ウェーブ二:由緒正しき魔族の戦士
その地に生々しくと刻まれた、酷く醜く残る漆黒の傷跡。
それは、ぶち撒けられたペンキのように広がる邪悪なる黒。何かしらの衝撃によってボコボコと凹んだ地面や建物。その形容はとても原型から掛け離れており、その有様を例えるならば、一種の芸術品とでも呼べるだろうか。
変貌を遂げた風国を駆け回る中で、共にするユノと見遣ったその視線の先。パステルなカラーの建物、その屋上にて腕を組み佇んでいた一つの漆黒。
"それ"はこちらを見下ろし、とても誇らしげな表情を見せて。"それ"もまた、こちらの姿を捉えていたのだ――
喉にこもる音の、ゴツく、少々と野太く。しかし、空気に溶け込むような。腹から声の出ているハキハキとした男らしい調子の声音。
「ふっ。懲りもせずに次々とやってくる。このオレの鍛えに鍛え上げられたマッシブの魅力に引き寄せられ。貴様らもまた、踏み入れてはならぬオレの射程範囲へと足を踏み入れた。そんな貴様らは正に、飛んで火に入る夏の虫!! ――いいだろう。ならば、次に目撃する我がマッシブのハッスルによって。貴様らも、我が『魔族』の血肉となるが良い!!」
その身長は軽く見積もっても百八十八と見て取れる大きな存在。
丹念に鍛え上げられた、筋骨隆々な肌色の上半身を、踵まで届く丈長である漆黒のマントで包み込んでおり。影の具現化を思わせる、余裕のあるボトムスとブーツを身に付けている。
ゴツく強張った、彫刻のような顔。髪も、妖艶さを伺わせない厚塗りの紫を思わせる短髪であり。瞳は黒く目は細く、眉は太くの至極濃い圧を感じるそれらは、黒の衣装に包まれていながらも非常に印象的な存在感を醸し出している。その上に、シワの無い厳つい素肌から見るに。そのゴツく厳つい強面とは裏腹に、年齢は比較的に若人として捉えることもできたものだ。
全身で力を蓄えるような動作の直後、その勢いを以ってして行われたマッスルポーズ。両腕と胸筋をアピールする大胆なポージングを決めて。勢いを纏った動作の衝撃に大気が破裂し、邪悪なる漆黒が画面を揺らしながら弾け出す。
次に右腕を前に出して筋肉をアピール。誇らしげな表情で左手で盛り上がる筋肉を叩きこちらへと見せびらかして。次に左腕を。次に胸筋を。次に上半身をと、次々と自身の身体を見せびらかしていきながら、彼はセリフを続けていく。
「ここは、萌える命が果てる戦の地! 生ける者が終息を望み一つの収束を迎える終わりの大地! しかし!! 収束を望みしそれらがたとえ『魔族』を蝕む輩であろうとも。此処は、共に萌える命を分かち合う熱意の集いし戦火の渦中。双方のハッスルが弾け合う実力と実力のマッシブとマッシブの交わる熱き戦にも礼儀在り。よって! 我が一族の誇りと信念に従い。貴様らにもまた、礼儀を払ってこの筋肉を振るうとするッ!! ――今ここに宣言をしよう!! 我が名は、『ゾーキン・シーボリ』ッ!!! 歴史ある『魔族』の世にその名を連ねる誇り高きシーボリ一族の血統を引き継ぐ、この一族による流儀、或いは礼儀に等しき神聖なる伝統がもたらした、血と汗と涙とプロテインの結晶であり我が誇りとして汗と共に輝きを放つこのマッシブを存分に振るう戦闘民族であり!! どの生物よりも先見に長けた生態の頂点に君臨せし『魔族』に属する我がシーボリの一族に伝えられし伝統がもたらしてくださった、肉体に宿りし屈強なる精神と生命の加護を纏う、生物の素晴らしき進化の過程に我が一族のみが有する由緒正しき伝統が上乗せされたことにより促された生物の成長の限界の凌駕の末に洗練されし伝統のマッスルパワーを以ってして!! 括りとして同じ生物でありそれ故に生命を宿しながらもただの敵対関係に留まらぬ『魔族』の宿敵である眼前の存在に、このシーボリの一族の誇りを改めてしらしめてみせようぞッ!!!!」
