表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
29/368

フィールド:ピンゼ・アッルッジニートの渓谷

「ご主人様。足元には細心の注意を払って行動してください」


 不安定な足場を綱渡りの要領で渡っている俺に、丁寧な注意を促してくれるミント。

 その報告は嬉しい限りなのだけれども、それをもう少し早く言ってほしかったなとも思えてしまう俺。


「お、おう……わかった。わかったよミント。だから……」


 ちょっと、声を掛けないでくれ……今はこちらに集中させてほしい――


 

 現在、俺はミントと共に、傾斜の激しい断崖がいたる所に広がる、急傾斜で成り立った険しい地帯へ踏み込んでいた。

 簡易的なセーブポイントであるキャンプ地でアイ・コッヘンと一時の別れを告げた後、俺はミントのナビゲートを頼りに、あるフィールドへと寄り道をすることにした。


 本当は散歩ついでとして寄るだけであったものの、その広大なエリアの数々を目撃してしまったことで冒険心が駆り立てられた結果、こうしてつい、危険を冒してまでそのフィールドの探索を始めてしまったという衝動的な行動によるもの。


 まさか、こんな危険な目に自ら飛び込んでしまうとは。これも、あの冒険好きなユノの影響によって感化されたものなのか……?


「おっととと――っ!!」


「ご主人様っ! あのっあの……!」


 ナビゲーターであるミント曰く、このフィールドの名前は"ピンゼ・アッルッジニートの渓谷"と呼ばれる寄り道のためのフィールド。名前に渓谷と付いているその通りに、この地域には真っ暗な底が一定の間隔で広がっている険しい地帯である。

 そんな急傾斜の激しい渓谷を道なりに進んでいると、俺はある道とぶちあたることとなってしまったのだ。


 それこそが、この……綱渡りの要領で渡るしか他にない、奥へ伸びる極細の足場。

 次のエリアへ移るには、どうやらこの足場を渡らなければならないようで。危険なことは避けていきたいなと安全を重視にしていたというものの、やれどうしたものか。

 冒険心を弾ませていた俺はいつの間にか、こうして危険を顧みずにこんな足場を渡ってまで次のエリアへ行こうとしてしまうなんて――


「ご主人様……! あのっそちらの道を通らずとも、こちらに隠し通路が存在しておりますので……! 今すぐにでも引き返し、こちらから安全に行きませんか……!」


「えっ……?」


 旅は盲目。

 いつも実感する。ゲームで弾ませる冒険心というものは、どんなに危険なものであってもプレイヤーを盲目にさせる、究極の好奇心だ。



「ミント。ここはどんなエリアなんだ?」


 あれから数十分。俺はあの場面から命辛々なんとか引き返すことで、無事にミントとの合流を果たすことに成功する。

 それからミントの言う隠し通路を通り、大幅なショートカットを図ったことによって別のエリアへと到着。ショートカットである岩に囲まれた小幅の狭い道を屈んで通り抜けたことで、その先には平坦な円形をした見晴らしの良い高所のエリアが広がっていた。


 円形の中央には、このフィールドでは物珍しい緑の生命が。それは長年を掛けて育ったと思われる、天へと伸びたたくましい一本の大樹。

 砂地が広がるこの地で育っているそれを見て、いかにも意味ありげなその存在感に俺はイベントのフラグを予感するしかなかった。


 こんな緑の見当たらない場所で、こう一本だけの樹がすくすくと伸びていたら、そりゃ誰だって何かしらの疑問を抱くに決まっているだろう。


「はい。フィールド:ピンゼ・アッルッジニートの渓谷における現在のエリアの確認ですね――スキャン、完了。はい、それで、こちらのエリアの情報でしたね。現在地であります、こちらのエリアの名は『見渡す大樹』。そして、そちらの大樹からはイベント『一本のツルギ』を引き起こすフラグが張り巡らされております。そちらのイベントの発生条件もお教えいたしますと……どうやら、大樹に実る林檎を採取すること。とのことです」


