表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
一章
23/368

イベント:お祭りと現実世界

「ご主人様。あそこに綿あめの屋台がありますね。なんだか、とても気になりませんか?」


 もっと素直に自分の気持ちを伝えればいいのに……。

 そう思いながら、俺は綿あめを購入してミントに手渡す。


 夕方という時刻になり、この拠点エリア:のどかな村では恒例となるお祭りが催され始めていた。

 せっかくの寄り道イベントでありながら、素直ではないミントの淡い期待に応えるべく参加したこのお祭り。それでも俺は、先のドン・ワイルドバードとの死闘による疲労が残っていたため、正直なところ寄り道には少しだけ憂鬱だと思うところもあった。


 ……の、だが――


「あっ、くそ……また当たらなかった」


 職業:剣士である俺の射撃力は壊滅的。

 ムキになってもう一回と店主にねだる。再び受け取った射的の銃を手にし、目の前に並べられた景品の的に照準を合わせて発射。

 ……するも、またもやミスの表示。銃の弾であるコルクは、的の横を儚く過ぎ去っていった。


「あー、もう。マジかぁ。すげぇ悔しい」


「ご主人様。職業:剣士で挑まれるには多少ばかりご無理が……」


 次々と消費されていく所持金。ミントによる抑制が加わっていなかったら、数日にかけて稼いだ全財産をこの射的に費やすところだった。

 ……と、こうして見て取れるように、ミントよりも俺がこの祭りを楽しんでいた。


 にしても、くそー。まだ悔しい。あの射的のために、これから職業の変更でもしてこようかな……。


「ご主人様。先程までの疲労が幻のようですね」


「え? あ、あぁ。そうだな」


 祭りの開始直後の時点では、少しだけでも寝かせてくれとミントに頼み込んでいた俺。その様子はと言うと、この過程を通して状態異常:疲労の追加というフラグを立たせてしまうほどまでの過労状態であったもの。

 しかし、そんな状態異常:疲労がまるで嘘のように。状態異常である今の俺は、内から湧き上がってくる熱気と興奮によって、この地の誰よりも祭りを堪能しているというのが現在の状況であった。


 ……でも、こう。改めて指摘されると、ちょっと恥ずかしいものがあるな。


「どうかされましたか?」


 ちょっと気恥ずかしくなっていた俺に追い討ちを掛けるように。本気の心配を抱いて尋ねてきたミントに手で応答し、なんでもないと伝えておく。

 それからりんご飴の屋台に立ち寄り、購入したそれを舐めているミントの横顔を眺めながら。俺とミントは、こののどかな村の一角に位置する牧場に設置された長椅子に腰を掛けた。


 熱気のこもった活力溢れる祭りの中。その人混みに流され。屋台に立ち寄り。少女と牧場の景色を眺め遣る。

 現実世界と比べても、何の代わり映えも変哲も無いその光景の数々に。俺は一瞬、ここがゲームの世界であることを忘れ去っていた。


 この世界には数々の特徴的な武器があり。様々な魔法が存在し。多種多様なモンスター達が生息している。

 ゲームをした者であれば、誰もが一度は夢見るこの世界で。この世界の自然の掟と概念に従いながら。この実力者のみが生き残れる、この弱肉強食のゲーム世界でそれらしい時を過ごしていく。


「――――っ?」

 

 ……いや、待て。待てよ俺。


 思い付く限りの適当な思考を流すようにめぐらせていた俺。自身の中で巡り巡るそれらに意識を任せていたその時に、俺の中で、ある一つの疑問がふと浮かび上がってきたのだ。



 ……こう、何気無く考えていたものの。ふと俺が思い描いたその"現実世界"って、一体何なんだ――?



「ご主人様?」


 ミントの声で、ハッと息を飲みながら我に返る俺。

 無心と化していた俺の様子を伺うミント。食べ切ったりんご飴の棒を持っていたことから、それなりの時間を思考に費やしていたらしい。


「どうかされましたか? 先程からのご様子に、このミント、ご主人様の身を案じてしまいます……」


「あ、あぁ。いや、なんでもないよ」


「ご主人様、先程もそうおっしゃられていましたよね。そのご返事から、ご主人様はこのミントに気を遣っていらっしゃると、そう伺えます。どうかご無理はなされないでください」


 やってしまった。

 先程と全く同じセリフを使用してしまったがために、ミントに余計な心配を掛けさせることとなってしまった。


 もう少し語彙のレパートリーを増やさなければ。そう自身の行動を反省して言い訳を考える。

 

「そ、そうだな。やっぱりドン・ワイルドバードとの戦闘が堪えたかな。疲れが未だに取れていないみたいなんだ」


 言い訳って……俺、一体何に焦ってるんだ。

 "現実世界"。この意味有り気な二つの言葉をくっ付けた"造語"に頭を悩ませていた自身が、なんだか馬鹿馬鹿しく思えてくる。

 全く、何を考えているんだろうか、俺。


 だって、現実世界も何も、"この世界が現実世界そのものなのだから"。


「まさか……疲労し切ったそのお体ながらも尚ご無理をなさり、このミントへの付き添いという形で行動しておられていたのですか……? も、申し訳ありません! 疲労による状態の中、気を遣わせてご主人様を連れ回してしまったこのご無礼、どうかお許しください……」


 自身に掛かった重荷に、表情を悲しげに歪めるミント。

 断じて違うと否定したいところではあったものの、半ばアタリというこの半端な状況下。

 だからと言って肯定してしまえば、真面目なミントは自身を責め立ててその精神を自傷し兼ねない。


 俺としたことが。これからはちゃんとしていなきゃいけねぇな。

 そんな気を抜いていた自分自身を猛反省。


「いやいや、ミントが謝ることじゃないよ。俺は俺の意思で行動していただけだから。俺はミントと一緒に、この祭りを見て回りたかった。ただそれだけだったんだ。だが……さすがに状態異常:疲労という状況下での行動は中々にキツいな。なぁミント。少しだけ、ここで眠ってもいいか?」


「このミント、ご主人様の下した判断に異存はありません。どうか、休眠の一時にてご主人様の体調が戻られますように……」


 祈るように両手を握り、俺の疲労回復への願いを全身で表現するミント。

 なんというか、行動の一つ一つも真面目というか。考えていることがすぐに判るというか。

 そんなミントの様子を一瞥し、俺はふと目を瞑ったその瞬間にも疲労で現れた睡魔によって眠りへ誘われて行く。


 酒場での宴会にはまだ時間がある。それまでにはきっと目覚めているだろう。

 そう思い、俺は深くも短い眠りについた――――



 ……この瞬間にも、俺はある夢を見ていた。


 現実世界。この四文字を見て思い浮かべたのは、ある一つの仮想空間。

 鮮明と覚えている部分は、ある一つの生活感溢れる部屋と思わしき空間を覗いていたという一場面のみ。


 これが一体、何を意味しているのかは全くもってわからなかった。

 だが、この世界における一つ一つの物事には、意味の無い事象という虚無の展開などが存在しない。


 この世界で起こる出来事全てに、フラグという付箋が存在する。

 よって、今回の居眠りで見た夢の光景。いや、こうして居眠りという行動の一つまでもが、フラグという意味を持つ、起こるべくして起こった出来事の一つに過ぎないのだ。


 この居眠りで覗いた景色は、きっとまた何処かで見たり聞いたりするはずだ。

 眠りながらも巡る思考。休憩中の頭脳でまとめたその結論によって、俺は完全に意識が途絶える深い眠りへと入っていくのであった――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