バーニング・ラブ
突然、これでもかとキャラの崩壊を引き起こした彼女のハイなテンションに圧倒されてしまい。それはもはや、バーダユシチャヤや少女が作ってくれたモンブランの味どころの話ではなかったものだ。
眼前の勢いに、唖然としてただ停止してしまった思考のその先。目の前で狂ったように喋り出しては、モンブランについて熱く語り出したラ・テュリプに視線が首っ丈となる視界の端側で。そんなバーダユシチャヤは、こうして突如と狂ったように喋り出した彼女へツッコむどころか、むしろとても嬉しそうに微笑んでいるものであったから。
……それは、反射的な行動だった。次の時にも、この身は自然な成り行きで、驚きの一欠片も見せないそんな少女へと尋ね掛けてしまっていたものだ。
「…………なぁ、バーダ。ルージュシェフは一体どうしてしまったんだ……?」
「あ、あ。あの、その……いえ、テュリプ・ルージュさんは、どうしてしまってもいない、です……。テュリプ・ルージュさん、モンブランが大好きなので……こうしてお出しすると、こうしてとても喜んでくださるんで、す……」
いや、これは喜ぶという次元の問題ではないだろ……。
バーダユシチャヤの説明に、堪らず汗のエフェクトを流してしまいながら。最早、戸惑いを越えた言葉にすることもできぬ感情を抱きながら、恐る恐るとゆっくりゆっくり彼女へと視線を戻していく。
……そんな彼女はと言うと、あれほどホットでありながらもクールだった姿からの、この変貌に。堪らず唖然としていたこちらにもお構いなしと、そのハイなテンションのままフォークを手に持ち、ラ・テュリプは未だと冷めぬ熱気のまま、嬌声交じりの早口でそれら言葉を熱烈と続けていく……。
「あァあヮわわッ。このツルツルな艶がとても艶かしい螺旋のクリームに小さな穴をプツリと空けてぇぇ……っはァン!! このフォークが。あたしのフォークがシーちゃんの作ってくれたちっちゃなちっちゃなモンブランの山を貫いて穴を空けてしまうぅ! この手に加わる微力でズブズブと山の内部へ入っていくこの感触っ! フォークというあたしの第二の神経が。シーちゃんのモンブランの内部とリンクしてフォークの先端でクリームの感触を神経の筋から堪能していくこの爽快感っ!! 今もゆっくりゆっくりとモンブランのクリームを貫いていって。その温もりにあたしのフォークが熱を帯びてジンジンと感じてしまうぅ! ――――ッ!! 伝わる! 伝わるよ!! この内部。山の中に込められたシーちゃんの魂を!! この、フォークの神経を伝ってあたしの感覚に訴え掛けてくる! これは……綺麗な球体を描くよう詰められた、穢れ無き無垢の生クリームッ!!」
とろける感覚に浸食された嬌声のままに、バーダユシチャヤのモンブランに関するあれやこれやを情熱的に実況していくラ・テュリプ。
モンブランの内部とやらにフォークが達したことにより、彼女のテンションは更に昂りを見せていく。その様としては、顔を真っ赤に染めて高揚した気持ちを包み隠さずとハッキリ晒していくものであり。今、目の前にいるラ・テュリプは。もはや、俺の知る彼女ではないことが一目瞭然で……。
「あァ!! もう。我慢、できないッ!! この、モンブランの核を突っ突きたい!! この、モンブランの奥を突きたくて、この、あたしの敏感なフォークの先っぽがあたしの抑制を解いていってしまう!! あァ、あァ!! 指先が勝手に!! フォークの先っぽが勝手に動いてしまうのっ!! ダメ!! 中はまだダメ!! あァ!! 中はダメなのォ!! ――はァァァァァンッ!! …………突いちゃった。貫いちゃった。モンブランのナカを、あたしのフォークが貫いてしまったわ。もう、あたしは後戻りの利かない大変な過ちをしでかしてしまったのね……。……この喪失感。この罪悪感。っこの高揚感……!! いいよ。それじゃあ、あたしがモンブランの中を突いてしまった責任をとってあげる。ほら、だから、恥ずかしがらないで。そう。ゆっくり。ゆっくり動いて。そう、ゆっくりフォークを上下左右に動かして……モンブランの中を掻き混ぜて。そう。あァ、伝わるよ。モンブランの中が伝わるの。気持ちいい。モンブランの中、すっごく気持ち良いよ。生クリームをナマで味わっているあたしは、なんて罪な女なのかしら……。もっと、もっとあたしを昂らせて。そう。もっとあたしを楽しませて? だから、恥ずかしがらずに。そう、貴方の中を。貴方の全てを、このあたしに見せびらかしてェ!!」
昂りに昂った高揚は、ラ・テュリプという彼女の瞳に生の輝きを照らしその口元に潤いを与え出す。
