表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
259/368

会合

 陽が落ち、地平線へと沈んだ太陽の代わりにと昇る月と、その光に照らされて。

 一帯の炎上が鎮火された今宵にも、未だと黒煙が立ち上り傷跡を生々しく残す風国の領域。騒動により、パステルカラーの色取り取りな建物から差し込んでいた明かりはだいぶと数を減らし。今宵の、闇がおちた風国を照らす月光の薄明かりは、常日頃の夜よりも活き活きとしているようにうかがえる。


 不穏に吹きすさぶ、その地の特有となる夜風。それが流れ行く先には、風国の領域に踏み入る不穏の化身、漆黒の影が丘の頂にてそれらの光景を眺めており。筋骨隆々な上半身。漆黒のマントをなびかせて。腕を組み細い目で用心深くと見下ろし、一人呟く。


「人類とは、末恐ろしい生物だな。それが例え同類であろうとも、自身の領域を蝕む輩に対しては容赦も慈悲も無い。言い伝えや文献で見たそれとは少々と異なり過ぎていて、これほどまでに縄張り意識の強い生き物だったのかと目を疑ってしまうほどだった。……どうやら、年月が経つにつれてだいぶと気性が荒くなり、多大な危険性を孕んだことを考慮しなければならないことだろう。今回の騒ぎは、人類という生物の獰猛な一面を目撃することとなる末恐ろしい生態の片鱗を体験することができ。更には、騒ぎに便乗することで対人類に役立ちそうな有意義な情報を集めることができたというもの。うむ。予定があまりにも好調に進み過ぎていて、むしろ不穏な空気さえも感じてしまえるものだな。…………いやいや! そんな不穏な空気も、この流れ行く風にすぐ流されて消えることだろう。つまり、この好調なペースに、何らかの心配を抱く必要も無し!! 勝てるぞ!! この戦ァ!!」


 突然と滾った気合いに雄叫びを上げる漆黒。

 ……少しして、恥ずかしくなったのか一人鼻を擦りながら。んぅっと自嘲するよう喉を鳴らし、後方の存在へと言葉を投げ掛けていく。


「……なんだ。いたのか。なら、先にそうと言え、(アマノ)。……(アマノ)!! これが、このマッシブから漲る活力が根源となりハッスルした、マッスルパワーによる気合いの雄叫びだ! これが、我が一族の誇りでもある生物の素晴らしき生態。その名も、筋肉、から生じる生命の鼓動であり。決して、先の咆哮は、この胸に過ぎる不安を拭うために発した空元気というわけではなくてだな――」


「で、ゾーキンの旦那。今回の件で一体、何が分かったというんすか? オレとしては、ただ人類が人類に対して獰猛に武器や魔法を振るっていたようにしか見えなかったんすけど? そりゃあ、敵が来たら迎え撃つのは普通ですし? ……これ、本当に傭兵とかいう人類に頼る必要なんてあったんすか? だったら、いっそのこと、今日の内にでも襲撃してさっさと風国を強奪しちまった方が良かったんじゃないっすか?」


 軽い調子にそう尋ね掛ける後方の存在。身長百九十二の長い足を歩ませ、百八十八の漆黒の隣に並び立っては顔を覗き込みながら言う。

 隣の存在へと振り向いて。先の問い掛けに、冷静な調子で返していく漆黒。


「その考えは甘いぞ、(アマノ)。これは、一見するとただの無駄な詮索に見えたことだろう。だが!! 未知数である情報というものは実に侮れない!! どんなことも、まずは地道に。次に、地道に。そして、何よりも地道に! このコツコツの積み重ねが、今後の戦況に響くことはどの物事にも言えることだ! 今回の探りもまた、このように戦力に余裕があるからこそ行える情報の詮索であり! この成果はきっと、この未来に繋がることだろう!! そして、今回の件では勿論、収穫はあったさ! それは、人類同士での闘争は、互いに容赦が無いということが分かった。それが何を意味するか。それは、傭兵という種類が、この先の戦力になり得るということ。金さえ貢げば、戦力を買えるのだぞ!? これほどと有益な情報を朗報と言わずして何とする!! 同時に、『魔族』の間で持て余していた、人類同士の間柄で取引として扱われていた、あの、硬貨というもので戦力を買うことができる。無駄に持て余した通貨を消化でき。且つ、こちらの戦力を補充することができる!! これを利用しない手など、まるで無いだろう!?」


