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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
一章
24/368

イベント:お祭りとお祝い

「アレウスー!!」


 大勢の客で賑わう夜の酒場。

 活気と熱気が充満した、人々の熱狂で盛り上がるお祭りの空気。その喚声の中であっても尚負けない大声を響かせたユノ。

 駆けつけてきたその勢いのまま。手にサイダーを持ってイスに座っていた俺の肩を軽く叩き、顔を合わせてくる。

 互いの確認が終わり次第、ユノはテーブルを挟んだ向こう側のイスに腰を下ろした。


「ちょっと貴方すごいじゃない!! 一人であのドン・ワイルドバードを倒しちゃったって、アイおじさまから聞いたのだけど!! ねぇそれってホントなの!?」


 テーブルに乗せられた料理を避けながら。両肘をテーブルに乗せながら身を乗り出して俺に尋ねてくるユノ。

 興味津々。輝かせているその瞳には、未知を求めて旅をするユノの好奇心がその姿を現している。


「あぁ、ドン・ワイルドバードなら倒せたよ。ほら、えっと。あったあった」


 異次元的な透明のバッグから戦利品を取り出す俺。

 ドン・ワイルドバードを象徴する数々の特徴を捉えた服と扇。見るために立ち上がったユノはそれらの装備品をテーブル越しから眺め遣り、感嘆を漏らして再び腰を下ろす。


「ちょっとアレウス、あのモンスターをホントに一人で倒しちゃったなんてすごいわ! だって、武器もソードでしょ? 防具だって駆け出しのままだし。職業も剣士……まぁ、剣士ね、中々に良いチョイスじゃないの。うんうん、なるほどなるほど……」


 一人で納得し、一人で頷くユノ。

 次に俺へ向けた眼差しは、一つの確信を思わせる期待の眼差し。旅を共にするパーティーのメンバーが成した想定外の功績に、ユノは目前の仲間に対する頼り甲斐を見出したのか――


「やっぱりアレウスは只者じゃなかったわね。私の睨んだ通りだわ! ウフフ。もう、貴方を初めて見たその段階で、私は既に判っていたのよ? この人は何か、他の人とは違うものがあるかもって! うんうん。オーラというか、雰囲気というか。茂みから顔を覗かせていたあの表情を見た時から、私の勘が何かをキャッチしていたの。そう、貴方という存在に、こう、ビビッとね!」


 自慢話をするかのように喋り出したユノ。

 自信満々に語るその表情で、得意げに自身と俺を褒めていく。


「もう、戦闘の方法を教えていたあの頃が遠い昔にさえ感じてしまうわね。それにしてもアレウス。貴方、いくらなんでも成長が早すぎるわ。なんだか、もう実力を追い抜かれちゃった気分で私、ちょっと嫉妬しちゃうかも」


 その言葉には、皮肉という突っ掛かるものを感じさせなかった。

 頬杖をつきながら。まるで弟子を見守る師匠のように。自身が磨いてきた後追いを眺め遣る眼差しとその優しい表情からは、素直な賛辞に相応しい心穏やかな念を思わせる。


 それと時を同じくして。俺らの席の隣に広がる酒場の中央では、あるパフォーマンスが繰り広げられていた。

 アイ・コッヘン。身長二百五十七という恐るべき長身のフライパン人間。この村随一のシェフである彼は、さぁさぁご注目とその奇抜な見た目と声で大衆の視線を掻き集め、その場でキレッキレなダンスを披露し始める。

 

 周りの人間達からは、よっ待ってましたと言わんばかりの大歓声。その歓声を受けて、更なるキレと勢いを増していくアイ・コッヘンの凄まじきブレイクダンス。

 その長身を生かした豪快な技の数々を華麗に披露していき、会場のボルテージを上げていく。次第に高まった会場のテンションはとうとうマックスに到達し、ヒートアップするその雰囲気を頃合として。


 それではお待ちかね。と、全身に纏った今までの勢いをそのままに。なんとアイ・コッヘンはそのフライパンの頭部でヘッドスピンを披露し始めた。


 熱狂と爆笑を誘うシュールなその光景。器用なことに、フライパンという頭部で見事なまでの豪快なヘッドスピンを魅せ付けていく上に、段々とその加速を増していくアイ・コッヘン。

