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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
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ウェーブ四:面目躍如の落とし穴 2631字

 勇敢なる魂は、その勢いを依然として緩めることも許さず。今抱きし水縹(みはなだ)と共に、眼前の困難へと勇猛果敢に立ち向かい続けていく。


 まだだ。まだここで止まるわけにはいかない。巡ってくる戦意のままに振るっていくクリスタルブレードは、水縹の影響で幻想的な水色に輝き続けて。それはスキルの使用によって、神秘的に青白く、そして、パワフルさが際立つ橙へと姿を変えていく。


 勇敢なる魂が織り成す速度の加速は、『魔族』達を相手に目まぐるしい活躍を果たしており。その速度から繰り出される、MPが許す限りとばかりに乱発されるスキルが周囲の"それら"を薙ぎ倒していく度に、ふと、こう思い浮かべるのだ。


 ――そうだ。俺が求めていたのは、この力だったんだ。追い求めてきた理想が、ようやくと形になったこの達成感に。脳天から溢れ出す熱いものに、より一層もの闘志が湧き上がり始めてきて。それは体内を伝い、胸に到達し。熱く溢れてくるそれは、魂に蓄積されて……勇気となる。


 『魔族』達を掻い潜り行われる無双は、まさしく思い描いていた、主人公があるべき理想の形。

 そうだ。俺は強くなっている。俺は、昨日よりも強くなっている!! ……水縹に燃える瞳。身に纏う水縹の残像。


 全身が熱く燃え滾っている。萌える水縹を原動力に、もう止まれない猛攻に快楽さえも覚えてしまう。

 それを言い換えるとしたら……まるで、この身体は強力な力に支配されてしまったかのよう。と言えるだろうか。――内なる魂が理想の形を形成する。目の前で倒れゆくエネミーの姿が、ただただとても気持ち良く思える。


 ……あぁ、もっとこうしていたい。無双が作り出した場面にそう抱いた渇望を胸の内で呟くと共にして。この瞳に浮かび上がってきたのは、萌える水縹の輝きと。この口元に浮かび上がってきたのは、口元が吊り上がる感覚。

 ――直に、表情に表れたのは。自身でも不気味だと思えるほどの、水縹を光らせる目を見開いた、その感情に取り憑かれたかのようなとても不敵な笑みだった。





 無双を繰り広げるそのペース。これを維持するためと思い、無限と湧き上がってくる感情と自動回復にブレイブ・ソウルを開放し続けていく。

 大活躍が引き金となって溢れ出して来る勇敢なる感情。ただ目の前の『魔族』を薙ぎ倒していくその中で。ふと視界の横から飛来してきたもの。


 それは、爬虫類のテカりを帯びた革。灰と黒の斑の、大きな蛇に見えなくもないそれが、突如と視界に入ってきたことによって。反射的にも、この足は停止を行ってしまったものだ。


「ッうォ!!」


 だが、加速する足は止まることを知らず。次の時にも、勢い余って横断してきた大蛇に衝突してしまった。


 衝突の衝撃で後方へと吹っ飛んで盛大にすっ転ぶ主人公。それでいて、あちらもまた衝撃で仰け反り、眼前に捉えていたのだろう獲物を前にして、盛大な隙を晒してしまう。

 ……その結果、こちらはブレイブ・ソウルが途切れることに。あちらは、追っていたものの、逃亡を図った獲物に逃げられてしまう結果を生んだ……。


 そして、直にも彼のボイスが響いてくる。


「んなァッ!! こ、このっ。我が蛇竜の支配せし領域に足を踏み入れし、命知らずの無鉄砲な好敵手がッ! それは、我が蛇竜の進行を阻む禁忌の愚行なり!! ッつまり。お、おま、なにおいらの邪魔をするんだッ!! おいらの召喚獣が痛がっているだろう!! なにをしてくれるんだ貴様はァッ!!」


「っん、お、俺か?? 俺が悪いのかっ!?」


 突然の怒声に思わずと立ち上がり、そちらの方へと視線を向けていく。

 その先にいたのは、案の定、NPC:アイアム・ア・ダークスネイク。勿論、彼も味方としてこの戦地を駆け回ってくれている、共に命を懸けるれっきとした仲間だ。……しかし。


「突然、横からあんな大きな召喚獣に来られたら。勢い余ってぶつかってしまうものだろう!! ……というか、そっちこそ! 急に俺の前に飛び出してきておいて、さすがに怒ることはないんじゃないのか!?」


「ンなにをォッ!? この蛇竜を率いるダークスネイクに責任があるとでも言うのか!?」


 こちらのセリフにカチンときたのか。陰りに浮かばせた表情にふつふつと湧き上がる怒りを見せながら、ダークスネイクは我慢の限界だと言わんばかりに、指を差しながらそう言い放ってきたのだ。


「それじゃあハッキリと言わせてもらおうッ!! 好敵手よ! 確かに、貴様は好調であることが見受けられる! 貴様が、我が好敵手という存在である以上は、我も貴様の奮闘を認めざるを得ない!! だが。それは時に行き過ぎると、失望を招かれざるを得ないものだ!! ――貴様、目障りだ!! 確かに、目覚しい活躍を披露する貴様は限りなくおいら達の主戦力となってはいるもんだが。……でもなー! 周りのことを考えずに、あっちこっちへとちょこまかと動き回っているもんだからなー! そうして、敵も味方も掻き乱してくれるその存在に付き合わされる身にもなってみろ!! こちとら、動き回る貴様の動向をいちいちと探り、いちいちと気を使わないといけないもんだから。自由に立ち回れないこのもどかしさに、結果的に手を焼いているんだ!! 攻撃の先々に貴様が現れるものだから、おいら達は仕方無しに攻撃の手を止めざるを得ないッ!! そんなんで、でも自分に攻撃が降り掛かったら怒るって、貴様はなんなんだ!? 当たり屋か!? いいか、その耳によく聞き入れておけ!! この戦いはな、貴様だけが戦っているわけじゃないんだぞッ!!」


「ッ…………!!」


 ダークスネイクの一喝により、それまでと全身に巡っていた水縹の念が溶けるように消えていき。その間にも、冷静となった自身の思考へと意識を向ける余裕を設けることができたというものだ。


 ……確かに、つい先までの俺には、ブレイブ・ソウルを振るうことのみしか頭に無かった。周りのことなど、まるで考えていなかった。

 ブレイブ・ソウルの真価を発揮することができたその爽快感に身を任せていたことは決して否めない。そして、それが皆の力になっていたことも自覚さえしている。……が、彼の言う通りに、この戦いは、俺一人が駆け回って『魔族』を圧倒すればいいっていうだけの問題ではないことも、自覚をしているつもりだった。


 主人公アレウスは、大きな力を手に入れた。だが、大きな力というものは、それだけ周囲により大きな影響を与えるものなのだ。

 ……力が大きくなった分、それだけ、この力には大きな責任が伴うのだ…………。



【~次回に続く~】

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