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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
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刺激の足りない旅路

「えぇ!? 通る予定だったルートを変更したの!?」


 ユノの驚愕が声となって、辺り一面に響き渡った。


 現在、俺はこの世界に降り立った地である、最初のフィールド:ガトー・オ・フロマージュの豊かな地から東南へ真っ直ぐと進んで。その緑溢れる豊かな地からは一変した、茶色が広がる荒野のフィールドへと移動を果たしていた。

 このフィールドは、ガトー・オ・フロマージュの豊かな地から草木を取っ払ったような、どこかもの寂しげな所。一見すると何も無い場所ではあるが、辺り一面の広大な砂地は、また今までとは異なる景観を演出している。


 これはこれで、新鮮でいい景色だ。そう思わせる、新たな地に抱く冒険心をかき立てられるフィールド。

 ……が、俺のパーティーメンバーであるユノはこの地で得られる刺激が足りず、どうやらその冒険心に満足がいかない様子であった。


 まぁ、それもそのはずであり――


「すまないねぇユノちゃん。確かに、ワタクシはユノちゃんの期待を裏切った。だが、そんなワタクシのことをどうか悪く思わないでほしい。というのも、これはユノちゃんの性格と新米冒険者であるアレウス君、ミントちゃんのためを思うがための決断であるからだ」


 満たされない冒険心に、ユノは頬を膨らませて激怒している。

 そんな可愛げのある睨みを利かす彼女の先には。枯れた倒木に腰を下ろし、集めた枯れ木で火を焚いている新パーティーメンバー、アイ・コッヘン。

 とても申し訳なさそうな仕草で説明しているが、その胡散臭い声の調子からはどこか真剣な心持ちを思わせていた。


「本来ワタクシが通る予定であった旅路……いや、近道は、それなりの経験を積んだ冒険者でなければ、瞬く間にその命を刈り取られてしまう危険な場所。ワタクシであればまぁ問題無く通れるのだが、さすがにまだ経験の浅いユノちゃんやアレウス君を連れて通るわけにはいかなかったのだよ。ワタクシは君達のことが大事だ。だからこそ、そんな大事な人材を、あからさまに危険なレベルの地へ同行させて、その生命を投げ捨てさせるわけにはいかない。だからすまない、ユノちゃん。今回ばかりは仕方無いと言えども、これはユノちゃんを騙したことになってしまったね。この罪な男を、どうかその寛容な心で許してやってほしい」


「そんなぁ……。あぁ……せっかく楽しみにしていたのに……」


 アイ・コッヘンの真剣な態度とは裏腹に、どこかお気楽な調子を伺わせるユノ。

 この危機感をまるで感じさせない彼女を見て、俺はアイ・コッヘンの判断は至極正しいものであることを察した。


 確かにそうだよな。死ぬ可能性が極めて高いという場所へ、こんな好奇心全開な冒険者を連れて行くわけにはいかないだろう。


 ユノには同情するが、今回ばかりはアイ・コッヘンに賛同する俺。ユノには悪いが、正直のところ俺はこの真実を聞いて安心していた。

 まだ冒険が始まったばかりというのに、さっそくレベルの高いフィールドへ連れていかれるのかという不安があったからな。


「もー、すごくショック……。なんだか、楽しみにしていた菓子パンが、他の誰かに食べられちゃったような。どうすることもできない悲しい気分だわ……」


 これを聞いて、ますますアイ・コッヘンの判断が正しかったことを実感する。

 危険なフィールドへの冒険が菓子パンを食べる感覚って、ユノお前……。


「アレウスも、張り切って装備を整えたりしたのにね。ホントに残念だわ……」


 いや、張り切っていたわけじゃなくて、怖すぎたために用心として身の周りのステータスを上げただけなんだよな……。


 だが、まぁ、半分はユノの言う通りであり、俺はその高レベルとなるフィールドの冒険に向けて、ある程度の装備を整えてきていた。

 武器は初期から使用していたソードをグレードアップすることで、ブロンズソードへと強化。攻撃力が上がり、以前よりもだいぶ敵との戦闘が楽になった印象。

 防具も新米冒険者の服装から一新。胴は緑の民族服とその腹部分に巻かれた焦げ茶のベルト。腕は焦げ茶色の革の手袋。脚も焦げ茶色の長ズボンと緑の登山靴というこの装備。


 せっかくあのドン・ワイルドバードからドロップした胴の防具はと言うと、レベルが足りないことで着用不可という制限を受けることになってしまっていた。

 そうして結果的に武器のブロンズソードも合わさったことで、俺の見た目は以前以上にものすごく地味な彩色となっていた。


 これだけ聞くと、もはやグレードアップしたにも関わらずどこか冴えない印象を与えてしまうだろう。だが、その地味な印象はこの装備品とはまた別のステータスで、挽回を目指す。


