表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
311/368

立ち向かう覚悟を抱いて―― 5220字

 自身が飲み込まれる。自身らが、"ヤツ"の一部となってしまう。それがいくら熟練の腕を持つ者であろうとも、内なる狂気に抗うなど不可抗力に等しい。

 ――怖かった。精神を蝕まれ往く感覚に、眼前の邪悪に内側から飲み込まれ往く実感に、更なる侵蝕が進む。……その中、見当が皆無でありながらも、この状況の打破へと踏み込んだトーポ。屈強な精神力を兼ね揃えた彼は、魔法を召喚する詠唱を唱え始めて光を纏い出す。


 そして、彼の、この地を想う最善の指示が出される――




「――ただ、今の状況で行うべき事柄はただ一つ。それは、この状況においては最も明確であり、これを成さなければ、我々に明日は無い。なに、これは簡単な言葉であって、とても難しいこと。……今、その瞳で見据える目の前の闇を滅さなければ。護るべきで取り戻すべきこの神聖なる疾風の地が、我々を迎える冥界の浄土へと化してしまう。それだけは御免だね。だから……相手が素性不明の未知なる輩であろうとも、我々はこの戦いに、負けるわけにはいかないのだ!!」


 唱え終えると同時にして、彼を中心にして展開された光の輪。それは神聖なる輝きに満ちる領域を生み出し、先の書物で生成していた防壁を再びと作り上げていく。

 再度と張り巡らされた防壁。それによって魔の手を防ぐその間にも、トーポはこの地で戦闘態勢を構える各それぞれの存在へと、指示を下し出す。


「支援兵の諸君は、直ちにこの場からの撤退を指示する! 君達のように、数を成して一つの力となる、大人数を形成してようやくと一つとなる精鋭は、このような不足の事態に対してとても脆い。君達をこれ以上と失うわけにはいかないからね。まずは、僕が手放してしまったあの書物を探し出して拾い上げ、それを所持する者を中心に置いた一つの団体を作り上げて行動してくれ。その書物には、魔の手を生み出す闇属性そのものに対しての、対闇属性特化型とも言えるべき強力な光属性を付与してある。その対闇属性に特化した書物は、広範囲に渡って君達の加護となる光を生み出すだろう。それを用いて、この高台からの撤退。そして、魔の手の勢いが緩んだその隙を見て、地上に残る生存者や、儚くも散っていった仲間達の捜索と保護、回収へと務めてほしい! ー―なに? 僕の指示には聞けない? 僕には、君らを従える権利が無いだと? では、君らの司令塔へ、非道のトーポと名乗る不逞の男から指示を受けたと報告してくれ。きっと、その司令塔はゴーサインを出すだろうね。ふふふっ」


 不測の事態の中、忠義に忠実である騎士を説得して言い聞かせたトーポ。ただちに彼の指示を遂行するべく動き出した騎士の皆は、トーポの指示通りに落ちた書物を拾うべく、この場からの撤退を行っていく。

 次に、トーポは残った仲間達、ユノ、ラ・テュリプ、ダークスネイク、主人公アレウスへと喋り始める。


「……次に、テュリプ・ルージュ。君はこの地に残り、この僕と共に、目の前で蔓延る"ヤツ"への対応に務めてもらうとでもしよう。そして、ダークスネイク。君の能力もまた、あの魔の手に抗うことのできる耐性を持っている。今、この場にて、君には十分な利用価値があるね。これもまた契約だ。引き続いて、目の前の出来事に対応してもらうよ。それで、ユノちゃん。外部からの干渉という形で参加する君には、この地からの避難という最有力な選択肢が用意されているものだが……まぁ、その目を見る限りは、とてもその選択肢を選ぶとは思えないね。――ごめんね。こんなにも大変なことを君のような、純粋に冒険を楽しむ、人生を謳歌する者に任せてしまうだなんて。これからも、よろしく頼むよ。……さて」


 仲間達もまた、彼からの指示や問い掛けに対して、頷きや了承の合図で応えていく中。……ふと、間を空けてから、トーポはこちらへとそう尋ね掛けてきたのだ。


「……アレウス・ブレイヴァリー。君にもまた、この地からの避難という最有力な選択肢が用意されているものだが。果たして、君の意向は如何なものか。念のために聞かせ願いたい」


 穏やかな表情とは裏腹の、鋭く投げ掛けられたその言葉。

 周りの皆へと指示してきた声音よりも鋭利であり、この声音に含まれた真剣な響きから。……どうやら、これから画面上に現れる選択肢こそが。この先のストーリー展開に深く関わってくる、所謂、分岐点である運命の選択肢であることに気付かされる。


