破壊と猛毒のスパイラル②【我が内に宿りし信念の深遠を根城とする、魔の結界を伝い空間を無辺際と渡り獲物を残酷に喰らう純黒と銀灰の凶暴なる蛇竜】
――そして。幸いなことにも、この身体が流されたその先には、口から溢れ出す毒ガスをじわりじわりと生成し充満させていく黒と紫の個体が存在しており。こうして空中からの接近を果たすことができた今、このチャンスを逃すわけにはいかないと一転して攻撃へと転じていく。
「剣士スキル:アグレッシブスタンス!! ブレードスキル:エネルギーブレード!!」
絶体絶命のピンチから生じた、またとない絶好のチャンス。スキルの宣言と共に一時的に防御力を捨てて攻撃力を底上げし。攻撃力上昇による赤色のオーラを纏いながら振り被ったクリスタルブレードに宿る青白い光源。
そこに、風に吹かれる勢いが増したことにより。眼前の個体が回避行動を行うその前にも、この強力な一撃をヤツの頭にしっかりと叩き込むことができ――――た、ハズだったのだが…………。
そこには、確かな手応え。
この攻撃が確実に弾かれたことを示す、鈍い音が響き渡る効果音がこの鼓膜を伝う。
「……ッ効いて、いない……!?」
頭部という部位に攻撃を当てたというのに、その渾身の一撃はまるで通ってはおらず。
ヒットストップで停止するこちらへと、猛進のままに突っ込んできた黒と灰の個体に地面へと叩き付けられて。ダメージボイスを上げると同時に、瓦礫へ叩き付けられバウンドし崩落し掛けている建物の内部へと激突する。
半分を切ったHPに、逆さまとなって建物の割れ目に埋め込まれたこの身体。その建物は直にも崩落するだろう軋む音を立てており。この状態で崩落に巻き込まれれば、まず間違いなく押し潰されゲームオーバーも免れないことだろう。
「っ。ッ……!! ク、ッソ。抜け、ね、ェ……!!」
クリスタルブレードを持つ右腕が建物の割れ目に挟まり。自由が利くのは、この左腕の一本だけ。
身動きの取れないこの現状、唯一と可能であるのは左腕を用いたアイテムの使用のみ。
で、あるからには、これだけはと思い立ち左腕を腰辺りに回してはポーションを取り出して。それを口へと注ぎ込み逆さまの姿勢で無理矢理と飲み干しHPの回復を図っていく。
しかし、次の瞬間にも覆い被さる大きな影。振り向くと、それは巨大な蛇の鱗が息のかかる位置に見えていて――
「ッづォ――!!」
建物ごと貫通する、黒と灰の蛇による自らの危険も顧みぬ恐れ知らずな頭突き。
それは痛手となったことは言うまでも無い。
――だが、幸いにもこの被弾によって建物の拘束から解かれる形となり。直線に吹っ飛び、爆煙が噴き出す炎上した地域へと落下することとなる。
更なる痛手を負って。回復したHPは瞬く間と削られまたしても危機的な状況を迎えることとなり。
しかし、拘束が解けて身動きが可能となっただけでも相当な儲けものであることは確実だったため、こうして回避コマンドを選択する余裕を設けられたことは不幸中の幸いだった。
右手にクリスタルブレードを握り締め。炎上する風国の一帯へと、宙を這ってこちらへと接近してくる二匹の巨大な蛇をこの目で見据えて。
その両腕を交差させた禍々しい独特なポーズを決めたまま、それらを召喚する魔方陣を引き寄せながら、軽い足取りで悠々と歩み寄ってくる敵NPC。
