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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
223/368

"ヤツら"①

「……実は、既にブラート、フェアブラント・ブラートから話を伺っていたんだ。彼のお使いを受けた、彼の大切な存在であるミズシブキちゃんを、信用に値する少年少女に託してこちらに向かわせた。とね。そこにテュリプ・ルージュも混ざっていたとは思わず、ユノちゃんの未知を運び込む質には毎度と驚かされてしまうものだが。まぁ今はそれは別にいいんだ。で、フェアブラント・ブラートという、この僕が知る限りで一番か二番かと用心深い彼からこれほどの信頼を得た人物なのだ。――むしろ、それほどの面構えをしていなかったら。今頃、僕は、冒険者という浪漫を追い求めし探求者を侮辱する舐め腐ったその存在に憤りを表し、そんな存在に大切な少女を託したあの彼へ失望の念を抱いてしまっていたことだろう。というわけなんだ、アレウス・ブレイヴァリー。あの彼から信頼を得て、又、彼と共に"ある出来事"と深い関わりを持つようになった君に限っては、僕、他よりも少々と厳しい目で見ているんだよ…………」


 NPC:トーポ・ディ・ビブリオテーカから囁かれる言葉の数々をこの耳元で聞き入れて。

 彼の囁きに含まれた、不穏漂わせる鋭い調子。その穏やかな表情からは想像さえし得ぬほどの、どこか冷酷な、その笑顔に隠れた陰りの部分を覗いてしまった気がして。――瞬間にも、この背筋に悪寒が走り出す。


 ……凍り付いた背筋を伝った悪寒は神経を通り、それは表情にも表れては、その未知なるおぞましさに堪らずと金縛りに遭ってしまう。

 それを勘付かれ、耳元でフフッと、こちらの様子に陰りの微笑みを浮かべていくトーポ――


「そう。僕、こう見えてもね、甘ったれた若造に対して少々と厳しかったことである界隈では有名だったんだ。いやいや、昔と変わらず、寛容の心を抱く余裕の無い老いぼれであるものなのだが……どうやら、フェアブラント・ブラートはその辺りを弁えているらしい。合格だ、アレウス・ブレイヴァリー。君は僕の神経を逆撫でしないタイプの人間だ。君のような若人は、僕の好みだよ。そういうわけだ。と、いうことで。この話をするにあたって、ちょっと場所を変えようじゃないか」


 囁きで低く響く穏やかな声音。その声質の奥深く、本質から僅かにも聞き取れた低い音に一層もの鳥肌が立ち始める。

 次の時にも、肩を軽く叩かれ目の前で悠々と立ち上がるトーポ。静かに食堂を後にする彼の背を追うためにも、ほぼ無心に近い感覚で立ち上がり彼を追うことにする……。


 空気を読んだミントはその場に留まり。食堂を後にして宿屋の廊下を通り、図書館のようなラウンジへと引き返してきては、その中央で立ち止まるトーポに合わせてこの足を止めて。……振り返り、先の話の続きと言わんばかりにその口を開き出したトーポ。


「"それ"についての話も、既にある程度と耳にしているよ。そして、僕も個人で色々と調べさせてもらった」


 オーバーオールの胸ポケットから取り出した、一冊の小さなメモ帳。

 それを開き目を通していきながら、トーポは話を続けていく。


「君が、マリーア・メガシティに現れた『魔族』を撃退してくれたのだろう。ただ、そいつは飽くまでも、"ヤツら"の内の、ほんの一部となる極小の勢力。言い切ってしまえば、この撃退だけではまるで何の意味も成さない。そう、君が命懸けで繰り広げただろうその死闘は、無駄な労力を費やしただけの単なる消耗戦でしかなかったとでも言えてしまうだろう。が、君が成し得たこの成果は、言ってしまえば、君のような駆け出しの冒険者であっても、"ヤツら"の力に対抗することができる、とも考えることができる。おっと、この辺の言葉遣いについては少々と厳しいものだからね、僕の言葉で気分を害してしまうことも仕方が無いことだろう。まぁ、僕のペースに慣れてくれ。で、その戦いで得ることができた情報として、は……今、現段階であれば。強大な脅威として、過去に騒ぎを起こしていた『魔族』という勢力に抗う術を生み出すことも可能である、ということだ。きっと、"ヤツら"はまだ本調子ではないのだろう。――で、あれば~……」


 次々と進み出していく話を前にして、呆気に取られた様子であった俺。

 そんなこちらへと、メモ帳へと落としていた視線を向けて。眼鏡を直す仕草を挟んだ後にも……トーポはこう言い放つ。


「"ヤツら"を叩き潰すのであれば、正に今が絶好の機会だ」


「……今が、『魔族』という存在を倒す絶好の機会であるということはわかりました。けど、"ヤツら"の現在地がわからない今、その、叩き潰す、という手段を取ろうにもどうするべきか…………」


「で、あれば心配をする必要は無いさ。フェアブラント・ブラートと事前に思考を共有し合い、ある程度の目処や仮定を出しておいてあるから」


 トーポの言葉に、あまりにも呆気の無い展開に思わずと目を見開いてしまった。

 ……それはとても驚いたものだ。……そう。まさか、この直後にも。彼の口から、更なる驚きが与えられることになるとは思ってもいなかったから――


「……ある程度の目処や仮定? って――それって、つまり『魔族』の動きが既に分かっているということですか……?」


「そう。飽くまで、ある程度、ね。そう。フェアブラント・ブラートと共に思考を重ねて、その、ある程度を割り出すことに成功したんだ。…………この世界の広範囲に活動範囲を広げている"ヤツら"がまず最初に目を付けた。滅ぼす手立てが付いている、とある複数のポイント。その一つとでも呼べる、そうだね……この世界の中でも、特に呆気なく落とせそうな。風化しボロく脆くなった外壁として見られた、とても破壊しやすいポイントとして"ヤツら"が速攻と目を付けた絶好の標的。……この仮定通りであれば、ずばり。"ヤツら"は、まず最初の見せしめに相応しい、阿鼻叫喚の血祭りを催すための最初の会場の一つとして。ここ、風国を狙っていると割り出すことができたんだ――――」



【~②に続く~】

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