エリアボス:天叢雲剣 ① 3679字
フィールド:風国にて展開されるメインクエスト、対『魔族』迎撃作戦。その最後の締め括りとなるエリアボスとの遭遇によって開幕した大ボスとの戦闘に臨む、主人公アレウスとNPC:アイアム・ア・ダークスネイク。
その相手は、脅威を宿し邪悪なる翼を猛威として振るっていたあの『魔族』の誰よりも特異的な存在感を放つ個体であり。それに加えての、戦闘前の特殊なセリフと場の空気感に、一筋縄では突破できぬだろう強敵としてのオーラを纏い、巨大な漆黒の障壁となって立ち塞がった邪悪の化身。
百九十二もの身長。筋肉質であった肉体の表面は、先の病的な青白さから一転とした闇そのものである禍々しき悪魔の如き漆黒に覆われて。一方として、身に纏っていた薄い上着と七分丈の余裕あるズボンは、純白とも呼べるだろう漆黒とは正反対となる白の色に染まり出す。
漆黒であったブーツやグローブまでもが無垢を思わせる白に染まり。だが一方として、顔は邪悪なる漆黒に。漆黒に煌き刈り上げていた緩いリーゼントは、淡い輝きを放つ純白となって揺らいでいる。又、漆黒に染まりし顔に浮かぶ真白の瞳からは、その透き通る色とは思えぬ静かな殺意が滲み出ていた。
ぶくぶくと膨れ上がる彼の両腕。怒号交じりの咆哮と同時にして、彼の腕は筋肉質とは異なる異常に発達した肉体となって次第と肥大し始める。
今にも破裂し四散しそうな両腕を振り被るそのモーションを交えて、漆黒に染まった彼の肌に走り出す真白の線。両腕の筋肉に迸るそれは、まるで息をするかのよう脈打っており。どくどくと脈打つ様と。反対に、邪悪なる漆黒は憤怒で歪めた表情と共に黒味を帯びて。ドス黒い純黒と、輝く純白の二色を光らせて。その存在はこちらへの歩みを始めたのだ。
彼が動き出すと同時に、こちらもまた、ダークスネイクと共に戦闘態勢を構え出すその中。球形の妖精姿のミントがこの懐から姿を現し、解説を始めていく。
「スキャン――完了。ご主人様! 今現在と相対する眼前の存在こそが、今回のメインクエスト:対『魔族』迎撃作戦における大トリ。その名も、エリアボス:天叢雲剣、でございます!! こちらのエリアボス:天叢雲剣でございますが。まず、彼が今回の『魔族』に関する一連のイベントの最後に立ち塞がる強敵であることは、先の遭遇イベントにて察しがついておられることでしょう。故に、彼を打ち破りしその時にも、拠点エリア:風国におけるメインクエストはクリアとなります!! ……しかし、それについての懸念事項もお伝えいたします。今回のメインクエストにおけるエリアボス:天叢雲剣でございますが。……こちらの情報をスキャンしたところ、"二重にも重なる特殊なフラグ"を検知いたしました。こちらは、この先にも"二段階と用意されたステージ"を示唆するフラグであると見て取れるために。今回のエリアボスとの戦闘は、一度の戦闘で全ての収束とならず。この先に更なる戦闘が待ち構えている可能性も懸念されるとよろしいでしょう……! 第一段階であるこちらの戦闘に関しましては。回復薬の温存といった、より慎重な立ち回りの心掛けが重要となります! ……ご主人様。どうか、ご武運を……ッ!!!」
二段階……ということは、この先、何らかの形であのエリアボスと二度も戦闘を交えなければならないということなのか……!?
眼前の存在もまた『魔族』であり、それのエリアボスであるという現在の状況だけでも相当なまでに絶望的であるというのに。そこに、更に連戦も控えていると言われると、気が遠く思えてしまえるものだ。
取り敢えず、まずは第一段階。この第一段階の突破に関しては、こうして引き連れてきたダークスネイクとの連係が必須となることは確実だった。その重要性を彼に伝えるためにも、隣へと言葉を投げ掛けて意思の疎通を図り出す。
「スネイク! あんたは魔法使い系統の職業だから、ヤツの邪悪な攻撃を前にとても身がもたないだろう。剣士系統で接近戦を主とする俺があいつを引き付ける! その間に、スネイクは遠くから堅実にヤツを攻撃してくれ!」
至ってシンプルな連係を提案する。が、それに対して、ヤツは……。
「っふ。好敵手の気掛かりは、無へと帰すことだろう。我こそは、蛇神帝王。我が蛇竜の猛毒と破壊のスパイラルを前に、あらゆる生物は悶え苦しみ嘆き自身の悲運を呪いながら朽ち果て逝く。貴様も、我が蛇竜の軌道に現れないことだな。でなければ、我が蛇竜の餌食となるだろう。…………つまり。貴様に心配されるまでも、そして、指示をされるまでもない!! こうした命懸けの戦闘は、幾度となく渡り歩いてきたものだからな。おいらには、経験というものがある!! そして! おいらの召喚獣の毒牙を前にして、その多くは姿を消してきた。貴様はただ、このおいらの邪魔をしない立ち回りを意識するものだな。さもなくば、我が蛇竜の毒牙の餌食となって、あの『魔族』と共に貴様もろとも猛毒に葬られてしまうだろうッ!!」
次の時にも、ダークスネイクは両腕に魔法陣を生成し振り回し。軌道上に浮かび上がった灰色の魔法陣を配置し、準備を整えていく。
魔法陣が輝き出す。直に、画面を揺るがすほどの勢いを以ってして魔法陣から飛び出してきた一匹の大蛇。そして、配置されていた魔法陣からも更に次々と大蛇が現れ、目の前のエリアボスへと突撃を始めていくその光景を眺める。
……って。さっき、俺が引き付けるって言っただろ!!
