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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
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最終ウェーブ 3204字

 一転攻勢を迎えた風国の猛反撃。昂る士気に、眼前に蔓延る邪悪の化身を蹴散らしていく人間達の猛威はもはや、あの『魔族』であろうとも食い止めることに困難を極めていたことだろう。

 ……しかし、それは飽くまでも至って通常のエネミーである"ヤツら"であればの話。これがもし、風国の勢力で言う、水縹(みはなだ)の勇敢なる魂を持つ特殊な存在のように。"それら"にとっての、"特異的な力を持つ存在"の手にかかれば、この戦況は一体どのような行方を迎えるのか。


 風国の陣営はまだ知らなかった。今もこうして、有利な状況で勝利の風を浴びていくこの空気で。自身らにこれから降り掛かる、今以上もの凄惨なる光景の目撃を控えていることを知ることもなく。風国の陣営は今も、勝利の兆しに闘志を燃やして武器を振るっているということに――――




 ふと、"それ"を目撃することとなった。

 風国のどこからかと天高く飛び立っては、"それ"は漆黒を纏う彗星の如く、風国の高台へと落ちてくる。


 急降下によって、この風国のシンボルとも言えるだろう高台の頂上に着地したのだろう彗星。邪悪なる軌跡が宙に残る中、頂上から弾ける漆黒の波紋が風国の空中に伝い出して。……この胸に過ぎり出した、何か不穏を思わせる胸騒ぎに穏やかではいられなくなったこの心情。そして、その胸騒ぎが現実となったかのように、それを報告するために懐から球形の妖精姿のミントが飛び出してきたのだ。


「報告です! ご主人様。ただいまをもちまして、反撃のウェーブ四が終了を迎えました! そして、そのウェーブ四の後に控えた、次なるラウンド。……いいえ、次で最後となる、最終ラウンド。――数秒後にも、今回のメインクエストにおける最後のステージであり。又、今回のメインシナリオの締め括りとなります、最終ウェーブが開始されます! 残るステージはあと一つ。そして、残された最後のイベントこそが。今回のメインシナリオ:対『魔族』迎撃作戦における最大の難関になる、エリアボスとの決戦、であることは、ご主人様も既に把握なされておられることでしょう」


 ついに迎えた、最終ウェーブ。

 これまでの物語の中でも、まぁ頻繁に絶命も免れぬ窮地に立たされてきたものであるが。次に迎える最終ラウンドというステージこそが、それまでに出くわしてきたどの窮地よりも、更なる危険性が潜む、主人公アレウス至上、最高難易度の最終ステージ。


 ――あの『魔族』達の後ろで控えていた存在なのであろうエリアボスの出現に、全身に巡り出した緊張の感情。それは水縹となってブレイブ・ソウルに感情が蓄積される感覚を覚えたものだが。しかし、巡ってきた感情に怯み、どこか怯えもしたのか、一瞬と遭った金縛りに胸を締め付けられる思いを抱き……取り敢えず、ミントへと言葉を返していく。


「……とうとうここまで来たか。ミント。最終ウェーブについての情報を、今判る限りの範囲で全て教えてほしい」


「承知いたしました、ご主人様。……まず、こちらの最終ウェーブでございますが。その内容は、これまでのウェーブとはまるで異なる唯一の目的が設けられております。それは、開戦前にもお伝えした通りに。こちらの最終ウェーブに関しましては、そのステージクリアの達成条件は生存ではなく、エリアボスの打倒へと変更がなされております。その内容の関係上、こちらのエリアボスを打倒した際にも最終ウェーブは終了を遂げ。その瞬間にも、ご主人様と、ご主人様が所属する風国方の勝利となり。今回のメインクエスト及びメインシナリオは、辛勝を収めて無事に終了となります。――エリアボスに関する情報は……出現位置を除いて、不明。その決戦の地へと足を踏み入れ次第にフラグが立ち上がり、情報が解禁されることでしょう。エリアボスの位置は、風国の高台の頂上。あの、宿屋:ア・サリテリー・インへと向かう道中を覚えておいででしょうか? 宿屋へと向かう道を、そのまま真っ直ぐと突き進み。目の前に伸びる上り坂をずっと、ずっと進んでいくと、自然と高台の頂上に辿り着きます。……そして。ご主人様がその地へと踏み入った瞬間にも、エリアボスとの決戦が開始されます」


