戦闘システム:ブレイブ・ソウル
「ご主人様。報告があります。報告は、計二つ。一つは、先にも解禁をなされました、戦闘システム:ブレイブ・ソウルに関する説明や使用用途、効果やデメリットといった新たなシステムについての解説。二つは、今回のメインシナリオに関するイベントに設定されております、特殊な仕様についての解説。で、ございます」
ここに来ての突然の報告に。えっ、と拍子抜けな表情で少女へと振り向いてしまう。
それとは対して、至って平然な様相のナビゲーター、ミント。律儀に佇むその姿勢で、少女はその報告を始め出したのだ。
戦闘システム:ブレイブ・ソウル。それと、今回のイベントに関する特殊な仕様。
――どれも、事前に聞いておいた方が身のためになる内容であるために。これは、『魔族』の襲撃が始まる前に全て一通りと聞き入れておきたいものばかりだ。
「ブレイブ・ソウルから、説明を頼む」
「承知しました。それでは、戦闘システム:ブレイブ・ソウルについての説明を始めます」
すぅっと息を吸い、ふぅっと息をついてから。……少しもの間を置いて、ミントは戦闘システム:ブレイブ・ソウルの解説を開始する。
「戦闘システム:ブレイブ・ソウル。こちらのシステムは、ご主人様の中に宿る魂をステータスへと反映させ、"一時的に能力の上昇や特殊な技の使用を可能とする"。ご主人様及びこちらのゲーム世界を主人公として渡り歩く主人公様にのみ宿りし、"専用システム"、でございます。一言で説明をするとなれば、主人公をパワーアップさせるコマンド、とでも呼べますでしょうか」
主人公のみが扱える、専用のシステム。
ウェザードから聞いていたそれを思い返し、続けられる少女への話へと意識を向けていく。
「そもそも、ブレイブ・ソウルとは。に、ついてですが。ブレイブ・ソウルと呼ばれるこちらのシステムは、"ご主人様及び主人公様の内部に宿る生命エネルギー"を指し示しております。こちらのシステム、ブレイブ・ソウルは常に主人の内部で水縹色に萌えており。その萌える生命エネルギーそのものが、ご主人様を主人公としてこのゲーム世界に成り立たせている。云わば、"ご主人様が主人公としていられる理由に直結する"、至極重要なシステムでございます。この、ブレイブ・ソウルというシステムが内部に宿っているからこそ、ご主人様はこのゲームの世界で、主人公という特殊な立ち位置で存在をしておられるのです」
一息を置くミント。続けて口を開いていく。
「では、その戦闘システム:ブレイブ・ソウルが与えるご主人様への影響、についてですが。その内容は主に……"主人公としての在り方"。"経験値を総合し、レベルアップを促す作用"。"主人公が抱きし感情によって蓄積される、独自の機能"。そして、"ブレイブ・ソウルを使用することによる、ステータスのアップ"。……ブレイブ・ソウルの働きは主に、この四つの機能をご主人様に与えております。では、それらを一つずつ簡潔に解説をいたします」
間を置いて、ミントは続けていく。
「一、"主人公としての在り方"。こちらは、先にも説明をいたしました通りに。この、ブレイブ・ソウルというシステムが宿っているからこその、ご主人様及び主人公様です。終わり。二、"経験値を総合し、レベルアップを促す作用"。こちらは、読んで字の如く。ご主人様が稼いだ経験値はこちらのブレイブ・ソウルに蓄積され、その蓄積が満タンとなり、経験値で満タンとなったブレイブ・ソウルの容量の上限を解放するためのフラグとして、レベルアップというシステムを介してブレイブ・ソウルの容量を増やす。そうして、また新たに経験値が蓄えられるようになり、それが満タンとなれば、再び容量を増やすためにフラグが……を繰り返します。つまり、ご主人様は冒険を開始されたその時から、自然とこちらのブレイブ・ソウルにお世話となっていたこととなりますね。今回の解禁は、それが目に見える形となった。と、解釈をしていただければ、より身近なものとして意識をしていただけるかと思います」
咳払いを一つ。間を設けて、ミントは続けていく。
「三、"主人公が抱きし感情によって蓄積される、独自の機能"。少々と難しく感じられるかと思われますが。要は、ソウル、魂と付いているだけあって、こちらのシステムはご主人様の"感情と深い関わりを持って"おります。先にも、経験値を蓄えると説明をいたしましたが。それとは別に、また異なる容量を、"ゲージ"というシステムとして設けられております。経験値を貯める場所が胃袋だと例えるならば、こちらの感情のゲージは所謂、別腹、のようなものでしょうか。で、こちらの別腹……もとい、ゲージは、ご主人様が"その際に抱いた感情によって蓄積されていきます"。具体的に説明をいたしますと、ご主人様が眼前の困難に立ち向かう勇姿。その際に生じる、勇気、という感情がゲージとなり蓄積されるのです。又、強敵と相対したその緊張もまた、感情となりゲージとなり蓄積されますし。NPCの悲しき過去にも生じる、悲愴、の感情もまた、ゲージとなり。美味しいものを食べた際の喜びも。痛い思いをした際の痛みも。ブレイブ・ソウルはその、あらゆる感情という感情に反応し。その感情の振れ幅が大きければ大きいほど、ブレイブ・ソウルのゲージは大きく蓄積されていきます。尤も、蓄積にあたって、一番の効率を誇る感情は勇気です。なので、戦闘といった困難へと立ち向かう前向きな感情ほど、ブレイブ・ソウルは満たされることとなるでしょう。…………ここで一つ疑問となったのは。では、その蓄積されたゲージを一体、どこで使用をするのか。――というところで、最後の説明へと移ります」