 それによって飛び散る火花。バチバチと火花が音を鳴らし始め、次第にアイ・コッヘンの周囲が発火した炎に包まれていく。


「でも、だからこそ、ますます貴方という存在に目が離せなくなっちゃった。ホント、貴方ってすごく面白くて、それでいてとても不思議な人よね」


 いや、ユノ。隣で起こっている光景の方が確実に面白くて不思議だと思うんだが。

 ほっこりとした優しい笑顔で俺を見つめてくるユノ。いや、それよりもユノ、隣。隣。なんかすごい大惨事になっているんだが。こんな光景の脇でほっこりしているユノもそうだが、その周りの人達もそれを笑いながら眺めているだけだし。


 シュールという違和感を通り越した、日常ならぬ異常。

 俺の隣でサイダーを飲んでいるミントも無反応だし、ユノも隣の光景に目もくれず俺へ話しかけてくる。

 おまけに、アイ・コッヘンのヘッドスピンはより一層と速度を上げ続けている。なんなんだこの光景は。


「ねぇ、アレウスとミントちゃん。そろそろ他の場所に行ってみない?」


 と、不意に投げ掛けられたユノの言葉。

 テーブルに並ぶ豪勢な料理をお皿に盛りながら。パーティーのメンバーである俺とミントに旅路への出発を提案する。


「他の場所か。こののどかな村から出て、違う場所へ移動してみないかってことだよな」


「えぇ、そうよ。この村はとても良い所ですごく居心地もいいけれど、せっかくこうして膨大な世界が広がっているのだから、じゃんじゃん旅に出ていろんな世界の一面を見てみたりとかしてみたくないかしら?」


 皿に盛った肉料理をフォークで口に入れながら。

 溢れ出る好奇心と冒険心に心を弾ませているユノは、俺とミントからの返事を待つその間にも着々と食事を済ませていく。


 未知に抱く貪欲な探究心。冒険をせずにはいられないという彼女、ユノ・エクレールは、そろそろと次なる刺激を求めに、こののどかな村を出発したいといった様子。

 無論、俺はユノの提案に賛成だ。俺も、未知であるこのオープンワールドのゲーム世界をこの目で見て回りたいと思っている。それに、それを可能とするために、主人公としてこの世界に降りてきたその日にもユノとパーティーを組んだわけだし。


 というわけで、俺は最後のチェックということでミントに確認を取ってみることにした。


「なぁミント。この村でやり残したことって、他にあるかな。例えば……メインクエストの続きとか」


「はい。メインシナリオの進行度の確認、ですね――スキャン、完了。はい、それで、メインシナリオの進行度ですね。えっと……こちらに関しましてですが、先程のスキャンによって、この拠点エリア:のどかな村におけるフラグやイベントは、特に確認することができませんでした。つまり、こちらの拠点エリア:のどかな村にはこれ以上のメインクエストは発生いたしません。よって、のどかな村エリアというステージを制覇したことになりますね。ステージクリアというものです。おめでとうございます、ご主人様」


 メインクエストを終えたことによって、こののどかな村に設定されていたメインシナリオのフラグを回収することができた。

 それによって、俺はのどかな村という最初のステージを突破。そして次に行うべき行動は、このメインシナリオを進行するためのフラグを探し出すこと。

 つまり、こののどかな村を出発し、新たなフラグ探しの旅をしなければならないということだ。


 それは冒険を意味する。

 ということは、だ。このユノからのお誘いも、俺を次なるメインクエストへ誘うためのフラグとして考えることができる。


 ……となれば、答えはただ一つか。


「それじゃあ、明日にでも出発しようか」


「このミント、ご主人様の意向に賛同いたします」


 俺の選んだ選択肢に、フォークを咥えていたユノは待ってましたとその瞳を輝かせた。


「ホント!? それじゃあ明日の朝早くには出発しましょ!! あぁ大人数での旅なんてすごく久し振り!! それも、アレウスとミントちゃんの二人と!! とても不思議な少年君と、彼の傍に寄り添う守護女神ちゃん……謎という謎を呼ぶ二人と巡るまだ見ぬ旅路、かぁ。未知と共に歩む冒険なんて、それなりの経験を積んでいても、まるで想像がつかないわ。一体どんな道のりになるんだろう。あぁ、今からでもすごく楽しみで私、今夜は寝れないかもしれない……なんて。これじゃあウキウキな気持ちで寝付けない遠足前の子供みたいね!! キャー!!」