両腕を後頭部へとかざして上半身のボディを誇らしく見せ付けながら。それが彼のデフォルトである決めポーズだと思わせるポージングと同時にして、その高らかと宣言するセリフに合わせて再びと背後で張り裂ける大気。
邪悪なる漆黒が弾ける、禍々しきその力を背景にして。由緒正しき『魔族』の血統として名乗り出す、NPC:ゾーキン・シーボリ。
それは、先までと相対してきた『魔族』と何ら変わりの無い存在でありながらも。その名が記憶に蓄積されるこの感覚。これまでとNPCとして出会ってきた、主要となる登場人物の名を聞いた際の感覚を覚えたことで、より一層と彼の姿にインパクトを受けてしまう。
名乗りを終えると共に、その背から邪悪なる翼を生やし右腕を覆う光景を目にして。隣で様子をうかがっていたユノが戦闘態勢へと移行し構え出す。
強力な敵性反応と出くわし。そして、迎えた戦闘の場面にこちらもまたクリスタルブレードを構えていき。
ユノという頼れる先輩と共に立ち向かう、眼前の巨大な脅威との戦闘に。この水縹の魂に潤いがもたらされる――
「――シーボリの一族に宿りし魔の加護よ。どうか、このオレに……我がシーボリの血統を受け継ぎしこのオレに、一族に伝えられし伝家の宝刀を再び用いる許可をお与えくださいませ。その力を以ってして、一族の血統に滾る熱意を、一族の血統の糧となる戦意の昂りを捧げます」
より一層と肥大を続ける彼の筋肉は今にも張り裂けそうで。目に見えて分かってしまえる、その漲る力に瞳を戦意の炎で燃やしていく。
「我が名はゾーキン・シーボリ。このシーボリ一族の血を受け継ぎし、誇り高き真の『魔族』の戦士なり。……漲る。漲るぞ。再びと漲ってきたぞォッ!!! この筋肉の昂りを。オレはもう、抑制することなどは決してできないッッ!!!」
背に生える翼は右腕を纏いながらも羽を模して。それは飛来の前兆とうかがえ、次に訪れる強力な一撃に咄嗟と構えていく主人公アレウスとユノ。
彼の足が動き出す。その高らかに笑みを浮かべる表情が強張る。そして、翼を纏いし右腕を振り被り、彼は今、建物の屋上からこちらへと飛来する――
「さぁ、地を這う人類よ!! その己の力を存分に振るい。この、シーボリの血統に宿りし魔の加護を受けた、一族に伝えられし伝家の宝刀の生贄となれェェェェェェいッッッ!!! ――――ッ???!」
瞬間。突然と、一歩踏み出した足を踏み留めた彼。
踏み留めた足元の衝撃が漆黒となり屋上から弾ける中での、疑念を思わせる彼の表情の変化に。目にしたこちらも、思わずと様子をうかがい出してしまい。互いに構えたまま、その様子に警戒を行っていく。
その姿勢のまま、じっとこちら側を見つめてくる彼。表情は疑念に満ちていて、且つ、何かを探っているようにも見えなくはない。
……しばらくして、彼は戦闘の態勢から流れる動作で踏み出した足に右腕を乗せて。中腰で屈んだその姿勢で。その注視するような視線を、その少女へと、じっと、向けていく……?
「……待て。待てよ。そう、そこにいる、白髪の女。……待て。落ち着け。そうだ、一旦落ち着けオレよ。そうだ。深呼吸。すーっ、はーっ、……待て。待てよ。そう、そこにいる、白髪の女。……待て。落ち着け。そうだ、一旦落ち着けオレよ。そうだ。――やっぱりそうだッ!!!」
驚愕を口にすると同時にして。その彼は、その筋骨隆々な姿にはとても似つかわしくない動揺の様相を見せたのだ――――
【~次回に続く~】