 ……この間にも、光の領域を侵蝕せんと防壁にへばり付き、その手形を残していく魔の手の襲撃。それらを生成するエリアボス:天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)もまた、広範囲にも渡る地域から様々な生命を取り込み続けており。その身体が、目に見えるほど肥大している。

 漆黒の身体は、無残にも取り込まれ往く生命で着実と巨大化していき。これ以上に大きくなりでもしたら、それこそ人の原型を留めない、新たな怪物へと変貌し、新たなる脅威となって皆の前に再び立ち塞がることだろう。


 ――ここが、ストーリーの分岐点。

 はい、か。いいえ、の選択でフラグが立ち上がり、きっとこの場の皆の命運が定まるのだ。


 ……尤も、この、主人公アレウス・ブレイヴァリーという存在が死んでしまったら、それこそこのゲーム世界の最期となる。……しかし、これまでの流れから鑑みても、今この場から背を向けて逃げ出すという選択肢を選ぶことなどは、この俺にはとてもできやしなかった。



「……俺も戦います。オーナー、トーポ。……ユノ。ルージュシェフ。スネイク。――ミント。俺も、この地で皆と共に戦います」


「そうかい」


 分岐点から枝分かれしたストーリー展開。分岐した選択肢を選び終え、枝分かれしたルートの片側を辿り、この物語のストーリーが今、選択されし未来へと進み始める。


 そして、物語の進行に応じて。目の前の光景もまた、変化する――――




 天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)が放つ闇の能力は、漆黒に染まる一つの繭を作り上げた。その中に包まれた"彼"の身体は、もう見えやしない。

 その繭に集合するかの如く、一気に集束を始めた魔の手。そのそれぞれにも生物が鷲掴みとされており、数多の環境生物や生態系が、闇の繭へと無残に取り込まれていく。


 取り込んだ生命力により、着実と繭を大きくさせる天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)。闇に埋もれしその姿があるだろう位置を見据えながら、NPC:トーポ・ディ・ビブリオテーカは穏やかにそう言ったのだ。


「……了承は承るけれども、生憎と、後悔は承らないからね。アレウス・ブレイヴァリー。正直、これは、君にはまだ早すぎるステージだ。この地に残るとなれば、まず真っ先と生命を刈り取られるのは間違いなく君となるだろうね。君は、絶好の餌に過ぎないのさ。君には、あの脅威に立ち向かう経験値さえ備わっていないのさ。……それでもここに残るとはね、全く。この僕から言わせてもらうと……君は実に愚かであり、先見も持たぬ実に馬鹿な人間さ。――ッフフフ。ッフッハハハ。でもね、君に限ってはなんだかね、そうではない気がしてくるんだよね。その性質は、目の前の光景へと使命感のみで突っ走る、後先考えないまるで無計画な人間であり。だが、君のような資質を持つ人間の場合は……君の中で溢れる水縹(みはなだ)が、その愚かな使命感に可能性を見出さんと輝きを放っている気がするんだ。僕が何を言いたいのか。それはね……絶望を希望へと塗り替えんと奮闘する、もがき足掻く君の愚かな姿が全くもって理解できなくて。そんな君の、もがき足掻く愚かなる行動によって形成された、その、アレウス・ブレイヴァリーという未知なる存在感が……何故だか、とても好感を持ててしまえる部類のものであるということ。君は、ただの取り繕った頑張り屋ではないような。君は、ただの無計画で無鉄砲な愚かしい人間ではないような。僕には判る気がするんだよね。……君が、この窮地を救ってくれる救世主。君という存在が、この戦いにおけるヒーロー。英雄。"主人公"。で、あることが、ね」


 セリフを終わると共に、ゆっくりと歩き出したトーポ。

 彼に続き、NPC:ラ・テュリプ・ルージェスト・トンベ・アムルーも弓を携えて歩き出し。彼女に続いて、NPC:ユノ・エクレールも右手の甲に魔法陣を浮かべて歩き出す。

 三人の背に続くよう、NPC:アイアム・ア・ダークスネイクもまた大袈裟に両腕を振るいながら禍々しいポージングを決めて歩き出し。……そして、クリスタルブレードを握り締め、覚悟と勇気に満たされた主人公アレウス・ブレイヴァリーもまた、皆に続いて歩を進め出した。



