表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
283/368

ウェーブ三:窮地

 その邪悪らは眼前の憎むべき宿敵を相手に、情けも皆無である禍々しき闇の力を用いてその神聖なる風の地を侵し続ける。

 交えられた戦火の、生々しくと刻まれた漆黒の傷跡。悉くと崩落させられた、見るも無残な建物や人工物の破片や欠片の散る光景。

 ボロ雑巾のよう黒く穢れ、凹凸に埋まる欠片や破片で覆い尽くされた風国の変わり果てた姿は。開戦からそれなりと経過した現在も、また新たな変貌を各地で見せていき。神聖と謳われていたその景色は、もはや蔓延る邪悪の念に引っ掻かれ切り裂かれ、潰され粉微塵とされた一つの荒廃を生み出していた――――




 また新たに破壊され、戦火の飛び火を受ける風国のとある地点。

 そこは、周囲の建物に紛れる大きな施設。……を模していたものであったが。その建物は、邪悪の手によって既に木っ端微塵の木片や鉄の破片へと化しており。その床、その地面には一つの空洞と下へ降りるはしご。付近にはそれを埋めていたのだろう蓋が形状という形状を成していない鉄の塊となって転がっている。


 その地点も、もはや神聖とは呼べぬ崩落を迎えていた。

 逃げ惑う人々の悲鳴は戦火の渦に溶け込み。人波となって駆け抜けるそれらの集団を悉くと散らしていく邪悪の魔の手。例え"それら"の脅威から免れようとも、崩落する風国の建造物や砕かれた自然の崖が崩れる雪崩。疾風により運び込まれてくる、鉄パイプ、郵便のポスト、巨大な岩石から、根っこから剥がれ飛ばされてくる大木まで、そのあらゆるを疾風が運び込み。更に、"その邪悪ら"の招き入れる災害を受けて、この地点で命辛々と逃げ惑う人々は次々と姿を消していくばかり……。


 眼前の光景を嘆き戦慄する悲鳴。

 邪悪の力を受けて、運び込まれる数多の災いに身を引き裂かれ響かせる断末魔。

 それらの光景に発狂する絶叫の声や、発狂で狂人と化した暴徒による喚声が辺りを埋め尽くすその地は、他地点にて追い込まれた主力の見ず知らずに、阿鼻叫喚の地獄絵図を迎えていたのだ――――




「エネミースキル:サイクロプス・ハンマー!!!」


 握り締めた両手から光を生成し、それを巨大な拳の形へと変形させて周囲の『魔族』を薙ぎ払うたった一人の戦士。

 "少年"もまた、その避難先に誘導されて戦争の行方を案じていた者の一人。しかし、事情が変わった今、その右手にダガーを握り締めて。この疾風吹き荒れる地にて繰り広げられる阿鼻叫喚を食い止めるべく、たった一人という単身のみでその脅威へと立ち向かっていた。


「ッ……くッそおおォォッ!! いい加減にっ――いい加減にっ、いい加減に倒れろよォッ!!!」


 素早い身動きから繰り出されるダガーの連撃を真正面から受けていく『魔族』。

 怒涛のそれらを受けてよろけはするものの、まるで意ともしないと言わんばかりの笑みを浮かべて彼へと右拳を振り下ろす。

 

 軽やかなジャンプで避ける少年と、空振りしたその拳。だが、大気を纏って放たれたそれの衝撃波に少年は吹き飛ばされ。更に疾風に運ばれることにより上手く着地ができず。着地もままならず地面を転がり、既に崩落を迎えた瓦礫へとそのまま突っ込んで盛大と砂煙を上げる。


 すぐさまと体勢を立て直し。腰から取り出した錠剤を口に含んでHPを回復しては、その『魔族』へと視線を向けて。

 ――だが、咄嗟に側から響いた悲鳴にそちらへと振り向き、瓦礫を蹴り出し飛び出していく。


「ッこれ以上と! これ以上とッ……!! これ以上と、関係の無い彼らに触れるんじゃねェェッ!!!」


 絶叫交じりのセリフと同時にして眼前の『魔族』へと飛び掛かり、振り被っていた邪悪の斧を蹴り飛ばし攻撃の妨害を行う。

 斧を弾かれ、殺気溢れる眼光を向ける"邪悪なる化身"。共にして、斧に戦慄し泣き喚いていた人々は救われたこの命に、再びと走り出して逃走を開始していく。


 『魔族』とのタイマンへと挑んでいく少年。その『魔族』が繰り出す拳の攻撃を軽やかに回避し。その僅かな隙すら晒さぬ強敵を相手に、その一瞬の隙を縫うかの如く"それ"の右肩へとダガーを突き立てて。

