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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
263/368

今朝の敵は今夜の友

 ……今朝の敵は今夜の友……? 

 目の前で起きている出来事に理解が追い付かず。それも、つい先まで敵対していたその存在が、何かの会話を交わしてからは一転として急に味方となったことを言い渡されたことから。それらの出来事を前に、整理も理解も追い付かないこの思考の、困惑のままにただ言葉を零すことしかできない。


「……えっと。えっと。いや、待ってくれ! その……つまり、あいつはこれから……俺達の仲間ッ?!」


 今朝にも、彼を相手に命懸けの戦闘を繰り広げてきたものだから。その敵NPCもまた、こちらの姿に視線を向けては、若干と警戒心を思わせる目つきで見遣ってきて。

 だが、トーポとの契約が成立したというその時からは彼への対応が変化。ラ・テュリプは彼に握手を求めたり。ユノも厨房から飛び出してきては、その未知なる人物に興味津々な輝く瞳を向けて陰りのある顔を必死に覗き込もうとしたりと。その空気はもはや、心を打ち解け合っている仲間と言っても過言ではなく……。



 振り向いてくるユノ。敵NPCの彼へと手で促しながら、こちらへと――


「アレウス!! ほら! 仲間になった彼と握手、握手!!」


「え、えぇ……」


 未だに受け入れられない現実に、それは嫌悪というよりは躊躇いばかりが生まれてくる。


 ……歩み寄って、彼の顔を見上げる。

 三センチ背の高い彼もまた、こちらを見下げてくるものだったが。どうやら、互いに抱く感情は似通っていたようで……。


「っふ。我が好敵手として認めた死神と契約を結ぶとはな。これは、特殊な待遇に付き物である忌まわしき呪い。互いの刃を交えた忌まわしき過去は失せることがない。今も、この蛇眼にこびり付いているぞ。貴様の、無様にも無謀に燃やす闘志の片鱗を。そして、自然の摂理に革命をもたらした、下克上をも成し遂げる強者を貪る弱者の素晴らしき足掻きを!! …………つまり。お前と足並みを揃えるとは思ってもいなかった。正直な所、お前とはこうした関係になどなりたくなかったものだ。お前のことを、今も鮮明と覚えている。我が双頭の蛇竜に食らい付くその根性のみは認めるものだが。しかし、おいらのライバルとして、それ以外は決して認めない。……お前と馴れ合う気には到底なれんな」


「言われなくとも、俺もあんたと馴れ合えるような立場じゃない。そもそも、俺はあんたに殺されかけたんだ。そんな、自分の命を狙ってきた危険な人物のことを急に仲間だと言われても不安しか生まれないし。変に疑ってもしまう。……オーナー、トーポが見定めたものだから、きっとあんたはこちら側の仲間として誠心誠意を尽くしていくんだろうけれども。……俺、あんたのことを信じることなんて、とてもできやしないよ」


 互いに顔を背け合いながら、躊躇いの視線で見つめていく。


 ……が、そんなあからさまなその光景にじれったさを感じたのか。

 仕方無しと共闘関係となった双方の、躊躇いが交じり合うその視線の中。次の時にも、視界の横から伸びてきたユノの手はこちらとあちらの手を掴み。それを思い切り引き寄せては、なんと強引に握手をさせられるというもので――


「はい!! それじゃあ、仲直りの握手をして関係をゼロからやり直しにしましょう!! ということで、握手よ!! 握手!! はい、仲直り!!」


「ユ、ユノッ。うぉッ」


「なッ、純白の尾を持つ女人に導かれてッ。ッつまり。こんなことをするつもりなんぞ無か――ッ」


 伝う温もり。掌に走る、変に温かく感じたその感覚に、ほぼ同じタイミングでユノの手を振り解き、共に手をひらひらと振って飽くまでもな意思を見せ合う。

 生じる躊躇いからの握手で何とも複雑な気分となったのはあちらも同じらしく。それでいて、そんな二人の様子であるにも関わらずと、とても満足げに頷いていくユノ。


 くすくすと笑うラ・テュリプに。歩み寄ってきたミントも、主人公アレウスに続いて彼へと手を伸ばし。そんな少女との握手は、この流れでまぁ仕方無しとこなしていく彼。

 ……そして、一通りもの流れをこなしてからというもの。その間と沈黙を貫いていたトーポが、口を開き出す。


「本来であれば、この場で今回の契約に関する条件を提示することこそが。君の流儀を尊重する、互いに気分の良い交渉を成立させる礼儀であることを、この僕は弁えているつもりなんだ。だが、今は時間が惜しいものなんでね。それじゃあ早速、彼を交えた作戦会議へと戻ろうじゃないか。――まぁ、時間が惜しいとは言えども、急に見知らぬ者達と作戦会議を行えだなんて、君の境遇からしても何とも心の狭い思いを強要させてしまうことだろう。というわけで、自己紹介だけはしておくとするかな。僕は、この宿屋のオーナーであるトーポ・ディ・ビブリオテーカだ。よろしく頼むよ」


