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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
272/368

ウェーブ一:戦火

 それは石に躓いてこけただけでも死にかねない瀕死の状態。

 地面を転げ回り、土煙を纏っていきながら。先の零距離の砲撃の追加効果なのか、この異常な長さを誇るやられ状態が解けるまでに、相当なまでの時間を費やしてしまう。


 勢いが収まり、次に体勢を立て直そうと視界を前へと向けたその瞬間にも。その『魔族』の背から現れた邪悪な翼は左右三つずつの禍々しき黒の魔法陣を生成。それも、しっかりとこちらへと照準を合わせていることが分かる。

 回復をする余裕も無い。このHPでは、ブレイブ・ソウルを使用した瞬間にも、HPの減少によって死亡してしまう……。


 ……それは、詰みだった。

 せめてもの希望を残すために、回避コマンドに手を添える。……だが、未知数である魔法の攻撃を避ける自信なんてとても無い。……つまり、この回避コマンドは一か八かの賭けでもある……!!


「ッ……ッ。っぉお、おぉォォォォオッ!!!」


 目前となった死への恐怖。それを打ち消さんとばかりに気合いの雄叫びを上げながら、暗く不気味に輝き出す魔法陣をしっかりと見据え、それに合わせての回避を準備していく。

 ……そう、それが放たれた直後が勝負。『魔族』の勝ち誇った表情と同時に回転を始める魔法陣を捉え、それが発出されるタイミングを見計らい。この瀕死の状態の中、生か死のどちらかへと分かれる運命の瞬間を迎える。――その時であった。



「弓スキル:フェニックス(ラ・コンバッション)アロー(・ドゥ・ラムール)ッ!!!」


 銃撃の交わる戦火に走り出す、一筋の紅。

 瞬間。目の前を、紅く光る真っ直ぐな光線が迸り。その光線を沿うよう飛来してくる、不死鳥の如く静まることの無い煉獄を纏いし一羽の鳥。

 飛行によって振り撒かれた紅の火花が辺りを燃やし尽くし。それは、生成した魔法陣から魔法を解き放とうと眼前でモーションの最中であった『魔族』の彼女を巻き込んだのだ。


 その一撃で焦げる身体に悲鳴を上げる『魔族』。それは直にも吹き飛ばされ、どこかへと姿を消してしまう。

 更には、一面の『魔族』を一気に吹き飛ばした不死鳥。それでいて、見覚えのある攻撃に、放たれた元へと視線を移していくと。……そこからは、こちらへと駆け付けてくるラ・テュリプの姿が確認することができた。


「ルージュシェフ!! 助けてくれて、ありがとうござ――」


「弓スキル:(ジュテーム・ド)(ゥ・プリュプロ)(・フォン・ド)(ゥ・モン・クール)ッッ!!!」


 矢先から集中する、その有り余るMPの全てを注ぎ込むかの眩き閃光が溢れ出し。全ての想いを託し引き絞り、その表情を勇猛に歪ませながらの弓を構える彼女の勇姿は紅蓮に映えていて。

 引き絞る矢へと、閃光が一点に収束したその瞬間に目を見開き。同時として大地にへばり付くようがに股で思い切り、身体全体を仰け反らせ彼女の手から撃ち放たれた一発の矢。


 発射に、矢は託された希望の光を放ち一直線を描き。前方の邪悪なる存在の群れへと、強風にも左右されぬ歪み無き軌跡で真っ直ぐ、真っ直ぐと飛来する。

 紅蓮によって、放たれた先の"それら"を焼き焦がす一撃。姿勢を整えると同時にして、こちらには見向きもせずに彼女は銃撃戦の中へと駆け抜けて敵へと突撃して行ってしまった。


 ……なるほど。どうやら、お礼を言っているほどの余裕ある場面ではないようだ。これも、ただ彼女の放った矢の曲線状であっただけで。これは決して、俺を救ってくれたというわけではない。


 全てを悟り。双方の命運を分ける戦場というものを思い知り。

 口元を拭い、ポーションを取り出してHPを回復。口から液体を垂らしたままポーションのビンを投げ捨てて。クリスタルブレードを握り締めて、眼前の戦場へと再び立ち向かっていく――




 銃撃戦の中、飛び交う弾を避けつつ再びと『魔族』を相手取るためにこの足を走らせる。

 ――が、その瞬間に流れてきた左からの空気に違和感を抱き、そちらへと見遣った。


 視線を移すと、眼前から迫り来る岩石のような巨大な身体の『魔族』。肥大した腹に足は短く見えて。だが、異様に伸びた豪腕はその巨体を物ともせずに振り被られこちらへと飛んでくるもので。


「ッ!! 回避――ッ」


 咄嗟の飛び込みで回避を行うものの、その豪腕は見た目を遥かに越える判定を有していた。

 地面に叩き付けられた豪腕の一撃を掠め。しかし、その振り被られた豪腕の軌跡から発生した衝撃波が回避したこちらに当たり、それに押し退けられるようふわりと吹き飛んでしまう。


 宙を転がされる感覚。目まぐるしい視界と、段々と地面に落ちていくこの身体。

 地面を転がり、すぐさまと体勢を立て直すが。視界に捉えたその時にも、図体で接近を図ってくる『魔族』の姿に威圧され戦慄が走り出し。同時に、その巨体から繰り出される破格の攻撃を予期してしまい、その瞬間にも冷静さを失ってしまった。


