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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
221/368

NPC:バーダユシチャヤ=ズヴェズダー・ウパーリチ・スリェッタ②

 おどおどとした様子で、落ち着かない視線や口ごもる言葉で会話をするNPC:バーダユシチャヤ=ズヴェズダー・ウパーリチ・スリェッタ。

 あからさまであるほど、人とのコミュニケーションを苦手とする少女ではあったものだが。初対面であったこちら側との自己紹介も何とか終えることができ、今は再会の歓喜でユノにもみくちゃとされるその光景に。まず第一の山場は乗り越えたかと、ふぅっと鼻で息をつき安堵を見せたラ・テュリプ。くるっと踵を返しては、気配を殺し、何事も無かったかのように静かに厨房へと戻っていく。


 そんな姉御の背に気付いたユノ。ハッとそちらへと向いては、バーダユシチャヤを離して彼女のもとへと駆けつけていく。


「あっ。ルージュお姉さま。私もお片付けを手伝うわ」


「あら~、それは助かる。それじゃあ、ユノちゃんお手伝いお願いね」


 二人の姉さんキャラが厨房へと去っていき、その場に残ったのは少女達と、俺という男を申し分程度なプラスアルファとして交えた沈黙の漂う静かな空間。

 そして、一つのイベントが終わったのだろうか。それぞれと自由に行動を移していくNPC達の様子に、それじゃあ、俺もこの食事を再開しようかと目の前のステーキに手に持つフォークを伸ばしていく。


 ……のであったのだが。ふと、次の時にも眼前で動き出す一つの存在。それは、おどおどとした、ちょっと気弱な様子でありながらも。少しずつ少しずつ、じわりじわりと、まるで様子を伺うようにとあるもう一つの存在へと近付いていっては、落ち着くことを知らずキョロキョロと動き続けていたその視線は、その存在をじっと見つめ出していって。


 おどおどと落ち着かなかった少女は、ふと、ある人物へと熱い視線を向けていた。

 少女の視線の先。そこには、イスに座りカップを掴んで紅茶を飲んでいたミズキが。――そして。そんな少女同士の会話の発端となったのが、あのバーダユシチャヤだったのだ……。


「……あ、の。ミズシブキ、君……」


「ん。――久しぶり」


「あ、久しぶり……。……その、え、っと……ミズシブキ、君。その、髪……」


「ん。……うん、今までは短かったもんね。急に長くなっていて、変、だったかな」


「そんな……っ。変じゃないよ……! ……でも、ミズシブキ君、髪が長いミズシブキ君が珍しくって……ビックリした。……女の子みたい」


「…………そうかな」


「あっ、あっ。い、いや、ご、ごめんなさい……!! 男の子に、女の子だなんて言うのは失礼だったよね……」


 先よりもだいぶハキハキと喋り出したバーダユシチャヤ。そのおどおどと気弱な雰囲気はそのままだが、ミズキとの会話に関しては、明らかに活き活きとした様子が見られるものであり。それどころか、あの少女から話し掛けてさえもいたのだ。


 ……だが、それとは一方に、どこか距離感を思わせるミズキの反応。バーダユシチャヤの言葉からして、ここのミズキは少年としての生き様をそのまま貫き通しているようであり。その反応もまた、俺との会話に通ずるような空気を醸し出している。


「別に失礼じゃないよ。だって、実は、ずっと前から長かったし。結っていたの、帽子の中で」


「え、あ……そう、だったんだ……。……で、でも! そんなミズシブキ君も、…………カッコいい、よ……」


「ん。……ありがと」


 抱き締めるように抱えている薄浅葱(うすあさぎ)の釜に顔を隠しながら。まるで、ミズキから隠れるように、それも、とても恥ずかしそうにしているその素振り。

 ……なんだろう。バーダユシチャヤ、ミズキに対してはどこか思うところでもあるのだろうか……?


 二人の関係が、なんだか気になってしまい。そんな二人には悪いと思ってしまいながらも、座っている位置も位置なだけに目の前で繰り広げられる会話についつい聞き耳を立ててしまう。

 バーダユシチャヤの言葉が気になる。ミズキから返される反応が気になってしまう。この、なんだか心が騒ぐような。淡い何かをつい感じてしまい、バーダユシチャヤを応援さえしてしまいたくなる衝動がこの胸に駆け巡る感覚を抱いて。



 ――だが、そんな無言の主人公の背から掛けられた、落ち着きを払ったとある男性の声によって。どうやら、この意識はそちらへと向けなくてはならなくなったのだ。



「やぁ、アレウス・ブレイヴァリー。と、ミントちゃん。ちょっといいかな? 隣に座らせてもらうよ」


 振り向くと、そこには宿屋:ア・サリテリー・インのオーナーであるNPC:トーポ・ディ・ビブリオテーカの姿が佇んでいた。

 その、横線のように細い目で。ニコニコな表情が印象的な彼に、俺とミントは軽く会釈をする。


 終わっていたと思っていたイベントが、実はまだ続いていたのか。はたまた、その場に留まっていたことによってフラグが立ち上がり、また新たなイベントが生成されたのだろうか。ふと姿を現し話し掛けてきたトーポ。そんな、ニコニコな表情を浮かべたままの彼と。俺は、ある会話を交わすこととなったのだ。



【~次回に続く~】

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