が新たに追加されております。そして、今回のエリアボスの一番とされる特徴は……その暴風から生成された、邪悪なる図体をあらゆる攻撃から守る暴風の防壁。こちらの防壁が存在する限り、エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼に直接的なダメージを与えることが不可能とされております。こちらの防壁は、微かに飛び出した両翼の破壊によって弱体化を図ることができるため。こちらの両翼の破壊を優先することが、エリアボスの突破に必要不可欠な手段となることでしょう。尤も、ここは自由なゲーム世界。あらゆる可能性が許されたこの世界におきまして、無限の可能性が用意されております。ご主人様の工夫次第により、新たなる突破方法が見出されることでしょう」


 一目瞭然。トーポも言っていたように、相対するエリアボスはこの主人公アレウスにはまだ早い、本来ならば挑むべきではなかった大ボス。

 エリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼。名前の通りに、"それ"は『魔族』である天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)の、解放されし真なる能力によって覚醒した、その場でその姿を変える第二の天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)。……生命を喰らい、そのエネルギーを我が物として利用する。その場に適応し、その場の特色を得てパワーアップした"ヤツ"の適応力には、目を見張るものがあった。が、こうして疾風吹き荒れる地に適応されてしまったばかりは、風国陣営の運の尽きとも言うべき、厄介極まりないパワーアップであったことに違いないだろう。


 ……なにせ、神聖なる風として敬っていたその自然によって、風国は更なる危機に貶められたのだから――



「ハッハハハッ!!! 人類共!! その程度の力でェ、このオレに敵うとでも思っているのかァァアアアアァァァァァッッ!!?」


 暴風に乗り、滞空するエリアボス:生命ヲ蝕ム魔族ノ翼が喋り出す。攻撃モーションの合図でもあるのだろうセリフが響き、颯爽と滑空を始めた魔族ノ翼。それは、前方から迸るジャンドゥーヤの稲妻へと真っ向にぶつかっていくと。なんと、その稲妻を強引にも打ち破って突き抜けてきたのだ。


 幾度となく目撃してきた、漆黒と鮮紅の稲妻の破壊力。その力が破られる光景だなんて想像もつかなくて。だからこそ、それの目撃に、ひどいショックを受けたものだ。


 ――それも全て、"ヤツ"が身に纏うドラゴン・ストームの暴風の防壁による影響か。どんな攻撃も防いでしまう最強の風を纏った"ヤツ"の脅威は、とんだ凄まじく衝撃的な現実を見せ付けたらしい。


 ユノは、焦りを見せていた。自身の攻撃を打ち破られ、こちらの攻撃がまるで効果を成さない場面との遭遇に動揺が隠せずにいた。

 力の格差を見せつけたエリアボス。同時にして、取り込んだ生命エネルギーの披露といった具合に闇が生み出され。膨大な闇属性のエネルギーが宙に漂い出すと、それは渦を巻き始め、竜巻を模したのだろう膨大な闇の渦が皆のもとへと襲い掛かる。


 降り掛かった闇を皆は回避する。だが、その着弾点に生成された闇の渦の設置に、これは、暴風に重ねるよう設置されたステージのギミックであることに気付かされる。……その攻撃は、避けるだけ自身らを更なる危機へと貶める、罠でもあった。


 次々と放たれ、設置されていく闇の渦。これ以上と設置されると甚大な被害が免れないため、それを打ち消すために皆が対応にあたる。が、そんな闇への対処へとあたる皆を狙い撃つかのように始まった闇のエネルギー放出。おどろおどろしい輝きが天に走ると、闇の弾が熱を帯びてステージへと降り注ぎ始める。

 上空からの猛攻に、行動を制限されてしまう仲間達。主人公アレウスも、襲い掛かる闇をクリスタルブレードで防いでいくものの。弾く度に発生する闇の炎がこの身を燃やし、微々たるダメージを負わせてくるのだ。


 このステージは、瞬く間に邪悪に染まった。漆黒の暴風が占領し。数多の邪悪の渦が設置され。降り注ぐ闇のエネルギーによって一帯は燃やし尽くされる。

 ……ここは、地獄だった。目前となった勝利は霧に覆われて。暗雲立ち込め始めたその展開に、射した希望の光を見失う。


 皆に、成す術が無かった。それぞれが、それぞれの対応で精一杯で。"ヤツ"の暴風の防壁を打ち破るまでの状況にも持ち込めやしない。

 悲惨だった。ユノも、ラ・テュリプも、ダークスネイクも、トーポも、主人公アレウスも。上空の邪悪にほぼ一方的な戦闘を展開されて、ただ不利を押し付けられ、迫る邪悪の支配を迎えるしかなかったのだ――――



【~次回に続く~】

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