「でも、その買った戦力、今回の騒ぎで九割五分は溶けたっすよね」


 その存在の冷静な返しに、漆黒は一瞬と固まり思考をめぐらす。


「……まぁ、ただ戦力を買うだけではいけないということだな。買うにしても、まずはその対象の本質を見定めなければならないということだろう。その者が如何なる実力者であるかをしっかりと見極めてから、購入を検討する。うむ。これは、ご利用は計画的に、だ。だがまぁ、それも今回の件で学び反省しこれからに活かすための学習となった。だろ? (アマノ)。これは、そう。結果オーライ。結果オーライなのだ」


「そんなことよりも、次の作戦についての会議をしましょうよゾーキンの旦那。会議と言っても、もう大詰めなんでしょ? だったら、もうさっさと風国を強奪してさァ、違う場所で情報の収集とかしましょうよ。ゾーキンの旦那が率いるここだけ、旦那が慎重過ぎて遅れを取っているんっすからね」


 その存在の軽い言葉の数々を耳にして。漆黒は何事も無かったのよう頷いてはそれを把握し、話を進め出す。


「じゃあ、最後の大詰めについて話し合うとするか。とは言え、大体のことは既に話している通り、あとは、この風国という人類の拠点を強奪するのみ。その内容は至って簡単。筋肉に任せたままの力任せの強奪。マッスル強奪。そんな深く考える必要も無い。何故なら、今の戦力だけで、この風国を容易く落とせることは既に計算済みだからな」


「でも、旦那。頃合い的には、他の地域からの増援がここに到着するのも、ちょうど今くらいっすよ。戦争中に、その増援に来られた場合は? やっぱり数は増えるのは面倒っしょ?」


「問題無い。二連王国の連中でなければ、そのまま戦争を続行だ。その増援もろとも風国を圧倒し、なるべくこの地の破壊を避けながらこの地域一帯を支配する。"我々"には、加減を行えるほどまでの余裕があるのだ。こちら側の戦力と風国の戦力に、れっきとした戦力の差があるんだ!! オレを信じろ(アマノ)! なぁに、この戦は勝てる。余程の想定外な風国陣営の戦力さえ投下されなければな。そして、その余程な存在も、現状では見かけてもいない。よって、依然問題は無し!! あとは、『魔族』の皆でこの地に混沌をもたらし。(アマノ)の埒外な戦闘能力で場を掻き乱し。皆で力を合わせてこの風国を強奪する。今回、この地以外の場所も指揮しなければならないこのオレに少しもの余裕ができれば、オレもこの戦に参戦する。だから、大丈夫だ、(アマノ)。それほどと心配をするな」


 腕を組み自信満々とそう言い聞かせ。漆黒の明るい調子に、その存在はどこか安心したかのような表情を見せて喋り出す。


「っんまぁ、ゾーキンの旦那がそこまで言うのであれば大丈夫っすね。……でも旦那、大口を叩く割には頼りにならないところもあるから、やっぱり不安は付き物のままっすわ」


「ハッハハハッ!! 上司に対して馬鹿が付くほどの正直な感想だな!! それでこそ(アマノ)だ!! そんな(アマノ)に、オレは心から期待をしているからな!!」


「いやぁ、んまぁ旦那にそこまで言われちゃったら、そりゃぁもう期待に応えるしかないってものっすよねェ~!! もう、今回の戦だって、この天叢(アマノムラ)雲剣(クモノツルギ)に任せてくださいっすよォ!! ゾーキンの旦那~!!」