 そう、グレードアップしたのは装備品だけではない。実はこの冒険に向けて、俺は新たなスキルも習得していた。それも、二つ。

 それらを説明したい気持ちは山々ではあったものの、この新たなスキルに関しては実践でのお披露目にまで温めておくことにしておこう。


「なんだか残念な気分で、気持ちがモヤモヤするわ。ちょっと気分転換で散歩にでも行ってこようかしら」


 しわを寄せた眉間で、残念そうな表情を浮かべながら。俺らにそう伝えるなりユノは背伸びをしながら、目的も無くどこかへと歩き去っていってしまった。

 それを見送る俺とアイ・コッヘン。冒険好きなユノの期待を裏切ってしまったこの微妙な空気の中、俺は肩をすくめるアイ・コッヘンと目を合わせて苦笑いを見せる。


「このキャンプ地はワタクシが見ているよ。だからアレウス君、君もミントちゃんとこの地の散策に出てくるといい。せっかくこうして慣れない土地に訪れたのだから、まだ駆け出しである今の内にいろんな景色をその目に焼き付けておくといいよ。そうして養われた目は、きっとこの先の冒険で役に立つ時が来るだろう」


 一時の休憩場所として定められた、このキャンプ地というもの。ゲームのシステムで説明をするとなれば、所謂どこでもセーブポイントとでも呼べるだろうか。

 一度に置けるのは一箇所のみという制限がありながら、こうした冒険の道中で自由に置くことができる簡易式の持ち歩けるセーブポイント。旅路のど真ん中であったとしても、このキャンプ地というものさえ置いてしまえばその周囲は安全になるという優れものだ。


 ただ、このキャンプ地の安全を継続させるには、必ずパーティーメンバーの一人がこの地に残っていなければならないという制限も設けられている。

 そういった関係で、アイ・コッヘンは自分がこの地を見ているから、俺は自由に探索してきなさいと気を遣ってくれているのだ。


 ありがとうございます。とアイ・コッヘンにそう伝え、俺もユノのようにこの周囲を散歩しようかと選択肢のはいを決定。

 それじゃあ行こうかと俺は頭上を見上げながら予定を伝えると、上空から球形の妖精がこちらへ降りてくるなり少女の姿を形成した。


「いやぁ。それにしても、未だに驚きを隠せないよ。守護女神だっけ? ミントちゃんという少女も、中々に只者ではないなと見抜いていたが……まさか、人という枠から飛び出した女神様だったとはねぇ。謎は謎を呼び込み、更なる謎によってその深みを増していく。不思議なものを追い求めるユノちゃんの気持ちが、よくわかった気がしたよ。ふむ。いやしかし、これで余計に、只者ならぬアレウス君への期待が高まったというものだ。いやはや」


 これは、同じ旅路を歩むという関係で、事前にミントの正体を明かしておいていたというもの。

 ミントの正体は、俺を見守る守護神ならぬ守護女神。と、周りのキャラクター達はそう把握している。


 本来は主人公を導くナビゲーターというメタな役割を担っているミントだが、そんなメタな情報がこの世界の住民に受け入れられるとは到底思えない。

 ということで、最初の時に展開したユノへの説明と同様に、この守護女神という有りもしない設定でミントという人物を貫き通すことにしたのだ。


「ミント。どうする? 俺と散歩に行くか?」


「とても素晴らしい選択ですね。このミント・ティー、主人公専属のナビゲーターとして、ご主人様のあらゆるご命令に従う所存であります。故に、ご主人様の歩む地をナビゲートするべく、このミントも共に付き添いいたしますね」


「これは命令じゃないんだけどな……」


 俺の問いに控えめな動作で頷き、自身の意思を遠まわしに伝えていくミント。

 真面目な性格であることと、自身の意思を表に出さないという控えめなこの性格。先のミントの言葉を簡潔に要約すると、『ワタシも散歩に行きたいです』というものだ。

 

 もっと自身の意思を主張してもいいのにな。と、ミントの堅苦しさに毎回そう思ってしまう。

 だが、これもミントというキャラクターの魅力というものなのだろうな。きっと。


「よし。それじゃあ、どっか適当に歩いていこうか」


「了解しました」


 そう言い、控えめな動作でちょこちょこと走り寄るミント。

 そして俺の斜め後ろといういつものポジションにつくなり、ミントはいつものように律儀な様子で待機状態に入った。



「それでは、ちょっと散策に出てきます」


「はいよアレウス君。新たな地の散策を十分に堪能してくれたまえ。ミントちゃんも、その地でしか体験できない発見をしてくるといいよ」


 アイ・コッヘンとの一時の別れを告げ、俺はミントと共にこの荒野のフィールドへ散歩に出掛ける。

 いつものようにミントと話をしながら。いつものようにこのゲーム世界を歩き。いつものように新たな発見に心を躍らせる。

 そんないつものような散策を、俺は今回もするつもりであった。


 ……だが、まさかこの時点で。この散策がある出来事を引き起こす引き金となるとは、俺は到底思いもしていなかった。

 俺の身に迫る、新たな冒険と危険が。主人公という特別な存在が引き起こす、数々の事件が。

 その作品の主人公である以上、そのキャラクターは宿命という一言で、とんだハプニングの連続に巻き込まれてしまうというものを、俺はこの身で改めて知ることとなる。


 それはまた、次回以降の話となるだろう――――

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