 何故、この地に林檎が実っているんだ。

 疑問ばかりが浮かんでくるものの、ここは有り得ない事象が次々と現れるナンデモ有りなゲームの世界だ。

 こうした不思議な体験も、ゲームの魅力であって醍醐味の一つだ。そう自身を説得させ、次に俺はこのイベントを引き起こすべきかを考える。


「なぁミント。このイベントって、どういった内容なんだ?」


「はい。こちらのイベントは採集を主としたイベントとなっておりますね。これ以上の詳しい内容は……すみません。ワタシの実力が及ばない限りで……内容に関しては、実際にフラグを構築させるまでは把握することが不可能となっております……。ただ、こちらのフィールド以外で入手可能となるアイテムを収集することが目的であることのみは、現在のワタシでありましてもそう判断することができます」


 他のフィールドへの採集か。……面倒だな。

 所謂、お遣いイベント。この地で入手できるアイテムであれば、引き受けても良かったんだが……。

 如何せん、他のフィールドから収集してこなければならないイベントというものは、どうも憂鬱に感じてしまって仕方が無い。そう思って、俺はこのイベントを無視することにした。


 ただ、見渡す大樹というエリアの『一本のツルギ』か……。その内容自体は、なんだかちょっと気になる――


「――っ。パーティーメンバーでありますユノ様に動きが見られます。どうやら、気分が優れたみたいですね。ユノ様は現在キャンプ地を目的地として、こちらでもありますフィールド:ピンゼ・アッルッジニートの渓谷にてその行動を開始いたしました」


 ミント。そう言えば、NPCの行動は把握できるんだったな。

 どうやら、気分転換として俺達と同じフィールドに訪れていたユノ。すごく落ち込んでいたその様子ではあったものの、まぁ彼女のコロコロと変わる感情であれば、その克服も私にかかれば容易いといったところか。


「それじゃあ、俺達もキャンプ地へ戻ろうか」


「了解です」


 ユノに合わせて、俺達もアイ・コッヘンの待つキャンプ地へと赴くこととする。


 その道中も、ここが渓谷である以上はとても険しいものであった。

 急傾斜と段差が行く先々を塞いでいくその道のりに、中々思うようにその先へ進むことがどうしてもできない。

 ……俺としては、最初に歩いてきた道を戻っているだけなんだが……。やはり、弾ませていた冒険心を原動力としていた結果、あらゆる険しき道のりも無意識に渡り歩いていたというわけか。


 帰りが怖いとは、正にこのことか。

 自身の歩んできた計画性の無い帰路に悪戦苦闘を強いられるという、このもどかしくじれったい状況下で。


 ……俺は更なる障害に足止めを食らうこととなる。


『ワオーンッ!!』


 左には渓谷の奥底へ真っ逆さまとなる急傾斜。右にはそびえ立つ段差。そして細く地盤が緩い足場という危険なこのエリアで。

 生物の遠吠えが渓谷にこだますると共に、その正体が突然、俺の目の前から降ってきたのだ。


『ワオーンッ!!』


『ワオーンッ!!』


 それも、四匹。


 茶色の毛並みが目立つ、至って普通のオオカミ。

 ……の、頭部。

 それに加えて。体は人間のそれという奇抜な組み合わせのモンスターの群れが、その手にソードを握り締めながら立ち塞がってくる眼前の光景に、俺は警戒をする。


「ご主人様! そちらのモンスターは『オオカミ人間』です! オオカミの頭部と人間の体を持ち、お肉が大好物な雑食の獰猛なモンスターでございます! 人間の体を持っていることから、その手先は他のモンスターと比べて器用です! そのため、あらゆる道具や武器を扱うことができるという一面を持っており、手持ちのアイテムと集団による襲撃を駆使してこちらを翻弄してくる、モンスターの中でも特に狡猾な敵として名を広めているエネミーです!」


 モンスターの情報を俺に説明しながら、その姿を球形の妖精へと変形させていくミント。

 ミントが姿を変えて離脱を図ったということは、どうやらここで戦闘場面へと突入することになるということか。

 そう察知し、俺は四匹という群れを相手に、このグレードアップしたブロンズソードを引き抜いて臨戦態勢へと移行。


 新たなフィールドで出くわした新たなモンスターを相手に。

 俺は多少の足止めとして移行した戦闘画面に、新たなスキルを試す絶好の機会だと強気な姿勢で臨むことになる。


 さて、それじゃあいつものように敵を片付けて経験値を得ようじゃないか――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