 邪悪を浄化する光の領域は、その使命を果たしたかの如く四散する。


 ――目の前には、巨大化した漆黒の繭が渦を巻き。それは少しして、その立派な漆黒を食い破るかのよう、両翼と思われる部位が飛び出してきた。

 その闇は、鳥の形を模した巨大な翼。繭を粉砕し、中から姿を現したのは、一匹の巨大な生命体。その図体はキツネやシカのような四足動物の形を。前足は、クマのような鋭い鉤爪を。後ろ足は、ウサギのよう機動力に優れた形を形成しており。伸びた首の先、頭はクチバシが目立つ鳥の形を成し。尻尾には、数十もの魚を融合して形成させた、泳ぐよううねり続ける部位があった。


 鳥の如き翼が羽ばたくと、その効果音として人間の声が聞こえてくる。その音は、嘆きと思われる哀しき響きだった。

 その翼から、食い破るよう内側から飛び出してきた複数もの魔の手。それらは周辺の地域へと伸び、とある生物を鷲掴みにして引き戻される。


 ……鷲掴みにされていたのは、二匹のドラゴン・ストームだった。

 以前、ミズキと共に戦闘へと臨んだ、竜巻を操る非常に強力なエリアボス。暴風を発生させ、行動に制限を設けてくるトラップを振り撒く存在でもあることから、それがこの場にも持ち出されたことにより、瞬間にも高台には、力強い暴風が流れ出したのだ。


 目の前さえもハッキリと見えやしないこの視界。そして、暴風を呼び込む二匹のドラゴン・ストームを翼へと取り込んだ禍々しき生物は、あろうことか、その暴風を自身に纏い出して飛翔を始め出す。

 翼をはためかせ、あらゆる生命を取り込み融合させた漆黒の身体を持ち上げながら。その部位のどこからか、邪悪に塗れておどろどおろしい音を大気に震わせるよう放たれた天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)の声。


「ッづァァァアアアアアアァァァッ!!! これがァ……これがァ……これがァ!!! このオレのォ!! 禁忌とされてきたオレの才能を全開としたァ、このオレのォ、究極の本気ィィィッ!!! ッうっぷ。このオレにも相当な負担の掛かる能力だがァ。てめェら人類を滅ぼすには、手に余るほどの戦闘力を持つこの形態はァ。我ながら『魔族』の最先端を往くゥ、スタイリッシュ且つバイオレンスに進化した能力だと自負できるもんだぜェ……!!! ――わざわざ禁忌までを引っ張り出してきたんだ。ここまで来たらよォ……この地もろとも"てめェら"全員お陀仏にしてェ。憎き人類共が眠りし、環境に恵まれた自然溢れる大規模な墓地とされる、我々『魔族』の、人類を討ち破りし特別記念地という栄誉ある聖なる地へと整地してやるぜェェェェエッ!!!!」


 暴風を解き放ち、戦闘態勢へと移行したのだろう天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)

 新たな姿となって再び立ち塞がった"彼"と相対して。こちらもまた、トーポを先頭にして、彼の左隣にラ・テュリプ。彼の右隣にユノ。ラ・テュリプの左隣にダークスネイクが。そして、ユノの右隣に主人公アレウスが列を成して並び。一堂が揃うと共に、トーポの掛け声が響き渡る。


「これから先に控えているのは、今までに類を見ない、未知なる事象との遭遇だ。情報無き事象は、重度の危険を伴う。君達に、これを分析し解析し解明する勇敢なる覚悟が備わっているだろうか? フフッ。野暮な問い掛けだね。何せ、皆はこの僕がわざわざ選抜した者達なのだ。むしろ、僕の瞳に映る彼らの姿に、それほどの覚悟を持たぬ者など存在しないのだからね。君達には期待をしているし。僕もまた、この老いかけの身体で成せる役割をこなすつもりでいる。……これから先にも展開される戦闘は、皆の覚悟が道を切り開く、皆の役割があってこその内容となるだろう。なに、心配することなどない。皆は、自身が行うべきだと思った、臨機応変な対応を実行すればいいだけのことさ。――覚悟を備え、風の都に集いし猛者達よ。今こそ、我こそがと自身の使命を発揮する時。さぁ、行こうか。この地における、最後の戦いへと臨んでいこうではないか」


 NPC:トーポ・ディ・ビブリオテーカのセリフをキッカケとして。眼前にて滞空する新たなる邪悪へと、皆は一斉に構えていく。

 ……そして、この時を以って。フィールド:風国による最終決戦が今、開幕した――――



【~次回に続く~】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