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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
298/368

最終ウェーブ:水縹の軌跡 2980字

 戦火がだいぶと沈静化し、この地本来の神聖なる疾風の音が静かに流れ出すフィールド:風国。

 開戦と同時に猛威を振るってきた『魔族』も極端に数を減らし。つい先までの手に負えない猛襲が、まるで嘘のようにさえ思えてしまえる。


 最終ウェーブ。メインシナリオに定められた最後のステージへと突入し、その最深部にて待ち受けるエリアボスのもとへと駆け出していく主人公アレウスとNPC:アイアム・ア・ダークスネイク。

 ダークスネイクには所々と不信の募る要素が垣間見えて、ほんの少しだけ彼に不安を抱いてしまえたものだが。その彼の、傭兵としての腕前は、主人公アレウスを絶命寸前にまで追い詰めた実力の持ち主なだけはあり。人としてはまだまだ信用しにくい彼ではあるけれども、この身で思い知らされた彼の腕っ節のみには絶大な信頼を寄せていたものだ。


 そんなダークスネイクを引き連れたこの道のり。風国の中でも極めて天空に近い、天へとそびえ立つ丘を駆け足で上っていく。

 道中、宿屋:ア・サリテリー・インのあった地点を通りかかった。その建物は見る影も無く崩落してしまっており。しかし、それの崩落した跡なのであろう瓦礫や破片の上には、あの生命力溢れる大木が、この荒廃した地にたくましくと根を張っていた。

 この大木に近付くと急激なHP回復の効果が付与されたことから、それはどうやら、風国陣営のキャラクター達を自動的に癒すオブジェクトであることが容易にうかがえたものだ。


 ……ただ、それらの枝に突き刺さっている、丸いような四角いような、以前までは何かの形だったようなその"黒い物体"が結局一体何だったのか。たくましくと育つ神秘的な大木であっただけに、それは結構と気になる点だった。

 が、今はそれを確認している場合でも無いために、HPの自動回復に癒された後にも、再びダッシュを始めて目的の場所へと向かうことにした――




 つい先にも『魔族』と交戦していた風国の街中から、随分と走ってきた。

 スタミナが許す限りの全力疾走で天高くそびえ立つ丘を上っていき。息を切らしながらも、目的地である頂上付近にまで辿り着いた。


 ぴりぴりと伝い出した肌の感覚。螺旋状の上り坂に不規則と折れ曲がった左折の道。この突き当たりに差し掛かったところで、目の前の、更に上へと続く急な階段を目にしてからというもの、この水縹(みはなだ)の魂が何かを訴え掛け始めたのだ。


 一気に巡り出す緊張の感情。

 ……そうか。この階段の先に、今回のメインクエストのラストを締め括るエリアボスが存在しているのだな。直感的に抱いたその念に、胸を締め付けられるような感覚を覚えながら。それを伝えるべく、隣で佇んでいたダークスネイクへと言葉を掛けていく。


「スネイク。この階段を上り切ったら、戦いを終えるまでは後戻りをすることができないだろう。いちいちとこう尋ねるのは野暮だろうが。……準備はいいか?」


 こちらの問い掛けに、隣で禍々しいポージングで佇んでいたダークスネイクはこう返してきた。


「悠久の天海へと我々を招く螺旋の導き。それは、疾風の加護に護られし神聖なる地を蝕む邪悪の滅亡を望みし、守護神の切実なる思望。天海への螺旋に導かれし水縹と蛇神は、請け負った使命を果たすべく、萌える生命の尽きる命運を顧みずに使命感からなる一歩を踏み出す。…………つまり。おいらは昨夜の時点で覚悟はできていた。その傭兵としての信念さえも捻じ曲げてきた"ヤツら"の脅威には、正直このおいらでさえ絶命を恐れるがあまりに我が使命の放棄も脳裏に過ぎったものだが……。っ貴様こそ、それほどの装備で十分なのか? 道具も、既に万端なのだろうな? おいらにとっても、貴様にとってもそうだろうが。……これは、どちらが倒れた瞬間にも、敗北が確定となる極めて苦しい戦いになることが容易に予測することができる。それはつまり、どちらかが倒れた時点で、そのもう片方も、倒れる運命に置かれているということ。……貴様に、この命を預けるということに少々と抵抗が生じるものだが……おいらにできることと言えば、それはただ、貴様を信じること。ただそれだけのみ……」


「……俺、やっぱりさ、未だにあんたのことが認められない部分があるんだ。……でも、この場においては、それはそれ、これはこれ、だ。今回ばかりは、俺もあんたのことを――スネイクのことを信じる。だから……共に、この戦いを生き残ろう」


 互いに複雑な心境で明かしていく心の内。

 それに眉をひそめたり、ちょっと遣り辛そうな様子を見せてしまいながらも。だが、この場においての、とある念のみは双方共に一致していたため。それを確認し合った時にも、不思議と二人で笑みを零してしまったものだ。


 ……二人で協力して、この戦いから生き残るんだ。



 この先にて待ち受けるエリアボスのもとへと踏み出す足。最終ウェーブという、最後のステージの舞台へと着実に近付いていくその最中。目の前の、風国が誇りし天へと伸びる高台の頂上に続く階段を段飛ばしで駆け抜けていく動作と共に。ふと、とある光景が脳裏に巡ってきた。


 ……それは、ある意味で感慨深いとも言えるこれまでの道のりを顧みて。これまでの道のりで見てきた光景や体験に懐かしさを覚える、まだまだ僅かながらである追憶の数々。



 このゲームの世界に降り立った理由に直結する、魔王となる存在が率いるのだろう『魔族』達。"それら"との戦争を無事に渡り歩き、今はこの『魔族』の軍団を率いてきたのだろうエリアボスと対面するのかと思うと。これまでと辿ってきた様々な試練やイベントを、思い出さずにはいられなかったのだ。


 ……ミント。俺は、初めてミントと出会ったあの最初の時よりも、主人公として、人間として立派に成長してきただろうか。

 ……ユノ。降り立ったゲームの世界で初めて出会った最初のNPC。熟練の冒険者である彼女から見たら、今の俺は、果たしてどう映っているのだろうか。

 ……アイ・コッヘン。キャシャラト。ニュアージュ。ペロ。ファン。ブラート。ミズキ。今まで言葉を交わしてきたNPC達の顔が思い浮かんでくる。これは懐かしさと同時に、あの頃の自分を顧みる一種の自問自答。今の俺は、今まで出会ってきたNPC達に成長したねと言われるだろうか。これまで辿ってきた道のりは、俺を昨日よりも強くさせてきたのだろうか。


 『魔族』という、このゲーム世界に降り立った目的そのものが目の前に現れて。そして、"それら"との関わりが、この先のゲーム世界の行方を定めていくのだろう。……そんなことを考えると、『魔族』という存在と対面する前に出会ってきていたNPC達のことを、どうしても思い出してしまえて仕方が無いのだ。


「……俺は、このゲーム世界の主人公として、その役を立派に演じ切れているのだろうか……」


 小声で呟くその言葉は、風国の疾風に掻き消され静かに溶けていく。その中で、懐にいた球形の妖精姿の少女はこの自問自答に、懐からこの胸を撫で掛けてくれたような気がして。そんな感覚に、なんだか勇気が湧いてきたような気がした。


 ……ダークスネイクと共に踏み締めたその地。目前に控えた一つの運命の終着点に辿り着き、眼前に広がる光景を真っ直ぐと見つめながら。……主人公アレウス・ブレイヴァリーは、仲間を引き連れてその足を一歩踏み出した――――



【~次回に続く~】

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