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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
275/368

ウェーブ二:漆黒と鮮紅の輝きに導かれて……

 ウェーブ二への移行に伴って出現したという、強力な敵性反応。ウェーブ三の終了後に迎えるウェーブ四の開始までにそれを対処することができなければ、その強力な敵性反応は『魔族』を率いて風国の強奪を完了させてしまう。

 それは、こちら風国の陣営の敗北を意味する。そのためにも、出現したという強力な敵性反応を、定められた時間以内に退けなければならない。


 刻み始めた、敗北へのタイムリミット。至急、対処しなければならないその目標へと駆け出して必死とその地点へと向かっていくのだが。その道中も、一筋縄とはいかない道のりを辿ることとなったのだ――



 その敵性反応へと近付くにつれて、再びと戦火の交わる地点に出てきた。劣勢を強いられる風国の勢力に襲い掛かる『魔族』の猛襲に巻き込まれ、ラ・テュリプの指示を受けた仲間達と共にそれらの対処にあたっていく。

 様々な手段や方法を、邪悪なる翼によってあらゆる形へと変化させながら。変幻自在となる不規則な戦法を用いた獰猛なる脅威を振るっていく『魔族』。それは剣を、それは斧を、それは槌を象っているものもあれば。自身の腕を武器へと変化させて果敢と向かってくる戦闘狂の姿もある。


 先にも相対した戦法の数々の他に、脚を用いた俊敏な動作で手数を武器に勝負を仕掛けてくる者や。翼を腕に装着し、その腕がぱっくりと割れた中から禍々しくと生えてくる、鎌のような刃を用いた広範囲の攻撃を振るう者。自身の脇腹の両側から巨大な腕を生やして暴れ回る怪物の如き存在。手に持つ剣が伸縮自在と姿を変え、あらゆる距離に対応を見せていく器用な『魔族』までもがこの道中に立ち塞がってくる。

 様々な戦法を用いるだけでなく、そのNPCには思考を可能とする脳みそがついている。こちらの動作を分析し見極め直感で避けたりと、その姿その生態その凶暴性とまるで人間に似つかない"それら"ではあるが。一連の行動を見ていると、"それら"はまるで人間のように思考をめぐらせて、その場に応じた適切な行動で道を塞ぎ苦しめてくるのだ。


 ――強い。『魔族』という敵は、紛れも無く別格となる異様な存在だ。

 多種多様な残虐性が目前から襲い掛かってくる光景に、その勇敢なる魂を宿すこの身からしても、幾度となく精神が参り心が挫けそうになってしまう。


 それは正に、この世に混沌をもたらす災厄。この世を侵食するに相応しき邪悪を身に纏う、このゲーム世界の敵として生み出された邪悪の化身。



 その図体の二倍の大きさを誇るだろうチャクラムを両手に装着して、それを接近で、時には投げて中距離も制する器用な立ち回りを行う眼前の『魔族』。顔も身体も、全身は藍色のそれは人間の形をしていながらも、顎は外れて異様に長いドス黒い舌を地面にまで垂らしていて。腕も異様に発達していながら、脚も非常に速い。

 それはまるで、以前にも出くわしたエリアボス:魔族との契約者を一回り小さくしたバージョンとでも呼べるだろう既知を思わせる行動の数々。しかし、一段と厄介な性能に仕上がったそれに苦戦を強いられて。終いには、チャクラムの斬撃で体勢を崩されて絶好の隙を晒してしまう。


