エリアボス:天叢雲剣 ④ 5474字
手に持つクリスタルブレードを握り締めて、ダークスネイクのもとへと全力で走る。
その間にも、眼前からはエリアボス:天叢雲剣が振るう異常な発達を遂げた伸縮自在の両腕が襲い掛かり。それに連動して振り撒かれる黒の飛沫からの猛攻もまた、なんとか掻い潜りながら着実とダークスネイクへと近付いていくのだが。……ダークスネイクに私怨を持つエリアボスは、未だとその標的を彼へと定めて猛攻を繰り広げ続けていく。
「てめェェェェェェェエッ!!! 何が傭兵だァ!? 何が契約だァ!? 何が信念だよこのクソ野郎ォォォォォォオオオオオォッ!!! 元はと言えばなァァ!! てめェが裏切りさえしなければ、"オレら"は今も風国を支配下に置いて、約束されし平穏で皆と笑い合っていたハズだったんだよォォォォォオッ!!! それなのに……それなのに!! てめェが"オレら"から平穏を奪い去りやがってェッッ!!! ふざけんじゃねェぞォォッ!!!」
怒りの頂点に達した天叢雲剣は、その伸縮自在の邪悪なる両腕で周囲の大蛇を全て一掃してしまい。魔法陣へと帰す相棒を見送り、この空間における自身の攻撃手段を全て失ってしまったダークスネイクが見せたその切羽詰った表情から、とうとう彼に限界が訪れたことを察することができた。
それを好機と見て、一気に両腕を伸ばし殴り掛かる天叢雲剣。瞬く間と伸び切る素早い動作に辛うじてついていくダークスネイクだが、眼前から襲い掛かる猛攻を前にして苦戦を強いられるばかり。
振るわれる両腕から飛散する黒の飛沫もまた、ダークスネイクへと集中的に飛び掛かるようになり。そこから現れる漆黒の腕も彼へと突出していく。
いよいよもって彼が袋小路となった集中砲火。彼を窮地から救うべくとようやく接近を果たした主人公アレウスは、クリスタルブレードに橙の光源を宿してそれを振るっていくのだが。
「ブレードスキル:パワーブレードッ!!!」
周囲の飛沫とヤツの両腕を一気に攻撃するつもりだったその攻撃。
……だが、そのスキル攻撃は、これを振るう直前にもこちら側へと回避してきたダークスネイクを攻撃してしまう予想外な結果となってしまう――
「ぐフォッ――オォォォ!!!」
しかも、このスキル攻撃で、あろうことかダークスネイクのみが吹き飛んでいく。
ここでも息の合わなさを披露してしまった。だが、彼を集中砲火の地点から吹き飛ばしたことによって、その照準は彼から逸れることとなったのだ。
それは、結果オーライだった。……と、言えたらなんて幸運だっただろうか。この横槍によって、"ヤツ"のヘイトがこちらに向いてさえいなければとても良い結果だったのに――
「邪魔をすんじゃァねェよ!! この雑魚がァッッッ!!!」
怒り狂い、こちらへと攻撃を仕掛けてきた天叢雲剣。全身で振り被って渾身の右ストレートを解き放つ。
瞬きの間にも飛んでくる眼前の拳を剣士スキル:カウンターでなんとか受け流すものの、その攻撃で飛散してきた黒の飛沫に焦り、すぐさまと回避を選択して離れるように飛び込んでいく。
だが、次の時にも仕掛けられた左腕の攻撃。それは、鼻先を擦る距離で目の前を通り過ぎていった偶然の攻撃外しで命拾いをするが、しかしそれによって飛散した飛沫から突出する腕の攻撃に巻き込まれてしまい、ダメージボイスを上げながら疾風に流され吹き飛ばされる。
あの両腕の攻撃を回避したところで、黒の飛沫による追撃が待ち受けている。今の実力では、この連係に対応することが中々と適わず。エリアボス:天叢雲剣に一撃を与えることもままならない状況が続いていた。
……それは、『魔族』という倒すべき存在の脅威を改めて思い知らされる。このゲーム世界を脅かす邪悪の化身の実力――
「ッチ!! もっと、もっとこの力を振り絞らなきゃァこんなヤツも仕留められねェってか!? っあぁだったらよォー!! だったらよォーッ!! だったら! この天はもう手を抜きやしねェぜッ!! オレも正真の『魔族』であるからにゃァ、こんなところで『魔族』魂を燃やさずにしてどうするってんだッ!!? この戦は負けてなんかいられねェってんだよォッ!!! じゃなきゃァ、じゃなきゃァ!! オレを信じてくださったゾーキンの旦那に、示しってもんが付きやしねェからなァ!!!」
漲る底力に、口から禍々しい漆黒の波紋を伝わせて解き放つドでかい咆哮。純白の瞳は今以上もの白き輝きを宿し。全身に滾り出す黒のオーラを纏うことで、これまで隠し持っていたパワーを引き出したように見えてしまえる。
