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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
258/368

リザルト:窮地からの逆転

 炎上する一帯に佇み、ばちばちと音を鳴らし炎が揺らめく中にて暫しと天を仰ぐ。

 拠点エリア:風国の燃える一帯。炎上という惨事の光景も、それによる炎の音も。今、この身に巡る一つの達成感によって、そのあらゆる事象が視界にも頭にも入らない。


 ……先の戦闘で発動した、"とあるシステム"。

 この手に伝わってきた。この全身に巡ってきた。この胸に宿った、その瞬間の勇気……。


「……ブレイブ・ソウル。これは一体……?」


 戦闘の最中にも転移した無の領域にて、あの謎の存在であるウェザードから授かったシステムの名前を口にして。クリスタルブレードを握り締める手へと視線を移し。それは足元へと向け。そして、胸に手を当てて呆然と佇む。


 ……自身に何が起こったのか。自身が起こした出来事に理解が及ばず頭が真っ白となっている中で、懐から飛び出してきた球形の妖精を目撃して、ハッと我に返る感覚と共に目が覚める。


「戦闘、お疲れ様です。ご主人様。絶対的な窮地の中にて目覚めた、ご主人様にしか扱うことのできない"新たなシステム"を用いることによる勝利までの一連の流れは、まさしく、主人公と呼ぶに相応しい逆転劇でございました。このミント・ティー、ご主人様及び主人公様に永続的と仕えるナビゲーターとして、とても誇らしく思います」


「ん、あ、あぁ。ありがとう、ミント。…………? ……目覚めた。目覚めた?」


 未だと理解の追い付かぬ思考で呟いたその言葉に、ミントは不思議そうに尋ね返す。


「どうかなされましたか? えぇ、そうです。ご主人様は、度重なる窮地を幾度と介することにより、新たな"戦闘システム:ブレイブ・ソウル"の解禁条件を達成しました。そして、戦闘システム:ブレイブ・ソウルがもたらす効果を用いることにより相手の攻撃を無効化。それからなる華麗な立ち回りを駆使することにより、今回の戦闘を制することを可能とされた。戦闘システム:ブレイブ・ソウルの解禁条件を満たすには、幾度となるご主人様の危機が前提であり。又、今回の解禁は予定された時期よりも早期となる解禁であったために。こちらの結果から、ご主人様が如何にこの短期間で度重なる生命の危機に陥ったのかを容易に伺うことができます。それにしましても、今回は絶体絶命となる場面でございましたね。戦闘システム:ブレイブ・ソウルが解禁されておりませんでしたら、この時にもご主人様はゲームオーバーを迎えておりました。正に、危機一髪、でございましたね」


「……ブレイブ・ソウルの解禁条件?」


 解禁条件もなにも、俺はあのウェザードからこの力を授かったんだけどなぁ……。


 過ぎる疑念に悩むことしかできず。そんなこちらの様子に再びとどうかなされましたかと尋ねられ。それに対しては何でもないと返すことによって取り敢えず会話を終わらせる。


 ……新たなメインクエストとの遭遇。強敵との対峙。絶体絶命からの、ゲームオーバーの瞬間を味わった恐怖。そこからの新システムの解禁による一発逆転。

 この一つのイベントで様々なことが起こりすぎて、正直なにがなんだか分からなくなったこの思考。ただ一つ理解できることと言えば、この戦闘に勝利を収めることができたという結果のみ。


 ……分からないことだらけではあるものの、取り敢えず、もうダメだと死を悟った戦闘を乗り切ることができた。

 つまり、勝利だ。勝ったんだ。あの戦いに勝つことができたんだ。



 ――良かった。

 その時にも巡ってきた安堵に深いため息を一つついて。周辺で燃える風国の一帯を眺める余裕も生まれ。勝利による爽快な気分と、しかし、連日に続いて大きな打撃を受けた風国の変わり果てた光景に心を痛ませて。


 取り敢えず、ここから移ろう。

 そう思い立ち、この場から移動するために歩み始めたこの足元に視線を移す。……と、そこには、つぶらな瞳の小さな一匹の蛇が、ぎくりとした様子で真っ直ぐと見つめていて――


「…………。ッ??!」


 蛇という生物の姿を目撃し。同時に、背筋に走る悪寒と共にして、その蛇が突如と飛び掛かってくる。


 小さな体で大きな口を広げて。構わずと攻撃を仕掛けてきた小さな蛇の不意打ちを紙一重で避ける。

 その際によろけて体勢を崩し。その隙を好機と見て、瞬間にも視界を覆い尽くさんとどこからともなく一斉と飛び掛かってきた大量の小さな蛇の群れ。


 一体、何が起こっているのか。戸惑いの中で反射的に選択したブレードスキル:パワーブレードの広範囲で薙ぎ払い一掃して。

 その小さな体に似合った可愛らしい音を立てながら散り散りと吹き飛んでいく蛇達の奥。炎上する建物の中から轟音を立てながら生えるよう姿を現した黒と灰の大蛇。そして、その頭部に乗っている、銀灰のローブに身を包むその彼……。


「くっ。神聖なる地の、自然と共存せし疾風の加護を受けし人間は、純黒と銀灰の蛇竜をも退けるとでも言うのか!! 蛇竜の猛毒に飲まれし死神に吹きすさんでいた勝利の風を予期することもできぬとは、何たる迂闊! やはり、自然の摂理という掟と共存する神聖なる生命は、その過酷な自然界に流れる運命をも味方に付ける。とでも言うのか!! ――っふ。手ごわいな。だが! その運命を以ってしても、この邪悪なる両腕に封印されし真なる力を前にしては、この場の勝利も所詮は儚き明晰夢!! この、我が内に宿りし信念の深遠を根城とする、魔の結界を伝い空間を無辺際と渡り獲物を残酷に喰らう純黒と銀灰の凶暴なる蛇竜が覚醒せしその瞬間にも! 覚醒した真なる破壊と猛毒のスパイラルによって、貴様は地へ帰すこととなるだろう!! っふふふ!! 自身の命運が尽きるその時を、震えて待つがいいッ!! …………つまり。あの流れから、おいらが負けることは予想外だった。今回ばかりは、お前の勝利を認めてやる! だが、次の時はこうはいかないぞ! 再戦のために召喚獣を鍛え上げて。次こそはお前を倒してみせるからなッ!! ……いい好敵手と出会えたものだ。この宿命を背負い、次なる再戦の時を楽しみにしているぞ!! さらばッ!!」


 禍々しい独自のポージングを決める彼。セリフを言い終えると同時にして、天へと伸びる大蛇と共に、画面外へと飛び立ち何処かへと姿を消してしまう。


 ……周辺に散った蛇達もいつの間にか消えていて。その時にも再びと流れてきた静寂に、ただ立ち尽くし風になびかれるばかり。

 この瞬間にも沈静する騒ぎ。先にも交わした敵NPCとの会話を最後にして、この時にもメインシナリオのイベントは、一旦もの終わりを告げたのだった――――



【~次回に続く~】

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