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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
228/368

ゲームの世界で生きる ということ――

「ご主人様。スキャンの結果、二時の方向へと二キロほど歩んだその先にカフェが存在しております。又、現在地から九時の方向へと四キロ歩んだその先にもカフェが存在しておりますが、今は真昼時、小腹が空き始めるこの頃合いに、その距離をこれからと歩むのは少々と気が重くなる行動となるでしょう。故に、二時の方向に存在する最寄りのカフェへと赴くことが、時間の短縮且つ最速でその席に腰を下ろすことが可能です」


 その調子は、ナビゲーターらしいちょっと複雑な説明の仕方。

 ……ではあったが。まぁ、要は……ワタシ、疲れてしまったので、一番近いカフェで休みませんか? という旨なのだろう。


 誠実で真面目過ぎるミントのことだから。ご主人にそれを伝えたかったものの、ナビゲーターであるこの身分が、こうしたいと自身の意見を伝えご主人を動かすことに気が引けてしまって。こうして、いつもの遠回しなその表現を用いた、といったところか。

 少女の性格を把握しているからこそ、その言葉を聞いてから。それじゃあ、そのカフェで休むとしようかと少女に伝える。


 この言葉を耳にしてからというもののミント。表面上は冷静沈着を保っていながらも、何だか嬉しそうな雰囲気を見せながら、承知しましたとご主人の判断に頷いて後をついてくるものだった。


 ここから二時の方向だったな。もうすぐ見えてくるだろう目的地へと向かって、この風国の街道をミントと共に歩んでいく。

 吹きすさぶ、ちょっと強めな風に吹かれながら。これまでを共にしてきた少女と共に歩くこの道のりもまた、いつもの平和的な楽しい日常の一部のように思えてきて。……だからこそ、今も『魔族』という脅威が迫っているという、この世界が危機に晒されているという緊迫感をまるで感じられないこの空間に。このゲーム世界そのものが存在をする意味を含んだ、殺伐とした打倒『魔族』という目的と。それとは一方的な、ゲーム世界でその生命を宿し、個々の意思を持って命を育むNPC達と過ごす生活に。この、対となる目的と現状に、何だか複雑な心境となってしまったものだ。


 ……本来、俺は『魔族』を倒す冒険を楽しむためにこの世界に降りてきた。だが、気が付けば。俺は、この世界で平和的に暮らすことを望んでしまっている。

 ……ゲームの趣旨が。そのゲームを遊ぶ目的自体が異なってしまっていて。あの時に思い描いていた理想と、それに飛び込んだ実際の現実とのギャップに、あまりもの差を感じてしまえたその結果――……この俺の心中には、ただただ違和感ばかりが過ぎり続けてしまうばかり。


 そりゃあ勿論、そのゲーム世界は、そのプレイヤーが主人公である舞台なのだから。その世界での暮らしは、そのプレイヤーの思うがままでいいものではあるんだ。

 ……でも、飽くまでも。それは、プレイヤー視点におけるもの。それは、ただ画面の向こうを見つめるだけにおける客観的な捉え方。――しかし、主人公という立場で実際にそのゲーム世界に入り込んだとなると、そんな客観的なことを、悠長なことをとても言っていられるほどの余裕などまるで存在しないのだ。


 ……『魔族』という脅威から、この世界を守りたい。

 こうして、この世界で生命を育み生きているNPC達を守りたい。

 そして、この世界に平和をもたらし。その、平和となった世界で豊かな第二の生活を迎えたい……。


「……そのためにも、『魔族』には負けられない。俺はもっと、強くならなきゃな……」


 それは、たかがゲームの世界。それは、されどもゲームの世界。

 ここは、ゲームという名の現実世界。それは例え、システムで成り立つバーチャルの世界であろうとも。今、目の前には。まるで自然体のまま、呼吸を行い食事を行い、笑い合い喜び合い、怒り合い悲しみ合う生命が存在している。


 ……ゲームという世界に飛び込んでからというもの、俺は、この世界に対する、とある意識が芽生え始めていた。

 ……それは。俺は今、ゲームの世界で生きているのだな。という、この宿る生命の実感――



「っ!! ご主人様っ。偶発的な事象が突発的に発生したために、今この時にも、メインシナリオに関する重要なフラグが検出されました!!」


 突然と目を見開いては、慌てた様子で説明を始め出したミント。

 一体何事だと、あまりもの唐突な展開に驚く間も与えられず。次の時にも、この街道から足の裏にまで伝う大きな振動。

 瞬間、後ろから響き出す人々の悲鳴。何かと何かの力が衝突し合う力同士の音。


「ッ!! ……『魔族』か!?」


「今現在、そちらのフラグをスキャンしております! が、ご主人様との距離は近い模様! スタミナが許す限りのダッシュを行いさえすれば、スキャンを終えるその前にも、フラグの元へと辿り着きます!」


 ここから近い場所。それを聞いた瞬間にも、この足は、衝突し合う力のもとへと駆け出していた。

 すぐさまと反応し、球形の妖精姿へと変化したミントも共に向かい。あまりにも唐突と出現したメインシナリオのイベントへと、この全速力を以ってして駆け付けたのであった――――



【~次回に続く~】

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