 穏やかにそう言葉を連ねていくトーポに、ラ・テュリプとユノが続いていく。


「あたしはラ・テュリプ・ルージェスト・トンベ・アムルー。今回の契約にあたって貴方についてもらう作戦を率いるリーダーを担当しているわ。よろしく」


「私はユノ・エクレール。未だ見たことの無い未知なる出会いや事象を求めて冒険をしているの。今回は、その冒険の途中のちょっとした寄り道。短い間だけれども、よろしくね!」


 ……チラッ。っと、彼女から促される視線が投げ掛けられる。

 ユノからの催促に、こちらもまた、渋々と応えることに……。


「……アレウス・ブレイヴァリーだ。まぁ、その。別に、俺の名前は覚えなくてもいいよ」


「お前と馴れ合うつもりなど微塵も無い。端からそのつもりだ」


 彼からの返答にムッとしてしまうものの、その次に続いたミントの声に、多少もの落ち着きを取り戻す。


「ご主人様こと、アレウス・ブレイヴァリーに永続的と仕える従者であります、ミント・ティーと申します。ご主人様共々、以後、よろしくお願いいたします」


「なんだ、この男に仕える従者か。…………ご、主人様……ッ?! ……ッ良い身分なものだな。少しばかりと驚いてしまった。なんだ、お前、金持ちなのか? っく、金に困らない人間というものは実に憎たらしいな。その上に、こんな少女を傍に置いて連れ回して。お前はなんて不埒な奴なんだ!」


「俺には俺の事情があるんだ。だから、これはあんたには関係の無いことだ」


 こちらの言葉に、今度は向こうがムッとした様相を見せていく。


 ……ギクシャクとした空気の中、次の番となったその彼。

 ふぅっと一息をついて。自身を落ち着かせて冷静さを意識し始めては。その左手を右目辺りにかざしていき、その左腕と交差させるように右腕を添えて配置して。腰つきや足の位置も絶妙に動かしていくことで、禍々しき一つのポージングを完成させたその彼は、周囲の存在へと視線を流していきながら。……その軽やかな低音ボイスで発しながら、自己紹介として自身の名を口にした――


「オーナー、トーポとの契りを交わし。この、神聖なる風の都に舞い降りた一匹の蛇。それすなわち、蛇竜を従える純黒と銀灰の魂を召喚したこととなる。……っふ。この、我が内に宿りし信念の深遠を根城とする、魔の結界を伝い空間を無辺際と渡り獲物を残酷に喰らう純黒と銀灰の凶暴なる蛇竜との契約を結びし救済を乞う者達よ。この、邪悪なる両腕に宿る我が蛇神の力を前に、自身らの命運に嘆く必要などまるで不要! 運命を引き寄せたな。蛇竜と契約を結びしその強運と。蛇竜の魂に惹かれし貴殿らとの出会いに、乾杯。――今こそ名乗ろう!! 我が純黒と銀灰の蛇竜。破壊と猛毒のスパイラル!! 社会の闇に紛れし一匹の蛇は、今日も生存競争を制する糧を得るためにその毒牙の猛威を振るう!! 我こそは『アイアム・ア・ダークスネイク』ッ!! 蛇竜の魂を召喚せし者共よ。その名の下に、この先と迎える至高の体験を約束しよう」




 彼こと、NPC:アイアム・ア・ダークスネイクが自己紹介を終えて。同時に、トーポが喋り始める。


「ダークスネイク。君から伺いたいことがたくさんと存在する。契約の内容通りに、今からそれらを洗いざらいと喋ってもらうよ。……しかし、それだけだと喉が渇くだろう。それに、喋り続けることはとても疲れる。腹も空くことだろう。というか、腹が空いていると言っていたね。だったら、まずは新たに迎えた戦士を歓迎しなくてはならないな。――テュリプ・ルージュ。尋問の命令は撤回とする。その代わりに、ユノちゃんと共に、彼に最高の夕食を提供してあげてほしい。あ、そう言えば、我々も夕食を取っていなかったね。それじゃあ、ここで少しだけ休憩を取るとしようか。ということだ。ささっ、ダークスネイク。こっちにどうぞ」


 トーポの指示と共に、二人で顔を見合わせて動き出すラ・テュリプとユノ。

 ダークスネイクもまた、トーポに促されて奥へと進められて。ミントも、夕食と聞いてその瞳を輝かせ始める。


 新たな仲間を迎えたこの展開。この日というものは実に様々な出来事の連続を目の当たりにして。その目まぐるしい変化の数々に、思考が追い付かなくなってくる。

 パンクしてしまいそうな頭で必死と意識を保ちながら。この夜、新たな仲間として迎えたNPC:アイアム・ア・ダークスネイクを交えた皆で、対『魔族』に向けた最後の調整を行ったのであった――――



【~次回に続く~】

【BGMの追加】

マイページ欄にて記載している各キャラクターのBGMの項目に、『ダークスネイク』と『Flash Hider』を追記しました。

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