「っスネイク!! ……っくそ、俺も行くぞ!!」
やっぱり、イマイチ彼とは噛み合わない。
連係なんて微塵も無いバラバラな状態のまま駆け出していく主人公アレウス。そんなこちら側の攻撃に合わせて、天叢雲剣もまた、その邪悪なる存在感を発しながら両腕を構えて駆け出してくる――
――天叢雲剣のダッシュは、これまでの『魔族』に退けを取らぬ、異様な素早さを誇っていた。
駆け出すと同時に、飛び出していった大蛇の群れを肥大した漆黒の右腕で容易く薙ぎ払ってしまう。
それは、『魔族』のエリアボスという脅威を示すに十分な行動だった。あの大蛇は、こちらのエネルギーブレードに対して微動だにしない強力な防御力が設定されているというのに。あのエリアボスは、そのたった一つの何気無い行動のみであの大蛇をあしらってしまったのだ。
こちらのスキル攻撃がちっぽけに見えてしまえるほどの圧倒的な戦闘能力の差を見せ付けられてしまい、彼の脅威を一目で測り、この感情に戦慄が走り出す。
……だが、大蛇と戦闘を交わした後にパワーアップしたこの身が引き出せる攻撃力だけで言えば、今なら退けを取らない自信があった。アグレッシブスタンスとブレイブ・ソウルの重ね掛けで攻撃特化の強化を施せば、主人公アレウスも、彼の大蛇を跳ね除けるほどの威力を出すことができるだろう、と……。
「剣士スキル:アグレッシブスタンス!! ブレイブ・ソウル:筋力!!」
同時に発動したスキルとシステムの効果で、一時的に大幅な攻撃力をステータスへと反映させて。
後方から次々と追い抜いてくる大蛇に続き、主人公アレウスもまたエリアボスへと接近を果たしてクリスタルブレードを振り被っていく。
「ブレードスキル:エネルギーブレードッ!!」
増幅させた攻撃力が乗った、今出せる限りの最大火力を受けてみやがれ!!
眼前で吹き飛ばされていく大蛇の陰に隠れながら。不規則に飛んだり跳ねたり吹き飛ばされたりする大蛇の動きに苦戦しながらも、青白い光源が宿る刀身を振り被り、天叢雲剣へと斬りかかる。
百九十二もの身長は、その的の大きさ故にとても狙いやすく。ましてや肥大した漆黒の両腕も恰好の的であり、この最大火力を放つのには正に好都合な体格であったものだ。その上に、大蛇の集団に意識を取られていたエリアボスは、こちらが懐に潜り込んだ時点で初めて斬りかかるこちらに気付き。若干と、驚きを思わせる様相を見せた。
――ように見えたのだが。
「ッッづォ――ッ!?」
気付いたその時には、この身体は上空へと打ち上げられていたのだ。
何が起こったのかがわからない。
唯一、現状を理解することができた要素と言えば。この腹部に走った、ドス黒く靄がかるような、腹の表面が蝕まれ往く感覚のみ。
打ち上げられて疾風に流される中で、その光景を確認する。
……そこに広がっていたのは、エリアボス:天叢雲剣の周囲の足元に飛び散っていた、ペンキのような禍々しき黒の飛沫。それはどれも地面にへばり付き、だが、それ以上は何も起こらなかったものだが。
……しかし、主人公アレウスが踏んだのだろう黒の飛沫からは。エリアボスとは異なる異様に発達した筋肉質の右腕が、まるでこちらを殴り付けたかのようにハッキリとした形を模して。それは、本体とは別となる第二の右腕と言わんばかりに突出していたのだ――――
【~次回に続く~】




