表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
297/368

最終ウェーブ:眩き守護女神 4267字

 相変わらずと、どうしても気が合いそうにない。波長も、感覚も、考えも、あらゆる物事が上手く噛み合わないと確信さえもしてしまえるNPC:アイアム・ア・ダークスネイクのキャラクター性。

 しかし、今この場で引き連れることのできる存在と言えば、確かな実力を持つ彼が最もうってつけであることもまた事実。最低限の理想としては、この場をユノとラ・テュリプに任せて。この主人公アレウスとダークスネイクでパーティーを組み、その二人組でエリアボスを倒すというもの。


 頼れる以上に不安ばかりが伴う判断ではあったが、それでも動かないことには何も始まらないため……そんな、気の合わない、息も合わない、思考も噛み合わないの合わない尽くしな、ある意味で特殊な存在を引き連れるために。主人公アレウスは気の進まない心情のまま、取り敢えずでも彼を引き連れるための説得を試みることにした。



「スネイク。あの丘の麓に、この『魔族』の軍団を率いる親玉が姿を現した。そいつを倒せば、この『魔族』との戦争がひとまず終息する。その親玉を倒しさえすれば、俺達の勝ちなんだ! だが生憎と、ヤツを倒すにはそれ相応の戦力が必要なものだが……悔しくも、俺にはそんな戦闘能力なんて無い。だから、スネイク。あんたも俺についてきてくれないか? 親玉を倒すため、俺と一緒に戦ってくれないか?」


 こちらの説得に、ダークスネイクは不信げに首を傾げてそう尋ね返してくる。


「なぜ、貴様にそんなことが判り得る? あの麓に親玉となる『魔族』が現れたことを、どうして貴様に判ると言うのだ? おいらが貴様の軽口に素直に頷くとでも言うのか? このおいらが、好敵手である貴様とこれ以上もの共闘を行えとでも言うのか? っは。答えは、ノー、だ。それはイヤだな。何もかもが嫌だな。貴様もそうであるように、おいらも、貴様のことが信用ならない。とても、信用ならない。そんな奴に、命を託し託されの重い使命を背負えと命令するのか? そして、貴様がおいらの立場である場合、信用ならぬそいつの言葉を簡単に承諾するだろうか? ――おいらの使命は飽くまでも、トーポ・ディ・ビブリオテーカに雇われ指令された、この地で『魔族』を迎撃する戦力の一部となることであり。それは決して、貴様と共闘せよと指定されたワケではない。そこまで詳しく指示を受けなかった。おいらは、トーポに雇われている身。故に、貴様の命令には決して従わない」


「随分とお堅いな……」


 それだけ、彼の信念は据わっている。とでも捉えるべきか。

 固い意志に、これ以上もの説得に意味を成さないことを察する。……で、あるからには、先にも待ち伏せるエリアボスへと立ち向かうには、やはり彼女らの助力が必須……。


「ミント。ユノかルージュシェフ。今この場から、彼女らの内どちらかを引き抜いてしまった場合、この地は優勢から劣勢へと落ちぶれてしまうものなのか? 今、この戦場には彼女らの支えが必須なのかどうか。彼女らがこの場から去ってしまった場合、この戦況にどのような影響を及ぼしてしまうのかを教えてほしい」


「メインクエスト:状況の確認。で、ございますね。では、これよりスキャンを行います。それに伴い、多少ものお時間をいただきますがよろしいですか? ――はい。それでは、スキャンを実行いたします」


 懐から現れた球形の妖精姿のミント。水色の光源を放つ球体が飛び出すと共に、光を纏って瞬間的に人間の少女の形を成して地面に着地する。

 次に、周辺にホログラフィーを生み出しては、スキャンとなるシステムを実行させて現状の様子を探り出すいつもの光景――だったのだが。……その、とあるイベントは、この過程の最中に起こることとなったのだ……。



 こちらの様子を見ていたダークスネイク。主人公アレウスの懐から突如と姿を現したミントの姿と、少女が生み出す幻影且つ実体のようなホログラフィーを直で目撃してしまい。このゲーム世界では在り得るハズのない摩訶不思議な場面との遭遇と、メタな視点でのみ理解することができるだろうホログラフィーの存在に言い知れぬ感情を抱いたのか。未知なる事象との遭遇に焦りを隠せない様子のまま、なんと、思わずと言った様で彼から声を掛けてきたのだ。


「ッ……??! な、んだそれは!? 好敵手の胸から光る何かが出てきたかと思えば。それは好敵手の従者が現れた?? そ、の、浮き出ている?? 光っている?? そ、その、き、機械のような、映像のようなそれはなんだ??! こ、この言い知れぬ、言葉として形容することができない気色の悪い感覚は、一体何だと言うのだ!? これもまさか、好敵手……!! 貴様の能力とでも言うのか……ッ?!」


「ミントは守護女神なんだ」


「しゅ、しゅごめがみ???」


 この返答は、ちょっと意地悪だったかもしれない。困惑をしている彼の思考に、より困惑を与える未知なる造語を投げ掛けてしまったことで、彼に更なる混乱を誘発させてしまったものだ。


 勿論、一気に降り掛かった在りもしない現実との邂逅。それを言うなれば、我々が住まう世界に、実体として現れることがまず有り得ぬ事象との未知なる遭遇。例えるならば、自身らが住まう世界の、全世界の運命を司る精霊との遭遇……と言った具合の、在り得るハズのない、受け入れることなどできやしない出会いを果たしてしまった、ある意味でのショッキング。