 漆黒から期待を込められ背を叩かれて。その存在はニカニカと純粋な笑みを見せていきながら。

 嵐の前の静けさの中、和気藹々とした和やかなムードで会話を交わしていく影達。それは、周囲に知られるべきではない、宵闇に紛れ暗躍を行う二つの存在の密談。


 ――しかし、そんな密談を交わす自身らの付近に、"その生物"が地を這っていることは。和気藹々と会話を行う二つの存在は知りもしなかったのだ。





 ……黒と灰の斑を持つ、細長い体と爬虫類の鱗。口からは赤い舌をしゅるしゅる音を立てて、出しては引き戻してを行い。つぶらな瞳がチャームポイントの小さな蛇は、月明かりの当たらぬ宵闇の陰に紛れて地を這い移動を行い出す。

 泳ぐよう体を揺らがせ地を這ってきたその蛇はレンガの壁を伝い。壁の上に腰を下ろし月を見上げていた存在の身体に絡み付いてはしゅるしゅると這って頭を肩に乗せる。


 彼の耳元で舌を出しては引き戻して。直にも、銀灰のローブに身を包むその彼は、詰まらせた息を言葉にならない音で吐いていきながら。落ち着かない視線で周囲を眺め。右手を顎に添えて、考えをめぐらせていく……。


「…………月光の下、神聖なる地を侵し人知れずと蝕む漆黒の会合。その奥に潜めし正体を曝け出し。邪悪なる信念を以ってして、神聖なる地に収まらずこの全土に渡って漆黒の侵食を伴う進行を企む。というのか。――っふ。ふふっ。滾る。滾るぞ。これほどまでの邪悪を前にして。この、我が魂が打ち震えている!! …………つまり。まさか、ヤツらは『魔族』だったとはな……。話には聞いていたが、確か、『魔族』という存在はこの世界の脅威ともなろう恐ろしき集団。……フッフフフ。怖気付くか。怖気付いているのか、おいらは。あぁそうだろう。そうに決まっているだろう!? だって!! そんな、この世界を掌握せんとする禁忌の存在に。このおいらは手を貸してしまったんだ!!! ……この世界を滅ぼす助力を行ったこのおいらだけでも、"ヤツら"は見逃してくれるものだろうか。いや、そうに決まってる。だって、おいらは手伝ったんだぞ? いや、でも、あの顔は非情な顔だ。きっと、このおいらのことも、用済みとして惨たらしく殺すことだろう。いや、しかし、……でも。……っく、この震えが止まらない。何がそんなに震えるって、そんな"ヤツら"に手を貸しただけでなく。そんな"ヤツら"と関わりを持ってしまったという事実が、想像を遥かに越える恐ろしさを孕んでくるのだッ!!」


 左手で右手首を抑えて。震える右手を必死に抑え込む仕草に禍々しさを漂わせて。

 何処に宛てることもできぬ恐怖の念に、その右手で禍々しい独特な手つきで顔に触れ。しかし、直にも禍々しい独特な動作で右手を振り払い。何かを悟るかのような呆然な表情と。ふぅっとため息をつきながら、天を仰ぎ呟いていく……。


「……せめて、死ぬ前に美味いモノを食いたいもんだ。だが、風国なんて初めて来るし。ここに来てからまだ二日目。何が何処にあるかなんて全く知らないし。そもそも、『魔族』がいるなんていう状況で、そこらの飯屋でのうのうと食事をすることもできやしない。っく、静まれ。我が魂……ッ!! そう。やっぱり、まずは腹を満たさねばな。だから。そう……取り敢えず、まずは食事を行うことのできる施設を探して。そこで飯を食いながら、これからのことを考えていくとしよう。うん。そうしよう…………」


 自身に巡る恐怖の念に声を震わせながら。無気力に息をついて頭を抱えてから、レンガの壁から降りて歩き出す。

 宛てもなく歩き始めるその影は。重い足取りで止まらぬため息と焦燥に首を横に振り続けながら、その宵闇の落ちた風の都を、肩に乗る小さな相方と共に巡り出した――――



【~次回に続く~】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