「ぐぅ!! ッゥゥ……!!」


 防御も回避も選択することのできないやられモーション。目の前からは、そんなこちらにお構いなしと飛び掛かりチャクラムを振りかざしてくる邪悪の化身。

 HPも半分を切っている。直撃してしまえば、ダメージは現在のHPを突き抜けて力尽きてしまうだろう。


 ――まずい。

 再びと迎えたゲームオーバーの危機。成す術も無く屠られる自身の行方は既に想像がついてしまい。それは、希望も、絶望も抱く気にすらなれない無心の境地を迎える。


 迫る自身の運命に、ただその身を任せることしかできなくて。

 ……又、そんな自身の運命を前にしながらも。次の時にも、希望の光が差し込むその展開が突如と舞い降りた、目の前の出来事に目を丸くしてしまうばかり――



 ――天から迸った漆黒と鮮紅の稲妻は、辺り一面のあらゆるものを砕き吹き飛ばし焦がし尽くす。

 大気を引き裂く破裂音が響き渡ると共に目にした光景は。風国を縦横無尽と巡る稲妻が、黒く輝きながら無差別と破壊し尽くす有様。一帯と蔓延っていた『魔族』は悉く稲妻の餌食となり、そのほとんどがHPの減少によるダウンと状態異常:麻痺を発症して倒れていく。


 それは悪夢の如き光景だった。

 風国を巡る漆黒と鮮紅。次第にも上空から突然とその姿を現し、その迸る黒き輝きの中へと飛び込む存在。

 それが着地をした瞬間にも、着地する足元から噴火が引き起こされるよう広がる帯電の爆発が一帯を巻き込んだ。


 電気で焦げる臭いと、燃える物体の炎上する臭い。それは、溶かしたアルミホイルの臭いを鼻で吸い続けるような嗅覚をつんざく感覚。次第と吐き気が込み上げてきて、この漆黒と鮮紅の光景を眺めているだけでも卒倒してしまいそうになる。

 目の前は、稲妻の渦ががちがちと音を立てて風国を破壊し尽くす地獄絵図が繰り広げられており。その中央にいる、悪魔のような魔獣が、頭部に禍々しく生える二本の角を振るうと。同時にして、その光景はピタッと止んだのだ。


 ――その場に広がるのは、所々と地面に残った稲妻がばちばちと音を鳴らして帯電している様と。あの『魔族』を蹂躙したことによる、先の荒れ果てた荒野とはまた変わり果てた黒と紅の絶望的な景色。

 ……魔獣が振り向いてくる。それは、二メートルの体高に、三メートルの体長。獰猛な漆黒の頭部。荒々しい巨大な黒の体。漆黒に染まり線状の鮮紅が禍々しく輝く逆立った毛並みを揺らし。意思を持つ蛇のようにうねる尻尾がなびいていて。二つに枝分かれした堅牢で獰猛な二本の巨大な角。顎から伸び、その全身を覆うように逆立った漆黒と鮮紅の体毛……。


 ……悪夢だ。

 呆然とするこの意識。それは恐れと言うべきか。それは頼りになるとでも言うべきか。先の地獄絵図を生み出したその存在は、『魔族』とは異なる脅威を宿す黒き獣。外見も相まって、その全てがただただ恐ろしく。そして、よく見慣れた獣の姿に、安堵さえも感じてしまえる。


 ……ただドン引きばかりのこの感情の中。眼前の光景に佇むことしかできずにいたこちらのもとへと歩んでくる、この旅路を辿り始めて以来と随分と聞き慣れた背後からの足音……。


「アレウス!! どうしてここにいるの!? 危なかった――ジャンドゥーヤ、加減してくれてほんとにありがとっ!! アレウスを巻き込んでしまうところだったわ……!!」


 こちらの姿を発見するなり、慌ててと駆け付けてくる足音。

 その活気溢れる明るい声音。肩に手を掛けて、こちらを覗き込んでくる少女。


 太陽の陽射しのような明るい存在感の彼女も、この場合に限っては、大地を溶かさんとばかりに燦々と輝く地獄の太陽のようにも見えてしまえて。

 動揺のままに、言葉にならない言葉で返事して。そんなこちらをちょっと不思議そうに見遣りながらも、周囲へと視線を向けてユノは言葉を口にしていく。


「アレウスも、応援としてここに駆け付けてくれたのよね。来てくれて本当にありがとう! 私一人ではとても大変な状況だったから、こうして他の皆が来てくれたことにすごく助けられているの! ……そして、ごめんなさい。私も、ジャンドゥーヤと死力を尽くしたのだけれども。でも、それでも……グループBの皆を守れなかった……。なんとか残った人々も、パニックを起こして散り散りに散ってしまって。グループBは崩壊を起こして、この一帯の『魔族』は今、私一人で相手取っていたところだったの。でも、私ももう、MPに限界が近付いていて……駆け付けてくれたアレウス達の応援に助けられたわ。……アレウス。急いでここの『魔族』をなんとかして、早くルージュお姉さまのもとへと戻りましょう……ッ!!」