 正気に乱れが生じるかもしれない。在り得ない出会いにダークスネイクはひどく衝撃を受けたようで。その眼前の、言葉として形容することのできない事象を前に、陰りの顔に浮かべた目玉をただ丸くしてしまうばかり。

 ……少しして、正気を取り戻したのか。彼はハッと息を呑み、禍々しい独特なポージングを決めながら慌てて喋り出す。


「ッ――な、なにを驚く。っふ。ッフフフ。ッフフフフフ!! さ、さすがは、我が蛇竜に刃向かう度胸のみを有するだけはある存在だっ!! それでこそ!! 地獄の深遠から生まれしこの蛇神帝王・ダークスネイクの好敵手に相応しいだけはある、勇猛を引っ提げし水縹(みはなだ)纏う戦士っ!! その名に恥じぬ、とんだ奇天烈な事象をもたらす未知なる者よ……ッ!! …………で、それはなんだ?? おいらは一体、何を見せられているとでも言うのか?? っというか。この、小柄な従者がただ眩しい!! なんだ、この、次元の壁をも思わせる、圧倒的な存在感の差はッ?! これではまるで、我が内に宿りし信念の深遠を根城とする、魔の結界を伝い空間を無辺際と渡り獲物を残酷に喰らう純黒と銀灰の凶暴なる蛇竜が織り成す猛毒と破壊のスパイラルが空気も同然!!! こ、これでは……あの小柄な従者のインパクトに全てを持っていかれ。我が蛇竜の脅威の象徴も、あの小柄な従者のインパクトを前に、ただの大きくて可愛い蛇へと成り下がってしまうではないかッ!! ッやめろォ!! その、眩しすぎる存在感が、我が蛇竜の存在意義を危機へと陥れるッ!! 即刻、滅せよッッ!! その姿を、これ以上とダークスネイクの前に晒すなァッ!!!」


 それは、ただの焦りとは異なる、尋常ではない焦燥からなる必死の言葉だった。

 その陰りで浮き上がる目からは、どこか恐れを感じさせて。彼の内側から訴え掛けてくる感情なのだろうか。震える身体で、荒い息遣いで突然と駆け出してきたダークスネイク。何事かと思えば、ミントのもとへと駆け寄ってはその周辺のホログラフィー目掛けて両腕を振り被り、払い除け始めたのだ。


 彼の手が少女に当たりそうになるところを、咄嗟に伸ばした手で少女を引き寄せて。少女を彼から離しながら、一気に頭のてっぺんまで上ってきた熱を発散するように怒鳴ってしまう。


「おい、ふざけるのも大概にしろ、ダークスネイク!! その手がミントに当たったら危ないだろう!? さすがにこれは、本気(マジ)で俺は怒るからな……ッ!!」


 巡ってきた怒りの感情。反射的に出てしまった怒号を耳にしたのだろうダークスネイクは、ホログラフィーを払い除ける動作をピタッと止めて、ハッと我に返るかのよう瞳を丸くする様子を見せたのだ。


 ……ただならない彼の反応。ミントという存在に、彼を乱す何かがあったのか。そんなことを考えながらも、ミントを彼から離すよう少しずつ手で押さえていく中で、ふと、ダークスネイクは取り繕うように禍々しきポージングを見せていきながら、そう言葉を口にしていく。


「ッ……。……好敵手よ。貴様、先にも、『魔族』の親玉を倒すとでも言っていたな」


「っそれがなんだよ。なにを今更、もうあんたには関係の無い話だ」


「おいらも同行する」


 ……??


 彼の心変わりに正直ついていけない部分もあったものだが。それとは一方に、仲間が増えたことでなんだか心が救われたような気もしてしまえて。彼の言動に複雑な感情を抱いてしまうものの、そんな彼の言葉に、取り敢えず頷くことにした。


「……。ありがとう、スネイク。……恐らく、『魔族』の親玉は規格外の破壊的な能力を宿しているだろう。それは、魔法使い系統の職業であるあんたがモロに直撃したら、まず助からないものかもしれない。勿論、スネイクが助からないのであれば、この俺は一撃で灰や塵になるだろうけれどな。……そんな、規格外な危険度を誇るだろう強敵との戦闘に、本当に同行すると言うのか?」


「最初に頼み込んできたのはそちらの方だろう。『魔族』の迎撃もまた、契約の範囲内だ。そして、その親玉を倒しさえすれば、事は丸く収まり、親玉を仕留めた暁にも、より実感となる報酬を得られることに違いない。そうとなれば、今ここで会話を交わしている暇も無い。このおいらを、親玉となる存在のもとへと連れていけ!」


 ……あまりにも意思が変わり過ぎだろう。

 先までの反抗的な姿勢がまるで嘘みたいだ。好敵手だなんだと言って頑なに断る姿勢から一転としたダークスネイクに不思議と思えてしまいながらも。仲間が増えたことに変わりはないために、彼を引き連れてエリアボスのもとへと向かうことにした。




 ――ミントを球形の妖精姿へと戻して懐へとしまい込む。

 ……その間も、ミントのことを何か注視するかのようにじっと見据えていたダークスネイクの視線には不信が募ってしまえたけれども。今は目の前のメインクエストへと意識を向け直し、そんな彼と共に、このフィールド:風国を駆け出していく。


 NPC:アイアム・ア・ダークスネイクという強力な仲間を引き連れて。主人公アレウスは、今回のメインクエストのボスである存在が待ち構える、最終決戦の地へと急いだのだ――――



【~次回に続く~】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