その光景はまるで、これから本気を出し始めるような。今までの戦闘は飽くまでも小手調べの一環であったのだなと思わせる眼前の邪悪なるオーラに。この胸に宿り光を放つ水縹のブレイブ・ソウルには、これから控えているであろう猛攻へ抱く恐怖の念が蓄積されていく。
咆哮と同時にして、右腕を伸ばし攻撃を仕掛けてくる天叢雲剣。こちらへと伸びてきた右の拳を避けるために回避コマンドに手を添えるものの、次の時にも、その拳はおもむろに開かれる。
瞬間、掌から弾けるよう飛び出してきた邪悪なる巨大な棘。それは昆虫が持つ牙のように独特な形を成す鋭利なものであり。それが無数と飛び散っては、速度を以ってしてその内の一本がこの左肩に突き刺さってしまう――
「ぎッ――ァッァアァッ!!!」
貫かれる感覚に悲鳴もままならず。更に、ステータスに訪れた異変と陰り出すこの視界。――状態異常:暗黒。
残る棘が周囲へと飛んでいく中、エフェクトとして左肩に突き刺さったままの棘から、左肩を蝕むよう漂い出す漆黒の靄にこの視界が霞み出し。だが、眼前から迫る掌を避けるために回避コマンドを選択し、側へ飛び込んで掌による掴み攻撃を避けていく。
が、次の瞬間にもその右腕は持ち上げられて振り下ろされ。掌の叩き付けがステージに炸裂。その衝撃波が襲い掛かり、衝撃波の黒い靄に包まれながら吹き飛ばされて。
続けて放たれたのは、叩き付けを行った位置に伸ばした左腕と組み合わせた、両拳を握り締めて行われる滅多矢鱈の暴力的な叩き付け攻撃。そこに標的がいないというのに、平手の叩き付けを行った位置を中心にしてただひたすらと拳の雨を降らせていくエリアボス。
その最中にも、次々と飛び散る黒の飛沫は周囲へと飛散していき。それを食らわぬよう離れるよう駆け出し、むしろその固定された行動を好機と見計らってポーションを取り出し口へと含む。
――状態異常:暗黒で黒い靄のかかる視界不良。目が見えないという異常事態に焦りが募るばかりではあったが、幸いにも、以前のステージで状態異常:盲目というものを体験していたがために、その経験が活きる形でこの状態異常を冷静に対処していく。
……尤も、盲目と行動不可という恐るべきコンボを知るこの経験と知識を前に、もはや暗黒やられ単体などは全く怖くはなかった。唯一の厄介な点と言えば、この間はブレイブ・ソウルにゲージが溜まらないという不都合が少々と気掛かりである程度。
天叢雲剣の連打も収まり、再びこちらへと向き直ってくるヤツと向き合い、駆け出していく。
それに合わせて、ヤツは両腕を突き出しこちらへと伸ばして。その途中で両手を握り合わせる動作を行い、次の時にも、その握る力を強めてギュッと両拳を握り合う。
瞬間、邪悪なる漆黒が大爆発を引き起こした。
大気が張り裂けるかのような。闇属性というおどろおどろしい力が破裂し、その私怨やら怨念といった負の力が一斉に弾け出したかのような。大気をも蝕まんとする邪悪が破裂し、周囲のいたる箇所に黒の飛沫を散らしてきたのだ。
勿論、その飛沫一滴から両拳が現れてこちらへと突出してくる。それを回避コマンドによる前転の繰り返しで強引にも突破したものだが、大量の飛沫から降り掛かる拳の連続は、この身の周囲の、ステージのあらゆる箇所を殴り付けて。その次々と訪れた衝撃が画面を揺るがしてきたものだ。
だが、これでは終わらない。
握り締めていた両拳を広げ、それを地面に叩き付ける。それを思い切り持ち上げると、叩き付けた部分から持ち上げた掌にくっ付くよう引き伸ばされていく漆黒の手形。それは黒の飛沫を散らしながら引き伸ばされると、次の瞬間。その伸びる漆黒越しに、両腕による拳のラッシュが襲い掛かってきたのだ。
「ッ!? ブレイブ・ソウル:俊敏!!」
ブレイブ・ソウルを発動し、俊敏の強化を付与。加速する足で、眼前から激烈な勢いで襲い掛かる拳の連撃を次々と避けていく。
その間にも、連打される拳や引き伸ばされた闇から飛び散る黒の飛沫からもラッシュの拳が降り掛かるものであり。状態異常:暗黒も合わさるその光景は正に、『魔族』の猛威を具現化した景色そのものと思わされる。
……こんなヤツが、この先にも現れるのだ。これほどまでの脅威を宿す『魔族』という連中を、一刻でも早くこのゲーム世界から排除しなければ。この世界は間違いなく、滅びを迎えてしまう……!!
