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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
254/368

���

「よォ、今日も随分と辛い現実に苦しい思いばかりをしながら涙を堪えて必死と主人公を演じているもんじゃねェか。お疲れさん、主人公アレウス・ブレイヴァリー。そんな、実るワケもない途方で無駄な努力が大好きな空回り上手の頑張り屋さんなその勇姿を、このオイラはいつも拝見させてもらっているもんだぜ。それも、面白可笑しく。そんな滑稽な醜い姿を嘲笑いながら、な。うっくくく――」


 この聴覚を侵される感覚に、生理的に堪らずと拒んでしまう中性的な声。それは二重に重なった耳障りな女の声であり。二重のどちらがどちらとも主張することのない不安定な調子。喉や口からガラガラと鳴らされる不敵な不協和音を立てながら。からかう調子で後頭部の先を舐め回してくるようなその気色の悪い声音。


 悪戯に見下すその存在は、不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと降下し。いつの間にか出現していた、黄の厚い彩りの三日月に腹から乗り掛かりながら悪戯な調子でそう喋り出す。


 その身長は百六十二で。ふくらはぎにまで伸びた、生気を思わせないモノクロ調のロングストレート。その上に、着用しているワンピースから、肌や髪も含めて全体的に生気の無いモノクロ調な色合いという周囲から浮き立つその姿で。渦巻く螺旋状の瞳。悪戯な笑みを浮かべる口。途中で器用に折れ曲がった、跳ねた前髪。そして、この場にそぐわぬ黄で厚く彩られた、少女の腹に敷かれた浮き上がる三日月。


 ……このゲーム世界における、謎に満ち溢れた不可解且つ不気味で不敵な存在。……であり、彼女の手配によって、RPGの主人公としてこのゲーム世界に降り立つことができたという経緯があることから。……この存在のことを一言で説明するとなれば、所謂、ゲームの世界へと誘ってくれた恩人? ……とでも言えるだろうその立場がイマイチとハッキリしない不可解なNPC。


 ――とにかく、そのあらゆるが謎だらけなその少女こと、ウェザードと改めて再会したことによって。あまりにもな展開に理解が追い付かぬこの脳みそのままに、次の時にも無意識と質問を投げ掛けてしまう。


「なぁ、ウェザード。だよな……? お、おい、ウェザード。ここは一体なんなんだ? 俺、あの世界で一体どうしてしまったと言うんだ? なぁ。まさか、俺、本当に死んでしまったのか? ということは、ここはゲームオーバーの画面で。ついさっきまで生活していたあの世界は本当に消滅して消えてしまったってことなのか?! なぁウェザードッ!! これは一体なんなんだよッ!? 俺って一体、どうなってしまったんだよッ!!?」


「うるっせェな。一気に色々と喋るんじゃねェよ」


 気が付けば、少女の元へとすがり付こうと手で床を這い寄っていたこの身体。

 だが、そんなこちらの接近に嫌な顔をしながら三日月ごと距離を空けて。口を捻じ曲げあからさまな不機嫌な表情でパニックを起こすこちらを見下していく。


 ――かと思えば、その表情は唐突に面白可笑しそうな悪戯な微笑みを浮かべ出して。不敵な声を零しながら、このみっともない主人公を軽蔑する卑しい視線を向けながら。途中からは二重ではない可愛らしい少女の声を発しながらと喋り始めるウェザード。


「うぇざーど? あァそうだったな。そういや、そんな言葉を自分の名前として名乗ったこともあったな。あァそうさ。オイラこそが、オマエさんの言うウェザードちゃんさ。で、なに? ここは何処で、ここは何なんだ、だって? 随分と焦っているもんだがァ、まァそう慌てんな騒々しい。いちいちとうるせェんだよ。だからまずは落ち着け。――そう。深呼吸だ。ほら、まずはゆっくりと空気を吸え。ほら、吸って。はい、吐いて~。もいっかい。ほら、吸って。はい、吐いて~。どうだ。落ち着いただろう? これで、このオイラの話も冷静に聞き取れるってもんだ」


 この焦燥の念をなだめるかのよう、優しい調子となった少女の声音に言われるがままと行った深呼吸によって、ひとまずと心を落ち着けることに成功する。

 ふぅっと息をつき。それでも心臓の鼓動は忙しないものであったが、先よりも頭に血が巡っている感覚に思考する程度の余裕ができたことを自覚することができて。


 そんなこちらの調子に、先までと見せていた不敵な笑みとは至極掛け離れた天使の微笑みのウェザード。

 ――かと思えば、その形は一気に崩れて卑しく嘲笑う表情へと変貌を遂げながら、二重と重なる生理的な嫌悪が込み上げ出す声音で喋り出したものだ。


「よォし、イイ子だ。情けねェ主人公さんをあやすのも実に一苦労なもんだねェ。全く、手間を掛けさせる面倒な野郎だ。で、なんだ? ここがなんだって? まァ、オマエさんが聞きたいだろうそれらの問いに、このウェザードちゃんが仕方無く答えてやっていくとでもするかね。うっくくく――」


 白の顔や全身に陰る、モノクロの黒。惑いを誘発させる螺旋の目で真っ直ぐと見遣りながら、ウェザードは続けていく。


「まずは安心しな。この画面は、オマエさんが怯えているゲームオーバーの画面なんかじゃねェ。オマエは決して死んでやいないさ。れっきとして、ゲームはまだプレイ中さ。まァ、それでも? 結論から言ってしまえばァ~。オマエさんは、実質死亡した、とでも言えるもんかね」


 最初こそは安堵の念でホッとしたものだが。その直後にも出された実質の死亡という言葉に、巡ってきた疑念のままに首を傾げ問い掛けを繰り返してしまう。


「実質死亡した? それってどういうことなんだ?」


「さっき戦闘を交えていたあの敵NPCの必殺技、オマエはそいつをモロに受けた。――いィや、違うな。言ってしまえば、これから直撃する、って表現が正しいもんかな。んまァ、そんなことを言われても、その意味がまるで分からんだろうがァ? まァそれをこれから説明するから、いいから落ち着けよいちいちとうるせェんだよ騒々しいな。ったく」


 腹から乗っていた三日月を這い回るように、その上でうずうずと動きながら体勢を直していくウェザード。三日月の輪郭に沿うよう背にもたれ、両腕を頭の後ろへと回しながら。姿勢を整えくつろぎの様子を見せながら、ウェザードはそう言葉を続けていったのだ――――



「あの敵NPCの必殺技は、それを食らった相手を状態異常:猛毒にして。その上でえげつない勢いでHPを減少させるスリップダメージをじわじわと与えてくるやらっしい攻撃だ。微々たる調子でHPが減少していくその関係上、それで即死するという強烈な一撃を一度だけ耐えるといった耐久型のスキルなんかは意味を成さないだろうな。で、オマエはそれを食らい。その必殺技の中に閉じ込められ。猛毒を発症しながら、あの無慈悲な毒ガスによって苦しみもがきながらこれまでの道のりを顧みる回顧も許されぬままじわりじわりとゆっくり死に往く……ところだった」


「ところだった……?」


「簡潔に言おう。オイラが仕方無しに、オマエを助けてやったのさ。うっくくく――――」



【���】

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