「ありがとう、ミント。……準備を整え次第に、早急に向かおう」


 薬草を取り出してはそれを噛み砕いてHPを補給し。現在のステータスやスキルを見直し、自身の周辺に関する準備は大方整えていく。


 今できる限りの準備は整えた。心の準備も、決戦の時になれば整うことだろう。

 ミントを懐へと戻し。クリスタルブレードを握り締めて、周囲を見渡していく。


 ……今、この優勢となった現状で手持ち無沙汰となっているNPCを探し始める。

 さすがにあの『魔族』のエリアボスを相手に、この至らないことばかりの主人公一人で勝てるワケがない。――と、なると、ここは一人でも多くの仲間を引き連れなければ、まず勝機も見出すことができないことは至って明白だった。


 引き連れたい仲間の候補はだいぶ絞られていた。それは、女性という立場でありながらも、周囲の男達や『魔族』を凌駕する能力を持つ彼女らの姿を探していく。……ものの、そんな二人は目の前の『魔族』の処理でだいぶと忙しい様子だった。

 この風国陣営を勝利へと導く存在であるキーパーソンとなっている柱を、この中心地から掻っ攫ってしまっては。柱を失ったことによる不安定な状況の訪れによって、『魔族』達の士気が復活してしまう恐れがある。せっかくと流れを引き寄せることができたこの優勢も、彼女達ナシでは全て無駄となってしまうかもしれなかった。


 ……と、なると、現地点のキーパーソンである彼女らを引き連れるわけにはいかない。それでいて、現在、彼女らほどの猛威は振るっていないものの、そのポテンシャル自体は非常に優れているNPCという条件で周囲を見渡してみると…………まぁ、真っ先と目に付くのは"彼"であるわけで……。


 ……その"彼"を、あまり気が乗らないといった表情でじっと眺めていると。そんなこちらの視線に気付いたのか。"彼"もまた、なんだか気だるそうに振り向いてきてそう口にしたのだ。


「っ貴様、まだおいらに文句があるとでも言うのか? これ以上とこの、蛇竜を操りし蛇神帝王に噛み付こうと言うのであれば、今この場を以って好敵手である貴様との決着を着けても良いと思っているものだが。――ッフ。来るか? 来るのであれば、さっさと掛かってこい。我は眼前の蔓延る邪悪の排除に、限られし我が魂にタイムリミットを設けている。猶予は無い。故に、迅速に片の付く遊戯であろうとも時間が惜しいあまりに容赦も加減もできないぞ? …………つまり。今ここで『魔族』を撃退しなければ、この命も尽きかねない。だが、貴様が望むのであれば、今、貴様の相手をしてやってもいい。これは、好敵手同士、どちらが優れているかの、正真正銘の決着だ!! どうした? 掛かってこい!」


 ……そういうわけではないんだけどな……。

 相変わらずと、どうしても気が合いそうにない。波長も、感覚も、考えも、あらゆる物事が上手く噛み合わないと確信さえもしてしまえるNPC:アイアム・ア・ダークスネイクのキャラクター性。

 しかし、今この場で引き連れることのできる存在と言えば、確かな実力を持つ彼が最もうってつけであることもまた事実。最低限の理想としては、この場をユノとラ・テュリプに任せて。この主人公アレウスとダークスネイクでパーティーを組み、その二人組でエリアボスを倒すというもの。


 頼れる以上に不安ばかりが伴う判断ではあったが、それでも動かないことには何も始まらないため……そんな、気の合わない、息も合わない、思考も噛み合わないの合わない尽くしな、ある意味で特殊な存在を引き連れるために。主人公アレウスは気の進まない心情のまま、取り敢えずでも彼を引き連れるための説得を試みることにしたのだ――――



【~次回に続く~】

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