「ッ待ってくれ、ユノ!」


 肩から手を離して、ジャンドゥーヤと共に駆け出し次の場所へと移ろうとするユノ。

 そんな少女を呼び止めて。こちらもまた、主人公として成すべきその目的を伝えていく。


「守護女神、ミントの能力が捉えたんだ。十一時の方角に、俺らの勢力を上回る強力な敵性反応を捕捉したらしい。こいつを止めなければ、この戦いは確実に負けてしまう。俺はそいつを食い止めるために、そこへと向かうつもりだ」


「なら、私も一緒に行くわ!! ここの『魔族』はだいぶと数を減らした。増援も駆け付けてくれた。だったら、余裕のある今の内にも、急いでその存在をなんとかしましょう!!」


 ユノと共に駆け出し、十一時の方角へと走り出すこの足。

 未だと鼻に残るその臭いが充満する戦地から離れて。NPC:ユノ・エクレールという強力な仲間を連れて、出現した強力な敵性反応のもとへと向かった――――





 到着したその地は、酷く醜く貪られた傷跡が残されていた。

 辺りには、ぶち撒けられたペンキのように広がる邪悪なる黒。地面や建物は何かの衝撃によってボコボコと凹んでおり、その形容はとても原型から掛け離れていた。この有様を例えるならば、一種の芸術品のようだとも言えてしまえる。


 それは、ただの脅威ではなかった。その光景がこの身に訴え掛けてくるそれは、心の底から湧き上がり、脳みその中心部から伝わり出す熱の帯びた感覚。


 ……この傷跡を残した敵は間違いなく、今の俺では勝てない。


 身体からの危険信号という言葉をその身で味わい。瞬間に巡ってきた感情は、どれにも当て嵌まることの無い、無の感情。

 何を抱くこともできない、思考停止する感情に頭が真っ白となり。だが、その傍では大地を蹴って走り出したユノとジャンドゥーヤの姿で我に返り、急ぎで彼女らを追っていく。


 酷く醜い姿へと変貌した風国。その芸術的な凹凸の街並みを尻目にして駆け抜けていくその中で。……そこは広場だったのか、不穏なほどにまでやけに開けた一帯に到着するや否や。"それ"の声が響き渡り出したのだ――



「ふっ。懲りもせずに次々とやってくるものだな。このオレの鍛えに鍛え上げられたマッシブの魅力に引き寄せられ。貴様らもまた、踏み入れてはならぬオレの射程範囲へと足を踏み入れた。そんな貴様らは正に、飛んで火に入る夏の虫!! ――いいだろう。ならば、次に目撃する我がマッシブのハッスルによって。貴様らも、我が『魔族』の血肉となるが良い!! ここは、萌える命が果てる戦の地! 生ける者が終息を望み一つの収束を迎える終わりの大地! しかし!! 収束を望みしそれらがたとえ『魔族』を蝕む輩であろうとも。此処は、共に萌える命を分かち合う熱意の集いし戦火の渦中。双方のハッスルが弾け合う実力と実力のマッシブとマッシブの交わる熱き戦にも礼儀在り。貴様らにもまた、我が一族の誇りと信念に従い、礼儀を以ってしてこの筋肉を存分に振るうとしようではないかッ!!」


 喉にこもる音の、ゴツく、少々と野太く。しかし、空気に溶け込むような。腹から声の出ているハキハキとした男らしい調子の声音。


 空間に響き渡った声に、すぐさまと反応してユノと共に周囲を探り出す。

 直に、二人が見遣ったその視線の先。パステルなカラーの建物の屋上。その上に、腕を組みながら佇む一つの漆黒。

 "それ"はこちらを見下ろし、とても誇らしげな表情を見せて。"それ"もまた、こちらの姿を捉えていたのだ――――



【~次回に続く~】

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