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「ッ…………!!! ……ッ。…………あ、れ……??」
反射的に閉じた瞼を開く。次の時にも、反転した視界に広がっていたのは、自身とその周辺のみを照らすスポットライトがぽつりと虚しく照らされた真っ暗な空間。
そこは、自身の姿と照明のみしか存在しておらず。周辺に広がる真っ暗な空間からは、あらゆる言葉にも当て嵌まらぬ、無、を感じるのみ。
萌える生命も。象られた物体も。そのあらゆる存在さえも存在などしない無の領域であることが容易とうかがえるものであって。
……いや、そもそも、自分が何故このような場所に一人ぽつりと佇んでいるのかも。いつの間にかと反転した、まるで"これまでと呼吸を行い生命を育んできたゲームの世界とは異なる世界線"のような場所に放置されたかのような。そこにはただ虚しさという言葉のみしか残らない、"生成もされていない世界に漂う、次元と次元の狭間"に取り残されたかのような感覚を覚えて……。
「……ここ、どこだ。ここ、どこだよ? なぁ、ミント。……ミント? っおい、ミント、どこだ? なぁミント? ミント!! そんな、どうして。今まで一緒にいたじゃないか!! それなのに。どうして、なんで今はミントがいないんだ!? っというか、ここは何なんだ? ここは一体なんなんだよ!?」
無の領域に置き去りとされた状況にパニックを交えながら、周囲を見渡し声を張り上げ、頭を抱えスポットライトの明かりの中をうろうろと歩き回っていく。
――なんだこれ。なんだよこれ。一体、何がどうなってこんな状況になってしまったと言うのか。
理解の追い付かぬ現在の状況に一段と焦りを覚え汗を流し泣きそうにさえなってしまう中で。唐突の孤独に蝕まれ行く心情で、だが落ち着きを取り戻すよう自身に訴え掛けていき不安を紛らわせようと努めていく。
……落ち着け。落ち着くんだ。まずは、これまでの状況を整理するんだ。
深呼吸を一つ零し。ふぅっと息をついて、だが、心臓の鼓動が鳴り止まぬ自身に冷静さも沈着さも取り戻すことがままならないまま、これまでと巡ってきた物語のシーンを思い返し記憶を辿っていくこととした。
「……ゲームを開始して。ユノ、ミントと出会って。のどかな村。黄昏の里。ニュアージュ。マリーア・メガシティ。ミズキ。風国……戦い」
脳裏で巡る記憶の数々を辿り、そこに辿り着いたあるワンシーンが、あの蛇を操る男との戦闘。
……そう。あのNPCとの戦闘に敗れてしまったことを明確と思い出すことができた。
で、あって。今現在とここにいるのは、明らかである無の領域。……そして、主人公であるこの存在が死んでしまうことによって。……主人公という、そのゲームを成り立たせる存在を失ってしまったゲーム世界は、消滅を迎える――――
「うっくくく。随分とまァ思い詰めているようじゃないか? 何か心当たりでもあったのかな? うっくくく――」
後頭部から微かに響いてくる誰かの声。
この聴覚を侵される感覚に、生理的に堪らずと拒んでしまう中性的な声。それは二重に重なった耳障りな女の声であり。二重のどちらがどちらとも主張することのない不安定な調子。喉や口からガラガラと鳴らされる不敵な不協和音を立てながら。からかう調子で後頭部の先を舐め回してくるようなその気色の悪い声音。
……得体の知れぬ寒気を感じ。だが、その生理的な嫌悪に既知を抱きながら。まるで、その時を繰り返すかのように。恐る恐ると、その声のもとへと振り向いて…………。
……みると、ちょうどこの目の高さか。そこには、この目線と合う、逆さまの宙吊りとなったモノクロな少女の顔が、息のかかるだろう至近距離に――
「っうぉおおオォッ!!?」
堪らずと仰天し、腰が抜けてしりもちをついてしまう。
そんなこちらの様子を面白可笑しそうに。悪戯に見下すその存在は、不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと降下し。いつの間にか出現していた、黄の厚い彩りの三日月に腹から乗り掛かりながら悪戯な調子でそう喋り出したのだ――――
「よォ、今日も随分と辛い現実に苦しい思いばかりをしながら涙を堪えて必死と主人公を演じているもんじゃねェか。お疲れさん、主人公アレウス・ブレイヴァリー。そんな、実るワケもない途方で無駄な努力が大好きな空回り上手の頑張り屋さんなその勇姿を、このオイラはいつも拝見させてもらっているもんだぜ。それも面白可笑しく。そんな滑稽な醜い姿を嘲笑いながら、な。うっくくく――――」
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