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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
310/368

正気と狂気の狭間で―― 2956字

 手を形成した邪悪なる力が織り成す、一帯の生命を引き摺り込み、闇へと取り込んでいく眼前の光景。それは、そこがゲーム世界であろうとも。この主人公の目には、この世のものとは思えぬおぞましき現象として映っていたものだ。

 禍々しくおぞましき光景を前にして、本能の危険信号が激しくと訴え掛けてくる。……絶対的な脅威との遭遇に、その危険信号は心臓の鼓動となって、どくどくと鳴り響き続けていた…………。




 現状、目の前のそれを防ぐ手は皆無であった。無差別に鷲掴み、自らへと取り込む闇への抗いが精一杯である風国の勢力。その光景に段々と募り始めた不安が、皆の感情に恐怖を蓄積していったことだろう。


 ――後方から、一人の男性の声が響いてきた。この状況に関わらず、落ち着きのある声音でそれを投げ掛けられる。……声の主は、NPC:トーポ・ディ・ビブリオテーカだった。


「やれやれ。次々と厄介事を招いてくれるものだね。先までの所業に留まらず、"ヤツら"はこの風国をこれ以上と痛め付け、破滅への危機へ貶めるときたものだ。そんな、無謀で愚かな邪悪の化身は、さぞ制裁の名の下にて行われる耐え難き尋問の日々が待ち遠しいみたいだね。……堪忍袋には柔軟性があると自負していた僕だけども。でも、こんな汚くて汚らわしくて、ドス黒く満ちた漆黒の意思を目にしてしまっては~。その、賞賛にも値する力強き信念を挫きたくてへし折ってやりたくて、砕いて潰して畑の肥料にしてやりたくて仕方が無くなるんだ。――君らは、"彼"を許せるかい? 君らは、"ヤツら"を許せるかい? 許せるハズがないだろう? な? だったら~、僕らの答えはただ一つだね。それは、"ヤツら"にそれ相応となる報いを受けてもらうこと、だ」


 悠々と歩いてくるトーポ。穏やかな調子で物騒な言葉の数々を口にするその様子は相変わらずとして、眼鏡を直す仕草を交えながらやってきた彼との合流を果たす。


 ――前方では、勢いを緩めることなく、このフィールド:風国よりもその向こうを往く広範囲の地帯へと伸びる闇が展開され続けていく。この地域に存在する総ての生命を取り込まんと蔓延る魔の手は、着々と中心にてうずくまる"彼"へと生命を掻き集め。その闇は、フィールド:デスティーノ・スコッレと風走る渓流の環境生物を鷲掴みにして、自身への吸収を続けていく。


 その光景を前に、ラ・テュリプやユノ、ダークスネイクがトーポのもとへと集まる。……皆、この状況に手詰まりなのだ。成す術も無い、危機的な状況と出くわして。その策を乞うために、尋常ならざる雰囲気を醸し出すトーポへと、すがり付くよう皆は頼り出すというもの。

 そんなトーポもまた、周囲の状況を見渡し、呆れ気味にため息をついてから。気だるげに、そう喋り出した。


「まずは、開戦からこの時まで、風国のために命を賭してまで力を振るってくれた君達には礼を言わなければならないね。……いいや、礼と言うには浅はか過ぎたか。これは、我が生涯に残る恩賜と言っても過言ではない。この地を命懸けで護ってくれた皆に、僕は今成せる限りの感謝を表明し、形にしたい気持ちで山々なんだ。……みんな、本当にありがとう。この、風国という疾風と共に歩む地を『魔族』から護ってくれることに、僕は死しても尚報いることなどのできない謝意がこの胸に溢れ返っている。――しかし、それらも全て、この戦にて勝利を掲げてから。それでいて、僕がこの感謝を皆に表明することができるのも、全てはこの戦にて掲げた勝利の旗印があってこそ。この戦いには、負けてなどいられないのだよ。僕にとっても。皆にとっても。そして……この、風国という地にとっても。ね」