 迸る橙の筋。それは会心を表すエフェクト。その一撃で大いに怯んだ『魔族』へと連撃を叩き込み、会心のエフェクトが飛び交うその中でもみくちゃと怯みモーションを繰り返した『魔族』は、無念の表情を浮かべてゆっくりと仰向けに倒れる。


 倒れこんだ"それ"を合図として、単身で脅威へと勇敢に立ち向かう少年は邪悪のいない街路を指差しながら、周囲へ唯一となる救いの手を差し伸ばしたのだ。


「今だッ!!! 最後の希望でもある退路を今、おれが切り開いたッ!!! 今の内にッ――今の内に全員、ここから逃げろッ!!! いいか!! 一度でも走り出したら二度と振り向くんじゃない!! 前だけを見て!! その最後の希望だけを見据えて!! この地から、一刻でも早く!! 一人でも多く逃げ出して生き延びるんだッッ!!!」


 少年の合図をキッカケにして、周囲を駆け回り周囲に身を隠していた人々は一目散と駆け出す。


 それを見送る中で、背後から察した殺気に勘付き咄嗟の前転を行う少年。

 瞬間にも、佇んでいた地点が破壊される音。禍々しき黒の飛沫が飛び散り、続け様と振り被られた右拳を鮮やかに回避を行い距離を空けていく。


 逃げ惑う民から"それら"を離す後退。

 着実と退路から距離を離して『魔族』を誘導し。又、退路へと向かう"それら"へと駆け付けては通りすがりに斬撃を浴びせヘイトを集めていくその少年。

 視界に入る"それら"を自身へと集めていき。それを繰り返すことによって、逃げ惑う民を一人でも多くとその標的から外していく。


 ……しかし、多くもの『魔族』に付け狙われた少年。数を増やし、正面から次々と寄って集る"それら"に緊張で喘息を起こしながら。少年はダガーを構え迎撃の態勢へと移行する。

 その時に、遠くから掛けられた、少女からの言葉――


「ミズシブキ君ッ!!! ミズシブキ君も逃げよう!!! じゃないと、じゃないとッ!!!」


「ッ?! っあいつ、まだ逃げていなかっ――ッ」


 声の主に驚き目を丸くさせて。だが、逸らした視線から飛んできた拳を察して後方へと回避を行い。眼前から次々と繰り出される連撃を相手に鮮やかに回避を決めていく少年。

 その少年の身を案じて、少女は薄浅葱(うすあさぎ)の釜を強く抱き締めながら続けていく。


「このままじゃあ、ミズシブキ君も死んじゃうッ!!! もう、ほとんどの人は次の避難先へ行ったよ!! だからあとは、ミズシブキ君とウチだけだよッ!!!」


 涙ぐんだ声で懸命と呼び掛けていく少女へと、少年は怒鳴り散らしながら言葉を返していく。


「ッんなこと言ってないで、おまえもさっさと逃げろッ!!! おれは退かない!! まだ! まだ、この地に逃げ遅れた人達がいる!! おれは、彼らをここから逃がすために必要な人間なんだッ!!!」


「なに言ってるのッ??! だって。こんな状況が続いていたら、何れミズシブキ君は死んじゃう――ッ」


「おれの心配なんかしていないで、いいからここから立ち去れッ!!! 一刻も早く、おまえだけでも生き延びるんだ!!!」


「でも――ッ」


「いい加減にしろッ!!! おまえは生き延びろッ!!! だから、さっさと行けェエッ!!!」


 枯れる声で命懸けの絶叫を上げて。少年は、"それら"を少女から距離を離すよう誘導を行いながら、荒廃と化した風国の中を駆け回り続けたのだ――――






 空も大地もその漆黒で覆い尽くす『魔族』の集団を前にして。眼前からキリも無く飛んでくる邪悪の翼は、様々な武器の形を織り成しあらゆる攻撃手段で着実と風国陣営の勢力を削っていく。