 接近から続けて繰り出されたのは、豪腕の攻撃。ムチのように振るい見下すこちら目掛けて叩き付けられるそれは、周囲の地面を揺るがし土煙と衝撃波を発生させる。

 立ち込める砂煙で徐々に奪われていく視界。その図体も遮られる視界に、眼前の脅威を確認することもまるでできやしない。


 回避を選択して必死と飛び込みやステップを続けていくものの、姿も見えぬ敵からの攻撃を避けるなど至難の業。

 立ち込める土煙を潰すよう振るわれていた豪腕の攻撃はふと停止して。突然と止んだ連撃に様子を伺……。


 った、その瞬間。視界を埋め尽くしてきたのは、波となって押し寄せてきた巨大な漆黒――


「づッ、ォォッ――!!!」


 僅かに見えた、その『魔族』が肩から倒れ込む光景。

 身体を張ったその一撃にアクセントを加えるような。『魔族』の背から生える翼が広範囲に広がり、それは強烈な威力を持つ当たり判定の攻撃を生成し繰り出してきたのだ。


 こちらをプレスするよう襲い掛かった邪悪なる波が直撃して。その銃撃戦を一時的に静止させるほどの、広範囲の衝撃波を放つそれを真正面から受けて。


 巡ってきた衝撃に、一直線を描き遥か後方へと吹っ飛ぶ。

 真っ直ぐと吹き飛び、風国の建物の壁をぶち破り。破壊音と同時に更なる衝撃で、弾けるよう宙を飛びながら回転するこの身体。

 何も認識することのできない視界と。全身から伝う生命の危険信号に感覚が麻痺を始めて。落下し、落とされた人形のようにどさりと倒れ込む。


 ……回復したばかりのHPが数ミリに。むしろ、あの攻撃を受けて生き長らえていることにさえ驚いてしまえる。

 麻痺する全身に呻きながら両手をついて。困難となった呼吸で引きつるよう喉を鳴らしながら。震える首を持ち上げて、眼前の光景を確認する。


 散り散りとなったテーブルやイス。そのカウンター。……ユノとミントの三人で訪れたカフェでの一時を脳裏で思い返しながら。走馬灯のように巡る記憶に懐かしささえ感じる。


 ぶち破った壁の向こう側。その『魔族』が翼を纏い、こちらへと突進してくる光景。……一方で、これ以上と動かないこの身体。神経が麻痺して思うように動かせないもどかしさと、眼前から迫る脅威に、心臓の鼓動と共鳴するよう全身に伝う恐怖の感情。

 ……恐怖の感情によってブレイブ・ソウルが満たされる感覚。しかし、動かない身体でそれを使用することがままならない。


 ……どうすることもできない……!!

 床につけた両手の力も抜けていく。それは脱力して前のめりに倒れ込んでしまい。ぶち破った壁の欠片に顔を突っ込み。床に倒れ込むその姿勢で、眼前の脅威が迫り来る光景を眺めることしかできず。


 悔しさに、歯を食いしばる。

 数ミリとなったHPで必死にもがき。未だ麻痺する全身の神経に訴え掛けていき。……そして、『魔族』の追撃を迎える。その瞬間――


『ヴォ、オォォォォォオォォォォ ォ ッ 』


 その悲鳴も掻き消す集中砲火。突然と爆発し始めたその『魔族』と、横から姿を現した三つの人影。

 斬撃の効果音が響き。『魔族』が怯んでは倒れ込む光景を目の当たりにして。予想外の展開に目を丸くしていたところで、その爆発の余韻から姿を現すNPC……。


「借りは返した!! 昨日は我々を助けてくれてありがとう!! あの場所で君が率いてくれたからこそ、あの人間達を黙らせることができたというものだ!! 立てるか!? 今、回復をしてやる!!」


 昨日、ダークスネイクとの戦闘を交えるその前に助けた男性NPC。立派にソードを握り締めて。手を伸ばしこちらへと駆け付けてくる。

 あの時に手を差し伸ばした人に、今は手を差し伸ばされている。互いに助け合うその運命の循環に感動さえもしてしまえて。同時に、彼らのおかげで助かったこの命。溢れ出す感謝のまま、今出せる限りの声でお礼を伝えていく……。


「た、助かり、ましたっ。ありがとう、ございま――」


「ッ?! ッうぉあああぁぁぁぁぁッ!!」


 こちらも手を伸ばしたその瞬間。男性NPCと周囲の彼らを飲み込み通過する邪悪なる翼。

 先の波のようなそれは、目の前の彼らを瞬く間と消し去り建物に打ち付けられ。その衝撃で邪悪なる翼は四散し、その飛沫が禍々しく破裂を始めて風国の街を破壊し始める。


 つい先にも目の前にいた彼らが、瞬く間と姿を消した眼前の光景に頭が真っ白となり。――だが、次の時にも反射的と動き出すこの身体。

 それは、咄嗟にもカフェの物陰に隠れてポーションを取り出し。口に流し込みHPを回復すると共に。これ以上もの悲劇を繰り返したくない。眼前の光景をブーストとして、全身に巡る勇気の感情に後押しをされる形で、この時にも戦線に復帰したのであった――――



【~次回に続く~】

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