抑えることのできない欲求に駆られて。自身の本能を掻き立てる対象に欲情する様を堂々と見せ付けながら。火照った身体のもどかしさで落ち着かぬ腰を小さく揺らしていきながら。その、興奮のままに震える手とフォークでモンブランを味わうようゆっくりゆっくりと動かしていき、その小さく可愛らしい形を成していたスイーツに亀裂を作っていく。
直にもそれはぱっくりと割れ始めて。その様子に更なる昂りで興奮が掻き立てられ嬌声をあげていくラ・テュリプの目前で、今、そのモンブランは真っ二つと分かれ出す――
「ッはァァァァァァァンッ!!! 見えちゃった。貴方の中が丸見えになっちゃった!! あァ、なんて可愛いの! その恥ずかしげながらも惜しみなくと自身を晒していく白の生クリーム。それは純白でありながらも、心は穢れを知る甘くもしょっぱい大人の匂いを醸し出すいたいけな生クリームの子。その可愛らしい見た目でありながらも快楽を知ってしまっている貴方は、なんという歪んだ性癖の持ち主なのでしょう。そんなむっつりさんな貴方がもう愛おしくて仕方が無い! 何重にも重なりその層を厚く束ねた螺旋の外殻も意味を成さないほど、あたしの手に掛かってしまえば、貴方の中を覗くことなんて本当に簡単なことなのだから。だから、もう、貴方の全てを隠さないで。あたしの前では正直にいて? あたしに、貴方の全てを教えてほしいの。貴方の全てを知りたいの。だから、あたしは貴方にフォークを突き立てるわ。こんな罪な女を許して頂戴。――あァ。入っていく。あたしのフォークが再び、貴方の外殻に。貴方の内部に。貴方の全てを侵していく。この小さな穴で貴方の内部を覗いている! なんて甘美な感触なの。我慢なんてままならない。このまま、貴方を貫いて食してしまう罪を。あたしは、貴方という可憐な存在を喰らう大罪も省みず。この舌でこの感覚でこの感情のままに、貴方という存在を感情のままに貪り喰らいついてあげるわッ!!」
フォークで綺麗に割ったモンブランを掬い上げて。その艶が輝きを放つバーダユシチャヤのモンブランをフォークに乗せて目の高さに持ち上げては、赤面のままにそれに見惚れ惚れ惚れとして。
全身に巡る興奮で荒くなった、彼女の情熱的な甘い吐息。全身を這うよう巡る感覚で正常を保てなくなった身体はむずむずと動いていて。眼前の小さな存在に魅了され、とろんとなったハイライトの消えた瞳でじっと見つめ続けて。
……そして、意を決したように。彼女は自身を魅了してくるそれを、その艶かしく動かした舌で包み込むよう、その口へと運んだのだ――
「ッ――――ッ!!!! んデリッシャァァァァスッ!! その甘美があたしのナカでとろけ出して、この舌を口を味覚を感覚をあたしのありとあらゆるを支配するよう滑らかに包み込んでいく……ッ!! クリームをぷつっぷつっと歯で潰していくと愛情が溢れ出し。螺旋を崩していく罪悪感がより一層もの興奮を掻き立てて。このイケないことを快感としてあたしの身体に染み込ませて、クセとなってしまい貴方の甘美の虜となったあたしの口から自由を奪い去りこの口をただ動かすよう指示してくる悪魔の囁きッ!! ッんあァ、あたしの神経は感覚は脳は今、貴方の思うがままッ!! もう、あたしは貴方しか見えない! もう、あたしは貴方のことしか味わえない! もう、あたしは貴方の甘美無しでは生きていけない身体へと調教されてしまったのッ!! どうかお願い、あたしを離さないで。どうかお願い、あたしを置いていかないで。あたしの口の中でとろけていく貴方のように、あたしも貴方の甘美で一緒に溶かして頂戴! 今、貴方はあたしの舌を手玉に取って食道を撫で回し胃を掌握してあたしを受け入れる準備を整えてくれている。直にも、貴方はあたしと。そして、あたしは貴方と繋がるの。貴方はあたしと一緒になるの。あたしは、貴方となるの!! この歯ごたえがもどかしく思える。この薄れていく味覚があたしに更なる欲求を与えてくるッ!! ――ッんあァ!! 互いに身体を求め合うこのイケない関係!! それは、デンジャラスなエクスペリエンスはマイ・インスティンクトにメモライズされて! 貴方からのラブコールにノーと言えないトランスな状態となりラブに飢えタブーとされるエクスタシーを求めてしまい今日もあたしは貴方に応えてフィナーレを迎えるのッッッ!! これぞ正に、バーニング・ラブッッ!! ッッッナイス、モンブラァァンッ!!!!」
ピンク一色の空間に包まれ、フォークを口から離し満足感を得ると同時にして。彼女は今、最大の至福に支配されるがままの嬌声を上げながら。火照った顔と幸せそうに微笑む頬を手で押さえながら。至福の絶頂を迎えた清々しい表情で天井を仰ぎ、爽快のままに、彼女は燃え滾る情熱的なフィナーレを迎えたのであった…………。
【~次回に続く~】