「性懲りも無く絶望の深淵を漂い続け、己の命を顧みることもなく未だと我が双頭の蛇竜へと闘志の眼光を向け続けるというのか? 自身の宿命を悟るべきだ。貴様は純黒と銀灰に染まる螺旋の籠に捕らえられし、蛇竜の威厳に平伏し命を乞う無力な溝鼠に過ぎない。それは、この地に蔓延る生命を貪る死神であろうとも、我が双頭の蛇竜を前にしては、単なる無力な一匹の鼠に過ぎなかったということなのだ。――さぁ、遊びはここまでだ! 貴様の善戦を無へと帰し。今こそ、貴様の存在をこの地へと帰す時!! 蛇竜よ!! 同情は必要ではない! それじゃあ始めよう。この、我が双頭の蛇竜がもたらす。狩りという名の惨く残酷な食物連鎖の一環を!!! …………つまり。お前にはもう、逃げ場など用意されていない。仲間達を倒したその実力も、おいらの召喚獣を前にしてはまるで敵わなかったということだ! ということで、そろそろと時間が惜しいからな。これで、お前との戦いを終わりとしよう!!」
禍々しい独特なポージングを解くや否や、両腕に魔法陣を生成するNPC。
自信に満ち溢れた余裕ある口元と目つきを浮かべると同時に、そのNPCは大袈裟な素振りで両腕を振るい始めていく。
振るわれる両腕の軌道上に、残像として何重にも重なり回転する魔法陣の列。立て続けと振るわれていく両腕からは次々と魔法陣の残像が固定され。それらが列を成しある程度の長さとなると、それは更なる巨大な蛇の形を作り出し身体が形成され、目が浮かび上がり口が裂け舌を覗かせながら蠢き出す。
生み出されたばかりの蛇は、まるでつい先にも存在していたかのような生命の息吹きを感じさせて。先の二匹から、生成され増えた新たな三匹の巨大な蛇。だが、その次の時にも、立て続けと魔法陣から蛇が形成され、あっという間に四匹へと増殖を。
――そして、続けて振るわれていたNPCの両腕から描かれる魔法陣の残像の列からは次々と新たな蛇が生み出されていき。それらは形を成し舌をしゅるしゅると伸ばし。魔法陣から突出するよう飛び出す身体を起こしてその眼光をこちらへと向けてくる。
…………目の前には、瞬く間と数え切れないほど増殖した大量の巨大な蛇の群れ。
その発生源でもあるNPCから生えるかのように。全ての根本である彼の身体に密集した夥しい数の魔法陣と蛇の姿を前に。その瞬間にも、背に伝う止まらぬ悪寒と絶命を予期する迸る戦慄。
……ダメだ。こんなのを前にして、まるで勝ち目が無い――――
「召喚・黒と灰の大蛇ッ!! 召喚士スキル:黒と灰の蛇神・ハイドラッ!! 全てを喰らい尽くせェェッ!! リベンジ・オブ・ヒュドラァァァァァアッ!!!」
夥しく群がる蛇の大群が。それぞれがその爬虫類の身体をうねらせ、斑と鱗の艶を不気味に反射させながら。一匹一匹の巨大な口から溢れ出してくる毒々しい紫の煙は、炎上する風国の地を瞬く間と包み込み。それは引火することもなくNPCを含めた蛇の塊を覆うよう充満し始める。
……次第に、ふつっふつっと、吹き出る泡のようぼこぼこと音を立て波をうち始める紫の煙。それが発生すると、間を空けることもなく煙が毒ガスとなり噴水のよう勢いあまり噴き出して。同時に、毒ガスから一斉と飛び出してきた蛇の大群が息を揃え口を広げる光景を目の当たりにし。
蛇に睨まれ戦慄し金縛りに遭うこちらの身へと。そのヒュドラの姿を覆い隠すほどに充満する、毒ガスの塊から噴射された濃厚な毒ガスと共に。それらは更なる毒々しく輝くブレスを発射してきたのだ。
生命を枯らし尽くす、猛毒の光線。
圧で噴射された濃厚毒ガスのそれと、周囲から発射されるブレスを纏い更なる肥大を遂げた眼前の殺戮光線。
迫り来る猛毒の嵐を前にして。逃走のコマンドも意味も成さない現状に。成す術も無い、絶体絶命の危機と直面して。打つ手無しの、助けも無い自身の置かれた状況に。
……ダメだ。終わった。
絶望を感知した感情に苛まれるその前に。瞬時に悟り巡ってきた諦観の念が全身を支配する感覚を最後にして。
先にも味わった激痛の毒。その苦行が圧縮された光線に包まれる視界に。主人公アレウスは、ただ呆然と立ち尽くしたまま眼前の光線に飲み込まれていったのであった――――
【~次回に続く~】




