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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
230/368

手慣れ

「…………あれ?」


 その時には、脳裏に浮かべていた想像とはまるで異なるこの光景に、ただ目を丸くすることしかできずにいた。


 風国の街道。中心部に近き、人通りも多い広々としたこの道中。そこには、出現したのだろう既に処理されたモンスターの残骸と。その周囲には、漆黒と鮮紅に染まる靄が漂っている。

 倒れている、如何にも強そうなモンスターの集団。動物の形から、昆虫の形まで様々な種類のそれらが全滅するその光景の中。漂う靄の中央に佇む、一つの存在。


 直に姿が見え始めて。吹きすさぶ風に流される靄の中から現れたのは、その白のポニーテールをなびかせる少女の姿……。


「ユノ!!」


 唐突な展開に。予想外の展開に。その前にも、この世界に色々と考えをめぐらせていて、かと思えばこの短時間にも様々なことが起こってしまったことで未だとこんがらがる脳内。その中で、咄嗟に口にしていた少女の名を叫んでいては、この足はいつの間にやら駆け出していた。


 こちらの声に反応を示す存在。振り向いては、いつもの、太陽のような微笑を浮かべた表情を向けて言葉を投げ掛けていく少女。


「あら、アレウス! なんだ。いるのなら手伝ってもらおうと思ったのに~」


「いや、たった今ここに着いたところだったんだ」


「あら、そうなの? それじゃあ、少し遅かったわねー。少し前にも、アレウスの分もジャンドゥーヤが片付けてしまったわ」


 ユノがその名を口にすると共に、稲妻が降り注ぐ轟音をSEに頭上から降ってくる一匹の巨獣。

 二メートルの体高に、三メートルの体長。獰猛な漆黒の頭部。荒々しい巨大な黒の体。漆黒に染まり線状の鮮紅が禍々しく輝く逆立った毛並みを揺らし。意思を持つ蛇のようにうねる尻尾がなびいていて。二つに枝分かれした堅牢で獰猛な二本の巨大な角。顎から伸び、その全身を覆うように逆立った漆黒と鮮紅の体毛……。


 ……悪夢だ。その黒き獣を目撃する度に、俺の中では悪夢が毎度毎度と再来している気がする。


「ほんと、相変わらずの強さだなぁユノとジャンドゥーヤは。……それで、この、倒れている連中は……『魔族』じゃなくて普通のモンスターなのか?」


 街道に倒れるそれらへと視線を移して。同時に、ユノも視線を向けながら問いに答えていく。


「えぇ、断定できるわ。この子達は、デスティーノ・スコッレと風走る渓流に生息するモンスター達。どの子も、視界に入った生物に襲い掛かるような、気性の荒い種類ばかりね。……それにしても、不思議。そんな気性の荒い子達でも、この街には到底敵わないと、この場所が危険であることを理解しているハズなのに。それなのにどうして、こうして集団で風国に押し寄せてきたのかしら。――……これは、未知だわ」


 そう言い、彼女にしては割と珍しい真剣な表情を浮かべ、シリアスな雰囲気を醸し出していきながら……その瞳を輝かせる。


「……。まぁ、まずはオーナー、トーポに報告でもしてみようか」


「えぇ、そうね。その前に、この子達を処理してしまうわ。――回収した素材は、全て風国に献上いたしましょう。きっと、この地域の増強に素材を有効活用してくれるわ。それでー、あそこに倒れているあの子は中々に豊富な栄養を含んでいるから、あの子はジャンドゥーヤのおやつにしましょう。それと~……それじゃあ、私はここからここまでの一帯を片付けるから、アレウスはそっちの数体の処理をお願いね」


「あぁ、わかった」


 ユノからの指示を受けては、その数体へと駆け付けては素材を回収する作業に取り掛かり始めていく。


 ……その素材に触れて、この脳裏に浮かんでくるメッセージを読み情報を得ていく。その結果、この多くは、これまでと戦闘を交わし勝利を収めて入手をしてきた素材の上位バージョンばかりであることが判った。

 それが意味すること。それは……今回ユノが相手したそれらは、どれも俺にとっての強敵ばかりであった。はたまた、新たなステージへと進んだことによる、敵全体のレベルが上がったから。ということか……。


 どちらにせよ、これからと相対する『魔族』とは異なる脅威を前に、再びと込み上げてくるこの吐き気。……これまでの旅でも神経を磨り減らしてきたものだったが。どうやらここにきて、精神的に参ってしまっていたようだ。


 ……頼む、俺の身体。どうか、『魔族』との戦闘に。そして、この先もどうか、戦闘に支障を来さない程度の正常を保ち続けていてくれ……!



「とても良い収穫ね! これなら、風国のお偉い方々にたくさん喜んでもらえそう!」


 その胸にいっぱいと抱えたモンスターの素材に、とても満足げなユノはこちらへと微笑み掛けてくる。

 一方で。何十体と一気に処理したユノに対して、彼女と同じ時間を掛けて数体のみの処理しかこなせなかったこちらはと言うと。抱えるほどの素材を入手することもなく、彼女とは対になる手ぶらな状態でユノと向き合っていたものだ。


 ……素材を綺麗に回収するのって、これがまた難しいものなんだ。どのゲームも、この素材を入手しました! のメッセージと共にポンッと手に入ってしまうものではあるが。このゲーム世界では、ちゃんと綺麗に回収しなければ使用することすらできやしない。……つまり、その高度な技術も未だと身に付いていなかった俺は、上位バージョンの素材の回収に全て失敗した。これが、実力の差というものか……。


 そう、ユノの強さに改めて感服をしていたその中で。とても満足げにしていたユノが、こちらの様子を見計らい言葉を投げ掛けてくる。


「ねぇアレウス! その懐にミントちゃんがいるのでしょう? だったらこの後、風国の偉い方々にこれを渡した後に、三人でお茶にしないかしら? ちょっとお昼が過ぎてしまったこの時間帯に運動をしてしまったから、私、なんだかお腹が減ってきちゃったわ」


「あぁ、それじゃあカフェにでも行こうか。ちょうど、ミントの能力でカフェの位置を調べたりしていたところだったんだ」


「あら、それじゃあ三人でちょっと遅めのランチをしましょうか!」


 太陽のような微笑みを見せていくユノ。そのクールビューティな外見とはまるで正反対の、眩しいほどのニカニカな笑顔を浮かべて笑い掛けながらそう答えていく彼女。そんな彼女に笑みを返しては、歩み出す彼女についていく形でこの足を進め出す。


 それからというもの、風国のお偉いさんのもとへと訪ね掛けては、ユノの功績が賞賛されお小遣いを貰うこととなった。

 お偉いさんへの用事を済ませて。そのお小遣いでランチをしましょうと上機嫌なユノと、ランチを楽しみにしていたミントがスキャンを行い近くのカフェへと向かうこととなり。


 ――ユノを含めた、三人で歩むこの街道。

 その日常に幸福を感じていたその間というものは。今にも迫ってきている『魔族』の存在を、心から忘れていたものだ――――



【~次回に続く~】

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