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生理的に拒んでしまう二重の声が真正面から響き渡り。その螺旋に目が回り声音に不快感を覚え不気味な笑みに吐き気を催す。
……だが、それら眼前の不敵な存在に対する生理的な嫌悪感を遥かに凌ぐその感情に苛まれ。込み上げてきたそれに、この脳裏に巡る感覚にやるせなさを覚えるばかり……。
「……俺自身が劣っているだけ……。……ユノやミント、アイ・コッヘンやニュアージュ、ミズキもルージュシェフも皆が平常であるだけで。ただ、この俺が劣っていただけだったのか……」
――それは、冷静に考えてみれば至極当然の答え。
……しかし、同時に。それは、どれだけと努力を積み重ねようとも、自分は周りに追い付くことすらも叶わないという重い現実を知らされたことにもなり。
……膝をついて視線が下がり。ただ呆然と、照らされるスポットライトの光を見遣ることしかできず。
この全身。……いや、この神経に巡ってきた無気力感。虚しく空回りした頑張りの気力に、ただ失望と喪失を噛み締めることしかできずにいて……。
「……ッハ。つまんねェ野郎だ。オイラが期待していた反応とは悉く違う表情を見せやがる。こんなんじゃ弄り甲斐が無ェどころか、一欠片だけでも同情しちまうってものだ。つまんねェの。あァつまんねェの」
挑発をするようわざとらしく言葉を暴力的に投げ掛けてくる少女の声にも反応をすることができない。
……無気力感で、頭の中が真っ白となってしまい。
そして。そんなこちらの情けない様子に呆れ半分とため息を零すウェザード。舌打ちを一つ鳴らし。あーぁと言葉を零してから。……その二重の声音で、なんとも穏やかな調子でそう喋り出してきたのだ――
「……飽きた。もぅいい。これ以上と落ち込んでいられちゃゲームにもならねェ。しょうがねェから、ここで一つ、ネタばらしだ」
「…………え?」
咄嗟に上がる視線。三日月に横になる少女へと振り向き、そんなこちらの様子に構わずと体勢を直す仕草で三日月に寄り掛かるよう座り込んでは、再びと口を開き言葉を続け出していくウェザード――
「そんな調子で、このゲームを進められては困るんだよ。そいつは、このオイラからしても。それと、"これを見ている諸君からしても"、な。挫けてばかりで情けねェ表情ばかりを浮かべて何度も諦めてばかりのネガティブな思考の主人公なんざを見ていて、一体誰が楽しめる? そんなんでこの先の物語を進められてもな、それが例え熱い展開であったとしても、主人公のそれまでの行い次第ではイマイチと盛り上がりに欠けちまうもんなんだよ。ってことだ。そろそろといつもの前向きな表情を取り戻してもらうために、オマエには"ある現実"を暴露してやるとする。そうだな。これは云わば~、ネタバレ、だな」
悪戯な調子はそのままに、先までの暴力的な言葉遣いとは裏腹となる穏やかなそれで話を続けていくウェザード。
「まァそれでも、さっきの言葉通りに、オマエは弱くて当然なのさ。オマエは誰よりも劣っている出来損ないであることに何ら変わりは無い。……だが、逆に返してみれば? むしろ、オマエはそんな劣ってばかりの出来損ないなクソザコで、よくもまァ実力者揃いの舞台でここまで粘り強く生き延びてきたもんだ。それを考慮すりァ、ある意味ではさすが主人公と言ったところだろう。――が、これからに控えている難易度のことを考えると~。この先は、仲間に助けられてという誤魔化しなんぞが一切通用しない。オマエの、自分自身の実力で目の前の困難を捻じ伏せていかなければならない場面がほとんどとなるだろうよ。で、そんなんを聞いちまえば、オマエはビビるだろうよ。実際に、その嫌な予感は的中している。オマエにはそんな実力なんて、微塵も存在してなんかいないんだからな。……つぅことは、だ。オマエはこの先で、強力なNPCやエネミーによってされるがままいたぶられて地に這い蹲り死に行く自身の運命に嘆き悲しむ凄惨な結末を迎える展開しか予感できないしそれしか望めないというものなのさ」
照らされるスポットライトの光に爪を当てては輝かせて。それを眺めながら続けていた言葉に一区切りを付けては。なんともあざとい表情を見せながら、こちらへと振り向いてくる少女――
「――オマエに一つ問い掛けようかね。なァ主人公アレウス・ブレイヴァリー。自分はどうして、いくら頑張っても尚まるで強くなれている実感を得られないと思ってしまうもんか。それの原因であろう自身の行いに、僅かながらも心当たりはあるもんかな? うっくくく」
「俺が強くなれない理由……に、心当たり?」
突然と投げ掛けられた問い掛けを聞いては、先まで自身が答えた言葉を真っ先と思い浮かべ。しかし、それら以上もの要因であった少女の言葉を用いて答えることにしてしまい……。
「……俺が、皆よりも劣っているから。とか……?」
「そいつは大前提さ。んまァこんなところで時間を割くのは適切じゃねェな。じゃなきゃ、そろそろ"これを覗いている諸君"を飽きさせてしまう。……じゃあ、答え合わせ。という名の、ネタバレ、とでもいこうか? うっくくく――」
悪戯な笑みを浮かべながらとその言葉を口にして。不敵な笑い声をカラカラと鳴らしながら。あざとい表情と卑しい視線はそのままに、それは嘲笑うかのようで、面白可笑しく笑みを浮かべた表情のまま、ウェザードはそれを続けていったのだ――――
「主人公アレウス・ブレイヴァリー。オマエは周りのNPCよりも劣っている。そう!! オマエは劣りに劣る単なる出来損ないの劣等なのさ!!! ッだが? ここで言う、その、劣っている。劣等、である。という言葉は少々と複雑なもんでな。実際、オマエが考え脳裏に浮かべているであろう劣等の内容とは、多少と異なる意味が含まれているのさ。……劣っている。劣等。――そう。オマエに関しての劣っている、っていうのはな。オマエという存在。つまり、"主人公という特殊な存在のみが有することができる、とある特異的なシステムが欠如している"という意味合いを含めた、今のオマエにはあるシステムが欠けている意味での、劣っている、という言葉だったのさ。うっくくく――――」
【~���に続く~】