 次々と倒れていく仲間達。疲労が見えてきたラ・テュリプとユノも額の汗を拭い、眼前からの猛攻に必死と耐え凌ぎ続けて。

 こちらもまた、対処しても対処しても終わり無く次々と雪崩れ込んでくる『魔族』を相手にして。目の前の脅威を前に湧き上がってくるこの勇敢なる感情の蓄積をも凌ぐ勢いで、徐々に浪費するブレイブ・ソウルのゲージとHPに、もはやこれ以上と"ヤツら"の猛攻を凌ぐことがままならない。


 疲労で何度も躓き、その隙をブレイブ・ソウルの加速で帳消しとして後方へのバックステップで誤魔化しながら。しかし、この加速した素早い回避にさえもついてくる『魔族』の機動力を見せ付けられ、常に鋭利な爪を突き出してただひたすらと攻撃を繰り返してくるしぶとい『魔族』に追い詰められていく。


「弓スキル:フェニックス(ラ・コンバッション)アロー(・ドゥ・ラムール)ッ!!! ――っく、MPが無いっ。回復をしなくちゃ、っだけど。っ回復を、させてくれない……ッ!!」


「ジャンドゥーヤ!! 頑張って!! これを乗り切れば、きっと私達は勝てるからッ!!! っ危なッ――っこの!!!」


 底の尽きたMPで、通常の矢で対応を始めるラ・テュリプと。ジャンドゥーヤの稲妻を潜り抜けて本体へと接近を果たした『魔族』からの攻撃を、その姿が霞がかる特殊なバックステップで"それ"の攻撃を透かして。返しの右手のビンタで怯ませ、"それ"の胸部に右の掌を添えると同時にして漆黒と鮮紅の衝撃波を放ち敵を吹き飛ばしていくユノ。


 四方八方と囲まれて完全に追い詰められたこの状況。抗い続ける主力の彼女らに見えてきた限界は、この戦況の行方が想定できてさえしまえる悲観溢れる絶望的な光景だった。

 相当にまで追い詰められたこの状況にて現れたのは。回避を続けてひたすらと生き長らえていたこの身の背後から、この、前方へと向けていた視界の左右両側から発出するよう伸びてきた爬虫類の身体。


 それぞれ、灰と黒の斑。紫と黒の斑の身体を持つ大蛇が周囲の『魔族』を薙ぎ払うその光景に、咄嗟と振り向いて確認する。

 この視線の先には、ダークスネイクの姿があった。だが、彼もまた、相当なまでの疲労で歯を食い縛る苦悶の表情を浮かべていたのだ。


「遥か彼方の幻想に染まりし天井に留まらず、生命の息吹きが無限の命を育む大地をも侵し尽くす純黒の悪夢は、それみよがしとこの神聖なる疾風の都に惨く残酷な爪痕を残し。内に秘めし闇の魂が疼くその感覚に快楽さえも覚えるかの如く、殺意と凶暴をステータスとして邪悪は留まることも知らぬ漆黒の翼をはためかせ続ける!! …………つまり。ッ主力が集う箇所でこの惨劇!! 見渡しても『魔族』しか見当たらないこの状況は、夢であってほしいものだッ!! ッまるで勝機を見出せない。ッ勝利への兆しに陰りが掛かって見出すことも困難を極める! ここから勝ちを狙うのは、もはや不可能にも近しいッ!! ……ッおいらのいたグループDとやらも、全滅は免れたものの、つい先にも崩壊を迎えて敢え無くとこことの合流を余儀無くされた!! だが! こことの合流は、おいらの失策だったかもしれんッ!! このプライドを捨てるような発言だが! 正直、グループの崩落に紛れてこの地から逃げ出せばよかったとも思えてきて。そんな、我が傭兵としての信念を裏切る所業に対しても、どうして罪悪感を押し切りこの地からの脱出を試みなかったのだと、自身の判断に後悔さえもしてしまえるんだッ!!!」


 毒を持つ大蛇を操って『魔族』を対処するダークスネイクとの合流も果たしたものであったが。……正直、この場における他地点の仲間との合流は、それだけこの状況が窮地へと追い込まれている真に受けたくなどない現実の何よりの証拠。

 主力が一箇所へと集まってしまったこの状況はもはや、その察しが付く通りの未来を迎える条件が揃い踏みの絶望的などん底の局面。


 ……このまま、俺達は目の前の『魔族』に負けてしまうのか――――ッ!?



【~次回に続く~】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