ウェーブ二:明かされる少女の秘密
瞬間。突然と、一歩踏み出した足を踏み留めた彼。
踏み留めた足元の衝撃が漆黒となり屋上から弾ける中での、疑念を思わせる彼の表情の変化に。目にしたこちらも、思わずと様子をうかがい出してしまい。互いに構えたまま、その様子に警戒を行っていく。
その姿勢のまま、じっとこちら側を見つめてくる彼。表情は疑念に満ちていて、且つ、何かを探っているようにも見えなくはない。
……しばらくして、彼は戦闘の態勢から流れる動作で踏み出した足に右腕を乗せて。中腰で屈んだその姿勢で。その注視するような視線を、その少女へと、じっと、向けていく……?
「……待て。待てよ。そう、そこにいる、白髪の女。……待て。落ち着け。そうだ、一旦落ち着けオレよ。そうだ。深呼吸。すーっ、はーっ、……待て。待てよ。そう、そこにいる、白髪の女。……待て。落ち着け。そうだ、一旦落ち着けオレよ。そうだ。――やっぱりそうだッ!!!」
驚愕を口にすると同時にして。その彼は、その筋骨隆々な姿にはとても似つかわしくない動揺の様相を見せたのだ。
衝撃を受けて、驚きの余りに退きもする彼の様子に首を傾げることしかできない。
一体、彼に何が起こったのか。動揺をするその姿と。その姿を晒す要因となった、隣で同じくと不思議なものを見る様相で彼を眺め続けるユノ。
彼女もまた、ポカーンとした様子で。そもそもとして彼に心当たりも無いだろうユノは一瞬と自身の姿へと視線を移し、その対象が自身であることを再確認してから再びと彼へと視線を送っていく動作も見せていき。
……依然として筋肉を隆起させて力む右腕を見せ付けながら。彼は一人何かを確認するよう彼女を見遣り続けて……その言葉を口にしていく。
「……うむ、やっぱりそうだ。そうだな。このオレの直感に、微塵もの狂いなどは決して無い。何度と確かめてみても、確かに、あの白髪の女から"それ"を感じるぞ。……そう言えば、先にも巨大な稲妻が迸っていたな。空気を伝いこのマッシブを撫で掛けてきた、筋トレ後に上腕二頭筋から流れてきた汗のように塩辛い帯電。そいつが迸ったその方角から、この女は現れた。…………あれほどの力を持つ人類なのだ。ということは、やはり間違いない。間違いないぞ! この女から、"それ"を感じてしまえる……ッ!!!」
先の勇猛な姿とは一転とした、様子をうかがい一歩を踏み出せずに冷静な分析を行い出した彼。
その声音は震えており、男らしい低く力強い調子で動揺を織り交ぜたそれらの言葉に、どうやらユノから感じ取った"それ"となるものにひどく警戒をしている模様。
何に怯えているのだろうか。彼女を警戒する要因を、こちらまでもが探り出してしまう。
とは言え、その要素の大半は既に分かりきっていた。それは、少女に漲る活気から繰り出される、悪夢の如き漆黒と鮮紅の稲妻。彼女が従えるあの召喚獣は、仲間であるこちらからしても驚異であることにはまず間違いない。
……それにしてもだ。『魔族』である彼は勿論として。この冒険を始めてからというものの、NPC:ユノ・エクレールという少女の正体を、主人公アレウスはこれまで何も知らずにここまで来たものだ。
――こうして思い返してみると、ユノという少女にはいくつか特徴的且つ不可思議な点がいくつも存在していた。それは、何故それほどまでの危険を冒してまで未知となる事象を追い求めるのか。何をやらせても器用に上手くこなせてしまうその手先と感覚。人との交流も頻繁に行うことから、人脈も割と広いものであり。ジャンドゥーヤを相棒にした戦闘能力はピカイチで。そして、一番と不可思議と思えるその要素は……外見のように大人の色気溢れるクールな表情を見せたかと思えば、それは一転として無邪気な女の子のように明るくはっちゃけ始める、あまりにも頻繁となる忙しない表情の移り変わり。
