陰謀①
闇の訪れを機として、吹きすさぶ風にマントをなびかせながら姿を現したその漆黒。それは頂上に降り立つや否や足早に歩き出し、その闇を踏み締めるかのよう一歩一歩に重みを乗せながらの歩を進めていく。
頂上を背にして坂を下り、周囲に広がるパステルに囲まれた道を沿い続け。それはトンネルとなった壁の空洞を通りそのままと突っ切っていく。
直にも歩を止める漆黒。そこは、トンネルの天井に僅かと灯る明かりが眩しくさえ思える、外界の闇を凌ぐ暗闇の空間。
こもった空気は、ある意味で血生臭い。その血の気が溢れる空間は、生きた心地などしないだろう、殺意と欲望に満たされた無法地帯。
暗闇から点々と浮かぶ眼光の注目を集める中で、漆黒は筋骨隆々とした上半身を見せびらかすようゆっくりと両腕を上げていき……その力関係を示すかのよう男らしく腕を組んでは細目の視線を向けていき。沈黙の渡る空間。放つ血の気はそのままに、発せられる血生臭さとは裏腹の、息を殺し漆黒を見つめ続ける静寂が流れ出して……。
……ふと、その静寂に割り込むかのよう、漆黒の背後から顔を出してきた色白の黒髪リーゼント――
「ゾーキンの旦那ぁ。これ、ホントに大丈夫なんすか? まさか、ゾーキンの旦那がこんな手段を発案し実行に移すだなんて思いもしていなかったっつぅか。というか、このオレからしてもぉ、これ、なんかリスクが高いような気がしなくもないんですけど?」
「まぁ見ているといい、天。直にも、目の前のそれらに目を見張り。人類という集団にも様々な種類が存在し、その個々それぞれと異なる意思と生態系の目撃に。"ヤツら"への関心及び未だ知れぬ信念を持つ人類達の思考と行動に、これまでの考えを改めさせられることになるだろう」
男気に満ちる腕組みのまま、後方から顔を覗かせる部下を尻目で確認して。その漆黒は息を吸い、その肉体美に違わぬ低く透き通る声で、地を伝う声音を高らかと響かせ始めた。
「では、これより作戦会議を始める!! ……というものではあったが、貴様ら雇われの兵士である傭兵が成すべきその事柄は実に至極簡単、単純明快、シンプル・イズ・ベスト!! 貴様らが行うべき任務はただ一つ! この風国という地に波乱を招き入れる。以上!! この"我々"と接触を図り、前払いの報酬を受け取り指示に従う命運にその身を投げ入れた貴様らとの出会いは幸か不幸か。まぁワケあって、生憎、風国なだけに"我々"への風当たりは強いものでな! だが、事前にも受け取った報酬金額がそれの内容を何よりも物語り。それを知っても尚"我々"という情報無き謎の集団の手先となり、多額の報酬金と引き換えに己の身を危険に晒すデンジャラスな体験の予感に刺激され今に至ることだろう! オレはしっかりと把握している! 貴様ら傭兵は、金以外にも密かに求めているものがあるということを! それは、危機感の摂取という、自身の危機を快感とする本能が求めし歪んだ望み。"我々"の下で行うこの一仕事は、貴様らの快楽の絶頂を保障する! さぁ! 報酬金という生きる術を手にした今、後は明日にも指示通りにその快楽に浸り気持ち良くなるだけだ!! ただし! くれぐれも、風国の連中に捕らえられた際には"我々"の存在を口外しないこと! 貴様らの、傭兵という義理堅い信念を抱きし危険を顧みぬ勇敢な戦士達に幸あれ!! 武運を!! そして、解散ッ!!」
その大気がはち切れんばかりの大声を響かせる漆黒の、男気溢れる勢いを纏いしガッツポーズと共に闇に轟く血生臭い共鳴。
低く野太い気合いの共鳴は、その地を揺るがすほどに滾る血の気を演出しており。同時として、この闇から外界の宵闇へと駆け出す集団は漆黒に背を向けて。それらは一斉に行動を始め、その僅かな合間にも集団は先までの姿を全て消し去り、瞬く間と外界の宵闇へと走り去っていった――――
【~②に続く~】