 どこからか取り出した、一冊の分厚い書物。それを右手で持ち上げて、適当に開かれてページがめくられる。

 ……自然とページがめくれていくその書物。勝手に動き出し始めたそれは、光る黄の魔法陣に包まれて。それが発光すると同時にして、この周囲に数え切れないほどの魔法陣が現れ出す。そして、現れた魔法陣に皆が確認の視線を向けると。それらが光を放ち、こちらへと伸びてきていた魔の手を、浄化するかのよう悉く蹴散らし始めたのだ。


 黄の光源に包まれた、浄化の空間。書物を持つトーポを中心として、彼のもとへと集まった面子を眺めてから、ラ・テュリプが喋り出す。


「トーポさん……!! 現状、あの闇に塗れし邪悪なる力を突破し、何かしらの思惑を着実と進行させる『魔族』の"彼"を鎮圧させる策が、まるで皆目見当も付きません……ッ!! あたし達は一体どうすればよいのでしょうか!? ッこのテュリプ・ルージュ。皆を勝利へと導く司令塔に任命されながらも、想定外の事態を前に及ばぬ実力が、ただ無念極まりないばかりです……!!」


 焦りを隠せないラ・テュリプ。彼女の慌てふためいた様子に、まぁまぁとジェスチャーを送りながら落ち着きを払った調子でトーポはそう返していく。


「まぁ、それがテュリプ・ルージュでなかろうとも、この状況では、皆が口を揃えて同じ嘆きを訴え掛けることだろうね。現にも、君と似た立場である僕も、この状況を打破する解決策がまるで思い浮かびやしない。つまり、その無念は君に限ったことではないんだ」


「…………?」


 返ってきた言葉に呆然とするラ・テュリプへと、トーポは穏やかに続けていく。


「正直、この状況はすこぶる好ましくない。何せ、僕も含めて、目の前の異常事態への対応を心得る者や手段が皆無なのだからね。今、こうして前方の魔の手を防ぐことだけで、僕は手一杯なんだ。――あぁ、これは今、あまり口にするべきものではなかったね。でも、それをうっかりと口走ってしまうくらい、今の僕にもまるで余裕が無いということなんだよね」


 瞬間、バチンと何かの効果音と共に、手に持つ書物が弾け飛んだ。

 彼の手から離れた書物は疾風に流され、消えてしまい。……それに伴い、皆を護る光の防壁に、亀裂が入り始める――



 神聖なる光の亀裂から飛び出してきた魔の手。這い寄る邪悪に破られ、侵蝕され、眼前の生命を求めて再びとその侵略を開始していく。

 それに対応するため、すぐさまと魔の手への攻撃を再開したラ・テュリプ、ユノ、ダークスネイク、主人公アレウスは、目の前のどうすることもできやしない漆黒の力に恐怖を覚えながら、それらの対処へとあたることとなった。


 ……感情を押し殺そうにも、迫り来るそれらを前に、本能の危険信号を抑えることもままならず。生命に飢えし、手招きと空を握り締める不気味な魔の手の動きが、この、内なる正気に精神的なダメージを与え続けていくのだ。こんな光景を、これ以上と見せられた日には……恐らく、狂気に飲み込まれ自我を失ってしまうことだろう。


 怖かった。自身が飲み込まれる。自身らが、"ヤツ"の一部となってしまう。それがいくら熟練の腕を持つ者であろうとも、内なる狂気に抗うなど不可抗力に等しい。精神を蝕まれ往く感覚に、眼前の邪悪に内側から飲み込まれ往く実感に、更なる侵蝕が進む中。……見当が皆無でありながらも、この状況の打破へと踏み込んだトーポ。屈強な精神力を兼ね揃え、唱え始めて再び光を纏い出した彼の指示と。眼前にて生命を蝕む邪悪なる化身の咆哮が今、同時としてこの場に響き出す――――



【~次回に続く~】

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