コロコロと変わる表情と性格には、以前から疑念を抱いていた。それは、あのアイ・コッヘンも言っていたように、彼女の中にはまるで"二つの人間性が存在しているかのような"。安定しない少女の姿にはきっと、何かしらの理由があるのだろうと薄々は感じ取っていたものであったのだが……。
「お、おい。そこの女ッ!! ……その顔を見せてみろ。そうだ、もっと、このオレを見つめ続けろ。そうだ。何をキョトンとしている? まぁいい。――ふむ。その瞳からは、熱き情熱が滾っているな。熱い。熱いぞ。それでいて、とても……熱いッ!!」
……ユノって、一体どういった人物なのか。そもそもとして、ユノとは一体、どういった生い立ちを辿ってきたNPCであるのか。
あまりにも自然に存在していた彼女へと、改めて抱き始めるいくつもの疑念。その巡る疑念のままに、隣の少女へと視線を向けていく。
「そうだ。その顔からもしっかりと感じ取れるぞ。……それでいて、その姿勢もそうだ。その音もそうだ。そして、その存在感こそが……紛れも無く"それ"を証明しているッ!!」
眼前から放たれていく数々の言葉に、この状況でどういった感情を抱けばいいのかがまるで分からないのだろうユノは、困惑交じりの複雑な心境を表情に表してひたすらと首を傾げ続けていく。
「……やはり、な。やはりな。やはり! この目で、この耳で、この感覚で。そして、この筋肉で分かってしまえるぞッ!! ――ッフッハハハハハハハハハアッ!!! あぁ、出会えた。出会えたぞ! まさか、これほどと早い段階でこうして出くわしてしまうとはなァッ!!! この胸に過ぎる興奮、これはまさしく……感動!!! そうか! そうかそうか!! あぁそうかそうか!!! 間違いない! 間違いないぞッ!!! この女、ビンゴだッ!!!」
彼は一体、ユノの何を感じ取ったのか。……これはすなわち、NPC:ユノ・エクレールという少女の素性に迫る、重要な情報を得ることができるイベントの一環として見てもいいのだろうか。
ただならぬ空気に。そして、少女の核心に迫るだろう予感に、この胸にじりじりと緊張が走り出す。
隣で戦闘態勢のまま構える、天真爛漫なその人間性を振舞い続けてきた一人の少女。――だが、今を以ってして。敵対した彼がキャッチした少女の"それ"というものをキッカケとして、少女に関する新たな情報が放たれる展開を迎えたことを自然と悟ることができてしまえて。
……彼の口から、一体どんな言葉が飛び出すのか。それは、ユノという少女の新たなる一面の発見となるのか。それとも……少女の知られざる核心に迫る、少女が誰にも知られたくないであろう秘密の暴露となるのか。
『魔族』である彼が纏う不穏な空気が漂い出してきたこの空間。これまでと間を溜めてきた彼のセリフは、とうとう少女の核心へと迫り出す。
……そう。この時を以って、NPC:ユノ・エクレールという少女の新たな情報が今、彼によって暴露されたのだ――――!!!!
「その顔からもしっかりと。その姿勢もそうだ。その音もそうだ。そして、その存在感こそが、紛れも無く"それ"を証明しているッ!! ……この目で、この耳で、この感覚で。そして、この筋肉で分かってしまえるぞッ!! おい! そこの女ッ!! その凛とした態度で"それ"を隠しているのだろう? だが! 野生の本能に我が伝統がブレンドされたこのシーボリ一族スーパー本能を以ってしては、女の内部を探ることなど実に容易いものッ!! このオレに、隠しモノなど一切通用しないッ!!! 今こそ、女の"それ"を暴いてみせよう!! おい、女!! 貴様、その身に付けている衣類の裏に隠れている"それ"だ!! "それ"はもしやしなくとも……そうだ!! ――――さては貴様! それは、"腹式呼吸"、だなッ!!?」
…………っえ?
【~次回に続く……?~】