「ブレードスキル:エネルギーブレードッ!!」
加速する足をそのままに、ブレードの刀身に青白い光源を宿して一気に駆け出す。
前方からのラッシュを一つ一つ避けながら。それでいて、このモーションが終了すると同時に晒すだろう隙にこの一撃を叩き込むため、準備を整えてその時を待つ。
暫くして、天叢雲剣のラッシュは止んだ。
それは、こちらが待ち望んでいた、反撃の時。
クリスタルブレードを構え、地面を踏み込んで飛び掛かろうとする。
それに対し、ヤツは動じることもなく次の行動を起こそうとしているものであり。その余裕ある行動が、とても不気味でもあった。まるで、先の攻撃の終了後にも、こうして主人公アレウスが飛び掛かってくることを予測していたとも見て取れるものだったからだ。
……しかし、ここまで来たからには、この一撃をヤツにぶちかましてやりたい。巡る勇気の感情が、状態異常:暗黒によってブレイブ・ソウルに蓄積されない感覚に違和感を覚えながらも。この足を踏み出し、天叢雲剣に斬りかかる。――その瞬間だった。
「召喚・黒と灰の大蛇ッ!! 召喚士スキル:黒と灰の蛇神・ハイドラッ!! 全てを喰らい尽くせェェッ!! リベンジ・オブ・ヒュドラァァァァァアッ!!!」
夥しく群がる蛇の大群が。それぞれがその爬虫類の身体をうねらせ、斑と鱗の艶を不気味に反射させながら。一匹一匹の巨大な口から溢れ出してくる毒々しい紫の煙は、黒の飛沫が飛散する邪悪なる空間を包み込み。ダークスネイクを含めた蛇の大群を覆うよう煙が充満し始める。
……次第に、ふつっふつっと、吹き出る泡のようぼこぼこと音を立て波をうち始める紫の煙。それが発生すると、間を空けることもなく煙が毒ガスとなり噴水のよう勢いあまって噴き出して。同時に、毒ガスから一斉と飛び出してきた蛇の大群が、口を広げて大技に備える光景が繰り広げられる。
そのヒュドラの姿を覆い隠すほどに充満する、毒ガスの塊から噴射された濃厚な毒ガスと共に。口を広げたそれらは、更なる毒々しく輝くブレスを、エリアボス:天叢雲剣と、それに接近する主人公アレウスのもとへと発射してきたのだ。
生命を枯らし尽くす、猛毒の光線。
圧で噴射された濃厚毒ガスのそれと、周囲から発射されるブレスを纏い更なる肥大を遂げた眼前の殺戮光線。
この技を、とてもよく知っている。この技の恐ろしさを、この身をもって証明している――
「ッッ!!? くそッダークスネイクっ!!」
合図も無しに、こちらにお構いなしと放ってきた大技につい怒りを見せてしまいながら。だが、この相変わらずとも言うべき互いの息の合わなさに納得さえも抱きながら、踏み出そうと構えていた足を方向転換させて。天叢雲剣から離れるよう急ぎで踏み出し、思い切り飛び込んでいく。
ブレイブ・ソウルの加速が乗った咄嗟の回避によって、ギリギリとも言える状態でなんとかそれを避けることができた。
背後では、猛毒と破壊のスパイラルが天叢雲剣に炸裂する光景が広がっており。ヤツもまた、それに直撃していることは一目見ても確実であった。
……あのダークスネイクの大技が決まったのだ。さすがのエリアボスであろうとも、この一撃を前にしてただでは済むまい。立ちはだかった強敵の、まるで隙の無い立ち回りに意表を突いた一撃をぶちかましてやったと確信を抱く中。あのひとたまりもない大技に飲まれて姿を消したヤツの姿に多少と湧いた安堵の念と。同時にして、その念と共に訪れた不穏な空気に、ただならぬ予感を感じ取っていたものだ――――
【~次回に続く~】