大きく頷いて、ミントは続けていく。
「四、"ブレイブ・ソウルを使用することによる、ステータスのアップ"。先のゲージで蓄積された感情を、"ブレイブ・ソウル独自の機能へと変換して使用することが可能"となります。主な機能といたしましては、戦闘中、ゲージを消費して敏捷のステータスを上昇させることによる速度の上乗せ。NPC:アイアム・ア・ダークスネイクとの戦闘にも用いられた、あの、大技を回避する際に行った加速が、こちらのブレイブ・ソウルによるステータスの上昇の影響でございます。あの時にも、ご主人様は無意識とブレイブ・ソウルを使用しておりました。で、あるからには、その使い勝手は、ご自身が一番よくご理解なさっているかと思います。その他にも、攻撃力の上昇や防御力の上昇。更には命中率の上昇といったあまり注目の浴びないステータスも補強することが可能であるため、ブレイブ・ソウルを利用した戦術は、とても幅広いものとなるでしょう。――また、ダークスネイク様との戦闘の際。彼の大技を、ご主人様は一筋の剣筋で無効化にされておりましたね」
「っあぁ。よくよくと考えてみれば、無意識と振り払ったあの一撃で、あのドでかい攻撃を打ち消してしまっていたな。……あれ、一体なんだったんだ?」
「そちらも、戦闘システム:ブレイブ・ソウルによる特殊な技の効果でございます」
間を空けて、ミントは続けていく。
「そちらもまた、感情によって蓄積されたゲージを消費して行える、ブレイブ・ソウルを使用したスキルでございますね。今回、ご主人様が習得なされましたブレイブ・ソウルのスキルは、『ブレイブ・ソウル:ブレイク』。その効果は、"スキルを当てた対象を取り巻くあらゆる状態異常や属性、攻撃やスキルの効果を無効化にして打ち消してしまう"。というものです。無効化にして打ち消してしまえる範囲はとても広く、それは、このゲーム世界におけるあらゆる効果を。更には、強大な攻撃技でさえも、こちらのスキルで打ち消し無効化にすることが可能となっております」
「……耳を疑うような効果だな。なんだそれは……無敵じゃないか」
「無敵、でございますね。多少と厳しいその条件に目を瞑りさえすれば、その効果中のご主人様は正に敵無し。で、ございます」
「多少と厳しい条件……?」
こちらの尋ね掛けに、ミントは答えていく。
「戦闘システム:ブレイブ・ソウルは、主人公のみが扱えるシステムであるだけに、非常に強力な性能を持つ破格のシステム。故に、それ相応となる条件が設定されております。――と、言いますのも。ブレイブ・ソウルは、ご主人様の魂そのもの。内部に宿る生命エネルギーを消費して行うそれら性能の数々は、生命エネルギーを消費するだけあって、どれもご主人様の身に負担の掛かるものばかりでございます。具体的に説明をいたしますと。それらの機能を使用する度に、"感情によって蓄積されたゲージ"と、その効果に見合った"HPを消費"いたします」
「HPを消費? 体力を削って、それらの性能を一時的に引き出すと言うのか?」
「そちらの認識で間違ってはないかと思います」
HPと感情のゲージを消費して行う、破格の性能の数々。
それは、HPを犠牲に払って繰り出す切り札としては、どれもリスクの割にはリターンの大きいシステムだと思えるものだが。しかし、それだけ、自身の身を削って繰り出す技ということは、つまり、捨て身の特攻、とでも呼べる代物。……所謂、諸刃の剣だろうか。
「戦闘システム:ブレイブ・ソウルによって引き出される技、ブレイブ・ソウル:ブレイクに限らず。ステータスの上昇を促す効果にも感情のゲージ消費とHPの消費を伴います故、そちらの管理を疎かに所構わずと使用してしまうと、大事となる場面に限ってその力を引き出すことが不可となってしまい。最悪、使用によるHPの消費によって自滅も迎えかねません。こちらを使いこなせば、今以上もの本領を発揮することが可能となる、ご主人様の更なる最大限を引き出す無限なる可能性を秘めた戦闘システム:ブレイブ・ソウル。しかし、いくら強力とは言え、そのご利用には常に配慮をお願いいたします。――尚、ブレイブ・ソウル:ブレイクはその効果が強力である故に、それ相応となる感情のゲージとHPを消費いたします。それも、消費する感情のゲージは、ブレイブ・ソウルに蓄積するゲージの九割ほど。つまり、こちらを発動するには、それだけ、ステータス上昇となる機能の使用の我慢。と、それ相応となる膨大な感情を受ける場面という前提条件を意識なされないといけないため。いざというその時のためにも、常に感情のゲージが満タンである戦闘が、一番の理想である。とも言えますね」
……要は、戦闘システム:ブレイブ・ソウルは非常に強力なシステムではあるけれども。所構わずと使用することはできない、いざという時に使うべきシステム。という把握でいいのかもしれない。
新たなシステムの説明に頭がパンクしてしまいながらも、取り敢えず、戦闘システム:ブレイブ・ソウルの解説を一通りと済ませることができたのであった――――
【~次回に続く~】




