ウェーブ三:崩落 883字
横殴りと降り掛かった、木っ端微塵となって吹き飛んでくる木材や鉄の破片。
原型を留めることも許されなかったこの建物は、その刹那にも崩落という変貌を果たし。それは横殴りの暴風となって、男性の身に襲い掛かる。
――瞬く間に、その宿屋は粉々に吹き飛んだ。
先まで並んでいた本棚はただの木片へと化し。詰められていた本は大量に吹き飛ばされ、散り散りとなり荒廃へと儚く消えていく。
その廊下も跡形も無く消え去り。旅人を泊めていた個室も凄惨な爪痕に抉られて崩壊。
そして、食堂のテーブルは悉くと吹き飛ばされ。その上のあらゆる資料も紙片となり破けて粉々になり戦火の飛び火で着火。
一面を覆うよう炎上する建物。その時にも全壊を迎えた古き建物の最期の中、"それら"は背に生やした邪悪なる翼を用いて更なる追撃をかましていく。
全壊した建物に降り注ぐ法撃と砲撃。漆黒の呪文に召喚された暗黒の炎が辺りを燃やし尽くし、砲撃は轟音を立ててあらゆる瓦礫を吹き飛ばしていく。
次第に、その地は炎上する荒廃へと姿を変えた。
……ものであったが。その崩落した建物の下敷き。僅かと地に転がる瓦礫が蠢くと共に、下から手が伸びてきて。ゆっくりと身を起き上がらせ、瓦礫をどけながらその男性は姿を現す――
「ぐふッ。けほっ、けほっ。…………ッ」
全身に被った埃や炭に咳払いを行い。それは穏やかな表情を浮かべたまま、眼前の光景を見遣る。
こちらの様子に、地を這う非力な虫を眺めるかのよう軽蔑を込めた視線を向ける"それら"。少なくとも十数人ともなる集団を成して、"それら"は男性のもとへと歩み出すその光景に。真っ向から相対してしまった男性は、やや呆れ気味に呟いていく。
「っ全く。血気盛んなのもまた、若気の至りではあるけれどもね。ただし、他所様に迷惑を掛けてまで血の気を振り撒くだなんて、それは少々と如何なものかなと思うんだが……」
穏やかに悠々とした調子で呟き。その後にも、眼鏡を直す仕草を交えて、そう小さく呟いたのだ。
「……尤も。まるで、若かりし頃の自分を見ているようでね。ッハハ、なんとも懐かしい感覚に囚われてしまったものだ」
【~次回に続く~】




