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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
284/368

ウェーブ三:猶予

 天高くそびえる高台。その頂上へと続く道中の最中に佇む、絶壁の崖の付近に建てられた一軒の建物。

 それは、蔓延る邪悪が風の都の侵攻を開始する以前から平然と佇む、至って変哲の無い一軒家。しかし、その地に吹きすさぶ疾風から不穏を察知するかのよう、若干と古びかけている建物の所々からはみしみし軋む音が響き出していた。



 建物の内部。図書館と見間違うだろう立ち並ぶ大量の本棚と、それに隙間無く詰められた本の列。ラウンジを抜けたその廊下の先、扉を挟んだその向こうに広がる真っ白の食堂にて。設置されたテーブルの大半を埋め尽くす大量の資料が並べられた光景と、それらへと目を移しながら広げた地図を眺め思考をめぐらせていく一人の男性。左耳にあてがった機器で、それを通してとある男と情報を共有し合う。


「そうだね、フェアブラント・ブラート。君の推理からすれば、"ヤツら"が何故この地を襲撃したのかにも納得がいくし。何よりも、それが浮き彫りになるにつれての、人間並みかそれ以上もの知能を持つという"ヤツら"の実態に、一層ものおぞましき一面をその内に秘めていることを容易に想像することができてしまえる。それで、対『魔族』となる武器や兵器の話は……うむ、そうか。では、この戦争においては、それらの補助は期待しない方が良い……いや、期待はまるでできないといったところかな。……正直、現状はあまりにも好ましくない。とうとう、我々は追い詰められてしまったのだ。避難先の施設との連絡も途絶えた。――ミズシブキちゃんの安否も不明だ」


 機器から漏れてくる、焦燥交じりの声音に冷静と対応を行う男性。

 会話を交わしながらと次々に目を移していく資料の数々。それらを地図と見合わせ、一つの脳みそで三つ四つと異なる思考を同時にめぐらせて必死と策を練り出す様子が、現在の苦境をハッキリと表していた。


 眼鏡を直す仕草を挟み、その男性は機器へと続けていく。


「いざという時のためにね、予めに僕は彼女らに手を施しておいてはあるんだ。それは、彼女らを魔の手から逃すための、今の僕が成せる最大限もの支援。それを上手く扱ってくれてさえいれば、彼女らはきっと助かる。フェアブラント・ブラート。大切な人が、こんな凄惨な戦争に巻き込まれたという事実が君の思考を鈍らせることは確かだろう。しかし、今は安否を案じ意識を逸らしている場合ではないんだ。僕も、その避難先に大切な教え子が避難していた。そして、彼女とも連絡が取れない。とても肝の小さい彼女のことだ。今も、その恐怖に侵され立ち上がれずにいるかもしれないし。それか、既に――いや、やめておこう。僕も君も人の子。その気持ちは十分に理解できる。だからこそ……今は、この地で必死と生き延び続ける多くの人の子を救わなければならない。だから――ッ」


 ふと言葉を詰まらせ。その男性は、まるで時が止まったかのようにその動作を停止させた。


 ――周囲に巡らせる意識。横線のように細い目は微動だにせず。しかし、その聴覚は自身の周囲を感知していたのは確かであり。

 ……直に、呆れ気味に軽く笑み。そして、機器へとそう注げた。


「――時間切れのようだ。僕にももう、猶予は無い。ある程度もの対策は施してあることは当然なのだが。如何せん、"ヤツら"の実態は未だ計り知れない。もしも、魔法に耐性を持っている者も存在しているのであれば、僕はここでチェックメイトというワケだね」


 付近に置いてあった、文字という形を成さない文字で綴られた分厚い書物に右手を乗せながら。穏やかでありながらも、力強く、そして、覚悟の意思を思わせる耳に残る調子でそう言い。男性は、そう〆たのだ。


「フェアブラント・ブラート。こうして君と共に協力することが、年々と年老いてくるこの僕にとっての楽しみの一つでもあった。しかし、こうした場面といざ直面すると。いやいや、それが、平穏に明け暮れた悠長な戯言であったことを実に痛感させられる。……どうやら、僕もまた、これまでの平和な日々に危機感を失ってしまっていたらしい。そして、"当事者"となった今になって、ようやくとそれの意味を理解してしまえた。僕もまた、この地に生きる……ほんのちっぽけな無力の微生物であったことをね。――さて。それでは、僕もまた、この波乱の波にもまれてくるとしよう。この年齢にもなると、その荒波にもみくちゃとされてボロ雑巾となったら、この足で二度と立ち上がることもままならなくなるかもしれない。だが、命を張って戦ってくれている彼らをただ見守るだけというのも、"以前までのボクを成り立たせてくれていた地位と意志"が決して許さないものだからね。だから、僕もまた、この命を燃やして一波乱へと身を投じるとするよ。それじゃあね、フェアブラント・ブラート。そして、ミズシブキちゃんの行方に、どうか、幸運あれ」


 機器から手を離す男性。

 ゆっくりと下げられるその左手。警戒を強めた様子でその場に佇む。


 外部から絶えることなく伝ってくる戦火の轟き。その首を微動だにさせることなく、男性はただその場に佇んでその時を待ち始める。



 ……そして。瞬間――





 横殴りと降り掛かった、木っ端微塵となって吹き飛んでくる木材や鉄の破片。

 原型を留めることも許されなかったこの建物は、その刹那にも崩落という変貌を果たし。それは横殴りの暴風となって、男性の身に襲い掛かったのだ――――



【~次回に続く~】

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