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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
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陰謀②

 その大気がはち切れんばかりの大声を響かせる漆黒の、男気溢れる勢いを纏いしガッツポーズと共に闇に轟く血生臭い共鳴。

 低く野太い気合いの共鳴は、その地を揺るがすほどに滾る血の気を演出しており。同時として、この闇から外界の宵闇へと駆け出す集団は漆黒に背を向けて。それらは一斉に行動を始め、その僅かな合間にも集団は先までの姿を全て消し去り、瞬く間と外界の宵闇へと走り去ってしまう。


 それを見送り、一人頷く漆黒。

 そんな彼の様子を見計らって。背後の存在は訝しげな表情のままに、漆黒へと顔を覗かせながら軽い調子で尋ね掛けていく。


「……これ、遠回しに"オレら"が風国に潜伏していることを仄めかしているようなものですよね旦那。ねぇゾーキンの旦那ぁ、これで良かったんすか? ねぇこれ大丈夫なんすかこれ。つぅかそもそも、何故に急に人類達に頼り始めたんすか? オレ、旦那の考えに理解が追い付かないっす」


「なに、案ずるな(アマノ)。なにも、計画無くしてこのオレが無闇に動くワケが無いだろう」


 訝しげと覗いてくるその存在へと振り向きながら。男気溢れる肉体美で腕を組み、漆黒は続けていく。


「一言で人類と言えども、それは『魔族』と同じくして。それら個体それぞれには、それら個々それぞれの信念が宿っているものだ。それは同じ形を成す生物の一種ではあるが。だが、皆それぞれが異なる個性を持ちその生命を萌やし生命維持の活動を行っている。人類という括りに位置するそれら生物は、実に多種多様な活動範囲や生息区域を設けているものであるが。その中でも、傭兵としてその生き様を貫く義理堅い信念を持つ個体の人類は、報酬金一つで自身の命を投げ遣ってでも主の命に従う従順な駒として誠心誠意を尽くせる思考回路を有している。要は、傭兵という個体は、金を支払いさえすればそれが誰であれ何であれ金を出した主に仕え命に従うという、一際と変わった信念を宿す従順な生物なのだ」


 漆黒の説明が次から次へと耳に流れ込むその中で。その存在は表情を次第と渋く、そして漆黒が説明し終えるその前にも口を引きつらせた、なんとも間抜けな面を見せていく……。


「……んでぇ、つまりゾーキンの旦那が言いたいことってなんなんすか? 結局のところ、『魔族』にとって仇であり復讐相手でもある人類そのものに頼るって如何なもんでしょ」


「まぁそう心配するな(アマノ)。こうして人類の傭兵を雇ったのは、ある狙いがあったからだ」


 未だと訝しげに口元を引きつらせながら見遣ってくるその存在から視線を外して。漆黒は歩き出しながら話を続けていく。


「この試みには様々な思惑があるものだが~……それら全てを含めたざっくばらんな説明をするとなれば。そうだな……オレの一番の目的としては、人類同士で争わせることによる、同じ種族同士の闘争による風国勢力の疲弊が狙いである。とでも言えるか。それは、人類同士で争うことによる、『魔族』以外にも気に掛けるべき脅威の出現とそれら存在を改めて思い知らしめること――による、敵対すべき存在の増加による意識の分散。モンスター放出に引き続いて、風国陣営の戦力を測るための判定材料。先にも言ったように、同族との闘争における勢力の疲弊。風国という陣営の、人類、という脅威への対処を観察するための撒き餌。つまり、人類同士の争いにおいて、風国のようなある程度もの勢力を有する陣営が、同じ種族を相手にどのような実力行使を行うのかに興味がある。などなど、エトセトラ、エトセトラ」


 腕を組み、満足そうに笑みを浮かべうんうんと頷く漆黒。

 ……が、それとは対して、その存在は間抜けに口を開けたままの面で、目の前の漆黒を見遣り続けるばかり……。


「……要は、次に行う作戦は、風国の連中への嫌がらせ。っつぅか、思いつきによるちょっかいと嫌がる様子の観察? ……いぃや、旦那の言い方で表すとすりゃぁー。……風国勢力の撹乱、っと言ったところすか?」


「おぉ! さすがだな!! やはり(アマノ)は中々に頭がキれる。いいぞ! (アマノ)、その調子だ! そんな(アマノ)の活躍に、オレは更なる期待を抱かざるを得ないな!!」


「え? あぁ。適当に言ったんすけどマジですかい。――へへっ、まぁ、っでしょー?」


 その一瞬は面食らった面を晒していくその存在ではあったものだが。次の時にも、訝しげと浮かべていたその表情は、漆黒の言葉によってけろりと変わる。

 敵方とは思えぬニカニカな笑みを見せるそれと、そんな彼に期待を抱き背を叩き機嫌良く言葉を掛けていく漆黒。



 そこは、外界からではまず捉えることさえできない闇。その暗がりに紛れた二つの存在による完璧な暗躍は、その存在を悟られることなく敵方の懐にて陰謀を巡らせていく。


 ……しかし、その暗躍の下。それこそ、彼らの足元にもまた、その闇に紛れ地を這っていた"それ"が動き出すことになった――




 "それ"は音も無く闇を蠢き。音も無くうねり、地を泳ぐよう揺らぎ続けていく動作の中で。"それ"は人知れずと外界の宵闇へと抜け出しては、月明かりにその姿を照らしていく。


 ――"それ"は、灰と黒の斑という柄を纏う、一匹の蛇。宵闇を不気味に蠢き、又、紅い舌をしゅるしゅると細く短い感覚で出して引っ込めてを繰り返す"それ"は、恐怖症には堪らぬ外見の割には、何ともつぶらな真ん丸い瞳で宵闇の夜道を這い続けていき。


 それは、先の場所から逃げるように。うねり揺らぎながらしばらくと地を這ってきたその中で。ふと、道の脇にそびえ立っていた外壁を這うようによじ登り。その先のてっぺん。奥へ細く伸びる外壁の上に、その腰を下ろしていた"とある存在"の身体に絡み付いては。くるくると這い回り、それは"とある存在"の肩に頭を乗せて落ち着きだす。


 ……そして、月明かりの下。つぶらな瞳を持つ蛇を肩に乗せた"とある存在"は、耳元でしゅるしゅると音を鳴らす一匹の蛇と共に。空を仰ぎ月の明かりを眺めながら、軽快な調子の低音な声音で一人呟いたのであった――――


「……謎多き幽遠の迷宮に宿した邪気を隠す双頭の漆黒。不穏の魔窟にて不敵に囁く双頭の思考は、この身を迷宮へと誘う魅惑の呪文を口にする、か。…………つまり。一体、"彼ら"は何者なんだ?」



【~次回に続く~】

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