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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
227/368

ナビゲーター

 NPC:トーポ・ディ・ビブリオテーカから依頼を受けてから翌日。この拠点エリア:風国におけるメインクエストであるそれを受諾してからというもの、翌日の早朝にも、ナビゲーターのミントと共にそのカラフルな街並みへと足を運んでいた。


 名前の由来となったであろう吹きすさぶ風は相変わらずとして、パステルな彩りが眩しいほどの建物の連続に、思わず目眩を起こしそうになる。

 空を仰げば、風に流され地平線へと流されていく雲の群集。満天の青空の下、街の民と冒険者が行き交う街の光景に活気を感じ取りながら、その空気を味わうようこの足で風国を踏み締めていく。


 ……ただ、時期が時期なだけに、その人々は少なかったのだろう。

 『魔族』という脅威が迫ってさえいなければ。もっと早く、この街に訪れる機会があれば。今もこうして歩く街道の光景にはきっと、観光客によって埋め尽くされた大渋滞が広がっていたのかもしれない。


「あとはー……そうだなぁ。風国の地形を見て回って、宿屋の位置も改めて確認して。回復薬が購入できる道具屋でアイテムを揃えてきたし、武器屋で防具も一通りと新調したし。あと、下見をしておくとしたら~……ミントや誰かと来れるカフェでも見つけておくとしようかな」


 昨夜にもトーポから念を押された、この、風国という拠点エリアの確認。それを一通りと終えて、風国という地域をある程度と把握したところで。その寄り道として、ついでと揃えたこの防具一式。それは、つい先ほどまでに身に付けていた物よりも段違いと防御力が上昇した高性能の物であり。これも、出費を全て負担してくれると言ってくれたトーポのおかげで手を出せた、彼の厚意に甘えることで手に入れることができた割と高級な代物ばかり。


 鎧が布になったような。見た目はマント付きの灰と茶が混じる上着とそのズボンではあったものだが、その質感はえらいほど硬い。薄着のように見えるそれは、鎧であるだけに防御力も去ることながら、機動力を殺さずに身軽な行動も可能としている。その機動力がありながら、それはデコピンの要領で突き出した指を硬い音と共に容易く弾き返す強度を誇るのだ。


 ……と言えども、その例えがデコピンと言われてもピンとこないだろう。……でこピンなだけに――


「ご主人様……とても寒いです」


「ん、あぁ。確かに、ミントはノースリーブのパーカーと短パンだもんな。この吹きすさぶ風の中じゃあ、寒く感じるのも仕方ないだろう。どこか服屋にでも寄って、上着でも買おうか?」


「いえ。あの。……このワタシが口にした言葉の宛て先は、ご主人様の、その……所謂、ギャグセンス……」


「…………」


 心を覗かれたのか。ふと思い浮かべた言葉遊びを察知され、つい、顔を赤く染めてしまう……。

 いや、だって、仕方が無いだろう。だって、その言葉遊びに対するピンポイントな言葉を見つけてしまったのだから。


 ……そう。ピンときた言葉を、ピンポイント、で見つけてしまったのだから――


「……ご主人様。このミント・ティー、何だか震えが止まりません……。とても、寒いです……」


「……すまない、ミント」


 両腕で肩を抑え込むように、ふと流れてきた突然の寒気に弱々しくそう呟きながら。とても切ない表情でこちらを見つめながらそう言ってくるものだったから。

 この、罪悪感。こんないたいけな少女を、閃いてしまった言葉遊びの一つ二つでここまで弱らせてしまうだなんて、俺はなんて非情な人間なのだろうか。


 その後にも、少女に必死と謝り続けながら。それじゃあ、どこかしらで見つけたカフェにでも入って休んでいこうかと。お詫びにパフェもご馳走するからと寒気に苛まれる少女の機嫌を取っては、気分を転換させるためにカフェ探しへと集中させる。


 ……それにしても、だ。


「……なぁ、ミント。その、……俺の考えていることが分かるのか? まさか、俺の考えって全て、ミントに筒抜けだったりするのか……?」


 こちらの問いを耳にしたミント。ふと、視線を向けてきてはじっと見つめ始めて。少女にしては珍しい沈黙を周囲に流していっては、暫しと固まっていたその口を、直にも開いていく……。


「っ。このミント・ティーは、ご主人様に誠実でいるよう使命を授かりこの世界に生成されました。ご主人様の指示であれば、それに反抗することなく行動に移し。ご主人様の命令でございましたら、そちらに逆らうこともなく命を遂行する所存です。が……とある内容の指示や命令、質問や問い掛けにお答えすることは、この世界のプログラム上では許されていないのです。その問い掛けに関しましては、所謂、こちらのゲーム世界のタブーに触れる内容となっているために、ご主人様の問い掛けに対するイェスもノーも返せない次第なのです。今回のご主人様の質問も、その、タブーに値する、お答えすることが許されていない内容である故に、申し訳ございませんが、先のご主人様の問いにはお答えすることができません。――なので、決して。ご主人様の思考が、その脳内に巡るメタな思考を含めての、それぞれのNPCへと抱く想いの数々や。モンスターの攻略の際にめぐらせる、解決への糸口を手繰り寄せる様子や。どちら宛てなのか、説明の調子で改めて言葉を繰り返すその様や。NPC:トーポ様の資金に甘えてちょこっと贅沢をしようというそれら思考に関する内容は全て、このミント・ティーは詳しくお答えすることはできないよう定められているのです」


「へぇ、ミントの中にタブーが存在しているのか。ナビゲーターというのも大変だな。…………? …………?? まぁ、いいか……」


 ……なんだか、違和感のある回答ではあったけど。まぁ、ミントがそう言うのなら、そうなのだろうな。

 取り敢えずとそう納得しながら。カフェを探すためにも、そんな少女と共にこの風国を歩き回ったものだ――



【~次回に続く~】

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