 未知への好奇心を求めて冒険をするユノ。俺とミントという謎の人物達と共に歩む旅路に心を弾ませ、最高潮のテンションとなって一人で狂喜乱舞。


 ……にしても、いくらなんでも未知への欲求が強すぎやしないか? と、俺はふとユノの様子による疑念を浮かべた。

 というのも、生き物であれば誰だって、自身が知る由も無い未知に対しては、ひどく恐れるモノが大半じゃなかろうか。

 そんな中で、ユノという少女は自身の知り得ない未知を体験するべく、自ら進んでその旅路を歩み続けている。


 勿論、未知を求める冒険者というのも少なくはない。ただ、ユノは何故そこまでして未知を求める冒険をしたがるのだろうか。

 ユノをここまで動かす原動力は、一体何なのだろうか。こうして未知を求める探究心には、何か彼女なりの意図が隠されているのか。



 ……と、俺はユノに対する疑念を思い浮かべていたところで、ふと脇から空気の流れが変わる気配を感じ取った。


「さぁさぁ祭りを楽しんでいる大衆の皆様!! どうかワタクシにご注目ゥ!! このアイ・コッヘン・シュペツィアリテートから、ここで今日の一大ニュースの発表だァ!! あっ皆様聞いて驚くなかれ! まだ新米冒険者であるアレウス・ブレイヴァリーという一人の少年が、その新米冒険者の証とされるソードを握り締めてその防具に身を包んだまま。なんと! あのドン・ワイルドバードを単独で倒してしまうという前代未聞の珍事を成し遂げてこの村に帰還してきたのだァ!!」


 マイクを熱で真っ赤になったフライパンにかざし、スピーカーから流れ出すアイ・コッヘンの声。

 その奇抜な見た目の長身男に注がれていた視線は、驚きの感嘆と共に一気に俺の元へと集まりだし――


「いやぁなんてことをしてくれたのでしょうねェ、アレウス君は!! 新米であるにも関わらず。それも、たった単身という限りある戦闘力で勝負に臨んだ彼の手によって。我々の、こののどかな村で確信とされてきた新米冒険者に対する常識は今日をもって覆された!! そして、その偉業を成し遂げてきたアレウス・ブレイヴァリー君は今、この祭りに参加してくれているぞォ!! これはもう、この村の総力をもってお祝いするしかないだろう皆の者ォ!! ということで、そんな期待の新人君にさっそく登場してもらっちゃおうかなァ!? カモン! アレェェェウス・ブレイヴァリィィィッッッ!!!」


 スピーカーから流れ出すフライパンの反響音と、アイ・コッヘンに続いて湧き上がる大歓声。

 世界的な格闘技大会の選手入場シーンかよ。そんな熱狂的な大歓声と共に呼ばれた俺の名前がスピーカーでこだまし、アイ・コッヘンは俺に向かって、こちらへ来るよう指で促してくる。


「ほら! 呼ばれているわよアレウス!! せっかくの舞台なのだから、盛大に楽しんできなさい!!」


「ただいまをもって、また一つのフラグが立ちました。それは、この拠点エリア:のどかな村の信頼度を最高値にまで満たしたことによる、特殊なイベントを発生させるためのフラグです。ご主人様。ワタシ達に構わず、どうぞ楽しんでいらしてください」


 からかうような笑みを浮かべたユノに唆され、俺の背中を控えめに押してくるミントに促され。

 どこか気恥ずかしい感情があったものの、その雰囲気に流されるがままに。俺は駆け足でアイ・コッヘンの元へと駆けつけた。



 このあとと言うもの。とても疲れたの一言に尽きる。それほどまでに、俺は大勢の祭りの参加者に祝われた。

 だがもちろん、満更でもないこの展開に。少なくとも俺は、この特殊なイベントを心から楽しんでいた。

 

 祭りが終わったその後も、つい先程まで繰り広げられていたその光景が脳裏に焼き付いたままという記憶の残り様。

 賛辞を送られ。祝福され。期待されて。新米冒険者という立場でこの上ないプレッシャーを背負う形になってしまったが。それでも俺は、この世界に降り立った主人公をしっかりと演出しているなと。そう思える一時を、俺は平和的に過ごすことができた。


 人波に飲まれたことで疲れ果てた俺は、力尽きて酒場のイスにぐったりと倒れ込む。

 そんな疲労全開な状態の時にも、俺の脳裏にはある光景の一場面が鮮明に浮かび上がっていた。

 それは、盛大に祝われていた俺を眺め遣るユノとミントの笑顔。彼女らの満悦なその表情が交互に浮かび上がってくるにつれて、俺は彼女らに支えられてきたことで、ここまで来ることができたのだなと実感。


 口にはしなかったものの、俺はユノとミントに感謝をしながら。幸せという感情を胸に抱いたまま、疲労によってその場で寝込んでしまった――――

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